本書『罪深き海辺』は、2009年7月に単行本が刊行され、2012年8月に(講談社文庫)として発売されていますが、2023年2月25日に集英社文庫として発売されています。
東京からほど遠くない場所に位置する山岬市に、母が捨てた故郷にアメリカ育ちの30歳の「干場功一」が訪れ、山岬駅に降り立つところから物語は始まります。
「功一」の唯一の身内であるお殿さまと呼ばれた大地主で独身でした伯父の<干場伝衛門>は、6年前に亡くなっており死後全財産を市に寄付、第三セクターで敷地を「マリーナ」として観光誘致を狙いましたが、財政破綻寸前の港町には効果がありませんでした。
そこへ突如、遺産相続人の権利を持った「干場功一」が現れたことで、かつて利権に群がったヤクザや建設会社、相続を仲介した弁護士たちは色めき立ちます。閉塞感漂う漁港町で疑心暗鬼の人間ドラマが幕を開けます。
<今野敏>のテレビニュース番組『ニュースイレブン』の放送局ニュース記者「布施京」を主人公とし、刑事「黒田裕介」の異色コンビが活躍する「スクープ」シリーズとして『アンカー』に続いて5作目となる『オフマイク』です。2020年7月単行本が刊行、2023年2月25日文庫本が発売されています。
継続捜査を担当する捜査一課特命捜査係の「黒田裕介」は、二課の同期「多岐川幸助」から20年前のイベントサークル幹部だった大学生「春日井信之」の自殺事件についての洗い直しを依頼されます。その死が、現役大物政治家の贈収賄と関わっている恐れがあるというものでした。
聞き込みを行ううちに、「黒田」はこの事件を「ニュースイレブン」の報道記者「布施」も追っていることを知ります。いつもふらふらと飲み歩き、飄々としたスタンスで人間関係を築く「布施」の取材能力に対して一目置く「黒田」でした。その「布施」の情報から、「黒田」は事件のカギとなる人物はITで財を成し、政界のフィクサーとして名を流す「藤巻清治」だと目を付けます。やがて「藤巻」はイベントサークルの主宰者であることがわかります。ときを同じくしてニュースイレブンの人気キャスター「香山恵理子」が、放送時間に出社せず突然失踪します。
全く接点のの見えない自殺事件と失踪事件でしたが、その背後にはテレビ業界や警察組織さえも迂闊に手を出せない、闇が潜んでいました。
いつもながらの記者「布施」と「黒田」刑事の異色コンビが活躍する「スクープ」シリーズでした。国会で「放送法」の問題が取りざたされている背景もあり、面白く読み終えれました。
現在放送中のNHK連続テレビ小説『舞い上がれ』の次に放送されるのが、植物学者<牧野富太郎>を主人公とした『らんまん』です。
お花や植物好きの方が多いと思いますので、ドラマ『らんまん』も興味を持たれる方が多いと思いますが、本書『随筆草木志』はその人気にあやかってか2023年2月25日に発売されていますが、初刊は、明治(日露戦争前後)から昭和初期を背景に書かれ昭和11年(1936)、<牧野>が74歳と時の出版です。
金遣いが荒く、子どもが13人という貧乏な生活だったようですが、出版でお金を稼がなければいけなかったという状況の中での牧野富太郎の最初の随筆集ですが、気楽に読み流せる軽いエッセイ集ではありませんでした。
本書が当時売れたとは、とても思える内容だとは思えませんでした。植物好きだからということだけで本書を読みますと、読み終えるのは大変だと思います。
随筆集というよりは、植物図鑑のていねいな解説文を読んでいる感じになります。また、国語辞典『大言海』の植物に関すり記述の間違いを手厳しく指摘したり、一般的に使用されている「梅」は「プラム」ではない、「プラム」は「李(すもも)」だといった間違った名称の使い方を取り上げているなど、植物学者として植物に関する事柄を縦横無尽に語っています。
著者<佐藤青南>は、取り調べ中の被疑者の行動・しぐさで、相手の「嘘」を見抜く通称「エンマ様」こと「楯岡絵麻」を主人公に据え、難解な事件を解決してゆく「行動心理操作感・楯岡絵麻」シリーズとして第1巻の『サイレント・ヴォイス』にはじまり第8巻(全9巻)の『ツィン・ソウル』まで読んでいましたが、今回新シリーズとしての本書『ストラングラー 死刑囚の痛恨』を手に取りました。2023年2月18日に文庫本書下ろしとして発売されています。
文庫本の広告記事によりますと、本書は『ストラングラー 死刑囚の推理』・『ストラングラー 死刑囚の告白』に次ぐ3作目になるようで、文中前作に関する記述が出てきますが、読んでいなくても本書への面白さには影響はないと感じました。シリーズの順番通り読むのが一番ですが、この手の本を読みなれた読者は、文中の記述から、想像できる範囲だと思います。
4人の風俗嬢殺害の冤罪を証明しようとしていた元刑事の死刑囚「明石陽一郎」が、別件で、殺人事件を起こしていることを知った刑事「箕島朗」でした。「明石」に感じ始めていた信頼は突き崩され、二人は刑務所内の面会で決別してしまいます。
「箕島」は精神の安定を喪い、〈ストラングラー〉に射殺された同僚「伊武孝志」の幻影を見るようになりますが、捜査して解決してく事件を通して人間の多面性に触れ、「箕島」は再び「明石」の元へと足を向けます。不審な行動で同僚に尾行されていた「箕島」は、「明石」の冤罪と真犯人は警察関係者ではないかという推理を話してしまいます。
そんな折、デリヘル嬢「ミミ」が空きアパートの一室で殺される事件が起きます。過去殺害された4人はマンションでの殺害でしたが、今度こそ〈ストラングラー〉の仕業なのか、連続殺人犯と思われた「明石」は刑務所の中にいます。
捜査を進めていく上で「ミミ」をナンパしようとしていた男が浮かび上がり、「箕島」は正気を逸した行動に出てしまいます。
読み終えますと、前作を読まなければいけなくなる気を起こさせる面白い展開の319ページでしたが、我慢して第4作目の発売を待ちたいと思います。
1971年4月3日に放送されました第1話『怪奇蜘蛛男』から始まりました『仮面ライダー』シリーズ第1作の『仮面ライダー』。その後、現在放送中の『仮面ライダーギーツ』まで、連綿とヒーローヒストリーを紡いできましたシリーズのオリジン『仮面ライダー』を『仮面ライダー EPISODE No.1~No.13』と『仮面ライダー EPISODE No.14~No.52 & MOVIE』の合本に大幅加筆した増補改訂版として1冊に凝縮して編集したのが、3月2日に発売されています『講談社MOOK テレビマガジン特別編集 仮面ライダー 完全版 EPISODE No.1~No.98 & MOVIE』です。
第98話『ゲルショッカー全滅!首領の最後!!』までの全話に加え、劇場版2本を含めた記録が完全収録されています。
仮面ライダーや登場人物、ゲスト出演者、ストーリーだけでなく、各話で大暴れするショッカーやゲルショッカーの怪人の姿や能力を大きな写真で掲載しているのが特徴となっています。撮影は、55年間特撮ヒーローを撮影し続けた<大島康嗣>カメラマンです。
主人公の仮面ライダーに比べ、日ごろはあまり扱われることのない怪人たちを大きな写真を使って、それぞれ各1ページで掲載しており、A4判オールカラーの256ページというボリュームとなっています。
3月17日より公開されます映画『シン・仮面ライダー』(監督:庵野秀明)に登場する、ショッカーの戦士たちがインスパイアされたであろう、「蜘蛛男」・「蜂女」・「蝙蝠男」・「さそり男」たちも掲載されており、仮面ライダーの歴史を知るにはこの上ない一冊です。
〈このミス〉大賞出身の<田村和大>の『ジャベリン・ゲーム』は、2023年2月18日、文庫書下ろしとして発売されています。
大学教授「武田長博」が自宅で殺害されます。日本の公安内部に張り巡らされたロシアのスパイ網壊滅を目的とし、CIAの極東部門の分析官であり「武田」の妻である「ベロニカ・ノートン」が立案した「クロー・ハンマー」の要が「長博」でした。
彼の息子「穣」は父を殺した殺人者を追うため17歳で母と同じCIAに入局し、スパイとして警察庁に潜入します。その7年後──ウクライナ侵攻の影響で供給不足となっているアメリカ製の歩兵携行式多目的ミサイル「ジャベリン」が三十基、太平洋で所在不明になる事態が勃発します。この「ジャベリン」が日本国内に持ち込まれるのを阻止する命令が「穣」に下ります。
「穣」は、AIコンピューターを中心とする府中署の西条巡査部長をはじめ4人ばかりの特別捜査班で、略奪された「ジャベリン」の密輸を阻止し回収の責任者として任につきます。
最新のAIを用いた近未来的な捜査も現実的な趣で、特別捜査班のサイバー担当の「藤堂綾美」がロシア組織とつながっている会話の描写がありましたので、今後続編が出てきそうな雰囲気でした。脇役的でしたが、西条巡査部長の部下「金子亜紀」がいいキャラクターでした。
「警視庁特別捜査係」シリーズとして『サン&ムーン』に続く<鈴峯紅也>の2作目『桜人』が、2023年2月12日に文庫本書下ろしとして発売されています。
父の警部補「日向英夫」と子の巡査部長「月形涼真」刑事が中学校校長殺人事件に挑みます。
豊洲運河の船着き場付近で、汐浜運河方面から流れくる〈異物〉を見つけた釣り人たちが通報したのは、都立中学の校長「寺本敬紀」でした。
すぐさま捜査本部が設置され、警視庁特別捜査係の「日向英生警部補」と「月形涼真巡査部長」の父子刑事が配置されます。
ふたりは、独自に捜査を進める遊軍班として「寺本」に関係する情報を、警察関係者OBが務める周辺の地域安全センターへ聞き込みに回りますが、予想外の深い闇に突き当たります。
さらに本書で、父「日向英夫」が九州で潜入捜査の〈モグラ〉だった過去も次第に明らかになりますが、これが事件の予測できない伏線でもありました。
卒業式・入学式に景色となる「桜」ですが、本書では読み終えますと、悲しい象徴としての「桜」が登場しての表題となっています。
離婚したエリートキャリアの母「月形明子」と「涼真」の恋人「中嶋美緒」との今後の関係も気になりますが、副題が「警視庁特別捜査係」から「警視庁特別捜査係 サン&ムーン」に変更され、楽しみなシリーズになりそうです。
好きな警察小説ということで、新聞広告で「親子刑事」の言葉が目についた<鈴峯紅也>の『桜人』ですが、「警視庁特別捜査係」シリーズとしてすでに1作目の『サン&ムーン』が出ているということで、シリーズとして最初から読んでみようと本書を手に取りました。2021年4月4日に文庫本書下ろしとして発売されています。
東京湾に接する野鳥公園と東海ふ頭公園で、早朝に連続放火事件が発生します。同時にその付近の、みなとが丘ふ頭公園と大井ふ頭中央海浜公園では、3件の連続殺人事件が発生していました。
湾岸・大森・大井、三つの所轄署の管轄で、連続放火事件と連続殺人事件が、時を同じく起こったことになります。
すぐさま捜査本部が設置され、応援要員に狩り出された、湾岸署に勤める「月形涼真巡査」は、警察学校の同期で、恋人「中嶋美緒」の兄でもある「健一」が、連続殺人事件の被害者だとわかり、身内・関係者の捜査には参加できないところ、弔い合戦を決意します。
「涼真」がコンビを組むことになったのは、なんと、突然会議を割って入ってきた、警視庁所属の警部補で、離婚して以来会う父の「日向英生警部補」でした。
警察上層部に顔が利く、エリートキャリアで警視監の母「月形明子」の差し金らしく、息子の指導係に、元夫を送り込んだようです。
「涼真」と20年にわたる暴力団への潜入捜査を務めてきた「英生」の親子刑事は遊班として、ふたつの事件解決に奔走します。
父親の刑事としての矜持と操作方法を学んでいく「涼真」でしたが、地道な「英生」の捜査の先に見えた犯人は、意外な人物でした。
警察組織に携わる〈母・父・息子〉の親子関係を階級社会の警察組織と絡ませ、「涼真」の今後の刑事としての成長が楽しみなシリーズになりそうです。
『夜の署長』・『夜の署長2 密売者』に続く『夜の署長3 潜熱』は、書下ろし2篇を含む短編が4篇〈『ホスト狩り』・『万引き犯』・『失踪』・『潜熱』〉収められ、2023年2月10日に文庫オリジナルとして発売されています。
『ホスト狩り』では、北新宿の路上でホストが暴行された現場に遭遇した新宿署の古城美沙巡査部長は、入院したホスト「蒼也」に話を聞くため医大病院でベテラン警部補「下妻晃」と合流します。その時、白昼堂々駐車場で病院理事長の「安田」が銃撃されます。ホスト店の売り上げ同奪事件が絡む、事件の裏側に〈夜の署長〉こと「下妻」が顔をきかせて水元組に乗り込んでいきます。
『万引き犯』では、高級化粧品の万引き常連者の「上代さよ子」にまつわる窃盗症(クレプトマニア)の妻とその夫の悲しい結末が待っていました。
『失踪』では、5年前に突然行方不明になった「宮田勇介」の失踪事件と昏睡強盗を働く女を捜査する「古城巡査長」の事件が交錯していきます。
『潜熱』では、「下妻」の過去と絡み『ホスト狩り』のその後の展開が描かれ、新宿署の「夜の署長」ファンとして、中国人ネットワークの裏社会を絡め新宿の裏も表も知り尽くした「下妻」の面目躍如といった感で締めくくられています。
テレビ朝日系でドラマ化もされている、故<笹本稜平>による人気シリーズ「越境捜査」の第8作目の単行本は2020年10月23日に刊行されていますが、2023年1月15日に待望の文庫本が発売されていますが、シリーズもあと第9作目『流転』(2022年4月刊行)を残すだけになってしまいました。
警視庁捜査一課の「鷺沼友哉」と、神奈川県警瀬谷署刑事課の不良刑事「宮野裕之」を中心とした〈タスクフォース〉は、今回も巨悪に立ち向かいます。 府中競馬場で、「宮野」が何者かに警棒で襲われます。管内で緊急警報があって駆けつけたものの、事件性なしになった一件が原因らしい。金の匂いを感じて調べ始めた「宮野」は、通報のあった「片岡康雄」というカリスマ投資家の家で、犯罪があったのではないかと目を付けます。
「康雄」の父親は、与党の大物衆議院議員でした。さらに片岡家の近くの裏山で、女性の腐乱した首つり死体が発見されます。現場を視た「宮野」は殺人と確信しますが、なぜか神奈川県警は自殺で処理してしまいます。
一方、「鷺沼」の所属する三好班は、大森で起きた殺人事件の帳場に駆り出されます。空き家で発見された男性の白骨死体は、最初病死扱いでしたが、急に殺人と断定され捜査が始まります。やがて女性の死体の身元が「滝井容子」だと分かると、男性の死体は「容子」の兄である可能性が浮かび上がり、ふたつの事件が繋がりはじめますが、神奈川県警と警視庁の上層部の動きが怪しく、捜査に横やりが入り始めます。この事態に「鷺沼」と「宮野」は、いつものメンバーを集めて〈タスクフォース〉を組み、刑事としての一線を越境します。
本書が面白いのは、刑事としての表の捜査と、〈タスクフォース〉の非合法な捜査が同時進行する緊迫感です。表の捜査は、あくまでも正攻法。手掛かりを追い、関係者を当たり、コツコツと事件の構図を明らかにしていきまます。これぞ警察小説といいたくなる面白さです。 しかし事件の背後にいる敵は、あまりにも巨大で、どうやら警察組織の上層部に強い圧力がかけられ、神奈川県警と警視庁のメンツ戦争になりかかったり、捜査本部に内通者がいる可能性が浮かび上がったりと、予断を許さない展開が続き、息を持つかせぬ進行が待ち受け、終盤の畳みかけるような臨場感もたまらず、大いに楽しめた549ページでした。
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