今年の読書(40)『鯨の岬』河﨑秋子(集英社文庫)
7月
12日
本書は書下ろしの『鯨の岬』と第46回北海道新聞文学賞受賞作『東陬(とうすい)遺事』の2篇が収録され、2022年6月25日に文庫本として発売されています。
『鯨の岬』は、札幌の主婦「奈津子」は、孫が笑いながら見ていた鯨が腐敗爆発する動画を見て、子供のころ住んでいた鯨の町の記憶を思い出します。後日、釧路の母を介護施設へ訪ねる途中、捕鯨の町にいた幼い頃が蘇ってきます。記憶の扉を開けた彼女は、母の訪問を辞めて子供のころに住んでいた霧多市へと足を向けるのでした。
『東陬遺事』は、江戸後期の蝦夷地野付に資源調査のため赴任した「山根平左衛門」でした。死と隣り合わせの過酷な厳寒の中で、下働きの「たづ」の家族と親しくなり、その父や弟を通して、壮絶な極地での生活を体験していきます。命を見つめ喪失と向き合う人々の凄絶な北の大地の物語が描かれています。