今年の読書(44)『冬の光』篠田節子(文春文庫)
6月
29日
あらすじだけを書きますとありきたりの小説のようですが、そこは著者の巧みな構成で、最後まで読み手を引き付けて放しません。
高度成長期に企業戦士として働いてきた<高岡康宏>62歳は、家庭外に学生運動の同志としてつかず離れず20年来の女<笹岡紘子>との関係が家族にばれ、家庭内で浮いた生活をしていました。東北大震災でボランティアに出た帰り、四国遍路に出向き、帰りのフェリーから転落したのか亡くなったのが発見されます。事故か自殺かわからないまま、次女の<碧>は、真相を確かめようと、父の残したメモを頼りに四国88か所を訪ね歩きます。
<康宏>の視線で描かれる<紘子>との関係、<碧>の視線での父親像と家庭環境が交互に語られ、<康宏>の人生観が浮かび上がっていきます。
家族とは、男女の関係とは、人にはそれぞれの人生があり、それを見つめる人々にもまた、それぞれの人生があるはずです。その触れ合いやすれ違いが人間同士の関係なのだと、改めて感じさせ切なくさせてくれる物語でした。