今年の読書(34)『清明』今野敏(新潮文庫)
6月
18日
大森警察署長から神奈川県警刑事部長に着任した異色の警察官僚「竜崎伸也」でしたが、着任早々、東京都の県境で死体遺棄事件が発生、警視庁との合同捜査になり、昔の面々と再会しますが、署長の立場と違いどこかやりにくさを感じます。
捜査中、ペーパードライバー講習中の妻「冴子」が自動車教習所で事故を起こし、「竜崎」は教習所所長のもと県警OBの「滝口」とひと悶着を起こします。
死体遺棄された被害者は、中国人の不法入国者と判明、公安と中国という巨大な障壁が立ちはだかり、事案は複雑な様相を呈してゆきます。横浜中華街の華僑とのつながりが事件の核心となり、「竜崎」は県警OB「滝口」の人脈を頼り、中華街の大物との面会ができ、政治・思想がらみでの事件の様相を見せてきます。当初は「安倍晴明」が関係するのかと思っていましたが、表題となっています「清明」が<杜牧>の七行詩だと分かり、生臭い事件に一抹の清涼感を与えています。
着任早々の事件も、警察官としてブレない「竜崎」として無事に終えますが、馴染みの登場人物に加え、新たな展開として「阿久津参事官」が脇役としていい味を出しているで、今後の展開(といっても新刊本として『探花』(隠蔽捜査9)がすでに刊行されています)が楽しみです。