神奈川県警機動捜査隊に所属する女性刑事<クロハ>を主人公として、日本ミステリー文学大賞新人賞を 『プラ・バロック』 で受賞、その続編の 『エコイック・メモリ』 も衝撃的な内容で最後まで一気に読ませる内容でした。
本書は現在の機動捜査隊に所属する以前の<クロハ>を描いた短篇集で、<クロハ>の日常と事件ををリンクさせながら、6話が納められています。
本書のタイトルは短篇のひとつで、ミステリーなので説明できませんが「なるほど」という内容で、最終の短篇に書かれた最後の一行は、<クロハ>の性格をよく表しており、見事です。
所轄の地域課から自動車警邏隊に配属された<クロハ>ですが、殉職した警察官の父親との家庭問題を含め、現在に至る<クロハ>の背景が垣間見れる内容で、また冷静沈着な捜査がにじみ出ている構成で面白く楽しめました。
塩力商店街を舞台として、中学生の<茶子>と4人の男の子たちとの活躍を描いた<S力(エスりき)人情商店街>シリーズも、この第4巻で最終回です。
商店街には代々「おリキ様」と呼ばれる女の子が指名され、それをとりまく4人の男のたちが選ばれますが、7代目としての最初の仕事は、4人の男の子たちの中から、自分の夫を選ぶとともに、残り3人の男の子たちにも役目を振り分けなければなりません。
商店街の会長となるべき者、商店街の歴史を守る本屋さん、日本に貢献する企業を興しますが塩力出身ということを隠し通さなければいけない社長になるべき者等、振り分けに<茶子>は悩みますが、自然とそれぞれの役目が見えてきます。
スーパーマーケット中心の社会構造になってしまいましたが、歴史ある商店街を舞台とした青春物語として、楽しめた4巻です。
この<S力(エスりき)人情商店街>シリーズは全4巻あり、それぞれにお独立した内容かなと考えていたのですが、2巻目の 『緊急招集、若だんなの会』 を読み、これは全巻を読んでの完結編だとわかりました。
どの巻も200ページばかりの薄い文庫本ですので、気軽に読めるのがありがたいです。
2巻目では塩力商店街のスーパーの進出に対処するために<茶子>たち「若だんなの会」が奮闘するところで終わりましたが、今回はこの物語の核心である「おリキ様」の全容が提示され、<茶子>を取り巻く4人の男の子たちとの運命と舞台となっている塩力商店街の核心にも触れられています。
7代目の「おリキ様」として、男の子たちの運命を左右する<茶子>はどのような決断を強いられるのかは、第4巻目に引き継がれて完結となるようです。
妻が亡くなり小学3年生の息子を持つ<大友鉄>は、捜査一課から勤務時間が安定している刑事総務課に転属しています。
10年前の大学生時代に所属していた劇団「夢厳社」の創立20周年記念公演を観劇していた<大友>は、劇団の主宰者<笹倉>が舞台上で刺殺される殺人事件に遭遇してしまいます。
かっての劇団仲間が多く残る中、<大友>は総務課を離れ殺人事件の捜査を同僚<紫>と進めていきますが、第二の殺人未遂事件が発生、舞台で上演された『アノニマス』の台本通りの筋書きで事件が起こるなか、台本にはない第三の事件が起こってしまいます。
映画スターとして成功している<長浜>、女優として人気のある<早紀>、小道具係の<古橋>など、いまだ劇団俳優としての夢を追い求める姿と、劇団から離れ刑事という職業を選んだ自分との人生を対比させながら、<大友>は事件の解決に突き進んでいきます。
ワシントンDCに住む<ケイト>は、夫<デクスター>がプログラマーとして金融関係の大きな仕事を請け負い、ルクセンブルグに息子たちと移住してきます。
<ケイト>は大学を卒業して10年ばかり、夫に経歴を隠したままCIAに勤め、殺人を含めて諜報活動をしてきた過去を持ち、移住に際して退職してしまいます。
移住してしばらく経った頃、<マクレーン>夫妻と知り合うのですが、自分の経歴と関係があるような気がして、独自の調査を進めて二人がFBIの捜査員だということを突き止めます。
自分自身に対しての素行調査なのか、夫の仕事に関係しているのか、時系列を前後させながら手に汗握る疑惑の展開が繰り広げられ、最後まで一気に読み進めさせる構成でした。
物語は、7年前に世間を揺るがした6000億円の「明和銀行」の不正融資に絡み、旧大蔵省の官僚が二人殺されるところから始まります。
フィクションでありながら、1997(平成9)年に発覚した「第一勧業銀行(現みずほ銀行)」の460億円に上る不正融資事件と、大蔵省接待汚職事件を思いうかべてしまいました。
不正融資を捜査していた<松浦>刑事は捜査中に殉職してしまいますが、一人残された息子<亮右>は家に閉じこもるようになります。<松浦>の同僚<赤松>刑事の指導もあり、社会復帰を目指しているなかに事件は起こります。
公安部は、殺人事件の犯人として<亮右>を身柄を拘束しようとしますが、<赤松>は事前の情報から<亮右>を緊急避難させます。
銀行の不正問題に絡み、人生の方向を狂わされた周囲の人物たちと、公安部と刑事部の権力と陰謀の対立の中、手に汗握る展開が広がります。
本書の副題は<幹館大学ヘンな建物研究会>とあるように、変な建物を見て回る活動をしているサークル「ヘンたて」のお話が、4編収録されています。
建築業界では、「トマソン」という名称でひとくくりしていますが、意味のない建築物や構築物に対して使用され、結構人気のある分野で、用途的に本当の窓のない 変電所 などにも、遊び心の仕掛けが施されています。
本書は、幹館大学に入学した新入生の<中川亜香美>を中心に、サークル「ヘンたて」の創立者で7年生の<上梨田>など7名の会員の活動記録とともに、サークル内での男女の恋心を描いた青春ミステリーです。
文庫本での「書き下ろし作品」ですが、まだ1年生の<亜香美>ですし、変な建物は現実的にも数多くありますので、続編が出てきそうな予感がしています。
著者は、江戸の妖(あやし)たちが活躍する<しゃばけ>シリーズで、一躍人気作家入りを果たしています。
本書はその江戸時代から明治に元号が変わり、明治23年頃を舞台とする、捕り物物語です。
主人公<皆川真次郎>は6歳で孤児となり、築地に造られた英吉利の居留地で育ち、外国人が発音しやすいということで<ミナ>と呼ばれていますが、本人は女性と間違えられることであまりいい気はしていません。
居留地に住んでいたときに手ほどきを受けた西洋菓子作りを生業として「風琴屋」を開いたばかりですが、巡査となった元大名の<長瀬>を中心とする息子たちの団体「若様組」と仲が良く、各種事件に振り回され、思うように「風琴屋」の経営が軌道に乗りません。
成金の「小泉商会」の当主や娘<沙羅>などの脇役もいい味を出しており、5編ある各事件のタイトルも、「チョコレート」・「シュークリーム」・「アイスクリン」・「ゼリーケーキ」・「ワッフルス」などのお菓子名に由来、文明開化当時が忍ばれる構成になっています。
結婚式場に勤めている<エリコ>は、一人娘<チカ>が中学生のときに34歳で離婚、母娘だけの生活が始まりますが、ふと耳にした小唄の発表会で三味線の音に心を奪われてしまいます。
娘<チカ>の高校受験を控えながら、三味線の師匠につき<エリコ>は小唄と三味線の練習に励み、師匠も驚くほどの上達をとげ、やがてプロの芸者(地方)として花柳界の世界に飛び込んでいく物語です。
三味線の世界は門外漢ですが、これ一冊で芸事の知識が増え、師弟関係や組織の仕組みが、素人にもよくわかる内容にまとめられていました。
母親からは「芸者なんて」ということで絶交状態で物語は終わりますが、思わず<エリコ>に「頑張れよ」と言いたくなるバツイチ女性の奮闘記として、面白く楽しめました。
表紙の副題に「建築探偵桜井京介の事件簿」と書いてある通り、本書は大学院生の<桜井京介>が歴史ある建築物にまつわる事件を解決するシリーズとして、1994年4月に刊行された『未明の家』に始まり、15巻目の本書『燔祭の丘』(2011年1月)でシリーズとして完結です。
建築設計を生業としていますので、『未明の家』から読み始め、5巻ごとを節目とする第2部までの10巻目あたりまでは読み続けていましたが、その後の第3部からは読んでいませんでした。
「シリーズ完結!!」という帯の文字が目に留まり、久しぶりに手にしてみました。
残念ながら、推理小説としての事件モノではなく、主人公<桜井京介>の出自に関する内容で、このシリーズを続けて読んでいない読者には登場人物との関係などを含め、意味が分からないだろうとおもいます。
おそらく第3部の5巻シリーズにおいて、それなりの伏線が敷かれていると思いますが、これだけを読んでは楽しめない内容でした。
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