<三浦しをん> ・ <あさのあつこ> ・ <近藤史恵> と好きな著者3人が、「マラソン」をテーマにしたアスリートの物語を執筆しているということで、てっきり同じ主人公を引き継ぎながらの連作なのかなと思いましたが、それぞれ独立した小説でした。
第1話は<三浦しをん>さん、学生時代にランナーでしたが不動産業界に就職してからは仕事ばかりで走る楽しさを忘れてしまった男が、社長の娘の策略で「ニューヨークマラソン」に参加、忘れていた楽しさを思い出します。
第2話は<あさのあつこ>さん、仲のよかった同級生と彼女との三角関係のもつれで無理して走り疲労骨折をしてしまう男は、大学を卒業してスポーツシューズメーカーに就職しますが、先輩技術者から「中途半端だ」と指摘されてしまいます。
同級生の彼から、彼女の事故死を乗り越えて「東京マラソン」に出場すると8年ぶりに電話があり、男は彼のためにマラソンシューズを作る過程で、先輩が言う「中途半端」な部分に気が付きます。
第3話は<近藤史惠>さん、母親がバレー教室をしていた関係で小さいころからバレーに明け暮れていた彼女は、5歳年下の妹の才能にバレーの道を諦めてパリに語学留学します。そこで出会った女性とワンちゃんに感化され、自分もジョギングをはじめ「パリマラソン」に参加する意志をかため、ジョギングの練習を始めます。
それぞれの人生の過程で傷つている3人が、三者三様の些細なきっかけで新しい人生のスタートを切る感動が伝わる一冊でした。
なんとも奇想天外な小説で、これは好き嫌いが出るだろうなと感じながらも、最後まで読ませる構成に著者の力量を感じました。
物語に登場する主人公は鳥取県の製鉄会社の長女として「丙午」年に生まれた<赤緑豆小豆>で、鉄を自由に操れる能力を持っています。
中学校に入学する前の12歳の時に、緑ヶ丘中学校にたむろする女子暴走族<エドワード族>とひと悶着を起こし、入学式のときに傷めけられますが、気の合う「丙午」仲間の<菫>や<花火>・<ハイウェイダンンサー>などと共に仕返しに出向きます。
2歳年上の総番長<大和タケル>を後ろ盾に、永遠の友情を誓った<菫>が自殺するという悲しみを背負いながらも、島根県の「虚無僧乙女連(こむそうガールズ)」、広島県の「裸婦(ラブ)」、山口県の「下関トレンディクラブ」など中国地方全土のレディース制圧に乗り出していきますが、やがて自分も大人の世界に入りつつあることに気づいていきます。
「製鉄天使」と謳われた少女の伝説記ですが、完全なフィクションとわかりながらも、妙に痛快さを感じる一冊でもありました。
文庫オリジナルの日記形式のエッセー集で、2010年の一年間がまとめられています。
著者の 『食堂かたつむり』 は、第1回ポプラ社小説大賞に応募した際には最終選考まで残りませんでしたがベストセラーとなり、<冨永まい>監督により2010年2月に映画が公開されています。
本書は『食堂かたつむり』が、韓国やイタリア・フランス・台湾等に翻訳されていく状況と、新しい作品執筆の流れを底辺に、鳩間島や石垣、モンゴルやカナダと活発に取材活動をこなし、旅先でのおいしい料理や人々との交流が優しい文章で綴られていました。
食事に対して、<好きなお店ができたら、とにかく間をおかずに何度か続けて通うことだ。そうしたら顔を覚えてもらえて、店の人と親しくなれる>は、まさにわたしの行動規範と同じで、嬉しくなりながら読み終えました。
部押印を舞台とする「チーム・バチスタの栄光』から始まる海堂尊の作品群は、架空の都市である桜宮市、極北市を舞台に各作品とその登場人物が関わり合うクロスオーバーで展開される構成でしたが、新たな架空都市として浪速府を設置し、2009年に発生したインフルエンザ騒動をモデルに新型インフルエンザ罹患者に接する浪速府の医師親子の奮闘と、その裏で繰り広げられていた浪速府知事<村雨弘毅>と霞が関の官僚たちとの暗闘を、週刊新潮で2010年に約1年かけて連載されました。本書は大きく分けて三部から成り立ち、時系列が前後しながら全体が構成されています。
浪速市天目区にて渡航歴のない小学生が「インフルエンザ・キャメル」に罹患、厚生労働省は浪速府への移動・転出を認めない経済封鎖を行いますが、その裏側には霞ヶ関の官僚たちの利権と権力が絡む陰謀がありました。
関西経済の復活、道州制を超えた「日本三分の計」案を進めるべく、浪速府知事の<村雨弘毅>、東京検察庁から浪速検察庁に左遷させられた「カマイタチ」こと<鎌形雅史>、「医療界のスカラムーシュ」の<彦根新吾>、さらに厚生労働省技官であり「ロジカルモンスター」と称される<白鳥圭輔>たちが、堂々と霞ヶ関に立ち向かう姿を描きながら、今の日本の医療問題にも切り込んでいきます。
著者の作品に共通するのは、他の作品の登場人物たちがさりげなく脇役として登場してきますので、おもわず「ニヤリ」とさせられる場面が多々ありました。
前作 『〇に十の字』 で、無事に交趾(ベトナム)への買い付けに「大黒丸」と「イマサカ号」を送り出した<大黒屋総兵衛>は、<桜子>を京での案内役として江戸を離れますが、同行するのは手代<田之助>と<しげ>、そして薩摩藩から寝返った<北郷陰吉>です。
総兵衛一行は伊勢を巡り、<桜子>の実父の墓参りなどを済ませ、神君家康公が信長の死後速やかに逃げ延びた「伊賀加太峠越え」にあやかって、冬場にも関わらず困難な道中を選ぶのですが、薩摩藩は相も変わらず<総兵衛>を狙った刺客を送り込んできます。
伊賀加太峠の山奥には、伊賀者の末裔<柘植一族>が住んでおり、<陰吉>の機転で<柘植一族>を使い薩摩藩の刺客を追い払うのですが、この縁を契機に<総兵衛>は新しい生き方を模索していた<柘植一族>を自分の配下に収めてしまいます。
総兵衛一行は無事に京都に着き、これからの大黒屋百年の計の基礎作りにと、京在住の人物たちとのかかわりを築いていきますが、<桜子>と<しげ>が薩摩藩に拉致されたところで第6巻は終わりました。
<新・古着屋総兵衛>シリーズとして、4巻目の 『南へ舵を』 に次いで5巻目となります。
歴史の好きな方は「〇に十の字」といえば、島津家の家紋だとすぐに気が付くと思いますが、いよいよ10代目<大黒屋総兵衛>は100年来の薩摩藩との貿易に対する結末をつけるべく、大黒丸とイマサカ号を交趾(ベトナム)に向けて出港させます。
自らは、薩摩藩の密偵<北郷陰吉>を捕え自分の部下として転ばせましたが、疑心暗鬼の手下たちと共に<陰吉>を連れ、公家とのつながりのある<坊城桜子>を同行させて京を目指し東海道に足を向けます。
留守にしている江戸においては、 『日光代参』 にて活躍してくれた「おこも」の<ちゅう吉>が突然姿を消し、薩摩藩の息のかかった与力<土井権之丞>に取り押さえられているのがわかり、大黒屋の番頭たちの采配で無事救い出されます。
いつもながらの息をもつかせぬ展開で物語は進み、今後の先行きが楽しみなシリーズです。
中学2年生の数学のエキスパート<浜村渚>を主人公に据えた<浜村渚の計算ノート>シリーズも、 『浜村渚の計算ノート 3さつめ』 についで4冊目になりました。
本来のこのシリーズは、数学テロ組織「黒い三角定規」の陰謀を解決する話が、1冊につき4話ほど納められていますが、本書はテロ事件から離れ、数学好きの人間だけが集まる奇妙なリゾートホテル「ホテル・ド・フェルマ」で起きた密室殺人事件の解決に乗り出します。
初めての「文庫書き下ろし作品」としての長編で、全編を通じて<フェルマーの最終定理>や<パスカルの三角形>・<クラインの壺>などの数学的要素がちりばめられ、数学好きの<渚>としては楽しめ、同行した語り部役の刑事=「僕」こと<武藤龍之介>の推理も冴えを見せます。
宿敵の首謀者<高木源一郎>や<霧雨リチャードソン>・<キューティー・オイラー>の逮捕がまだできておらず、このあと2冊が出ていますが、とりあえずここで一区切りです。
日本の教育から「数学」のカリキュラムがなくなったのに憤りを感じた<ドクター・ピタゴラス>こと<高木源一郎>は、数学テロ組織「黒い三角定規」を結成、日本政府に数学教育の復活を求め、日本各地で数々の事件を引き起こしています。
18歳から39歳の年齢対象者は、<高木>の作成した数学プログラムにより教育されてきており、殺人指令を受ける催眠術に洗脳されています。警視庁対策本部はこのプログラムに洗脳されていない刑事たちを集め、数学のエキスパートとして中学2年生の<浜村渚>に応援を求めます。
本書も 『浜村渚の計算ノート 1』 ・ 『浜村渚の計算ノート 2さつめ』 と同様に、数多くの数学者と定理が登場しており、「なるほど」という数学の世界が楽しめました。
特に『「プラトン立体城」殺人事件』の章は、各種の立方体と数式を利用した事件で、建築学的にも面白く、建築設計を生業としている立場として面白く読めました。
前作 『浜村渚の計算ノート 1』 より間が空きましたが、シリーズ物として続巻が3冊出ているのを見つけましたので、続けて読み切ることにしました。
主人公は、警視庁のテロ対策本部に数学の専門家として召集された麻砂第2中学校の2年生<浜村渚>です。
義務教育から数学が外されたことに怒りを覚えた<高木源一郎>こと<ドクターピタゴラス>は、数学テロ組織「黒い三角定規」を立ち上げ、「美しき数学の国」の建設を目指して日本政府に再考を迫ります。
本書も4編の事件が短篇として納められていますが、どれも<浜村渚>の数学の知識を中心に解決されていきます。
本書には、懐かしい「ルービックキューブ」や数字の「7」にまつわる意外性、そして10進法になれた頭を柔らかくしてくれる「2進法」をはじめ「n進法」にまつわる数式が事件を解くカギになっているなど、普段使用していない脳の領域を活性化させてくれる一冊として楽しめました。
主人公南町奉行の同心<尾上源蔵>は、人呼んで「神鳴り源蔵」と呼ばれる切れ者です。
<お清>をはじめ歳の似通った町娘が、武家屋敷に奉公との名目で姿を消してゆくのを不思議に思った<源蔵>の手下の<竜吉>は、仲間の<六助>と娘を乗せた駕籠を追うのですが、見失った上に<六助>までもが消息を絶ってしまいます。
岡っ引きの<文太>共々、<竜吉>は<六助>が消えたであろう武家屋敷を探ってゆく中で、大名川東筑前守の屋敷にて側室の<お千佳>が妊娠、正室側の陰謀で、世継ぎ争いに町娘たちが身代わりとして巻き添えになっていることを知り、正義感よろしく大名家に立ち向かっていきます。
筋書き自体は時代劇によくある世継ぎ騒動ですが、「神鳴り源蔵」の小気味よい行動が、これまた時代小説として楽しめる一冊でした。
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