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神戸:ファルコンの散歩メモ

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今年の読書(49)『焦眉』今野敏(幻冬舎文庫)

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多くの楽しみなシリーズを持つ<今野敏>ですが、この「警視庁京後半係・樋口顕」もそのひとつです。本書『焦眉』は、2020年4月16日にシリーズ6冊目として単行本が刊行されており、文庫本として2022年7月10日に発売されています。今年3月16日にシリーズ7冊目の『無明』が刊行されていますので、文庫本発売まで、また2年ほど待たなければいけません。

東京都世田谷区の高級マンションの駐車場で投資ファンド会社を経営する<相沢和史>が刺殺され、捜査一課の「樋口顕」班が現場に急行します。

警視庁が所轄の北沢署に特別捜本部を設置すると、東京地検特捜部の検事<灰谷卓也>が、二課の係長と同行して現れます。
<灰谷卓也>は与党の大物議員を破り当選した野党の衆議院議員<秋葉康一>を政治資金規正法違反容疑で内偵中でした。

市民運動家の<秋葉康一>は殺された<相沢和史>と大学時代から親しかったらしく、過去に選挙資金規正法に関わる関係を疑われた経歴があり、殺害現場付近の防犯カメラには<秋葉康一>の秘書<亀田至>が映っており、それらの事実だけを理由に<灰谷卓也>は、<樋口顕>が証拠不充分を主張するも秘書を逮捕してしまいます。

選挙と警察組織、地検と警察との対峙などを縦軸に、自己評価が低く、上司の顔色を窺い、部下を気遣い、一人娘「照美」を気遣う等身大の刑事の生き様を照らし出す「樋口顕」の人間性を横糸として織り込みながら、骨太の警察小説が楽しめました。
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今年の読書(48)『人格者』佐藤青南(中公文庫)

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<佐藤青南>行動心理捜査官「楯岡絵麻シリーズ」として第1作の『サイレント・ヴォイス 』(2012年11月 宝島社文庫)から第8作の『ツインソウル』 (2020年3月 宝島社文庫)を読み進めていますが、新シリーズとして『連弾』(2021年7月 中公文庫)に続く刑事「音喜多弦」と「鳴海桜子」のコンビが再登場、文庫書下ろしとして2022年7月25日に刊行されています『人格者』です。

都内で殺人放火事件が発生します。被害者は著名な楽団のコンマスをも務める男性ヴァイオリニスト<久米充>でした。

捜査一課の「音喜多弦」は、音楽隊志望の声楽科出身の玉堤署の変わり者刑事「鳴海桜子」と、再びペアを組んで捜査を開始します。

怨恨が犯行動機と睨んだ捜査本部ですが、関係者は皆、<久米充>への敬愛追慕を語るのみでした。誰からも愛された音楽家としても人間的にも〈人格者〉としての姿しか見えない彼の行動を確認していく過程で、楽団という音楽業界の裏側の世界を面白く取り込んでいます。

楽団員のオーディションにまつわる話題から、事件の糸口を見つけようと奮闘する二人でしたが、思わぬ人物が自首してきたことで、(推理小説ファンは誰も考えない展開ですが)事件は一気に解決なのかなと思える中、その裏側で〈人格者〉とは思われぬ要因が潜んでいました。
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今年の読書(47)『希望の糸』東野圭吾(講談社文庫)

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加賀(恭一郎)シリーズ最新作ということで手にしました<東野圭吾>の『希望の糸』です。2019年7月に単行本として刊行され、2022年7月15日に文庫本として発売されています。

刑事「加賀恭一郎」シリーズは『卒業」(1989年5月8日刊行)に始まり第8作目『新参者』(2009年9月18日刊行)で「練馬署」から「日本橋署」に移動になり、第10作『祈りの幕が下りる時』(2013年5月13日刊行)に続く第11作目となりますが、「加賀恭一郎」も脇役的に登場しますが甥の「松宮修平」が主人公として扱われています。


大きな伏線として冒頭は「汐見行伸・怜子」夫婦の話で始まりますが、急転して小さな喫茶店を営む女性経営者が店舗内で刺殺体で発見されます。「加賀」と「松宮」が捜査しても彼女に関する手がかりは善人というだけで男関係もなく不審者は浮かんできません。ただ、彼女のジム通いなど不可解な行動を調べるとある少女の存在が浮上してきます。

刺殺事件の捜査中に、「松宮」に金沢の料亭の女将「芳原亜矢子」〈自分の父があなたの父親です〉と、金沢で息を引き取ろうとしていた料亭の主人の遺言書に「松宮」の名前があるということで連絡が入ります。

ひとつの刺殺事件を通して、夫婦関係、親と子、家族という主題でまとめ上げた、見えないつながりの<糸>を掘り下げた内容でした。
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今年の読書(46)『金春屋ゴメス』西條奈加(新潮文庫)

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<西條奈加>の『金春屋ゴメス』は、2005年11月に単行本が刊行、2008年(平成20年)10月に新潮文庫に収録され、2022年7月1日(ということで「しおり紐(スピン」)はありません)に文庫本として発売されています。

なんとも奇想天外な構想の物語でしたが、エンターティナメントとしては面白く楽しめ「第17回日本ファンタジーノベル大賞受賞」というのも納得できる内容でした。

近未来の「日本」に江戸時代そのものの環境の鎖国状態の「江戸国」を舞台としています。「江戸国」に入国するためには競争率三百倍の難関を潜り抜け入国を許可されなければいけません。大学二年生の「辰次郎」は、5歳の時に父「辰衛」と共に「江戸国」から「日本」に「辰次郎」の流行病を治すために来ました。

「辰次郎」は、父がなぜ「日本」出国してきたのかを知りたくて「江戸国」へ出向きますが、その請け人は身の丈六尺六寸、目方四十六貫、極悪非道で鳴らし大盗賊も思わずビビる「金春屋ゴメス」こと長崎奉行馬込播磨守でした。「江戸国」では15年前と同じ流行病の「鬼赤痢」が突如として出現しており、病気が治った「辰次郎」の経歴に目を付けた「ゴメス」が手を回し難関の「江戸国」入国させ、致死率百パーセントのの正体を突き止めるよう「辰次郎」は命じられます。

なんとも不思議な感覚で「江戸国」の浮世事情を感じながら違和感なく、ミステリーの要素も含めた展開で楽しめた著者の〈デビュー作品〉でした。
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しおり紐(スピン)廃止@新潮文庫

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しおり紐(スピン)廃止@新潮文...
文庫本愛好家として、「新潮文庫」には(スピン)と呼ばれる「しおり紐」が付いていて重宝していましたが、『次の電車が来る前に』(2022年7月1日発行)では、(スピン)が無くなっています。ついに作業工程の簡略化や製本のコスト削減となったようで、残念です。

現在使われる意味での「文庫本」を生み出した岩波文庫〈1927年(昭和2年)発刊〉は、しおり紐つきの造本を行ない、多くの他社もそれにならいましたが、1914年(大正3年)創刊の「新潮文庫」は1933年から終戦直後の物資不足の時代を除き、現在まで一貫してこの(スピン)が付いていました。

コストダウンなどの理由で(スピン)を取りやめる文庫が増え、いつのまにか、「新潮文庫」にだけ(スピン)がついているという状況でした。一目で「新潮文庫」だとわかる「隠れたシンボル」とも言える存在だっただけに、残念に感じている本好きさんが多いのではないでしょうか。
#しおり #ブログ #文庫本 #読書

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今年の読書(45)『次の電車が来る前に』越谷オサム(新潮文庫)

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『陽だまりの彼女』『いとみち』の著者の2019年11月に刊行されています『四角い光の連なりが』が改題され、2022年7月1日に『次の電車が来る前に』として文庫版が発売されています。

本書には、共に「鉄道・電車」にまつわる5篇が収められています。

『やまびこ』は、三代目の写真館を継ぐことなく東京へ飛び出した息子が、父の葬儀のために故郷へ戻る新幹線の中での出来事をとおして人生を振り返るともに父への思いが描かれています。
『タイガースはとっても強いんだ』は、タイガースファンには「わかる・わかる」とうなづくこと必至の内容で、大阪の地下鉄や阪神電車の様子がよくわかる関西を舞台としていますのでぜひ読んでいただきたい一篇でした。
『二十歳のおばあちゃん』は、若いころに乗っていた路面電車に乗りたいという祖母のために、その電車が譲渡されまだ走行しているという豊橋まで東京から連れて行く孫の「美羽」との道中が描かれ、「路面電車に乗りたい」という祖母の秘められた思いを、ファンタジー的な構成で描いています。登場する鉄道オタクが、いい味を出していました。
『名島橋貨物列車クラブ』は、貨物列車をめぐる小学六年生の友情と小さな冒険を、作文調の構成で、ほのぼのと綴っています。
『海を渡れば』は、真打になった落語家「匂梅亭一六」の四国愛媛県から師匠に弟子入りした人生記を落語調でまとめています。

人生の縮図の例えとして鉄道や駅はよく使われますが、まさに出会いと別れの人生の機微や心のつながりを描く全5話、鉄道ファンでなくとも十分に楽しめる一冊だと思います。
#ブログ #文庫本 #読書 #鉄道

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今年の読書(44)『昆虫学者はやめられない』小松貴(新潮文庫)

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今年の読書(44)『昆虫学者は...
本書は、2018年4月に『昆虫学者はやめられない 裏山の奇人 徘徊の記』に加筆・さい編集され、2022年7月1日に文庫本として発売されています。

ファーブル昆虫記ならぬ「ファルコン昆虫記(933)」を記録している昆虫好きとしては、素通りできない一冊です。

著者は、「アイヅカコオロギ」を研究されていますが、昆虫のみならず、リスやヘビ、カラスの分野まで、幅広く生物に対しての興味が綴られています。

本書は、「研究者でない、一般の人々に身近な生物の魅力を伝えるのが目的」とされていますので、自己の体験記を通しての記述が楽しめました。

また口絵のカラー写真のこんちゅうたちや、文中にも白黒写真が添付されていますので、飽きることなく楽しめる一冊だと思います。
#ブログ #文庫本 #昆虫 #生物 #読書

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今年の読書(43)『鍵のない夢を見る』辻村深月(文春文庫)

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今年の読書(43)『鍵のない夢...
<辻村深月>による『鍵のない夢を見る』は、第147回直木三十五賞受賞作品で5篇の短編が長練られており、収録されています短編『芹葉大学の夢と殺人』は第64回日本推理作家協会賞短編部門候補作品です。2012年5月に単行本が、2015年7月10日に文庫本が発売されています。

『ツナグ』原作本)・『朝が来る』原作本)・『ハケンアニメ!』など映画化された作品も多く、読んだ最近作としては『かがみの孤城(上・下)』がありますが、短編集は初めてです。

著者が、今作ではより経験豊富な年代の人にも読んでもらいたいと読者に委ねる書き方を意識して執筆された作品が並んでいます。

誰もが顔見知りの小さな町で盗みを繰り返し転校を余儀なくされる友達のお母さん、結婚をせっつく田舎の体質にうんざりしている女の周囲で続くボヤ、出会い系サイトで知り合ったDV男との逃避行。人生に夢を持ち続ける男との関係を自ら清算しようとするする女、育児ノイローゼで、子供を放置する母親、普通の町に生きるありふれたごく普通の女性5人を主人公に、ふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる五篇の短篇集になっています。
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今年の読書(42)『嵐を呼ぶ女』吉崎道代( キネマ旬報社)

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今年の読書(42)『嵐を呼ぶ女...
映画ファンとしては気になる、76歳の映画プロデューサー<吉崎道代>の自伝『嵐を呼ぶ女 アカデミー賞を獲った日本人女性映画プロデューサー、愛と闘いの記録』です。

<吉崎道代>は、大分の映画館が1つもない土地からローマの映画学校へ渡り、子育てしながら多くの映画を手がけてきました。書籍には<クリント・イーストウッド>、<レオナルド・ディカプリオ>、<ロバート・デニーロ>、<アラン・ドロン>、<アンソニー・ホプキンス>、<エマ・トンプソン>、<カズオ・イシグロ>、<大島渚>、<フェデリコ・フェリーニ>など・俳優や映画監督たちとの思い出や、関わった映画にまつわるエピソード、世界を目指す若き世代へのメッセージが収められています。

著者は「ディストリビューターとして買い付けた映画作品、そしてプロデューサーとして製作した映画の秘話に愛とセックス、結婚、子育てといった私生活も含めた私の映画人生を語っていきたい」と綴っています。

映画字幕翻訳の第一人者の<戸田奈津子>(86)は「日本を飛び出し、映画の道で成功したいと願っている若い人たちの必読の書です」と応援コメントを寄せています。
#ブログ #単行本 #映画 #読書

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今年の読書(41)『クジラアタマの王様』伊坂幸太郎(新潮文庫)

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今年の読書(41)『クジラアタ...
<伊坂幸太郎>の『陽気なギャングが地球を回す』(2003年2月10日・祥伝社)を原作とする<リー・ユー>監督作『陽光劫匪(原題)』や『マリア・ビートル』(2010年9月24日・角川書店)を原作とする<デヴィッド・リーチ>監督作『ブレット・トレイン』の公開が控えていますが、『首折り男のための協奏曲』以来の《伊坂ワールド》が楽しめた『クジラアタマの王様』は、2019年7月に単行本が刊行され、2022年7月1日に文庫本として発売されています。

主人公となる登場人物として、製菓会社に勤める「岸」、都会議員の「池野内」、ミュージシャンの「小沢ヒジリ」の3人が登場。彼らは共通する「夢」=「体験」を持っているというつながりがありました。

夢の中で巨大な鳥「ハシビロコウ」と戦う彼らは、現実の世界で複雑に絡み合い「夢」の中で負けるとと現実世界で災いが起こり、勝てばいい方向に人生が進むという現実に気が付きます。

新型インフルエンザが流行する前に、「鳥インフルエンザ」禍のパニック状況を先取りした結末はこれぞ《伊坂マジック》ともいえます。

また文中に<川口澄子>さんの本文挿画としての「台詞のない漫画イラスト」が、本文の行間を埋めるのに多大な貢献をしている一冊でした。
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