第一作目の 『ルーキー』 で登場した千代田署勤務の新米刑事<一之瀬拓真>は、巡査長試験に受かり、本庁の捜査一課に移動して一年が過ぎ、後輩の<春山>とコンビを組んでいます。
また長年の恋人<深雪>とも結婚しましたが、彼女が1年間のドイツ留学のため、新婚でありながら、別居生活状態です。
新橋で発声した強盗殺人事件緒犯人<島田>が郷里の福島県にて逮捕され、犯人護送の為福島県に出向きますが、駅までの護送中に襲われ、<島田>を逃がしてしまいます。
検問中に強奪犯の外国人が射殺され、<島田>の大学生時代の留学生だと判明、過去に遡って身辺捜査が行われるなか、<島田>は、強盗に入った会社の社長を刺殺する二度目の事件を起こします。
事件の背景が読み取れない中、<一之瀬>たちの必死の捜査が続き、幼馴染として一人の女性<美羽>の名前が浮上してきます。
一人前の刑事としての<一之瀬>の成長が楽しみなシリーズですが、本書では、同期の福島県警の<城田>と妻<由布子>、犯人<島田>と<美羽>、<一之瀬>と<深雪>の関係が底辺に流れ、物語に奥行き感を感じさせる構成でした。
<笹本稜平>といえば、骨太の山岳小説がたのしめますが、『越境捜査』 シリーズをはじめ 『駐在刑事』 シリーズの刑事物も面白く目が離せない作家の一人です。
警視庁捜査一課といえば、ノンキャリアの警察官の誰もが憧れる地位です。しかし、<葛木邦彦>は日々殺人事件を追いかけたあげく妻の死に目にあえなかった悔恨から、そのステータスを捨て異動を申し出て、現場の最前線である所轄の捜査係長になりました。
一方、誠実な父の背中を見て育った息子<俊史>はキャリア警視に。職場での立場が逆転した葛木父子の連携を軸に、個性あふれる刑事たちの奮闘を描き人気を博す「所轄魂」シリーズ。本書は2作目にあたります。
空き家で老夫婦の白骨死体が発見されたのを発端に、高齢者失踪事件が相次ぎ明らかに。他殺の線で捜査を進める<葛木>たちですが、本庁による不自然なまでの消極姿勢に事件つぶしの疑惑が浮かび上がります。
地をはうような捜査を重ね、犯罪や権力と相対する現場の刑事たち。彼らが積み重ねてきた時間をさかのぼって味わいたい、読後感清涼な警察小説です。
タイトルからでは、本書の内容は把握するのは難しいですが、<松尾芭蕉>の晩年を描いています。
<芭蕉>は、郷里の伊賀上野でもなく、江戸でもなく、近江の義仲寺に祀られているのかがよくわかる内容でした。
その義仲寺境内で、一人の尼<智(智月)>に声を掛けた旅の途中の芭蕉は、年上の<智>に恋心を抱きます。
またこの義仲寺には、<芭蕉>が敬愛する<源義仲>と<巴御膳>が祀られていて、この二人の悲恋になぞるように<芭蕉>と<智>の交流が描かれていきます。
<巴御前>は、平安末期の信濃の国の女性で、『平家物語』では、源義仲に使える女武者ぐらいの知識しかありませんでしたが、本書で改めて彼女のすさまじい生き様を知りました。
安東能明には、新潮文庫にて 『撃てない警官』 に始まる元エリート<柴崎令司>を主人公とするシリーズがありますが、これは警察組織の中で復讐と再起を図っていく物語です。
東大法学部を卒業してキャリアとして入庁した新人刑事<野上>は新宿署に配属されます。日本最大のマンモス署にして夜間犯罪発生率が日本一の新宿署ですが、何故か移動もなく10年勤務している「夜の署長」の異名をとる<下妻>がいました。
本書には、中短篇が四話収められており、各事件の捜査を通して、<野上>は捜査のイロハを<下妻>から教わりながら刑事として叩き込まれていきます。
4篇目の事件で、なぜ<下妻>が新宿署に居続けるのかが判明、刑事魂の熱さを感じさせる締めくくりとして味わい深い内容でした。
『親子の肖像』 で始まる<アナザーフェイス>シリーズも本書で第8作目になりました。
主人公は、元捜査一課で活躍していた<大友鉄>警部補ですが、シングルファーザーとして一人息子<優斗>(彼も本書では、中学2年生になっています)のために残業の無い総務課に移っていますが、高い捜査能力を買われ、各課のお手伝いに駆り出されます。
今回も、、捜査二課の結婚詐欺事件の捜査に関わる<大友>です。詐欺グループの一員かと思われるスポーツジムノインストラクター<荒川美智留>の内偵を得意の演技力で」続けるうちに、詐欺を働いていた男が殺される事件が起こり、事件の裏に潜む複雑な事情が浮き彫りにされていきます。
文中同期の捜査一課の<高畑敦美>の挙動がおかしい描写が何回か出てきますが、読み手は刑事の彼女も結婚詐欺の被害者かなと勘ぐらせ、最後に真相が分かります。
日本では、1994年3月に第1作の『警視の休暇』で始まった<キンケイド警視>シリーズですが、最新刊(2017年2月刊行)の本書が最新刊の第14作目になります。
カヌーでオリンピック出場を目指しテムズ川で練習していた<レベッカ>が、水死体で発見されます。彼女は、ロンドン警視庁の女性警察官ということで、<キンケイド>が事件を担当します。
元夫やボートのコーチ、行方不明の探索に関わった元衛生兵と関係者が複層するなか、警察の上司にレイプされた過去が判明、現在は引退している副総監の名が浮上、<キンケイド>は、妻の<ジェマ>の協力の元事件の真相に迫っていきます。
ここ最近の 『警視の偽装』 ・ 『警視の因縁』 と、<キンケイド>と<ジェマ>の二人の私生活面の匂いが強めの展開でしたが、本書622ページは<キンケイド>警視の面目躍如といった活躍が楽しめました。
<警視庁人事一課関幸係>シリーズとして、 『ヒトイチ』 ・ 『ヒトイチ 画像解析』 に次ぐ第三作目が本書です。
このシリーズとして、本書も3篇の中篇がおさめられています。
本書でも活躍するのは、監察係長<榎本博史>です。
小代もあろうに『公安の裏金』では、自身が、他の部署の刑事に尾行されるという反対の立場に置かれ、身内を信じてはいけない掲載組織の体質が良く表れていました。
また副題になっています「内部告発」は、3篇のひとつ『告発の彼方』をもじったタイトルです。身分社会の組織の上下関係の悲哀を感じさせる内容で、どの作品も、殺人事件などの捜査は絡んできませんが、複雑な人間関係の面白みが楽しめるシリーズだと思います。
<警視庁人事一課観察係>シリーズとして、第1作目の 『ヒトイチ』 に次ぐ第2作目です。
主人公は、人事一課、通称「ヒトイチ」のエリート監察係長<榎本博史>です。
第一作目と同様に中篇3篇が収録されています。殺人事件を追うミステリーではありませんが、警視庁という大組織のキャリア官僚を中心とする階級社会・人間関係の複雑な背景が、実にリアルに楽しめます。
庁内で拳銃自殺した事件背景を追う『拳銃自殺』、電車内で痴漢容疑で捕まった黙認する警部補の事件『置換警部補の沈黙』、出産に関してマタハラを受けたとする女警察官の事件『マタハラの黒幕』、一見単純に思われたな事件の裏側には複雑な事情があることが、巧みな構成で、地道に解き明かす過程は、警視庁出身者ならではのリアリティーで迫ってきます。
続編が楽しみな<警視庁人事一課観察係>シリーズです。
著者には、警視庁勤務の経歴を生かした著作が多く、公安部の <青山望>、諜報課の <榊冴子>、人事一課の <榎本博史> 世田谷駐在刑事 <小林健> といった個性ある主人公たちを産みだしてきていますが、本書でも<廣瀬知剛>という元公安部警部が活躍します。
福岡から東京への飛行機の中で、元内閣官房長官<新宮啓介>が脳梗塞を発症、急遽川崎殿町の病院に搬送されます。検査の結果、血圧を高めるジギタリスを呑まされたことが判明、病院のリスクマネージメント担当の<廣瀬>は、事件性を察知して、古巣の公安部に連絡、閑職に追いやられている元部下の<秋本>を調査担当者として推薦、事件の究明に乗り出します。
また勤務している病院では、ヤクザ絡みの対処、勤務医によるパワハラ・セクハラ問題の解決と忙しく立ち回りながら、川崎殿町病院理事長の<住吉幸之助>の右腕としての活躍が楽しめます。
患者の生命と病院内の平和を守る<廣瀬>の活躍が、今後もシリーズとして期待できそうな新しい主人公の誕生です。
『ビッグイシュー』 は、ホームレスの社会復帰に貢献することを目指すとする企業であり、またイギリスを発祥に世界で販売されるストリート新聞のことです。
日本では定価350円ですが、そのうち180円が販売者の収入になります。
久しぶりにタイトルの「どこにもない食堂 ―― 誰もがふさわしい場」に魅かれて読んでみました。
ただめし、シェフが日替わり、多彩な性の人々、サインで注文──そんな個性ある食堂が4店舗取り上げられています。
「未来食堂」(東京・神保町)は、カウンター12席だけの日替わり1種だけの定食屋。50分の手伝いで1食分が無料になる「ただめし」券を発行、”誰もが受け入れられ、誰もがふさわしい場所”をつくろうとしている。
「コムカフェ(comm cafe)」(大阪・箕面)は、外国人市民が日替わりでシェフとなり、多文化な家庭料理を提供。素の自分でいられて、仲間ができる居場所でもある。
「irodori」(東京・渋谷神宮前)は、LGBTの人たちが働き、多様なセクシュアリティ、年齢、国籍を超えた人々が集まる”アジアンビストロ”。
「サイン・ウイズ・ミー(Sign with Me)」(東京・文京区本郷)は、手話が公用語で、ろう者が接客し、聴者から「ありがとう」と言われる評判のスープ食堂。
どこにもない〝ユートピア〟食堂として、4つの食堂の起業と日々の経営に込められた思いが描かれています。。
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