今年の読書(13)『絶滅危惧の地味な昆虫たち』小松貴(筑摩書房)
2月
16日
本書では、50科を超える虫たちが取り上げられていますが、「より小さく、より目立たなく、より知られていないものを前面に」を基準に選択したといいます。昆虫学者ではない素人の私たちは、一生目に触れず、万が一見かけたとしてもそれが何者なのか決してわからないであろう虫たちばかりがとりあげられています。
「メクラチビゴミムシ」は、ラテン語の学名は「素晴らしき者」といった意味をもつらしいのですが、洞窟や水気の多い地下の砂利の隙間などにすむうちに目が退化したこともあり、日本ではひどい名前がつけられています。この仲間には、絶滅危惧分類の上から2番目の「IB類」に入るものが2種(ウスケメクラチビゴミムシ、ナカオメクラチビゴミムシ)もあり、何十年ぶりかに再発見されたりしているのに、保全の手段は何もされていません。「絶滅したと思われた魚 「クニマス」 の再発見と同等の学術価値があるのに」と著者はぼやいています。
「ケラトリバチ」は、「オケラ」だけに卵を産み付ける。「オケラ」の掘った穴を見つけるとその中を走り回る。ひとしきり暴れた後は外に出て穴から「オケ」ラが顔を出すのをじっと待つ。顔を出した途端、とびかかって毒針を刺し、気を失っている間に体に卵を産み付ける。そんなケラ専ハンターが日本には2種います。
奴隷狩りをするアリの話は有名ですが、日本にも「イバリアリ」という奴隷狩りをするアリが1種類だけいました。「トビイロシワアリ」の巣を乗っ取り、女王蟻を殺して、残った「働きアリ」をこき使う。食事の支度すら自分ではできない。「働きアリ」はだんだん死んでいくので、労働力を補給するためによその巣から、蛹や卵を奪いにいく。これが奴隷狩りです。
ごく限られた場所ではあったものの、2つの県(岡山県・山梨県)で確認されていましたが、今ではただ1カ所になってしまっているそうです。「なぜか最近レッドリストから外されてしまった」と国の冷たい仕打ちを嘆く著者。
昆虫好きとしては、著者の昆虫に対する愛情がひしひしと伝わってくる一冊でした。