今年の読書(40)『最後の証人』柚木裕子(角川文庫)
6月
6日
主人公の<佐方貞人>は12年前まで米崎地方検察庁の検察官でしたが、自らの「正義」を貫くためにその職を辞し、東京都内で「ヤメ検」として弁護士事務所を開いています。引き受ける事件は、「事件が面白いかどうかで、金銭面には無頓着です。
そんな彼が、今回弁護するのはホテルの一室で起きた刺殺事件の被告人です。物的証拠・状況証拠共に、被告人の有罪はほぼ間違いないとみられており、対決する検事<庄司真生>も若手ながら<佐方>が検事当時の上司の<筒井>の部下らしく自信に満ちた切れ者です。しかし<佐方>はこの事件がそんなに単純なものではないと感じていました。
被告人の無罪を証明するためには、あるひとりの証人を出廷させ、証言させることができるかどうか。事件の裏側に隠された真相に辿り着いた時、この裁判の勝敗はそれで決まると<佐方>は確信していました。
裁判は一見男女の痴情のもつれでの殺人事件だとおもわれましたが、7年前に起こった小学生が死亡した自動車事故が伏線として描かれ、被告人と被害者の読み違いをさせるという著者の目論見に「うっ!」とさせられた読み手が多かったのではないでしょうか。