今年の読書(73)『賞の棺』帚木蓬生(集英社文庫)
5月
28日
イギリス医学界の権威者<アーサー・ヒル>がノーベル医学・生理学賞を受賞を知らされた<津田孝>は、同じ分野で研究を続けながらも4年前に急性白血病でなくなった恩師<清原修平>の家に焼香を兼ねて挨拶に出向いた際、恩師の娘<紀子>が絵画の勉強のためにパリいることを知ります。
ブダペストの学会出席に合わせて<津田>は長期休暇を申請すると共に、<紀子>や旧友と会う予定を組みますが、何気なく手にした恩師の記念集に、<アーサー・ヒル>より先に筋肉の「第三のフィラメント」与呼ばれる物質を発見していた<アントニオ・ルイス>の話に興味を持ちます。
ブタベストの生理学研究所を訪れた<津田>は、以前の所長もまた4年前に急性白血で亡くなっているの知り、<清原>の研究室に6カ月いた<アイリス・サンガー>が、この研究所にも<アーサー・ヒル>の推薦で6カ月ばかりいたことを知り、何か策略めいたものを感じ取り、真相を求めてヨーロッパを駆け巡ります。
世界の最高権威であるノーベル賞を舞台に、臨床医学者としての生き方を主軸に、娘と父、息子と母親等、複雑な親子の関係を絡ませながら、また<津田>と<紀子>の淡いラブロマンスの要素もある、本角的な医療ミステリーとして楽しめた一冊でした。