著者の原作をもとに映画 『マスカレード・ホテル』 (鈴木雅之監督:木村拓哉・長澤まさみ出演)が1月18日より公開されていますので、東野圭吾ブームに乗り、古い作品ですが、1986年8月カッパノベルス版にて刊行され、1990年4月に文庫本になっています本書を読んでみました。
<原菜穂子>の兄<公一>が、「マリア様が、家に帰るのはいつか?」というメッセージを残して旅先のペンションで死に、密室状況より自殺として処理されました。納得することができない<菜穂子>は親友の<真琴>の助力を得て、真相解明に乗り出すために、兄が亡くなった時期に合わせて、常連客が集うペンション「マザーグース」を訪れます。
ペンションは「マザーグース」にちなんだ部屋名になっており、各部屋には「マザーグース」の歌が刻まれた銘板が飾られていました。<菜穂子>と<真琴>は、「マザー・グース」の歌詞に秘められた謎解きに注目、そんなおり、宿泊客の一人が石橋から転落して亡くなります。
暗号と密室の謎解きができ、<公一>は他殺だと分かり、犯人逮捕に結びつくのですが、著者は思わぬどんでん返しの結末を用意して、読者をうならせま。
警視庁の捜査一課から、父親が脳梗塞を患ったのを機に、生まれ育った地元の武蔵野中央署に移動した<瀧靖春>警部補50歳が主人公です。
地元ということで、旧友の<長崎>から、20歳になる姪の<恵>が行方不明との相談を受け、大きな事件もなく<瀧>は、交番勤務から引き上げられたばかりの新人<野田あかね>を相棒として捜査を始めます。
二人の地道な調査で、過去にも今回と同じように、市内に住む地方出身の若い女性4人が、ほぼ10年ごとに姿を消していることが分かり、ある地元議員の名前に辿りつきます。
そんなおり、上司から捜査中止の圧力がかかりますが、<瀧>は、監禁されていた<恵>を救出するとともに、事件の真相に辿りついていきます。
地元「吉祥寺」の情報や人間関係をうまく絡めながらの構成、今後の<瀧>と<野田あかね>とのコンビの活躍にシリーズ化を期待したい内容でした。
昨年9月15日に亡くなった女優 <樹木希林> さんのことばを集めた『一切なりゆき』(文春新書)が、年末の発売以来60万部を超える(週刊文春7号広告より)大ベストセラーになっています。
飾らない人柄で多くのファンに愛された<樹木希林>さん。映画、テレビ作品のほか、雑誌の対談やインタビューに多くのことばを残しています。本書はそれらを短時間でまとめたものです。出版・報道各社から記事転載の許可は得たものの、著作権者の連絡先がわからず見切り発車した部分もあるようです。奥付に「お気づきの方は編集部までお申し出ください」と記載されています。でも、このスピード感こそがヒットの理由でもあるようです。亡くなってから3か月での(2018年12月30日)刊行の素早さは見事です。生前色紙に書いていたことばからタイトルをつけたそうです。
「生きること」、「家族のこと」、「病いのこと、カラダのこと」、「仕事のこと」、「女のこと、男のこと」、「出演作品のこと」の6章から構成されています。
「仕事について」の一言を抜粋すると、その人生観が伝わるかもしれません。
「いってみりゃ私らは和え物の材料ですから」
「キレイなんて、一過性のものだから」
「CMの契約期間中は、その会社の人間だと思っています」
「テレビは演じたものが瞬時に消えていくから好きだったんです」
「役者は当たり前の生活をし、当たり前の人たちと付き合い、普通にいることが基本」
生前公開された最後の作品になった映画 『万引き家族』 の老婆の役について、「人間が老いていく、壊れていく姿というものも見せたかった」と語っています。
生前、約120本の映画に出演した彼女の巻末の年譜によりますと、初めて自ら企画も手掛けた62歳の女が38歳と偽って金を集め、出資法違反で逮捕された事件がモチーフとなっている映画『エリカ38』は、<樹木>さんの指名で<浅田美代子>が主演、<樹木>さんはエリカの母親役で出演しています。また、<桃井かおり>(67)主演、<樹木>さんは、旅館「茅ケ崎館」の女将(おかみ)として働く祖母役を演じているドイツ映画『Cherry Blossoms and Demons』が今年(2019年3月7日)ドイツ国内で公開されるようです。
本書は大阪府出身で、『鴨川ホルモー』 ・ 『プリンセス・トヨトミ』 などの、実在の事物や日常の中に奇想天外な非日常性を持ち込むファンタジー小説で知られる<万城目学>(1976年2月27日 ~)の3冊刊行されているエッセイ集の第1冊目(2010年7月10日)になります。
エッセイ集ということで、紹介は難しいのですが、略歴は、清風南海高等学校卒業後、1浪ののち京都大学法学部に入学。卒業後は化学繊維会社へ就職、静岡の工場に配属され経理マンをしながら小説を書いていましたが、26歳の時東京本社への転勤を言い渡され、残業続きで書く時間がなくなることを危惧し、辞令が出る前に退社し東京へ移ります。このころの出来事が後の『バベル九朔』(2016年3月19日刊行)に活かされています。
2年で芽が出なければ社会復帰を決め投稿生活を送るも成果が出ず、資格の学校に通い再就職の準備をし始めた矢先、第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞し2009年映画化された『鴨川ホルモー』(2006年4月19日刊行)で作家デビュー。このあたりの予備知識を持って、本書を読めば、エッセイの背景がよくわかり、面白く楽しめると思います。
といっても、番外的な「ゴキブリ」噺や実家で飼っていた愛猫<ねね>のはなし、「モンゴル」での旅行記等、楽しめる話題に事欠きません。
著者の小説は何冊かとりあげていますが、本書は、文庫本で537ページと読みごたえがありました。
解説文から引用させていただきますが、「猟奇的な殺人事件を描くミステリーであり、皇位継承をめぐって公家が暗闘を繰り広げる宮廷陰謀劇であり、絢爛豪華な宮廷文化を描く王朝文学の側面があるかと思えば、貴族に虐げられた庶民や政争に破れた敗者の怨念を描く伝記小説としても楽しめる」という、一冊です。
舞台は平安時代、宮廷勤めだった母<近江>の不審死に関する疑問を解くために<弥生>は、女房として宮廷に入り込みますが、周囲で次々と怪死事件が起こります。都で知り合った若者の<音羽丸>と知識人の<楽天爺>と協力して、東宮と契った女はモノノケに取りつかれるという噂の真相を探りだしていくなか、母<弥生>の真実と、それに伴い<音羽丸>の父の冤罪が晴れていくという、壮大な時代絵巻の世界が楽しめました。
本書は、新聞記者<南康祐>を主人公に据え、時代の荒波に翻弄され購買数を減らさざるを得ない新聞社「日本新報」を舞台とした小説です。 『警察(サツ)回りの夏』 ・ 『蛮政の秋』 ・ 『社長室の冬』と続く「メディア3部作」の二作目になります。
前作『警察回りの夏』では、入社6年目、甲府支局で警察回りをしていた<南康祐>は、東京本社社会部に移動し、遊軍記者となっています。甲府支局時代に情報の「ウラ」と取らずに「誤報記事」を書いてしまった<南>は、一発逆転のネタを追い求めていましたが、そんなおり、大手IT企業が政治家たちに献金している一覧表がメールで送られてきますが、送信者に心当たりはありません。
誤報を経験しているだけに特ダネを求める気持ちと板挟みになりながら「ウラ」を取ろうとうとするのですが、送信者は行方不明の状態。そんな折、夕刊紙が献金を匂わす記事を掲載します。
「メディア規制化」を目論む政治家たちの問題を新聞社としても見逃すわけにもいかず、<南>は懇意にしている政治家と行動を共にして真相を求めて取材を進めるのですが、「日本新報」の社長も絡んでいるようで、記事を書きあげるのに二の足を踏んでしまいます。
読者としては<南>の派手な立ち回りの山場を期待したのですが、大きな盛り上がりもなく、少し期待外れの終結でした。
三部作の締めくくりとして、これから文庫化されるだろう『社長室の冬』の発行を待ち望みたいと思います。
著者の作品としては、『儚いひつじたちの祝宴』 以来になります。
本書には表題作を含む6編の短篇(夜警・死人宿・柘榴・万灯・関守・満願)が納められており、どれも密度の濃い内容で、短編でありながら、長編小説にも勝る満足感が楽しめました。
それもそのはずで、本書は、第27回山本周五郎賞受賞。2014年の「ミステリが読みたい!」(早川書房)、「週刊文春ミステリーベスト10」(文藝春秋)、「このミステリーがすごい!」(宝島社)において国内部門1位となり、史上初のミステリーランキング3冠に輝いたミステリー短篇集です。
6篇のうち、「夜警」・「万灯」・「満願」の3編がNHK総合テレビでミステリースペシャルとして2018年8月にテレビドラマ化されています。
切実に生きる人々が遭遇する6つの奇妙な事件、入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックでもって、「妙味」という味わいが心に残る一冊でした。
先月、学術誌「バイオロジカル・コンサベーション」による 昆虫種の絶滅の危惧 の状況が進んでいるという残念な報告がなされています。
本書では、50科を超える虫たちが取り上げられていますが、「より小さく、より目立たなく、より知られていないものを前面に」を基準に選択したといいます。昆虫学者ではない素人の私たちは、一生目に触れず、万が一見かけたとしてもそれが何者なのか決してわからないであろう虫たちばかりがとりあげられています。
「メクラチビゴミムシ」は、ラテン語の学名は「素晴らしき者」といった意味をもつらしいのですが、洞窟や水気の多い地下の砂利の隙間などにすむうちに目が退化したこともあり、日本ではひどい名前がつけられています。この仲間には、絶滅危惧分類の上から2番目の「IB類」に入るものが2種(ウスケメクラチビゴミムシ、ナカオメクラチビゴミムシ)もあり、何十年ぶりかに再発見されたりしているのに、保全の手段は何もされていません。「絶滅したと思われた魚 「クニマス」 の再発見と同等の学術価値があるのに」と著者はぼやいています。
「ケラトリバチ」は、「オケラ」だけに卵を産み付ける。「オケラ」の掘った穴を見つけるとその中を走り回る。ひとしきり暴れた後は外に出て穴から「オケ」ラが顔を出すのをじっと待つ。顔を出した途端、とびかかって毒針を刺し、気を失っている間に体に卵を産み付ける。そんなケラ専ハンターが日本には2種います。
奴隷狩りをするアリの話は有名ですが、日本にも「イバリアリ」という奴隷狩りをするアリが1種類だけいました。「トビイロシワアリ」の巣を乗っ取り、女王蟻を殺して、残った「働きアリ」をこき使う。食事の支度すら自分ではできない。「働きアリ」はだんだん死んでいくので、労働力を補給するためによその巣から、蛹や卵を奪いにいく。これが奴隷狩りです。
ごく限られた場所ではあったものの、2つの県(岡山県・山梨県)で確認されていましたが、今ではただ1カ所になってしまっているそうです。「なぜか最近レッドリストから外されてしまった」と国の冷たい仕打ちを嘆く著者。
昆虫好きとしては、著者の昆虫に対する愛情がひしひしと伝わってくる一冊でした。
ラブホテルで「電トリ(電気トリップ)」という脳に電気で刺激を与えトリップ体験ができる装置を使用中に、女子大生が殺害される事件が発せ。ホテルに残された毛髪、体毛を用い、DNA操作システムによりモンタージュ写真まで作成でき、犯人はあっけないほど簡単に検挙されました。
DNA捜査で検挙率は格段にあがりました、若い女性が頭部を銃で撃たれるという連続婦女暴行殺人事件が起き、残された精液によるDNAデータから、すぐに犯人は割り出されると思われたのでが、DNA検索システムは「NF(Not Found)13」という結果を示した。これは、類似する遺伝子が登録されていない13番目のケースでした
そんな折、新世紀大学病院の脳神経科の、厳重に警備された病室においてDNA操作のプログラムを作製した兄<耕作>と妹<早樹>が殺害されます。驚くべきことに、彼らを殺害するのに使用された拳銃は、NF13事件で使われたものと同一のものでした。現場に残された毛髪のDNA解析をした<神楽龍平>は、現れたDNAモンタージュが自分の顔にそっくりなので驚きます。<神楽>には<早樹>たちに会った際、空白の数時間がありました。彼は二重人格者で、新世紀大学病院の脳神経科の<水上>医師の治療を受け、もう一人の人格である<リュウ>との対話を進めていました。本当に自分の別人格が殺害したのか、確かめようとしますが、<リュウ>に確認することはなかなかできませんでした。
彼らを殺害した犯人と疑われて追われる身となった<神楽>は、<早樹>たちの残した最終プログラム「モーグル」が事件解決の鍵になるのではないかと、プログラムを探すために<早樹>たちの別荘に向かいます。
一方、連続暴行殺人事件を捜査していた<浅間>刑事は、捜査に協力的であったDNA捜査研究所の<志賀>たちが、急に捜査打ち切りのために動いていたことを知り、上司の<木場>と二人で背景に何かがあると察して動き出し ます。
ちなみにタイトルになっている「プラチナデータ」とは、法案として国民にDNAの登録を促しながら、政治家などの特定人物のDNAは検索されないようにされたデーターを意味しています。
<誉田哲也>ファンとして、前回読んだ 『月光』 は、あまり評価できませんでしたが、本書は誉田作品を読んできたファンとして楽しめる内容でした。
ただ、本書は登場人物と事件が過去の作品とリンクしていますので、『歌舞伎町セブン』 と 『ルージュ 硝子の太陽』、 できれば『ジウ』シリーズ (Ⅰ) ・ (Ⅱ) ・ (Ⅲ) を読んでから読まれたほうが、登場人物たちの背景が分かり、より楽しめます。
沖縄の反米活動家の老人がが米軍の車で死亡する事故を契機に、反米軍基地反対のデモが各地で起こる中、左翼の親玉<矢吹近江>が公務執行妨害という別件で逮捕されますが、取り調べ中、沖縄問題を取材していたフリーライターの<上岡慎介>が覆面集団にめった刺しされ殺害されます。また彼は犯人は米兵ではないかとと思われる一家殺害事件を追っていました。
殺害された<上岡>は、闇の殺人集団「歌舞伎町セブン」のメンバーであり、首領の<陣内陽一>は、メンバーである<小川>刑事の情報により、仇討ちを図ります。
そんな折、日米安保条約を破棄させることを目的として、官房副長官の娘が誘拐される事件が発生、誘拐メンバーは、<上岡>殺害メンバーであり、<陣内>たちが立ち上がります。
日米間の政治性を含んだ作品ですが、沖縄で繰り返される日米地位協定の矛盾と不幸の歴史は、今回の犯罪グループでなくても義憤に駆られます。
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