今年の読書(56)『僕と君の365日』優衣羽(ポプラ文庫)
9月
23日
「無彩病」とは、実際には存在しないフィクションの病であり、次のように設定されています。「十年前からはやり出した原因不明の病」「はじめはある一色から色を認識できなくなり、やがてすべてがモノクロに変わり、一年ほどで死に至る」「発症率は十万人にひとり」。
僕は担当医師より「人間の目の網膜には錐体細胞というものがあります。この細胞は特定の波長を感じることで脳に情報を伝え、今、私たちが見ている世界の色を形作っているんです」「この錐体細胞が少しずつ死滅していき、最後に世界は灰色になり、やがて謎の死を迎える。それが、無彩病です」と説明を受ける。
それでもなお、視覚異常が死に直結する理由などは不明。「無彩病」は、避けられない死の脅威で人々を恐怖に陥れる、得体のしれない病との設定です。
「これから先、学校に来る必要はあるのだろうか。どうせ死ぬんだから、わざわざ勉強なんてしなくてもいいじゃないか」と自暴自棄になっていたある日、僕が「無彩病」であることを君に知られてしまう。
どうしようもない現実に腹を立て、関係ない君に八つ当たりする僕に、君は驚きの提案をする。「あなたが死ぬまでの一年間、私はあなたの彼女になるわ。こうして僕と君の「契約のような」365日間の恋がはじまり、1/365日から365/365日までカウントダウンされていきます。
365/365日。僕がこの日を迎えるまでに、色彩は失われ、死への恐怖はやわらいでいく。刻々と迫りくる死を念頭に置くことで、かえって僕は、生きることを切望し、感謝するようになる。「さよならの時間が目の前に迫っている」なか、最後に僕が見た景色。約3ページに渡るその描写が美しく、鮮烈だった。