著者の作品は、『完全黙秘』 で始まる<警視庁公安部 青山望>シリーズを9作目の最新刊 『国家簒奪』 まで読み進めていますが、今回新しいシリーズ物として<警視庁人事一課観察係>を手にしてみました。「人事一課」の通称をタイトルにした本書『ヒトイチ』は、シリーズ第一作目に当たります。
本書には、3篇が収められています。主人公は、人事一課観察係長<榎本博史>です。警視庁という大組織の中で囁かれる噂や、匿名の内部告発に基づいて、仲間の警察官の不祥事をあばいていきます。
「職務上警察官は権力を持っています。権力を盛った者には誘惑も多い。誘惑に弱い者は、不正になびいてしまうのだろう」という<兼光>課長の言葉が、どの査察対象者にも当てはまります。
殺人事件を解決するミステリーではありませんが、警察組織の裏側が垣間見れるシリーズとして楽しめそうです。
<警視キンケイド>シリーズも、前作 『警視の偽装』 に次いで、本書で第13作目になります。
3歳の娘<シャーロット>を花屋の主人に預けたまま、テキスタイル・アーティストの<サンドラ>が失踪して3ヶ月、こんどは、その夫<ナツ>がベビーシッタに<シャーロット>をあずけたまま姿を消してしまいます。<ナツ>の知人であり、<ジェマ>の友人でもある<ヘイゼル>から相談を受けた<ジェマ>は、私的に調べ出しますが、<ナツ>の死体が公園で発見され、<キンケイド>も捜査に乗り出してきます。
作品を重ねるごとに社会派ミステリーの色彩が濃くなっていくようで、前作『警視の偽装』では、第二次世界大戦下のドイツのユダヤ人迫害が事件の背景に隠されていましたが、本書では、イギリスの移民問題やバングラデッシュなどの女性の処遇問題を絡めています。
最後に<ヘイゼル>の段取りで、<キンケイド>と<ジェマ>は、仲間に見守られて結婚式を挙げますが、残された3歳の遺児<シャーロット>のその後が気になる終わり方でした。
新聞広告で、<警視キンケイド>シリーズの第14作になる最新刊『警視の挑戦』が目に留まり、 第11作目の 『警視の覚悟』 以後、本書と『警視の因縁』も読んでおらず、3冊まとめて購入してきました。しばらくは、キンケイド警視の世界に浸れます。
<キンケイド>の恋人<ジェマ>警部補の友人<エリカ>は、戦争中ドイツから逃れてきたユダヤ人ですが、彫刻師の父が持たせてくれたダイヤのネックレスがオークションにかけられているのを知ります。ネッックレスは、逃避中に奪われたモノでした。
<エリカ>は<ジェマ>に調査を私的に依頼するのですが、聞き込みに応対したオークション会社の女性従業員がひき逃げ事故で死亡、また<エリカ>の夫<ディビッド>が、移民まもなく刺殺されている事件を<ジェマ>は見つけ出します。
第二次世界大戦の歴史を引きずる事件を、<ジェマ>は母親が白血病で入院するというアクシデントを抱えながら、<キンケイド>と事件の真相を突きとめていきます。
京都の路地奥にある「珈琲店タレーラン」の女性バリスタ<切間美里>が解き明かす日常の謎を中心とするミステリーも 『事件簿4』 に次ぎ5作目になりました。
本書では、理想のコーヒーを求めて「珈琲店タレーラン」に辿り着き、常連客となった<アオヤマ>の中学生時代の8歳年上の初恋の女性<眞子>との逸話で始まり、標題の「タレーラン」の意味や理想のコーヒーを求める<アオヤマ>の背景が読者に提示されます。
11年ぶりに再会した8歳年上の<眞子>の過去を中心として、京都らしく『源氏物語』の登場人物を横糸に組み込みながら、<切間美里>の推理が冴える、ラブミステリーが楽しめました。
所轄の千代田署勤務の刑事<一之瀬拓真>も、前作 『誘爆』 で、巡査部長試験に合格、第4巻目の本書から研修を終えて本庁の捜査一課に配属されています。
公園のごみ箱から、切断された女性の腕が発見され、その指に<一之瀬>が卒業した大学のカレッジリングがはめられていたので、母校の聞き込みに向かいます。
捜査一課として殺人事件は3件ほどこなしてきている<一之瀬>ですが、「とくそうほんぶい」が立ち上げられての捜査は、初めての経験です。
被害女性の身元もわかり仕事は、IT関連のライターで、、所属していたサークルの「IT研究会」の人脈をしらべだしますが、あらたな切断死体が発見され、連続殺人事件かとざわめく特捜本部です。
前作まで<一之瀬>の教育係だった<藤島>や堂場ファンならにやりとする <失踪課> シリーズの <高城賢吾>や <アナザーフェイス>シリーズの<大友鉄>などが同じ警視庁仲間として登場、ファンサービスも十分の構成でした。
前作 『死の舞い』 に次ぎ<新・古着屋総兵衛>シリーズも、本書で13巻目になりました。
怪しげな偉人たちに襲われた<総兵衛>でしたが、影様こと<九条文女>が江戸城より下城がなく、どうやらてきがたにらちされたようで杳として行方がわかりません。
焦る<総兵衛>は、おわい船の作業に紛れ込み江戸城に侵入、手がかりをもとめます。
やがて、異国のガリオエ船の「死の舞い」のメンバーと老中「中牧野忠清>との陰謀だとはんめい、無事に
千代田署に配属された新人刑事<一之瀬拓真>は、『ルーキー』 で登場した時は25歳でした。通り魔事件 『見えざる貌』 などの事件を経て、本書では、巡査部長試験に合格した27歳になっています。
管内にある商社<極東物流>のビルに爆破予告の電話があり、予告通り時限爆弾が爆発しますが、けが人はでませんでした。<一之瀬>は、総務課社員の不審な態度から恐喝事件と睨んで自ら進んで事情徴収しますが、不首尾に終わります。
そんなおり、現金1千万を抱えた刺殺死体が発見され、<一之瀬>は殺人事件の捜査にまわされます。被害者は、過去に振り込め詐欺の前科があり、身辺調査を進めていくと大麻販売グループとの交友関係が浮かび、その仲間が、<極東物流>の海外でのスキャンダルをネタに、恐喝を行っていたことが判明、ふたつの事件が結びついていきます。
巡査部長試験に合格したことにより、刑事としての功名心に走る<一之瀬>ですが、研修を終えて、次作では、所轄から本部へ移動した捜査一課での活躍が楽しめそうです。教育係だった<藤島>刑事も移動となるようで、また恋人<深雪>との進展も次作への楽しみです。
著者の作品としては、『ランドマーク』(2008年1月)・ 『あの空の下で』(2011年5月)以来、ひさしぶりに手にしました。
大学進学するために上京した主人公・横道世之介は長崎県の港町出身の18歳。性格は、どこか図々しくも人の頼みを断れないお人好し。
<世之介>の名は、<伊原西鶴>の『好色一代男』の主人公の名で、父が「理想の生き方を求めた男」に由来して名付けられています。
本書は、大学背になった<世之介>の様々な出会いやまわりの人間関係を描いている
青春小説です。
入学式で出会った<倉持一平>や<阿久津唯>同棲・妊娠・出産で、大学を辞めたその後や、自動車教習所で知り合った<加藤睦美>やお嬢様の<与謝野祥子>との交際など青春時代を細やかにに描いていきますが、物語の途中で、読者は<世之介>が、線路に落ちた女性を助けようとして亡くなったのをカメラマンの肩書で知ることになります。
後半にかけて、経済学部の<世之介>が、なぜカメラマンになったのかの経緯がわかり、<祥子>に残された「写真」の意味が、深く心に残る作品でした。
『完全黙秘』 (2011年9月刊行)で始まった<警視庁公安部・青山望>シリーズも本書で第9作目になります。
名古屋・栄のマンションで、花沢組の若頭が、麻薬取引に使われたアタュシュケースに仕込まれたプラスティック爆弾で爆死する事件を発端として、韓国マフイアや中国マフイアの現状を背景に、公安部の<青山>を中心とする同期3人の仲間の活躍が、現在の警察組織を描きながら、世界の中で日本が置かれている社会状況を重ね合わせ、現実感迫る内容で読者を楽しませてくれます。
本書は、(2017年1月)刊行ですが、東京都のオリンピックや豊洲問題、トランプ大統領などがタイムリーに登場、元公安刑事だった著者の情報分析力は、さすがだなと感心しながら読み終えました。
いよいよ<青山>も結婚に至りそうで、次作では、新婚家庭を背景に物語が進むかもしれません。
京都市の鴨川沿い、東本願寺の近くにある小さな食堂には、店の看板が存在しない。この食堂は父<鴨川流(ながれ)>と娘<こいし>の親子2人が店を切り盛りしています。そしてこの食堂では、もう一度食べたいと考えている人たちの想い出の食べ物をわずかな手がかりを基として再現するというのが売りで、利用客は料理・グルメ雑誌に掲載される「"食"捜します。」の一行広告のみを頼りにしてこの場所にたどり着きます。
まずお店に出向きますと、<流>の見事な料理を味わうことになるのですが、引用すると長くなりますので、ぜ日本文で味わっていただきたいものです。
<鴨川食堂>シリーズとして本書は5作目になりますが、6篇の想い出の「食」が掲載されていますが、<流>・<こいし>が思い出の味を探り出す過程も秀逸で、心温まります。
<矢崎在美>に 『食堂つばめ』 というシリーズがありますが、こちらは、あの世とこの世の境に存在している食堂ですが、食事というのは、疎かにできない大事な行為のようです。
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