『夜の署長』・『夜の署長2 密売者』に続く『夜の署長3 潜熱』は、書下ろし2篇を含む短編が4篇〈『ホスト狩り』・『万引き犯』・『失踪』・『潜熱』〉収められ、2023年2月10日に文庫オリジナルとして発売されています。
『ホスト狩り』では、北新宿の路上でホストが暴行された現場に遭遇した新宿署の古城美沙巡査部長は、入院したホスト「蒼也」に話を聞くため医大病院でベテラン警部補「下妻晃」と合流します。その時、白昼堂々駐車場で病院理事長の「安田」が銃撃されます。ホスト店の売り上げ同奪事件が絡む、事件の裏側に〈夜の署長〉こと「下妻」が顔をきかせて水元組に乗り込んでいきます。
『万引き犯』では、高級化粧品の万引き常連者の「上代さよ子」にまつわる窃盗症(クレプトマニア)の妻とその夫の悲しい結末が待っていました。
『失踪』では、5年前に突然行方不明になった「宮田勇介」の失踪事件と昏睡強盗を働く女を捜査する「古城巡査長」の事件が交錯していきます。
『潜熱』では、「下妻」の過去と絡み『ホスト狩り』のその後の展開が描かれ、新宿署の「夜の署長」ファンとして、中国人ネットワークの裏社会を絡め新宿の裏も表も知り尽くした「下妻」の面目躍如といった感で締めくくられています。
テレビ朝日系でドラマ化もされている、故<笹本稜平>による人気シリーズ「越境捜査」の第8作目の単行本は2020年10月23日に刊行されていますが、2023年1月15日に待望の文庫本が発売されていますが、シリーズもあと第9作目『流転』(2022年4月刊行)を残すだけになってしまいました。
警視庁捜査一課の「鷺沼友哉」と、神奈川県警瀬谷署刑事課の不良刑事「宮野裕之」を中心とした〈タスクフォース〉は、今回も巨悪に立ち向かいます。 府中競馬場で、「宮野」が何者かに警棒で襲われます。管内で緊急警報があって駆けつけたものの、事件性なしになった一件が原因らしい。金の匂いを感じて調べ始めた「宮野」は、通報のあった「片岡康雄」というカリスマ投資家の家で、犯罪があったのではないかと目を付けます。
「康雄」の父親は、与党の大物衆議院議員でした。さらに片岡家の近くの裏山で、女性の腐乱した首つり死体が発見されます。現場を視た「宮野」は殺人と確信しますが、なぜか神奈川県警は自殺で処理してしまいます。
一方、「鷺沼」の所属する三好班は、大森で起きた殺人事件の帳場に駆り出されます。空き家で発見された男性の白骨死体は、最初病死扱いでしたが、急に殺人と断定され捜査が始まります。やがて女性の死体の身元が「滝井容子」だと分かると、男性の死体は「容子」の兄である可能性が浮かび上がり、ふたつの事件が繋がりはじめますが、神奈川県警と警視庁の上層部の動きが怪しく、捜査に横やりが入り始めます。この事態に「鷺沼」と「宮野」は、いつものメンバーを集めて〈タスクフォース〉を組み、刑事としての一線を越境します。
本書が面白いのは、刑事としての表の捜査と、〈タスクフォース〉の非合法な捜査が同時進行する緊迫感です。表の捜査は、あくまでも正攻法。手掛かりを追い、関係者を当たり、コツコツと事件の構図を明らかにしていきまます。これぞ警察小説といいたくなる面白さです。 しかし事件の背後にいる敵は、あまりにも巨大で、どうやら警察組織の上層部に強い圧力がかけられ、神奈川県警と警視庁のメンツ戦争になりかかったり、捜査本部に内通者がいる可能性が浮かび上がったりと、予断を許さない展開が続き、息を持つかせぬ進行が待ち受け、終盤の畳みかけるような臨場感もたまらず、大いに楽しめた549ページでした。
本来のミステリー作家というよりは、最近の作品には「イヤミス」の冠詞が目につく<湊かなえ>ですが、兵庫県淡路島在住ということで、気になる作家のひとりです。2023年1月20日に文庫本として本書『カケラ』が発売されています。
元ミスユニヴァースの美容外科医の「橘久乃」は幼馴染みの「志保」から「痩せたい」という相談を受けます。カウンセリングの途中に出てきた話しは、太っていた同級生「横網八重子」の思い出と、その娘の「吉良有羽」が自殺したという情報でした。
母の作るドーナツが大好きで「デブ」や「ぶた」と呼ばれた少女の死をめぐり、食い違う周囲の人びとの証言と、見え隠れする自己正当化の声が描き出されていきます。「有羽」を追いつめたものは果たしていったいなんだったのか、ジグソーパズルのピースをはめ込むように真実を追い求めていきます。
美容整形をテーマに、周囲の目と自意識によって作られる容姿に対する評価の恐ろしさを描いています。SNSが広がる社会で、見た目へのこだわりが高まっている時代において、美の持つ力とは何か、幸せとは何かを問いかけ、一人の少女の自殺の謎を追う心理ミステリーです。
物語は「橘久乃」を主人公に据え、「吉良有羽」に関連する人物たちへ聞き取り調査を進めていきますが、文章は聞き取り相手の目線で語られ、「橘久乃」はあくまで聞き役で、自ら意見を語ることはなく、読み手に投げかける文体で読み進むのに少し疲れる展開でした。
読み進めながら2月5日(現地時間)の第65回グラミー賞授賞式において、歌手の<マドンナ>(64)が一見整形したかのような容姿に対してSNSで批判と嘲笑にさらされていましたが、「年齢差別と女性軽視の目に晒されている」と主張していたのを思い出しておりました。
妹「志穂」と共に。事故で亡くなった両親の遺した定食屋を継ぐことになった「高坂哲史」でしたが、料理は全くダメで、妹に怒られてばかりでした。ふと立ち寄った近所の神社で「料理を教えてほしいと愚痴をこぼしたばかりに酒好きの神様が現れ、この世に未練を残した人物たちが「哲史」に憑依してこの世の未練を断ち切るという大筋で『神様の定食屋』が2017年6月に発売され、『神様の定食屋2ごちそうさま、めしあがれ』を経て、本書『神様の定食屋3』が2023年1月15日に発売されています。
「高坂哲史」が両親の遺した定食屋を継いで一年。定食屋をやっていくことにも、神様に魂を憑依させられることにもすっかり慣れてきた「哲史」は、今日も未練を抱えた魂の料理作りを手伝っていく。①肉じゃがになりたいカレー、②おばさんののり弁、③出世を匂わす鰤しゃぶ、④ちょっぴり苦い焼き秋刀魚。⑤母の「粕漬け」の心温まる5篇が収められています。
ところがそんな「哲史」のもとに、母方の祖父が「将来性のない定食屋なんてやめろ」と一周忌を前に九州から乗り込んできます。「哲史」と「志穂」の祖父に対する答えは・・・。
どの料理にも大切な人への想いと人生の物語が隠れており、思わずほろっとする感涙の物語が詰まっています。
才能と個性豊かな5人の刑事チーム〈SCU(警視庁特殊事件対策班)〉の活躍を描いた『ボーダーズ』に続く、第2弾が本書『夢の終幕ボーダーズ2』です。文庫本書下ろしとして2022年12月25日に発売されています。
松本のライブ終了後の帰り道、人気急上昇中の4人バンド「FOT」のメンバーと、マネージャー「池沢」と運転手「三島」との6人が、ツアーバスごと行方不明になります。事故か、誘拐なのか、所属事務所は密かに警察に相談。警視庁〈SCU〉の「最上功太」たちが担当を任されます。Nシステムの解析でバスは八王子で高速を降りたことが判明し、付近の捜索が始まりますが見つかりません。やがてマネージャー「池沢」の遺体が発見されます。その後運転手の「三島」が監禁を逃れて発見され、メンバー4人も無事に保護されます。
誘拐事件も解決に向かうと思われ多段階で、〈SCU〉メンバーは捜査から手が離れますが、キャップの「結城」が、政治家二世の脅迫事件を持ち込み、「最上」たちは身辺調査を進めていきますが、別件の事件かなと読者に思わせますが、意外な展開でバンド「FOT」と関連し始めていきます。
最高の音を求めて響き合ってきたバンドマンが目指した夢の実現とは何だったのか、 特殊能力を持つ刑事たちが、事件の深い闇に迫り、芸能世界の残酷な罪を暴き出していきます。
ロックやギターに造詣が深い<堂場瞬一>らしく、『夏の雷音』や『絶望の歌を唄え』の延長線ともいえる一冊でした。
今朝の讀賣新聞の朝刊広告に、好きな作家<今野敏>の新刊本『隠蔽捜査9.5審議官』が紹介されていました。娯楽としての読書が主体ということもあり、かさばる単行本の購入は控えています。
読書日記としては、スピンオフ作品2作を含む10巻目として現在『隠蔽捜査8清明』まで読んでいますが、現在『隠蔽捜査9探花』が単行本で刊行されていますが、いまだ文庫化されていません。そして今回スピンオフ作品3冊目として短編集の広告でした。
文庫本になるまでまだ年数がかかりそうですが、主人公「竜崎伸也」の活躍として、「9」と「9.5」とまだ2冊の文庫本発売がありそうで、楽しみに待ちたいと思います。
本書『白い闇の獣』は、文庫本書下ろしとして2022年12月10日に発売されています。
2022年4月1日より改正少年法が施行されていますが、その問題点を考える上で、かなり参考になりそうな内容で、見事な伏線と全体の構成力に読み終えて改めて<伊岡瞬>の力量に感心しました。
2000年の東京・立川市郊外の団地で、小学校を卒業したばかりの少女「滝沢朋美」が誘拐され、暴行されたあと殺されてしまいます。犯人として捕まったのは少年3人。しかし彼らは少年法に守られ、わずかな期間の少年院入院や保護観察処分を経て、再び社会に戻り、また犯罪に手を染めて暮らしていました。
4年後の2004年、犯人の1人「小杉川祐一」がマンションから転落死します。続けて仲間の「柴村悟」が仕事現場の屋上から転落死で亡くなります。朋美事件後に妻「由紀子」と離婚して失踪した朋美の父「俊彦」が復讐しているのか。
朋美の元小学校の担任教師「北原香織」はある秘密を胸に「小杉川祐一」の転落現場に向かい、そこで少年事件を追い求めているフリーライター「秋山満」と出会い、二人して事件の関係者に当たりながら行方不明の「俊彦」の所在を追い求めますが、警察と同様に分かりません。
少年法に守られ、反省もない殺人者たちへの関心が、なぜ教師を辞めた「北原香織」を強く引き付けるのか、フリーライター「秋山満」はなぜ必要に「俊彦」を探し出そうとするのか、見事な伏線を文書中に散りばめ、最後は少し心穏やかになる着地点で締めくくられている、おすすめの一冊です。
映画ファンとしては、興味あるタイトルの<中川右介>による書籍『社長たちの映画史 映画に賭けた経営者の攻防と興亡』です。
日本映画史をテーマにした同書では、映画伝来から120年にわたる歴史が〈経営者の視点〉から描き出され、第一部 群雄割拠から三社統合 ①897-1945、第二部 再興と新興 ①945-1955、第三部 見えない脅威 ①956-1964、第四部 五社体制崩壊 ①965-1971、長い後日譚という構成になっています。
社長としては、<永田雅一>(大映・二代社長)、<堀久作>(日活・十代社長)、<岡田茂>(東映・二代社長)、<城戸四郎>(松竹・四代、七代社長)、<黒澤明>(黒澤プロダクション・社長)、<三船敏郎>(三船プロダクション・社長)、<石原裕次郎>(石原プロモーション・社長)、<長谷川一夫>(新演技座・社長、旧名・林長二郎)、<勝新太郎>(勝プロダクション・社長)、<中村錦之助>(中村プロダクション・社長)、<白井松次郎>(松竹・創業者、二代社長)、<小林冨佐雄>(東宝・五代・七代社長、小林一三の長男)、<五島慶太>(東横映画、東映・創業者、東急総帥)、<五島昇>(東急・社長、会長)、<円谷英二>(円谷プロダクション・社長)、<大谷竹次郎>(松竹・創業者、初代、三代、六代社長)、<小林一三>(東宝・創業者、六代社長、阪急・創業者)など他が登場しています。
乗っ取り、引き抜き、分裂、独立などスクリーン外で壮絶なバトルが繰り広げられた日本映画業界です。その群像劇の主役となるのは、すさまじい個性とバイタリティあふれる名物社長たちです。
経営者として、大スターの<三船敏郎>、<石原裕次郎>、<勝新太郎>、<中村錦之助>たちも名を連ねています。
警察小説に新潮流を作り出した『ストロベリーナイト』に始まる「姫川玲子」シリーズや〈ジウ〉サーガシリーズなどのベストセラーを送り出してきた<誉田哲也>ですが、日本の農業問題を扱った『幸せの条件』や青春小説など幅広いジャンルの作家です。
なかでも伝奇ロマンと位置づけられるデビュー作『妖の華』(2001年3月刊行)は第二回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞受賞作品として異彩を放っています。『妖の掟』は、2020年5月に刊行された17年ぶりとなる続編になります。2022年12月10日に文庫本として発売されています。
「吸血鬼」のごとく生き血を吸いながら時代を越えて生きる一族、闇神(やがみ)として400歳の「紅鈴」と200歳の「欣治」は、ある夜、暴行されていた情報屋の「辰巳圭一」を助けたことから親しくななり、彼の部屋の同居人として住み込みます。ヤクザの盗聴を仕事とする「圭一」の仕事を手伝ううち、大和会系組長3人殺しに関わることになります。一方、本家筋の闇神の刺客が「紅鈴」と「欣治」を抹殺すべく出向いてきます。闇夜にヤクザと警察とこの世ならぬ闇神が入り乱れる怪奇ロマンの世界が展開します。
エンターティメント満開のノワール小説として楽しめた作品で、また『妖の華』を読み返したくなる内容でした。
本書『罪の轍』は、2019年8月に単行本が刊行され、2022年12月1日に文庫本が発行されていますが、文庫本とはいえ、総ページ数835ページという文庫本2冊分の厚みがある価格1210円という一冊ですが、十分に楽しめた刑事事件物でした。
東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年の北海道〜東京です。冒頭では、北海道礼文島で廻りから「莫迦」と呼ばれる20歳の「宇野寛治」が、空き巣を繰り返し、礼文島を去る事件までの経過が描かれています。
放火窃盗事件を起こし、礼文島からオリンピックで賑わう東京に逃げてきた「寛治」でしたが、東京でも空き巣を繰り返しますが、山谷で町井旅館を営む娘「町井ミキ子」の弟「明男」と知り合い、ストリップの踊り子「喜名里子」と同棲生活を始めます。
南千住署管内で、空き巣強盗の上撲殺された「山田金次郎」の所持品だった〈金貨〉がもとで、「寛治」の名が浮かび、大学卒業の警視庁捜査一課の「落合昌夫」が捜査本部に加わります。
撲殺事件の捜査中に、浅草で男児誘拐事件が発生します。日本中を恐怖と怒りの渦に巻き込んだ事件を担当する捜査一課の「落合昌夫」は、子供達から「莫迦」と呼ばれる北国訛りの男の噂を調べ出します。世間から置き去りにされた人間の孤独を、緊迫感あふれる描写と圧倒的リアリティで描き、コンピューターも携帯も、新幹線やDNA鑑定すらない高度成長期の警察の緻密な捜査を刑事の心情を克明に描き出しています。
脇役の「町井ミキ子」や暴力団信和会の若頭補佐の「立木」など面白みのある登場人物も多く、捜査一課配属の29歳の刑事「落合昌夫」のその後が気になり、シリーズ化に期待したい面白さでした。
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