<山田詠美>の本書『つみびと』は、 2010年7月 に発生した 大阪市 西区 の マンション で2児(3歳女児と1歳9ヶ月男児)が母親の 育児放棄 によって 餓死 した「大阪2児餓死事件」をもとにして描かれ、『日本経済新聞』(夕刊)に2018年3月26日~12月25日に掲載され、2019年5月単行本として中央公論新社より単行本が刊行、2021年9月25日に文庫本が発売されています。
厚生労働省では、毎年11月を「児童虐待防止推進月間」と定めていることもあり、おぞましい事件の記憶もあり、手にしてみました。
4歳の男の子「桃太」と3歳の娘「萌音」の2児を放置した死なせた母親「蓮音」を中心として、その母親「琴音」と<小さき者たち>のそれぞれ三様の立場で状況が語られる構成の424ページでした。 「悪いのは子供を餓死させた母親だけなのか」という疑問を、「蓮音」の周囲にいる人物達や家庭環境から浮き上がらせて描いていますが、全てが家庭環境のせいとは言えないだけに、灼熱の夏に幼な子二人をマンションに閉じ込め置き去りにしたのかは、重い内容だけに読み終えて分からないままでした。
事件当事者の母親の裁判は最高裁まで争われ、2013年3月25日に懲役30年が確定して服役しており、物語は、「琴音」と「蓮音」の刑務所にての面会場面で終わります。
<燃え殻>原作のベストセラー小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2017年6月30日・新潮社刊)を<高田亮>が脚本を手がけ、<森義仁>が監督デビュー作品として兵庫県神戸市出身の<森山未來>(37)を主演に据えた、『ボクたちはみんな大人になれなかった』が11月5日よりNetflix配信開始と劇場公開に合わせ、より深く作品世界に溶け込めるスピンオフフォトブック『「海行きたいね」と彼女は言った』が発売されています。
描かれるのは主人公ボク=「佐藤」が<伊藤沙莉>演じる恋人「かおり」と過ごした、1996年・横浜でのある一日。
「だいぶ昔のことだからうろ覚えだけど、その日は、なんでか、全部がよかった」
伊勢佐木長者町駅前で待ち合わせ、黄金町の映画館ジャック&ベティに向かったけれど、「鈴木清順特集」は来週からでした。大岡川の川沿い、石川町の坂、古い喫茶店、夕方の山下公園。
お目当ての映画もやっていないし、豪華な一軒家には住めそうにないし、喫茶店のケーキは冷凍だったけれど、「かおり」は「なんか、今日はついてるね」と笑った。
もうどこにもいないあの日の彼女との日々を、書き下ろし脚本と、いま注目の写真家<木村和平>の撮り下ろし写真70点以上で綴っています。
さらに、<燃え殻>による書き下ろしエッセイ2編も収録されています。
今回の『不審者』は読み切るのに苦労しました。著者が<伊岡瞬>でなければ、途中で読むのを放棄したかもしれません。
フリーで小説の校正・校閲をしている妻「折尾里佳子」と食品会社に勤める夫「秀嗣」と6歳の息子「洸太」、認知症が出始めた姑「治子」の4人の家庭の描写が続き、いつか大きな事件が起こるだろうと思いながらも、盛り上がりに欠ける日常的な描写の冗長的な展開に読み進むのが大変でした。
読みながら、「この引っ張り方は、新聞連載小説的だな」と感じたのですが、初出はやはり『青春と読書』誌に2018年7月~2019年6月に掲載され、2019年9月に単行本が刊行され、2021年9月25日に文庫本として発売されています。
家族4人で平穏に暮らす「里佳子」の前に、20年以上音信不通でした「秀嗣」の兄「優平」だと名乗る男が現れます。しかし姑は「息子はこんな顔じゃない」と主張。不信感を抱く「里佳子」でしたが、「優平」は居候することになります。その日から、毛虫が寝具に紛れ込んでいたり、車が動かされていたり、校正の原稿が紛失、引き出しの五千円がなくなっているなど、不可解な出来事が続きます。「優平」は誰で目的は何なのか。一つの悲劇をきっかけに、暴かれる家族の秘密と、「ふ~ん」という結末が待っていました。
文中に登場してきます「里佳子」の校正者としての仕事内容が理解できたことは勉強になりましたが、その作業する小説の文章と本文の事件が同一のように感じさせる並列的な描写は伏線として楽しめたのが救いでした。
「鉄人ノンフィクション編集部編の『映画になった恐怖の実話』は、実録映画の題材になった事件、事故、スキャンダルの詳細を取り上げています。劇中では描かれなかった顛末の詳細、本当の動機。事件関係者の知られざるその後などが紹介されています。
54作品の映画になった事件が取り上げられています。
<マーティン・スコセッシ>と<ロバート・デ・ニーロ>がタッグを組んだアメリカ大統領候補、{ジョージ・ウォレス狙撃事件}の『タクシードライバー』を筆頭に、{シャロン・テート殺害事件}の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、 中国南部を舞台としたノワールサスペンス{中国ハルビン拘置所死刑囚脱獄事件}の『鵞鳥湖の夜』、殺人鬼K.が主人公のスリラー{アルトライター一家3人猟奇殺人事件}の『アングスト/不安』、<長澤まさみ>演じる母に支配された17歳少年が凄惨な事件を起こす{川口祖父母殺害事件}の『MOTHER マザー』、先ごろも話題になりました聖職者の児童への性的事件として{プレナ神父事件}の『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』 などが取り上げられています。
著者<松島智左>は、『女副署長』で気にいり、その続編の『女副署長 緊急配備』で目の離せない作家リストに入りました。本書『開署準備室 巡査長・野路明良』は、文庫本としての書下ろし作品で2021年9月20日に刊行されています。
主人公の巡査長「野路明良」は、姫野署開署に向け警察署内の最終確認を行なう臨時部署「開署準備室」の総務担当に配属されて着任します。
「野路明良」は。全国大会で優勝するほどの白バイ隊のエースでしたが、同僚の運転する自動車事故で右手の指に後遺症が残り白バイから離れ異動となり、自棄になっていました。
一方、信大山にて頭蓋骨に損傷がある白骨死体が見つかり、遺留品から12年前に発生した5億円強奪事件の関係者だと判明、現金は不明のままで、くしくもその事件で服役していた「河島葵・準」兄妹が出所したばかりで、再捜査が始まります。
新庁舎の準備も終盤となり、突如、不審事が度重なります。発注外の大型什器の搬入、防犯カメラの誤作動、さらには「野路明良」の警察学校時代の恩師「山部佑」が襲われる事件が起きてしまいます。
著者自身、女性の白バイ隊員という経歴が生かされた、白バイのち密な描写、後半に右手の不自由な「野路明良」のスリリングな走行の描写という緊迫感あふれた行動は、〈警察官としての矜持〉とその後の展開と共に読みごたえがありました。
主人公「野路明良」をはじめ「山部佑」教官の元教え子の妻「山部礼美」、白バイ隊の先輩「木祖川守」など個性ある脇役もよく、副題に〈巡査長・野路明良〉とありますので、シリーズ化されそうで、今後も楽しみです。
初めて手にしました<竹田真砂子>の作品『白春』でしたが、面白く心に響く感動をもって読み終えました。
本作『白春』は、赤穂浪士討ち入り300年に当たる2002年12月に単行本が刊行され、第9回(2003年)中山義秀文学賞を受賞、2021年9月25日に文庫本として発行されています。
赤穂浪士の討ち入りを描いた〈忠臣蔵〉の番外編としては、<葉室麟>の『花や散るらん』がありましたが、本作品も討ち入りの裏話が主題です。
赤穂藩京屋敷留守居役の「小野寺十内」と妻「お丹」に仕える少女「ろく」は、捨て子として「大内内蔵助」の母「大石久満女」に育てられ、実親を知らず耳が聞こえませんが、出会いに恵まれ仕合わせな日々を過ごしていました。十歳の時に「お丹」が嫁ぐときに使えますが、しかし「ろく」が二十歳になった年、藩主「浅野内匠頭」の江戸城松の廊下での刃傷という一大事が起こります。
忠義を貫き命を散らすのが「武士の一分」ならば遺された「女の一分」とは。「小野寺十内」を中心として大石内蔵助をはじめとする赤穂藩士たちとの関わり、武士の妻としての生きざまを、「ふく」の目線から滋味溢れる筆致で討ち入りの顚末と家中の人々の覚悟を描く感動作でした。
7月21日より本日10月10日まで、東京・湯島の「国立近現代建築資料館」にて、『特別展「丹下健三1938-1970」戦前からオリンピック。万博まで』が開催されていました。
2度の東京五輪の会場となった国立代々木競技場を中心として、前川国男建築設計事務所時代、会場マスタープランを担当した日本万国博覧会までの前半生の仕事をたどる展示会でした。
おそらくこの特別展に合わせて、2021年7月15日に岩波書店から重要論考を集成する『丹下健三建築論集』と『丹下健三都市論集』の2冊が発行されています。
私が建築学科の学生だった頃には、すでに、「世界の丹下」と呼ばれていました。国際的建築家として<丹下健三>の名を知らしめたのは、その作品のみならず、彼の論説と思想でした。人間と建築に対する深い洞察と志し。「美しきもののみ機能的である」との言葉に象徴される独自の美意識の源泉となる重要論考を集成しています。
第2回渡辺淳一文学賞を受賞した『マチネの終わりに』から2年ぶりになる<平野啓一郎>の本書『ある男』は、2018年9月に発行され、「第70回読売文学賞」を受賞、2021年9月10日に文庫本として発売されています。
帰化した在日三世の弁護士「城戸章良」は、かつての離婚裁判の依頼者である「里枝」から、「ある男」についての奇妙な相談を受けます。
宮崎に住んでいる「里枝」には、2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去がありました。長男「悠人」を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、実家の文具店を引き継ぎ、店で出会った「谷口大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子「花」と4人で幸せな家庭を築いていました。ある日突然、「大祐」は、木の伐採中の事故で命を落とします。「里枝」は、「大祐」の兄「恭一」に連絡を入れますが、写真を見た「恭一」は「大祐」が全くの別人だという衝撃の事実を告げます。
途方に暮れた「里枝」は、かっての弁護士「城戸」に連絡を入れます。「城戸」は仕事の合間に「谷口大祐」と名乗る男が誰だったのかを調べていきます。
自らの人生と妻「香織」と4歳の息子「颯太」との家庭環境を並行して描き、「人生のどこかで、全く別人として生き直す」ことを考え始める「城戸」でしたが、戸籍の取り換えを行っていた「小見浦」という服役中の男にたどり着きます
人はなぜ人を愛するのか。幼少期に殺人犯の息子という深い傷を背負っても、人は愛にたどりつけるのか。
「大祐」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがります。
愛に過去の人生は意味を持つのかという人間存在の根源と、この世界の真実に触れながら、「城戸」は自らの夫婦関係にわずかな希望を見出すことになります。
本書『沈黙のパレード』は、「ガリレオ」シリーズ第一作『探偵ガリレオ』の刊行から20年を経て第9弾にして、6年ぶりとなるシリーズ4作目の長編として2018年10月11日に文藝春秋から刊行され、同社より、2021年9月10日に文庫本が発売されています。
突然行方不明になった定食屋の19歳の看板娘「並木佐織」が、ゴミ屋敷と呼ばれる住宅の火災あとから住宅に住んでいた老人の白骨化した焼死体と一緒に遺体となって発見されます。
容疑者はかつて「草薙」刑事が担当した23年前の少女殺害事件で無罪となった男でしたが、今回も証拠不十分で釈放されてしまいます。さらにその男が、堂々と遺族たちの店に現れ「恐喝」に近い言動をとったことで、かっての「佐織」の恋人や「並木親子」に同情を寄せる商店街の人たちを「憎悪と義憤」の思いに駆り立ててしまいます。
そんな折、町中を熱狂させるコスプレパレードが主体の商店街の秋祭りの季節がやってきます。
犯人だとわかっていながら自白が取れないまま無罪となった「蓮沼寛一」に対して、仇討を計画する面々が、パレード当日の復讐劇はいかにして遂げられたのか?、殺害方法は?、アリバイトリックは?、超難問に突き当たった「草薙俊平」と部下の「内海薫」は、過去の事件でもお世話になった物理学者「湯川学」(呼び名ガリレオ)に助けを求めます。
二転三転する後半は面白い構成でしたが、推理小説の事件に関係することはすべて読者に提示しておくという決まりからは外れているのが、『マスカレード・ナイト』の結末と同様に気になりました。
作家<吉村昭>〈1927年(昭和2年)5月1日 ~2006年(平成18年)7月31日〉が没して、はや15年が経ちました。『戦艦大和』や『冷たい夏、暑い夏』など40作ばかり刊行されていますが、このブログ開始以前に亡くなられていますので、読書日記には登場していません。
本書『食と酒 吉村昭の流儀』は、2021年8月11日に文庫本書下ろしとして刊行されています。
<吉村昭>は、膨大な史料の収集・検証と綿密な取材で、日本人の知られざる歴史と庶民の生活を描いた作家でしたが、唯一の楽しみは、「食べること、呑むこと」でした。
その人生の楽しみを<吉村昭>と、夫人で芥川賞作家の<津村節子>の生活の関わりを、二人が書いた随筆、小説、対談などから切り取り、<吉村昭>が愛した日本の食と酒、そして取材旅行で訪れたさまざまな町の味を紹介しています。
<吉村昭>文学の原点である戦争体験と結核の療養生活、夫婦で北海道をさすらった不遇時代の記憶などが、<吉村昭>の「食と酒」への執着とどう関わっていたのか。そして旅を通じて浮かび上がる夫婦の絆と愛情を、作家<谷口桂子>が描きあげています。
カバーの装画(平松麻)のマッチ箱は、旅先で気に入ったお店を記録するために、<吉村昭>が収集していたことにちなんでいるようです。
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