毎日のように発行されている文庫本ですので、地元「神戸」を舞台のミステリーながら見逃しておりました。
主人公は<大河原探偵事務所>に勤める<嶋野康平>で、妻<聡美>の神戸転勤に際して警視庁を辞め、探偵業に転職した経歴で、”無眠者”として睡眠をとらなくてよい体質を持っています。
若い所員の<村井幸太>と<白崎珠理>の上司として、今回は資産家の母子が何者かに狙われているのを阻止する任務に就き、無事に謎の暗殺者から身を守れるのかと、最後まで緊張感の続く展開でした。
探偵事務所は「元町」にあり、わたしの好きな「新開地」をはじめ阪神間の地名が出てきますので、楽しく読み切れました。
安倍内閣の目玉女性大臣でした、小渕優子前経済産業相・松島みどり前法相が、10月20日に共に辞職して10日ほど経ちました。魚の目鷹の眼の政治の世界ですが、マッコリの炭酸割りを飲む<安倍総理>の表紙に目が留まりました。
本書は、国会議員たちと産経新聞社の政治番記者の著者とが、酒を酌み交わしながらの政治談義が、お店の紹介と共に22人が登場しています。
政治家と言えども人間、酒が入る場所ではつい本音の言葉が漏れ、また人間性がよく表れるものです。
日常のテレビや新聞報道だけでは伝わらない裏の顔がよく表現されており、特に巻末の『特別宴席』に登場されている、<石破茂>と<野田聖子>との対談は秀逸でした。
建築家と呼ばれる人たちの理論武装の本とは対照的に、現実的な問題を体験してきた人たちの実践記は、建築設計を生業としている立場としては反面教師として楽しめる分野です。
以前にも漫画家の<内田春菊>さんの自宅建設奮闘記として 『ほんとうに建つのかな』 というのがありましたが、今回の著者はイギリス社会を中心に住宅にも関心がある編集者の立場での実践記として楽しめました。
東京の人気の町で見つけた築40年近いマンションを500万で購入、200万をかけてリフォームした経過を細かく描きながら、並行して今の日本の住宅の状況の分析を行っています。
「リノベーション」という言葉が聞かれる昨今ですが、古いというだけで壊されていく建築環境を憂い、また賃貸の家主が「貸す喜びを持つ」ような心構えがなぜ生まれないのかという疑問が、今の日本の住宅環境の貧しさを表しています。
主人公は<霧村雨>35歳、以前は事務所を借りて「霧村探偵社」を開設していましたが、家賃滞納で今では東京山手線の車内が彼のオフイスです。
相棒としてミステリー作家志望の<ミキミキ>こと<三木幹夫>と、自称助手の小学校5年生の<道山シホ>の二人がいい脇役の味を出しています。
目白駅での小学生の飛び込み自殺と思われる事件をきっかけに、社内の痴漢行為の濡れ衣事件、若い女性を付きまとうストーカー事件、ロングコートチワワの行方不明事件等、山手線内に起こる身近な事件が連作で構成され、最後は<霧村>が山手線に乗り込む要因となった事件につながっていきます。
<山手線=環状線>の図式通り、各事件のつながりに意味があり、全体的なミステリー構成のうまさに「なるほど」と感心する一冊でした。
ようやく、 『ミレニアム1:ドラゴン・タトゥーの女』 ・ 『ミレニアム2:火と戯れる女』 に続く3部作目を読み終えました。上下巻で6冊、ページ数にして3000ページを超える大作でした。
『ミレニアム2』のラストで、読者を奈落の底に落とす結末ですと紹介しましたが、実の父親である<ザラチェンコ>に頭を撃たれた<リスベット・サランデル>ですが、奇跡的に一命を取り留めます。
病院で拘束状態の中、秘密裏に亡命者<ザラチャンコ>を隠ぺいしていた公安警察内部の秘密の組織「班」は、憲法違反であることを知りながら違法行為を繰り返し、さらにまた<リスベット>を陥れようと動き始めます。
小説の体裁はミステリーの範疇ですが、国家を食い物にする資本主義社会の矛盾、ジャーナリズムの本質、女性蔑視の社会性、人身売買といった大きなテーマが並行して書かれ、物語の展開に彩りを添えている読み応え十分のシリーズです。
著者の 『民宿雪国』 を読んだ時の衝撃はすごく印象的で、日本の近代史の流れと情報量のすさまじさに圧倒されました。
今回の『テロルのすべて』も、期待を裏切らない構成で面白く読み終えれました。
主人公<宇津木明生>は、日本に原爆を落としたアメリカに対し、世界の大国として君臨している姿に心の底から軽蔑をして見下しています。
初恋の相手ともいえる年上の<文代>が、原爆症で亡くなった過去を持ち、ひとりアメリカに対して鉄槌をふるべくマサチューセッツ工科大学に学び、資本主義体制を嫌うインドの留学生<ガンジー>と共に原子爆弾を製造、セスナの免許を取得して「9.11」よろしく、テキサスの空に飛んでいきます。
主人公が過ごしてきた青春時代の事件やヒット曲などを背景にこの作品も描かれており、終わりまで一気に読ませる緊張感が続く作品でした。
元警視庁捜査一課に勤めていた「影野竜司」は、示談屋・処理屋と呼ばれるトラブルシューターとして、夜のうちに活動し物事を解決するということで<もぐら>と呼ばれ、前作の 『モグラ 闘』 に続くシリーズ6作目が本書です。
野辺医院に住み込んでいる「竜司」の元に、エコ環境の開発をしていた「エコウインドウ」に勤める研究員「安里」が逃げ込んでくるところから物語は始まります。
「安里」は知らぬ間に、自分の開発した風力発電の仕組みが既にに会社側で特許申請されているのに驚き、社長に直訴しますが怪しげな人物たちに命を狙われながら、社長暗殺に執念を燃やして逃走してしまいます。
「竜司」は自分の情報屋「テツ」を使いこの「エコウインド」に関する調査を始めた矢先、恋人の「紗裕美」が誘拐され、交換条件に逃げている「安里」の身柄を確保しなければならない立場に追い込まれていきます。
「紗由美」の体には爆薬が仕掛けられ、与えられた時間は72時間しかないなか、会社の用心棒のロシアマフイアのかく乱騒動も絡み、最後まで手に汗握る展開が楽しめた一冊です。
シリーズ物は続けて読みたいのですが、気になる本も多く、後手後手になってしまいます。
ひとつは、シリーズ物は廃刊になる率が少なく、いつでも手に入るという安心感があるからかもしれません。
第三巻の 『日光代参』 では、大黒屋の幕府を守るという裏の仕事の指示を出す<影>こと<本郷康秀>を誅殺、その後金沢に向かい、前田家と大砲の売買を済ませ、9代目の一周忌を済ませるべく江戸富沢町に戻ります。
<本郷康秀>の跡継ぎから連絡があり、出向いて見ると<影>は「女」ということで驚く<大黒屋総兵衛>ですが、密談中に島津藩の襲撃を受けますが、<参次郎>等の活躍で無事に切り抜けます。
相変わらず島津藩の不審な動きの中、無事に一周忌を済ませた<総兵衛>は、「大黒丸」と「イマサカ号」の2隻でもって、いよいよ交趾(ベトナム)に向け交易の航海に出発です。
早や80歳を超えられましたので、昔のように長編小説は書かれていないようですが、エッセイなどは相変わらず歯に衣を着せぬ文章で意見を述べられますので、好きな作家の一人です。
大人としての「成熟」とは何かを、全18話の体験談を通してまとめられています。
・・・「人間の努力がなくていいわけではない。しかし努力でなにごともなし得るというわけにはいかない。そう思えることが、一人前の大人の状態だ」
・・・「成熟した人間というものは、必ず自分の立場を社会のなかで考えるものだ」
・・・「品を保つということは、一人で人生を戦うことなのだろう。(略)自分を失わずに、誰とでも穏やかに心を開いて会話ができ、相手と同感するところと、拒否すべき点を明確に見極め、その中にあって決して流されないことである」
いつもながらの小気味の良い文体で、心に響く箇所が多々ある一冊でした。
女性の<執念・怨念・妬み>を書かせると、この著者の右に出る作家はいないと考えていますが、本書は冒頭からいつ本来の路線に展開するのかなと感じながら、最後はほのぼのとした結末で読み終え、少し意外でした。
吉祥寺の清楚なマンション「チャコズガーデン」に住む<渚>は、住民に離婚したことを隠しながら、仕事もせずにひっそりと暮らしていました。
そんな折、不審者の侵入や夜中の奇妙な騒音事件、元理事長の積立金横領と次々に問題が起こり、総会を通して住人同士との付き合いが深まっていきます。
三十数戸ばかりのそれぞれの家庭問題が浮き彫りにさらされる中、<渚>は住民と接してゆくことで、新しい人生を踏み出していきます。
マンションという一つの共同体を舞台に、それぞれの人生が絡み、『プロローグ』に書かれた部分が、『エピローグ』へとつながる壮大な人間ドラマの構成に感動しました。
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