今年の読書(1)『映画よさようなら』佐々木敦(フィルムアート社)
1月
5日
第1部の「歴史/映画史」では、<ペドロ・コスタ>や<アピチャッポン・ウィーラセタクン>の作品に目だけでなく耳でも対峙。<タル・ベーラ>や<ヴィム・ヴェンダース>、<マルグリット・デュラス>らの歩みを振り返っています。
第2部の「受容/メディア」には、アーカイブ映像を編集することで「物語」を生み出す<セルゲイ・ロズニツァ>や特異な「ホームムービー」を生み出した<原將人>に向けたテクスト、小説家<円城塔>が脚本を手がけたテレビアニメ『ゴジラ S.P(シンギュラポイント)』(2021年・監督:高橋敦史)についての論考を収録。
第3部の「倫理/ポリティカル・コレクトネス」ではともに新作でろう者を描いた<濱口竜介>と<深田晃司>(『LOVE LIFE』)を取り上げるほか、<小森はるか>・<今泉力哉>といった若き日本の映画作家たちに注目しています。
「映画はもうほんとうはとっくに「映画」ではなくなっており、ただ私たちは「かつて映画であったもの」の記憶(?)をそこに見出(そうと)しているだけなのだ」と語る著者が、「歴史」「受容」「倫理」という3つの問題系から「映画なるもの」と向き合い、「目の前の「映画」に対峙し、そして先へと進」むための思考を展開させています。
そのほか、映画を取り巻く状況を整理したプロローグ、<濱口竜介>が『ハッピーアワー』(2015年)以前に制作した監督作『親密さ』に対する書き下ろし論考も収録されています。その死( 1930年12月3日~2022年9月13日)を受けて大幅に加筆した<ジャン=リュック・ゴダール>論も収められ、「映画」の現在地を示す映画批評集となっています。