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神戸:ファルコンの散歩メモ

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今年の読書(46)『エキナカには神様がいる』峰月皓(メディアワークス文庫)

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本書『エキナカには神様がいる』は、1日に数十万人が利用する燕町駅のエキナカを舞台に、人々の関わり合いから生まれる5つのドラマが描かれています。

「第一話 背中」「第二話 視線」「第三話 嘘」「第四話 思い出」「第五話 駅のスケッチ」の5つの短編で構成され、1つの作品に登場する人物が、別作品にも現れる構成をとっています。登場人物同士のつながりが、作品を追うごとに徐々に広がっていきます。

自殺が頭をかすめるほど、疲労困憊した男性会社員。4年前に元彼から逃げてきたが、その元彼が再び現れて戸惑う花屋の店員。エキナカを1人きりで彷徨う小学生の男の子。詐欺被害に遭って間もなく、駅でスリに遭った高齢の女性。そんな彼らを見かけると、<中神>は居ても立ってもいられなくなる。「駅は、みんなが集まる場所だから」と、全力で助けに動きまわります。

第五話は主人公<中神>自身にスポットが当てられ、彼がなぜ絵を描き、駅での揉めごとを仲裁し続けてきたのか、その背景にある彼の父親への思いが描かれています。<中神>を中心に広がる人々の縁、思いやりの連鎖が、燕町駅全体に行き渡り、読み手にも温かい気持ちを感じさせてくれる一冊でした。
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今年の読書(45)『落語怪談 えんま寄席』車浮代(実業之日本車文庫)

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今年の読書(45)『落語怪談 ...
本書には、江戸人情噺の古典落語が4題目登場、それぞれの登場人物たちが死んで閻魔様の前で、自分の境遇や行いを騙りながら、閻魔様のお裁きを受けるといった趣の連作短編集です。

取り上げられているのは、まずは<三遊亭圓朝>の作とされますが不確かで<三代目桂三木助>の改作で有名な『芝浜』や<初代春風亭柳枝>の創作落語『子別れ』、その他『火事息子』・『明烏』の4話で、どれも夫婦・親子の人情を絡めた古典落語ですが、語る人物の裏側に潜むよこしまな行いを暴き出していきます。

それぞれ共通する人物が交差して描かれ、最後の「サゲ」でも思わぬ「オチ」でしめくくられています。

物語に精通した落語ファンの方には、目からうろこでたのしめる一冊だと思います。
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今年の読書(44)『水族館ガール5』木宮条太郎(実業之日本車文庫)

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今年の読書(44)『水族館ガー...
タイトルを見ただけで、水族館で働く若い女性のお仕事奮闘記と恋愛を絡めた青春ものかなと分かりますが、その通りの展開でした。

主人公<嶋由香>は千葉にある水族館に勤めて4年目の夏を迎えています。

先輩の<梶洋平>にあこがれながら、ドジなトレーナー「ドジトレ」と呼ばれながらも、日々飼育に専念しています。

本書では、「イルカ」の調教と「ウミガメ」の生態の勉強ができました。特に「ウミガメ」の保護に関しての現状は知らないことが多く、環境問題とのつながりや地域住民の生活との関連に考えさせられることが多くありました。

8月末の朝日新聞に、絶滅危惧種ウミガメの上陸、産卵数が日本で最も多い鹿児島県・屋久島。30年余り浜での保護や清掃活動に取り組んできたNPO団体が後継者不足を理由に活動を終える。島の観光の目玉でもあるウミガメ。浜の見守りがいなくなることで将来が心配されているとの記事がありましたが、本書を読んで地道な活動の大変さを改めて感じました。
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今年の読書(43)『未来のミライ』細田守(角川文庫)

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今年の読書(43)『未来のミラ...
細田守氏が監督・脚本・原作を手がけた映画『未来のミライ』(東宝配給)が、2018年7月20日に公開されています。本書『未来のミライ』は、細田監督による原作小説になります。

物語の舞台は、横浜市磯子区の一軒家で、中庭に小さな白樫の木がある。建築家のおとうさんは、芸術家肌でマイペース。出版社に勤めるおかあさんは、完璧主義者。長男の<訓(くん)>ちゃんは、甘えん坊の4歳。飼い犬の<ゆっこ>(オス)。そこに妹が生まれ、<ミライ>と名付けられます。おとうさんもおかあさんも<ミライ>ちゃんの世話で手一杯で相手をしてくれません。「今は幸せじゃない」と思った<訓>ちゃんは、腹いせに<ミライ>ちゃんの顔を引っ張ったり、おもちゃで頭を叩いたりします。

<訓>ちゃんが<ミライ>ちゃんの顔にお菓子を並べて笑っていた時、中庭が熱帯の植物で埋め尽くされ、少女が現れた。「おにいちゃん、わたしの顔で遊ぶのやめてよ」と言う少女は、中学生になった未来の<ミライ>ちゃんでした。

時をこえる冒険が、次々と繰り広げられていきます。見知らぬ町の雨上がりの裏通りで、しゃがんでいる少女。薄暗い工場の一角で、オートバイを作っている青年。無人駅のホームで、声をかけてくる男子高校生。<訓>ちゃんが出会う彼らは、いつの時代の誰なのか。冒険を終えた時、<訓>ちゃんはどんな気持ちになるのか・・・。<ミライ>ちゃんは赤ちゃんに戻るのか・・・。ドラマティックな映像や音楽が思い浮かぶような、イキイキとした描写に惹かれる作品です。
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今年の読書(42)『院内刑事ブラック・メディスン』濱嘉之(講談社α文庫)

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今年の読書(42)『院内刑事ブ...
第1作目の 『院内刑事(デカ)』 を読み終えたときに、この魅力的な主人公はシリーズになるなと予感したとおり、第2作目が本書です。

病院内に起こるあらゆるトラブルに対して、対処するのが、元公安部総務課出身の<広瀬知剛>です。病院に常駐し、モンスターペイシェント・院内暴力・暴力団関係者の対処等に的確に対応してゆく姿が、描かれていきます。

今回は、連作短編形式で、さまざまなトラブル処置をしながら、ジェネリック薬品に関する闇取引をあらわにし、北朝鮮や中国との関係も絡めながら、元公安部出身の著者らしく、リアリティー感あふれる国際情勢の現状が盛り込まれています。

このあたりの構成は、 <警視庁公安部・青山望>シリーズ に共通しているところです。
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今年の読書(41)『グレイ』堂場瞬一(集英社文庫)

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1983年の東京が舞台。主人公の<波田憲司>は、奨学金とバイトでなんとか下宿生活を過ごしている法学部の大学2年生です。ある日、「日給1万円」というアルバイト募集のチラシを見つけます。そこはテレビにも出ている<北川啓>が主宰しているアンケート調査研究所でした。通行人からアンケートを取り意識調査を行う研究所は羽振りもよく、主輪に大金を手にいれることができ、契約社員としてアルバイトの取りまとめ役などをしていました。

そんなある日<北川>から怪しげなペーパー商法を行っている「山陽商事」に出入りする人たちを確認するという仕事を与えられ、調査中に相手側に拉致・監禁されてしまいます。運よく警察の強制捜査が入り、<波田>は助けられますが、研究所に戻ると夜逃げ状態で<北川>をはじめ他の社員との連絡が付きません。

アンケート調査に隠れた個人情報の転売会社だと気が付いた<波田>は、<北川>の居場所を探り当てますが、「小物」の裏側には「大物」政治家が絡んでいました。罠にはめられた青年<波田>が、「大物」との立ち回りを経て、大きな心境の変化が生まれるところで物語は終わります。

今後この20歳の<波田>がどのような「大物」になって社会で生き抜いていくのかの続編を読みたくなる結末と主人公でした。

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今年の読書(40)『寄席品川清州亭』奥山景布子(集英社文庫)

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今年の読書(40)『寄席品川清...
落語家を主人公とする小説は多々ありますが、寄席を取り上げた作品は珍しいなと手に取りました。

主人公は3人の弟子を持つ大工の棟梁<秀八>です。「噺(落語)」好きが高じて、寄席の席亭になるのが夢でした。仕入先の材木商<木曾屋庄吉>の勧めで、30両を借り受け(のちに騒動の種になるのですが)、35歳にして席亭となります。

恋女房の<おえい>は、団子屋を切り盛りして<秀八>を支えています。

<秀吉>の「清州城」から名を取り「清州亭」と命名、出演者を集める苦労話、<秀八>や<おえい>の出生にまつわる話、落語家の親子の愛情、<木曾や庄吉>にまつわる話。ご贔屓・大観堂店主<大橋>の計らい等々、寄席にまつわる人情話が<秀八>や<おえい>の人間関係と複雑に絡み合って、テンポの良い講談を聞いているような筋立てで楽しめました。

文章の各所に「噺(落語)」の演目を引用、落語ファンとして、楽しめる構成になっていました。
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今年の読書(39)『夏の裁断』島本理生(文藝春秋文庫)

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今年の読書(39)『夏の裁断』...
著者の<島本理生>(1983年5月18日~)は2018年7月18日、『ファーストラヴ』で第159回直木賞を受賞したばかりです。7月10日発売の本書は、最新刊です。2015年の芥川賞候補作「夏の裁断」に書き下ろし三篇を加えた文庫オリジナルです。

「夏の裁断」「秋の通り雨」「冬の沈黙」「春の結論」の順に物語は進んでいきます。小説家の<萱野千紘>は、祖父の残した鎌倉の古民家で蔵書を裁断して「自炊」する生活を始めます。季節ごとに現れるそれぞれの男たちと関係を持ち、時に翻弄され、苦悩する<千紘>の四季が描かれていきます。ここで言う「自炊」とは、書籍を裁断・解体し、スキャナーで読み取り、デジタルデータに変換することです。

パーティ会場で編集者の<柴田>とばったり顔を合わせた<千紘>は、とっさにフォークを握りしめ、彼の手首にフォークを突き立てる。「柴田さんが振り返る。色素の薄い前髪から覗いた目は傷ついたように見開かれていた。被害者と加害者っておんなじだ、とぼんやり思った」という夏の冒頭シーン。<千紘>と<柴田>との間に潜む、ただならぬ事情を予感させる場面です。

「ああ、この世にはまだこんなに人を傷つける方法があったのか、と死んでいくような気持ちで思った」。心が通ったと感じた瞬間に突き放される関係性の中で、<千紘>は深く傷ついていきます。<千紘>は13歳の頃、大人の男性に性行為を強要された経験を持っていました。男は怖いものだという感覚が、大人になった<千紘>にトラウマとして残っています。

<柴田>への膨大な我慢と混乱の時間は、何の意味もないと悟った<千紘>は、会社員の<清野>と<秋>に出会います。軽さと細やかさを内包した<清野>は、どこか<柴田>と似ていた。「ないと分かっていても完ぺきで永遠なものが欲しい」と願う冬を経て、小説家として、人間として<千紘>が変化する春。やや陰りのある登場人物たちに魅力を感じながら、行間の世界に入りこんでいきます。
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今年の読書(38)『墓標なき街』逢坂剛(集英社文庫)

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今年の読書(38)『墓標なき街...
刊行順とすれば第1作目の『百舌の叫ぶ夜』(1986年2月)に始まり、第5作の『鵟(のすり)の巣』(2002年6月)に次ぐ、久しぶりになるシリーズ復活です。

前作では<大杉>の娘<東房めぐみ>は中学3年生でしたが、本書では28歳の刑事として登場していますので、物語としては13年が経過していることになります。

警察官や右翼関係者を殺戮してきた殺し屋<百舌>は、<大杉>に殺されたあと、死体の行方はわからなくなっていましたが、本書で解き明かされます。

東都ヘラルドの<残間龍之輔>は、<百舌事件>当時の上司であり、雑誌「ザ・マン」編集長の<田丸清明>から、<百舌事件>の原稿依頼を頼まれます。また、武器不正輸出に関するタレこみを受けます。

<残間>は刑事をやめ探偵事務所の所長<大杉良太>にタレこみ事件の調査を依頼しますが、当時の事件を知る警視になっている<倉木美希>が襲われ、「百舌鳥の羽根」が現場に残されていました、武器輸出問題に関連する人物も殺され、やはり「百舌鳥の羽根」が現場に残されていました。

<百舌>を模倣する殺人者へと、<倉木>と<大杉>は近づいていきますが、事件は思わぬ結末を迎えます。

文庫本で500ページを超える大作ですが、<百舌>シリーズとしてまだまだ続きそうなエンディングでした。
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今年の読書(38)『脅迫者』堂場瞬一(ハルキ文庫)

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今年の読書(38)『脅迫者』堂...
強行犯係出身の<沖田大輝>と警視庁随一の捜査分析能力を持つ<西川大和>という対照的な二人の刑事を主人公とする「警視庁追跡捜査係」シリーズも、第1作目の 『交錯』 で始まり本書で8作目となりました。

新人刑事時代のある捜査に違和感を抱いていた追跡捜査係の<沖田>は、二十年ぶりの再捜査を決意します。自殺と処理された案件は、実は殺人だったのではないかと疑いが残る事件でした。

内部による事件の隠蔽を疑う<沖田>を、同係の<西川>はあり得ないと突っぱねますが、当時事件に携わった刑事たちへの事情聴取により、当初は否定していた<西川>も、当時の沖田の先輩や上司の態度に不審感を抱き、疑惑はさらに高まります。警察内部隠蔽の疑いが濃く、被害者は半ヤクザ、主な調査対象は警察関係者、見えてくるのは政治家の影。

お決まりのファンサービスとして著者の他のシリーズの主人公「警視庁失踪課」シリーズの <高城賢吾> や「アナザフェイス」シリーズの <大友鉄> らを登場させているのには、<堂場>ファンとして楽しみが倍増です。

また、<西川>は奥様の実家の母親の介護問題、<沖田>は半同棲の<響子>との関係進展、と私生活をからませての場面展開も楽しめた一冊でした。
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