主人公は、『週刊時代』の敏腕編集長の<カワバタ>41歳です。
芸能界とのつながりもあり、若いタレントの<リコ>や、同僚の妻との情事を楽しみながら、妻<ミオ>は東大の教授、郊外の一戸建てに娘<ナオ>と一緒に住んでいますが、過去に生後3か月の息子を亡くした心の傷を抱えています。
2年前に胃がんの手術を受け、マスコミという情報社会の中に身を置くが故、息子への責任感と共に、人生に対する考察が複雑に頭の中をかけ廻り始めます。
上下に冊の文庫本ですが、(上)の段階では、導入される、おそらくは仕事柄<カワバタ>が読んでいるであろう書物の引用などが続き、どのような方向に進むのかの疑問を持ちましたが、複雑な人間関係が清算されるラスト一行は、さすが第22回山本周五郎賞受賞作品だと感じさせる終わり方でした。
宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』をもじったタイトルに目が行き、手に取りますと元々の刊行は1993(平成5)年ですが、2010(平成22)年に文庫本化されているのに驚きました。
著者のことは全く知りませんでしたが、「因果者」・「電波系」・「ゴミ屋敷」などといったキーワードを作りだし、悪趣味系のサブカルチャーへ与えた影響は大きい人物のようで、漫画家・エッセイストとして活躍されているようです。
目次を眺めていますと 「奥崎謙三先生」 とのタイトルも見られ、面白そうで読んでみました。
いやぁ~、著者を取り巻く交友関係・仕事関係を絡めて、下品・野卑・自分勝手・暴力的・策略等がうごめく内容で、ここまで暴露するかという内容が満載なのですが、赤裸々に綴られた究極の半自叙伝で笑えました。
埼玉県警本庄中央署を舞台とし、東京にも群馬にも近い地域の特性を生かした物語でした。
主人公は捜査一課に所属している警部補<須貝>、41歳で建売住宅に妻と子供がいるごく平凡な男ですが、交通課に勤務する27歳の<沙和子>と不倫関係を持ち、また身内意識の強い警察組織の一員としての行動も忘れてはいません。
ある日後輩から「結婚したい女ができた」と持ちかけられたあと、自宅で首を吊っているのが発見され、その二日後河原で風俗ライターの死体が見つかるところから、<須貝>は二つの不審死に疑問を持ち、<女A>まで辿りつくのですが・・・。
反面寂れた焼き肉屋「竹林(トリム)」に勤める<良男>の日常が<須貝>の捜査と交互に描きこまれ、やがて二つの舞台が交差するところに、タイトル『刑事さん、さよなら』の意味が分かり、読者に驚愕の印象を残す美しくも悲しき愛の物語でした。
前作 『プラ・バロック』 で日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した作品に次ぐ2作目で、機動捜査隊所属の女性刑事<黒葉祐(クロハユウ)>が主人公です。
今回は動画投稿サイトに「回線状の死」とのタイトルで、4人の男女がそれぞれ残酷な方法で殺される場面が映し出され、本物かいたずらかを調べるために<クロハ>は、3日という期限での捜査を命じられます。
序盤から犯人との追撃戦が繰り広げられる中、並行して相棒の刑事との確執、亡くなった姉の子供の親権を義兄と争う心の逃走などの伏線が絡み合い、<クロハ>の心境を読者は感じ取りながら物語が進んでいきます。
心の癒しとしてのネットの「バーチャルゲーム」の存在も、<クロハ>にとっては前作と同様に重要な位置を占め、現代性を持たせた意味合いが大きな存在として絡んでいます。
(前作と同様に表紙に「アゲハ」が飛んでいますが、<クロハ>のハンドルネームです)
この一冊には、4編の作品が収められていますが、一話ごとにも楽しめる内容ですが、順次内容がリンクしていく構成で、楽しめました。
第一話の『「死亡フラグが立ちましたずっと前』は、高校生時代の<陣内>と<本宮>を中心とする人類滅亡物語で、第二話は<狩猟者>がどこまでも追いかけてくる表題の『死亡フラグが立つ前に』、そして『キルキルカンパニー』 ・<陣内>が雑誌記者として勤めている会社を舞台とする 『ドS編集長のただならぬ婚活』が最終章です。
小気味良いテンポの文章で、奇想天外な物語を読ませる構成は正にエンターティナメントです。
前作の 『殺戮ガール』 を読み終えたときには中途半端さが残りましたが、この一冊の中に前作の伏線が生かされており、「なるほど」と感心してしまいました。
本書は、昨年の12月14日、松竹・北國新聞社共同制作として公開された映画『武士の献立』のノベライズ作品です。
6代目の加賀藩主<前田吉徳>の側室<お貞の方>に使える女中の<春>は、江戸の有名な料亭の娘で、料理の手ほどきを小さい頃から仕込まれていました。
一度は商家に嫁いだ<春>ですが、気の強さが災いして一年ばかりで出戻ってきます。
そんな折、加賀藩江戸屋敷の料理方<舟木伝内>に料理の腕を見込まれ、ぜひ息子<安信>の嫁にと懇願されてしまいます。
熱心な<伝内>の口説きに負け、<春>は江戸から金沢へと嫁入りするのですが、4歳年下の<安信>は、「包丁侍」という立場に満足せず、料理には目もくれることなく剣術に励み、これには何かの裏事情あるのではと感じ始めます。
加賀藩のお家騒動を背景に、料理を通して家族や男と女のヒューマンドラマが楽しめる一冊でした。
以前に読んだ<吉永南央>の著作に 『萩を揺らす雨』 というのがあり、主人公は76歳になる<杉浦草(そう)>でした。
山里の簡素な町で喫茶店を開きながら、身の周りに起こる日常的な出来事を、持ち前の好奇心で解決してゆく元気な女性です。
本書の主人公<宇陀川静子>は75歳、夫<十三>を亡くしてから息子<愛一郎>一家と同居することになり、嫁の<薫子>、孫の高校一年生<るか>との生活の中で、どこの家族でもありそうな日常的な物語が綴られています。
<静子>さんは、「自分で決めたことは絶対に守る」 ・ 「後悔はしない」 という信条を持ち、何事にも前向きに生きてゆく姿に感動を覚えてしまいます。
50年間連れ添った浮気性の<十三>との想い出を絡ませながら、同居家族やスイミングスクールの仲間たちとの心温まるほのぼのとした日常生活が、生き生きと描かれている一冊です。
宝島社が主催している『このミステリーがすごい!』大賞創設10周年を記念して、2012年2月に、入賞した作家によりショート・ショート・アンソロジーが刊行されています。
10周年にひっかけて、10分以内に読める、原稿用紙10枚程度の『10分間ミステリー』という内容で、人気を博しました。
これを受けて第2弾として組まれたのが本書で、前作と同様に『このミステリーがすごい!』入賞作家31名のショートミステリーが収められています。
できるだけ幅広い作家たちを読むようにしていますが、31名中既読の作家は <海堂尊> ・ <深町秋生> ・ <七尾与史> ・ <岡崎琢磨> ・ <拓末司> の5名しかいません。
この短篇集で気にいった作家の作品を参考に、これから注目して読みたいと考えています。
放浪写真家であり詩人である父親<三里>はほとんど家に帰らない生活で、4度の離婚歴があり、異母兄弟の男5人女1人、中学生から30歳までが一緒に暮らしいます。
父親代わりとしての30歳の長男<四寿夫>は「遺言代行業」を職業とし、依頼主が亡くなりますと最後の夢を叶えさせるために兄弟の協力を得ながら、全力で依頼をこなしています。
ある日6人兄弟の所に、<三里>の隠し子かとおもわれる小学生<十遠(とお)>が母親が亡くなり藤川家に引き取られてきますが、唯一の女性<七重>は、同性として父親の隠し子を受け入れることが出来ません。
依頼された遺言の代行と合わせ、家族とは何かを問う構成で、「絆」とは何かを改めて感じさせてくれる一冊でした。
本日は東京競馬場において、「第81回日本ダービー(東京優駿)」が開催されました。
2011年に産まれたサラブレッドが目指す最高峰のレースで、7230頭の頂点に<ワンアンドオンリー>が輝きました。
本書はその競馬の競走馬を巡るミステリーで、競馬を知らない読者でも、この一冊を読めば、競馬界の実情や現状がよくわかる構成で、さすがもとスポーツ記者だと感心してしまいました。
物語は、アメリカ最大のレース「ケンタッキーダービー」を目前に控えたときに、本命馬を誘拐しようとする場面に調教師の勉強で渡米していた<内>が通りかかり未遂に終わりますが、彼は足にけがをしてしまい馬に乗れない体になってしまいます。
あわせてレースが終わった夜、日本から騎乗するために来ていた<竜見>は、打ち上げの途中で姿を消し、翌日変死体で発見されます。
日本とアメリカの競馬に対する考え方の違いを的確に書きこみながら、競馬を愛する舞台裏の人間模様とが絡み合う、秀逸の作品でした。
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