このところミステリー作品を続けて読んできていますので、少し軽めのモノと思い、気楽に読める<西村京太郎>の登場です。
本書には9編の短篇が収められていますが、『歪んだ顔』は、冒頭の短篇のタイトルです。
警察学校を出てきたばかりの<梶原巡査>は、アパートで発生した心中事件の現場に出向きますが、女性のほうは青酸カリで死んでいましたが、それより若い男は睡眠薬だけでしたので、一命を取り留めます。
「自分が殺した」という男の自白に疑問を感じた<梶原>は、再度事件の捜査を続けていきます。
それぞれの犯罪に隠された裏側の真実を求める内容の短篇集として楽しめましたが、この文庫本は2014年9月(単行本は2007年)に刊行されていますが、文中に出てくる値段や固定電話が小道具に使われていたりと、作品的には古い短篇が並んでいました。
物語の舞台は、東京の各駅電車しかとまらない私鉄沿線の商店街にある「ここ家」というお総菜屋さんです。
オーナーの<江子>は61歳、従業員の<麻津子>は60歳、従業員募集のチラシで入った<郁子>は、彼女たちよりも年上です。
<江子>は10年前に<恵海>と共同でお店を始めましたが、夫の<白山>は<恵海>と一緒になり、離婚したあとも友達付き合いが続いています。
<麻津子>は離婚した幼馴染の2歳年下の<旬>に恋心を描き、<郁子>は息子を2歳で亡くし、昨年夫とも死別した過去を抱えています。
タイトルの『キャベツ炒めに捧ぐ』を含め、『ひろうす』・『豆ごはん』・『トウモロコシ』など惣菜に関するタイトルの短篇が11編連作で楽しめ、三人三様の彼女たちの人生を絡ませながら、季節感あふれる惣菜を通して明るく前向きな姿勢に元気づけられる一冊でした。
殺人事件ばかりがミステリーではないという視点から、「人の死なないミステリー」が、4人の作家のアンソロジーとして4編が納められています。
書き手はミステリーの範疇で、心に温まる<ほっこり>とさせる組み立てを考えなければいけません。
納められている作品は、
伊坂幸太郎 『BEE』 中山 七里『二百十日の風』 柚月 裕子『心を掬う』 吉川 英梨『18番テーブルの幽霊』です。
『二百十日の風』以外は、各著者の作品として今までに登場している馴染のある主人公が、それぞれ登場する短篇仕立てになっています。
<伊坂>さんの「兜シリーズ」としてのユーモア、<中山>さんのファンタジーを思わせる結末、<柚月>さんの真摯な検事役の歯切れ良さ、<吉川>さんの刑事 <原麻希> の母親目線での事件の解決と、どれもが楽しめる内容でした。
江戸時代の享保7(1722)年8月を舞台に、町医である<青庵>の6歳の息子<太一>が「神のおつげ」だということで突然無縁仏の墓場を掘り起し、墓の下に広がる妖怪たちをこの世に広めたことから物語は始まります。
前段の「序」に始まり第五話までの話が納められており、主人公は<青庵>の16歳の「医者小町」とよばれている娘<真葛(まくず)>で、母亡き後、父を手伝っていました。
<太一>が墓場の妖怪たちをこの世に送り出した日、父<青庵>は突然寝込んでしまい、妖怪の統率者<うわん>が<太一>に宿り、七歳の誕生日までに逃げ出した999の妖怪を捕えなければ<太一>の命は貰い受けるとの難問を命じられてしまいます。
気丈夫で利発な<真葛>は、<太一(うわん)>と二人で町中で起こる異様な病気や事件に対処していきます。
本書に納められた五話だけでは、捕えることのできた妖怪の数は知れていますので、この先長いシリーズ物になりそうです。
冒頭からいきなり主人公である<御子柴>が、ルポライター<加賀谷>の死体を大雨で氾濫する川に投げ捨てる場面から始まり、最終の383ページまで、「んん~」と唸ってしまうほど二転三転する場面展開に、ページをめくるのが楽しくなる構成でした。
<御子柴>は14歳のときに5歳の幼女を殺害した過去があり、関東医療少年院に入院していましたが、時間を持て余す少年院時代に司法試験の勉強を始め、今では被告から多額の報酬を求める悪辣弁護士として名を馳せています。
彼は売名行為を目的として、3億円保険金殺人の被告人<東條美津子>の国選弁護を引き受けるのですが、冒頭の<加賀谷>の死体が発見され、埼玉県警捜査一課の老練な刑事<渡瀬>と部下の<小手川>のコンビに怪しまれ付きまとわれながらも、見事な法廷弁論で<美津子>の無罪を勝ち取ります。
<御子柴>の少年院時代の回想も本書では彼の人間性を知る上で重要な部分を占め、最後には読者を驚愕的な結末に導き、リーガルサスペンスとして読み応えのある一冊でした。
本書は世界第一次世界大戦が勃発する大正3年から4年にかけての東京の下町を舞台として、幻想と怪奇に満ちた面妖な事件が集められています。
美大に落ちながらも画家として生きていこうと家を飛び出した<槇島功次郎>は、大雪の降る日に下宿に出向く際、奇妙な行動を取る自称20歳の青年画家<稲村江雪華>と知り合います。
<雪華>は容姿端麗にして博覧強記、そしてこの世に未練を残した者たちの霊が見れる能力を持っていますが、<功次郎>も自分自身にもその能力があることがわかり始めます。
二人を中心として起こる周囲の摩訶不思議な現象が、<功次郎>の回想録的に語られ、しばし大正ロマンの世界に浸れるゴーストハンター物の短篇集でした。
著者のデビュー作は陸上自衛隊が登場する 『塩の街』 で、その後に続く 『空の中』 は航空自衛隊、 『海の底』 は海上自衛隊・海上保安庁・機動隊が登場、<自衛隊>シリーズ三部作と言われています。
その延長として自衛隊を舞台にしたラブコメディー小説として 『クジラの彼』 があり、本書はそれに次ぐ第2弾となります。
本書にはタイトルになっている『ラブコメ今昔』をはじめ6編が納められており、自衛官としての結婚観や男女間の恋愛模様がユーモラスに描かれていました。
著者は高知県出身ながら阪急沿線に住んでいた影響でしょうか、『軍事とオタクと彼』に登場する<桜木歌穂>の関西弁の会話が実に痛快で、彼より2歳年上の25歳の女として、海外派遣で会えない期間のせつない乙女心が、面白く描かれていました。
主人公の<岩永順庵>は肥前長崎の蘭学者の26歳、下級通司として江戸に出向いた際他の蘭学者と喧嘩を起こし長崎に戻ると脱藩あつかいになり、仕方なしに江戸にもどり辰巳芸者の<豆吉>の家に居候しています。
物語の舞台は安永7(1778)年、<田沼意次>が老中にしたのが安永元年で、将軍は第10代<徳川家治>の時代です。
本書は4編の市中に起こる怪事件が納められており、火盗改の同心<瀬川又右衛門>と武家の出で剣豪でもある<豆吉>とで、<淳庵>の蘭学の知識を駆使して解明していきます。
今では当たり前の製鉄技術や電気(エレキテル)、潜水船など当時としての科学技術を織り交ぜながら、三人の活躍が楽しめました。
町外れに建つアパートを舞台とする小説は、 『妖怪アパートの優雅な日常』(香月日輪) ・ 『れんげ荘』(群ようこ) ・ 『てふてふ荘へようこそ』(乾ルカ) 等が思いつきますが、様々な性格の住民を登場させるには都合の良い設定だと思います。
主人公<花村茜>は43歳で独身、勤めていた会社から退職勧告を受け、70歳手前で突然急死した父<桃蔵>が残した築20年の「花桃館」に自らが移り住み、大家としての生活が始まります。
移り住んでからわかるのですが、住民の一人<雨宮李華>は亡き父の女であり、ウクレレおたくの<玉井>、整形依存症の<高岡日名子>、父子家庭の<妙蓮寺>家等、多彩な登場人物たちで人間模様の綾が繰り広げられていきます。
人生の折り返し点を超えた戸惑いと、同級生でバツ一の<尾木>とのほのかな恋心を散りばめて、<茜>が前向きに歩んでいく姿がユーモアに描かれている一冊でした。
他社の文庫シリーズになりますが、 <警視庁極秘捜査班>(光文社文庫) や <新宿署密命捜査班>(徳間文庫) に見られるように、刑事もののアウトロー的な分野の作品が多く、この『内偵』も<警視庁迷宮捜査班>シリーズの3冊目として刊行されています。
捜査一課強行犯捜査二係に配属されていますが、実質は窓際的な「迷宮捜査班」に配属されている4名の刑事の活躍が、小気味よく楽しめます。
3年4ヵ月前にエリート検察官<久住詩織>は、通り魔的な犯行で<長谷川宏司>に刺されて死亡していますが、犯人の<長谷川>は逃走中に崖から落ち、脳挫傷のため昏睡状態が続き事件が解決できていません。
当時<久住>は大きな事件の内偵を進めていたのですが、それらの関係を<尾津航平>と<白戸恭太>のコンビが再捜査を始めますと、関係者が次々と口封じにあっていきます。
二人の破天荒な捜査で核心に近づいていきますが、娯楽小説らしく二転三転する構成で、現代社会の裏ビジネスも盛り込まれ、楽しめた一冊でした。
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