<レイ・チャールズ>が唄うジャズのスタンダードナンバー『わが心のジョ-ジア』をふと思い出し、手にした本書『わが心のジェニファー』(2018年10月10日刊行)です。
日本びいきの恋人<ジェニファー>から、結婚を承諾する前に、価値観を去有するために、携帯もパソコンも持たずに日本への一人旅を命じられた<ラリー(ローレンス・クラーク)>の日本での奮闘記です。
幼い頃に両親が離婚、元海軍提督の祖父に育てられた<ラリー>は、「日本人は油断のならない奴ら」という認識で日本に出向き、様々な体験を繰り広げながら、最後に自分の思わぬ秘密に辿りつきます。
読み手側としては、著者(日本人)による日本賛美を<ラリー>に代弁させている感じがしないでもありません。外国人向け日本案内書とでも言いましょうか、<ポール・ボネ>の現代版『不思議の国ニッポン』といった趣の一冊でした。
単行本刊行は、本書『赤朽葉家の伝説』のスピンオフ篇として 『製鉄天使』 が刊行されていますが、文庫本としては『製鉄天使』(2009年10月29日)が先で本書は(2010年9月18日)の刊行と逆になっていますが、本書を読みながら、「なるほど!」と遅まきながら、女子暴走族の主人公<赤緑豆小豆>の背景が一段と理解できました。
本書は、島根県紅緑村を舞台とし、赤朽葉家の女三代に渡る壮大な物語です。島根県の山奥で国家のしがらみなく暮らす「辺境の人」の子供<万葉>は、村に置いてきぼりにされ、村の若夫婦に引き取られますが、製鉄業で財を成した赤朽葉家の女主人<タツ>に見初められ、長男<曜司>に輿入れします。<万葉>は、未来視ができ「千里眼」と呼ばれ、自分の子供や夫の死を予め見通していました。<万葉>は本書で語り部として登場する<瞳子>の祖母になります。その娘<毛毬>が母であり、『製鉄天使』での主人公で暴走族の頭となり、引退後は漫画家として大成功をおさめます。
一地方の家族の物語ではありますが、なんともファンタジックな内容でありながら、現実感をもって読者の心に響く内容で、最後まで一気に読ませる構成に驚きを隠せません。
壮大なスケールが楽しめた背景として、戦後から高度成長期を経ての社会状況が近代史の歴史として記述されている構成だと改めて気づかされます。
本書は、刑事<加賀恭一郎>シリーズとして『卒業」(1989年5月8日刊行)に始まり『赤い指』に続く第8作目(2013年8月9日刊行)となり、本作から<加賀>の活躍する舞台が「練馬署」から「日本橋署」に移動した1作目の作品となり、その意味によりタイトルの「新参者」となっています。
9章ある各短編が独立した性格が強く感じますが、事件を追う内容としては連作として構成され、章ごとに代わっていく主人公となる人物の視点を通じて<加賀>の捜査の意図が明らかとなり、彼が事件に直接関係ない周辺人物の小さな謎を解いていくうち徐々に本来の事件解決が浮かび上がっていく構成となっています。
日本橋小伝馬町で離婚したばかりの45歳の女性<三井峰子>が、マンションの自室で絞殺された殺人事件が起こります。日本橋署に着任したばかりの<加賀恭一郎>は、自身にとって未知の土地の日本橋を歩き回り、事件や被害者と何らかの接点を持った家族や店を丹念に訪れます。
<加賀>は事件に残されたいくつかの謎の解明のため、その謎に関わった当事者達の様々な想いを一つずつ解きほぐしていき、そしてそれらの解決を通じ絞殺事件そのものの真相にたどり着いていきます。
殺人事件とは関係ないと思われる、姑と嫁、親子関係、友人関係などの人間模様が下町としての日本橋界隈の風情を舞台として描かれていて、事件を解決するだけが刑事の仕事ではないという<加賀>の思いがよく伝わる内容でした。
本書『刑事のまなざし』(2012年6月15日文庫刊)は著者の作品として同じ講談社文庫の、『虚無』 に続き2冊目となります。
本書には、表題作を含む7編の独立した短篇が納められています。
罪を犯した少年たちの心に寄り添い、その更生の手助けになる仕事がしたいと法務技官になった主人公<夏目信人>は、一人娘が通り魔事件の被害に遭い、植物状態になったことをきっかけに30歳の時に警察官に転職した過去を持っています。6年後、東池袋署の刑事課に配属され新人刑事となった<夏目>の刑事としてのまなざしは被害者の痛みを知る優しさと罪を憎む厳しさを湛えていました。
少年院の過去を持ちながら真面目に働こうとする青年、父親に虐待された女の子、ホームレス殺人、などの事件を通して、何気ない言葉使いやしぐさで、事件の本質に迫る<夏目>の「やさしいまなざし」が随所に光る短編集でした。
ストーカー被害を受けている家族から被害届が出ていたにもかかわらず先延ばしして受理しなかったことで、殺人事件が発生します。不受理の原因が、捜査より職員の慰安旅行を優先したことによる不祥事だということが新聞記事にスクープされ、忙しく対応する米崎県警広報課の女性警察事務職員<森口泉>が主人公の物語です。
新聞にすっぱ抜かれた不祥事のネタ元が、<森口>の元同級生の新聞記者の<津村千佳>ではないかと、彼女を食事に誘い問い詰めところから話しは急展開します。
<津村>は不祥事の件に関係していないと否定しますが、犯人に心当たりがあるとして、会社を休み調査を始めますが、何者かに殺されてしまいます。
<森口>は警察学校同期の年下の<磯川俊一>と、独自に事件の捜査を始めます。
不祥事のネタ元である<百瀬美咲>は警察署内の上司との不倫で首になった過去があり、すでに彼女は自殺していましたが、偽装の殺人事件でした。
警察内の不祥事を隠ぺいするような動きとして、「公安」がらみの様相が浮き彫りにされて事件は決着を迎えますが、真犯人に疑問を持つ事務職員の<森口>には手に余る状況でした。
一大決心のもと、<森口>は、警察官になる道を選ぶところで物語は終わりますが、今後刑事になった<森口>が<磯川>とのコンビを組んで活躍する姿を期待したい一冊でした。
人気漫画『ゴールデンカムイ』でアイヌ語監修を務める文化研究の第一人者<中川裕>が、漫画の名場面を引用しながらアイヌ文化の解説を行った同作の公式解説本『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』が、3月15日発売されています。同作の北海道北広島市出身の作者<野田サトル>によるオリジナル描き下ろし漫画も掲載されています。
『ゴールデンカムイ』は明治時代の北海道を舞台にし、アイヌが遺したという大金を手に入れるため、元兵士の「杉元佐一」がアイヌの少女「アシリパ」と行動をともにし、一攫千金を夢みるサバイバル漫画です。『週刊ヤングジャンプ』(集英社:38号・2014年8月21日~)で連載中がスタートし、その後アニメ化もされ、2016年「マンガ大賞」・2018年「手塚治虫文化賞」など数々の漫画賞を受賞している作品です。
発売された公式解説本は序章から終章を含め第10章で構成されており、「アイヌの先祖はどこから来たか?」「アシリパたちの言葉 アイヌ語とは」「アイヌ語監修というのは何をやっているのか?」など、アイヌ文化へ興味を抱いた人に向けた一冊となっています。
また、作者<野田>による6ページの描き下ろしオリジナル漫画も収録されており、<中川>によるアイヌ文化の解説に絡んだストーリーとなっているほか、付録で『ゴールデンカムイ』をより楽しむためのブックガイドが収録されています。
本書は、2004年12月に朝日新聞社より刊行され、2009年、東映により、<益子昌一>監督、<寺尾聰>主演で映画化されています。また、 2014年、韓国においてEcho FilmおよびCJ E&M Corp.により、監督<イ・ジェンホ>、主演<チョン・ジェヨン>、<イ・ソンミン>、<キム・ジヒョク>で映画化されています。
5年前に妻を亡くして<長峰重樹>は一人娘<絵摩>と過ごしていましたが、友人と出向いた花火大会の見学に出向いたまま帰宅しませんでした。
花火大会の帰り、未成年の不漁グループに拉致され、蹂躙された末、川に捨てられたところを発見されます。
謎の密告電話によって、<長峰>は犯人の一人のアパートに出向き侵入、<絵摩>が強姦されているビデオテープを発見、気も狂わんばかりになっているところに犯人の<伴崎>が帰宅、<長峰>は部屋にあった包丁で殺してしまいます。死ぬ間際<伴崎>は、もう一人の犯人<菅野>に関して、「長野のペンション」という言葉を残して息絶えます。
娘の敵討ちに燃える<長峰>は、趣味である猟銃を持ち出して長野に向かいます。
殺された被害者の苦しみに対する少年法の量刑の軽さを突いた構成で、父親としての気持ちがよく理解できるだけに、結末はあまり納得ができるものではありませんでした。
著者の原作をもとに映画 『マスカレード・ホテル』 (鈴木雅之監督:木村拓哉・長澤まさみ出演)が1月18日より公開されていますので、東野圭吾ブームに乗り、古い作品ですが、1986年8月カッパノベルス版にて刊行され、1990年4月に文庫本になっています本書を読んでみました。
<原菜穂子>の兄<公一>が、「マリア様が、家に帰るのはいつか?」というメッセージを残して旅先のペンションで死に、密室状況より自殺として処理されました。納得することができない<菜穂子>は親友の<真琴>の助力を得て、真相解明に乗り出すために、兄が亡くなった時期に合わせて、常連客が集うペンション「マザーグース」を訪れます。
ペンションは「マザーグース」にちなんだ部屋名になっており、各部屋には「マザーグース」の歌が刻まれた銘板が飾られていました。<菜穂子>と<真琴>は、「マザー・グース」の歌詞に秘められた謎解きに注目、そんなおり、宿泊客の一人が石橋から転落して亡くなります。
暗号と密室の謎解きができ、<公一>は他殺だと分かり、犯人逮捕に結びつくのですが、著者は思わぬどんでん返しの結末を用意して、読者をうならせま。
警視庁の捜査一課から、父親が脳梗塞を患ったのを機に、生まれ育った地元の武蔵野中央署に移動した<瀧靖春>警部補50歳が主人公です。
地元ということで、旧友の<長崎>から、20歳になる姪の<恵>が行方不明との相談を受け、大きな事件もなく<瀧>は、交番勤務から引き上げられたばかりの新人<野田あかね>を相棒として捜査を始めます。
二人の地道な調査で、過去にも今回と同じように、市内に住む地方出身の若い女性4人が、ほぼ10年ごとに姿を消していることが分かり、ある地元議員の名前に辿りつきます。
そんなおり、上司から捜査中止の圧力がかかりますが、<瀧>は、監禁されていた<恵>を救出するとともに、事件の真相に辿りついていきます。
地元「吉祥寺」の情報や人間関係をうまく絡めながらの構成、今後の<瀧>と<野田あかね>とのコンビの活躍にシリーズ化を期待したい内容でした。
昨年9月15日に亡くなった女優 <樹木希林> さんのことばを集めた『一切なりゆき』(文春新書)が、年末の発売以来60万部を超える(週刊文春7号広告より)大ベストセラーになっています。
飾らない人柄で多くのファンに愛された<樹木希林>さん。映画、テレビ作品のほか、雑誌の対談やインタビューに多くのことばを残しています。本書はそれらを短時間でまとめたものです。出版・報道各社から記事転載の許可は得たものの、著作権者の連絡先がわからず見切り発車した部分もあるようです。奥付に「お気づきの方は編集部までお申し出ください」と記載されています。でも、このスピード感こそがヒットの理由でもあるようです。亡くなってから3か月での(2018年12月30日)刊行の素早さは見事です。生前色紙に書いていたことばからタイトルをつけたそうです。
「生きること」、「家族のこと」、「病いのこと、カラダのこと」、「仕事のこと」、「女のこと、男のこと」、「出演作品のこと」の6章から構成されています。
「仕事について」の一言を抜粋すると、その人生観が伝わるかもしれません。
「いってみりゃ私らは和え物の材料ですから」
「キレイなんて、一過性のものだから」
「CMの契約期間中は、その会社の人間だと思っています」
「テレビは演じたものが瞬時に消えていくから好きだったんです」
「役者は当たり前の生活をし、当たり前の人たちと付き合い、普通にいることが基本」
生前公開された最後の作品になった映画 『万引き家族』 の老婆の役について、「人間が老いていく、壊れていく姿というものも見せたかった」と語っています。
生前、約120本の映画に出演した彼女の巻末の年譜によりますと、初めて自ら企画も手掛けた62歳の女が38歳と偽って金を集め、出資法違反で逮捕された事件がモチーフとなっている映画『エリカ38』は、<樹木>さんの指名で<浅田美代子>が主演、<樹木>さんはエリカの母親役で出演しています。また、<桃井かおり>(67)主演、<樹木>さんは、旅館「茅ケ崎館」の女将(おかみ)として働く祖母役を演じているドイツ映画『Cherry Blossoms and Demons』が今年(2019年3月7日)ドイツ国内で公開されるようです。
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