前作 『ティファニーで昼食を』 に次ぐ「ランチ刑事の事件簿」シリーズの第2作目が本書です。
室田署の地下食堂「ティファニー」には、「絶対味覚」を持つ天才シェフ<古着屋護>が作り出すランチメニューで大盛況になっています。警視庁一のグルメ刑事の<國吉まどか>は相方の<高橋竜太郎>とのコンビで、<古着屋>の作り出す料理の力を借りて事件を解決していました。
そんな織、カンボジアからの外国人技能実習生を抱えている「鵜飼鉄筋」の社長<鵜飼光友>が殺される事件が起こります。事件を調査する過程で、品行の良くない社員までもが殺害され、事件の背後には、カンボジア料理店の店員が絡んできているようで、またもや<古着屋>が登場、容疑者と思われる調理人の料理「アモック」の味を見事に再現、事件解決に導きます。
ただ驚いたことに本書でもって「ティファニー」が閉店してしまい、個性ある<古着屋>の今後が気になりながら読み終えました。
本書は<東野圭吾>が作家活動30周年、80作品目という節目の小説であり、2018年5月4日<三池崇史>監督で封切された映画の原作本でもありますので、期待して読みましたが、も一つでした。道理で映画がヒット作品との話題も耳にしないわけです。
映像プロデューサーの<水城義郎>が、妻と訪れた赤熊温泉で硫化水素のガス中毒で死亡します。その事故の3か月ほど前に水城の母親<水城ミヨシ>から、<義郎>の若い妻が財産目的で息子を殺すとの相談を受けていた<中岡祐二>刑事は、気になって<ミヨシ>に連絡を取ってみると、<義郎>の事故後に首を吊って自殺したことを知ります。<ミヨシ>の老人ホームで、遺品整理に現れた水城の妻<千佐都>と遭遇した<中岡>は、<千佐都>が<義郎>殺害に関与したと確信します。<中岡>は、赤熊温泉の事故調査を手掛けた<青江修介>教授に意見を求めますが、硫化水素ガス中毒で殺人を遂行するのは、屋外では不可能だと断言されてしまいます。しかし、<中岡>は諦めきれずに一人で地道に聞き込み捜査を行っていきます。
そんな時、今度は苫手温泉で、俳優<那須野五郎>が硫化水素ガス中毒で死亡する事故が起きます。地元新聞社から依頼されて苫手温泉で事故調査をしていた<青江>は、赤熊温泉の事故調査中にも出会った<羽原円華>と再会します。<円華>の不思議な力を目撃し、また、担当した2つの事故調査の見解に自信が持てなくなっていた<青江>は、中毒死した<水城義郎>や<那須野五郎>のことを調べるうちに、映画監督の<甘粕才生>のブログに行き当たります。そこには硫化水素ガス中毒で家族に起きた悲惨な事故のこと、そして家族のことが書かれていました。
ストリーの展開としては面白いのですが、現実的でない人間の未知なる能力が解決のカギとなる設定には、安易すぎて納得ができませんでした。
本書は、2015年上半期の直木賞受賞作品です。選考委員の<北方謙三>氏に「二十年に一度の傑作」と言わしめた作品で、読み終わり、ミステリーでもあり、青春小説でもあり、歴史小説ともいえる重厚な構成に圧倒され、評価に納得できる内容でした。
台湾で1975年、<蒋介石>が亡くなった翌月に、17歳の主人公<葉秋生>は、戦争中、内戦で敗れ、追われるように台湾に渡った不死身の祖父が何者かに殺害されます。
大きな骨子としては、主人公が殺人犯を突き止めていくミステリー作品であり、それに伴う主人公の波乱に満ちた青春物語が語られていき、その背景として中国と台湾の政治的背景や、1980年代の日本のバブル経済が絡まり合い、さまざまな出来事、冒険談が多角的に展開、重層的に語られていきます。
登場人物たちの名前が、中国名ということもあり、最初は戸惑いましたが、導入部を過ぎると登場人物たちがドラマを見ているようにリアルに感じられ、キャラクター描写が秀逸であり、激動の時代の流れの中に身を置く登場人物たちに圧倒された497ページでした。
神奈川県横須賀市にある洋食店「アリアケ」の三兄妹、<功一>、<泰輔>、<静奈>は、夜中に家を抜け出してペルセウス流星群を観に出掛けている間に、両親が何者かにより刃物で惨殺されている現場に帰宅してしまいます。
三兄妹は身よりが無く養護施設で幼少期を過ごし、<静奈>が美容詐欺に会い、強く生きるためいつしか彼ら自身も詐欺師となり、裕福な男性を騙していくことに手を染めていきます。
事件から14年経過し時効を迎えようとしていた時期に、洋食チェーン「とがみ亭」の御曹司の<戸神行成>を次なるターゲットにした3人は、彼の父親の<政行>が、両親が惨殺された時間に家から出てきた人物に似ていることに気付くとともに、店の名物のハヤシライスの味が、「アリアケ」の味と同じだということが分かり、3人は<政行>が両親を殺害しレシピを盗んだ犯人だと確信するに至ります。
事件の犯人との確証がないまま<行成>に接近して<政行>を陥れるための罠を張り、警察に対して<政行>に目を向けさせるように画作じますが、<静奈>が<行成>に恋心を寄せてしまう誤算が生じます。
早読みの読者に対しては途中から犯人は<政行>だと思わせる構成で 三兄弟の奮闘が続きますが、真犯人と事件の真相は意外な結末を迎えます。
江戸時代の画家<伊藤若冲>の名前を、初めて知ったのは『なんでも鑑定団』の番組でした。日本画担当の<安河内眞美>が、鑑定されていた場面を記憶しています。
本書はその<伊藤若冲>の絵師として生きた人生を、妹<お志乃>の目線で語り、見事な構成で描かれています。
京の錦高倉市場の青物問屋「枡源」の長男<源左衛門>(=若冲)は、妻の<お三輪>の自死を契機に絵を描くという自分の世界に没頭していきます。
<お三輪>の弟<弁蔵>は、<若冲>を姉の仇と憎み、<若冲>の贋作を造り続けていきます。
早く隠居した「枡源」との確執、当時を代表する画家<池大雅>・<与謝野蕪村>や<丸山応挙>などの実在の画家との交流を絡め、京で起きた天明の大火などの史実と合わせ、壮大な物語が最後まで生き抜くことなく楽しめた一冊でした。
北町奉行所の同心<中根興三郎>は、閑職の姓名掛りを務め、趣味である 「変化朝顔」 の育種に生きがいを見出し、いつかは黄色い朝顔を作り出すことを夢見ている男です。
時代は、井伊大老と水戸徳川家の確執や、尊皇攘夷の機運が高まり不穏ですが、<中根>には関係ないことでした。
「変化朝顔」の品評会などのつながりで、<飯島直孝>を通じ<宗観>という茶人と知り合ったことから、<中根>は思いもよらぬ形で江戸幕府の政情にかかわっていくことになります。
文化期から天保期にかけて江戸で流行した「変化朝顔」の話を縦糸に、開国にまつわる世情を絡めた壮大な時代構成は、なるほど「第15回松本清張賞受賞作品(2008年)」だと納得ができる密度の高さでした。
ちなみにタイトルの「一朝の夢」は一日花としての 「朝顔」 の別名であり、「変化朝顔」については、<朝井まかて>の 『ぬけまいる』 や<田牧大和>の 『花合せ 濱次お役者双六』 などにも面白く登場しています。
本書『職業としてのAV女優』は、アダルトビデオの現場で起きていることはすべて、需要と供給の市場原理で説明できることを教えてくれています。
21世紀に入ってからのAV業界の大きな変化は、供給の爆発的な増加です。かってAV女優になるのは、家庭などに複雑な事情のある女性たちでした。今では、インターネットに「モデル募集」の広告を出すだけで、AV女優志願者がいくらでも集まるそうです。
自分の性を晒すことに抵抗がなくなったこともあるでしょうが、著者は、一番の理由はデフレ不況だといいます。最近のAV女優の典型は、地方から東京に出てきて、働きながら看護士などの資格を取ろうとする真面目な女の子たちです。
時給900円のアルバイトでは家賃を払うと生活が成り立たない。かといってバイトの時間を増やすと学業と両立できない。こんな悩みを抱えた女の子が、短時間でできる仕事をネットで検索してAVに辿りつくとか。また、ごく普通の主婦にも広がっているとか。これもデフレ不況の影響で、夫の収入が減る一方で子どもの教育費がかさみ、生活費の不足から消費者金融でつい借金をしてしまう。その返済に困った主婦も、子育てと両立できる仕事を探していて、ネットで「モデル募集」の広告を見つけると続々と応募があるようです。
AV女優の供給過多の一方で、需要側の変化は市場の縮小とユーザーの高齢化だ。どんな作品でも売れた時代もありましたが、今はネットに無料の動画が溢れていて、若者はAVにお金を払おうとはしない。高齢化した消費者が若い女性を好まないことで、需要と供給のミスマッチはさらに拡大する。こうしてAV女優の「品質」が上がると同時に価格(出演料)が大きく下がっていきます。
デフレ不況のAV業界では、若くてかわいいだけでは相手にされない。時間や契約を守り、礼儀と常識をわきまえ、プロフェッショナルな仕事ができなければ生き残れない世界になりつつある現状が、よく理解できました。
<オードリー・ヘップバーン>主演の名画『ティファニーで朝食を』(1961年)を、もじったタイトルですが、室田署の新人刑事<國吉まどか>27歳は、「警視庁一のグルメ刑事」と呼ばれ、おいしいランチに目がありません。
相棒として組む35歳の<高橋竜太郎>と、ランチ談義に余念がありません。本書の副題は、「ランチ刑事の事件簿」となっています。
そんなおり、警察署の地下食堂に「ティファニー」という値段の高いレストランがオープン。天才コックの<古着屋護>は、「絶対味覚」の持ち主で、一度食べた味のレシピは完璧、相手を見ると、ピンポイントでその人物の好きな味を作り出してしまうという人物です。
<まどか>と<高橋>が担当する事件を、<古着屋>の造る料理で、解決してゆくという構成で、気楽に楽しめました。
文中 「ドS刑事」 のドラマが登場、著者の遊び心に、ニヤリとしてしまいました。
文藝春秋は26日、皇后<美智子>さまが誕生日に公表されたお言葉にあった「ジーヴズ」が注目を集め、1週間で2度の重版を決定したと発表しています。<美智子>さまは10月20日の誕生日の際に、来年の退位後に多忙で出来なかった読書を楽しみにしていることや、すでに待機している本があるとコメント。その本の中にジーヴズがあると明かされていました。
文藝春秋は<美智子>さまのお言葉を受けて、<ペルハム・グレンヴィル・ウッドハウス>『ジーヴズの事件簿 才知縦横の巻』『ジーヴズの事件簿 大胆不敵の巻』(ともに文春文庫)の重版を決定しました」と文書で発表。累計発行部数も「才知縦横」が7万8000部、「大胆不敵」が6万4000分となったといいます。
<美智子>さまのお言葉が発表されてから、全国の書店、読者から問い合わせが相次いだといい、22日にそれぞれ1万5000部の重版を決定しましたが、その後も勢いは衰えなかったことから、さらに各2万部の重版を決定しています。
「ジーヴズ」は、英国のユーモア小説の巨匠、<P・G・ウッドハウス>(1981年10月15日~1975年2月14日)が生み出したスーパー執事のシリーズで、本場・英国でも根強い人気を誇っています。ミステリーの女王として知られる<アガサ・クリスティ>もファンでした。「ジーヴズ」シリーズは、若き貴族<バーティ・ウースター>が語り手となり、彼が巻き込まれるさまざまなトラブルを、スーパー執事の<ジーヴズ>が解決するのが定番。この2人のコンビは英国では国民的人気を誇っています。
著者のお二人は、20代半ばの頃に同じ雑誌部編集部の同僚だったようです。
本書は、1998年7月から2001年1月まで雑誌『フィガロ・ジャポン』で連載されていたエッセイを本にまとめたものです。同じテーマで、「私はこう思うの、あなたはどう思う?」「そうね、私は・・・」というお手紙のやりとりのような構成になっていて、女性同士の会話のスピード感そのままの文章で、ハイレベルな「女の井戸端会議」という印象が残りました。
特に色に関する項目「赤の口紅」・「グレー」・「白い服」・「色もどり」などは、男と違った視点が感じられ、面白く読めました。
常にョ性の美と生き方に前向きな姿勢に、お二人のエネルギッシュさがあふれている一冊でしたが、男性としては少し肩がこる内容でした。、
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