「ミステリの女王」と呼ばれた<アガサ・クリスティー>の生誕120周年を記念して、2010年に創設された「第1回アガサ・クリスティー賞」を受賞した作品です。
主人公は24歳で大学教授の<黒猫>と呼ばれている美学理論を駆使する天才で、同じ大学の研究室にて「エドガー・アラン・ポオ」を研究している博士課程の女性が「付き人」として登場します。(ポオは、著者が文中で使用されている表現で「ポー」との表記もあるとおもいます)
6話の短篇構成ですが、謎解きの過程で持ち前の美学の理論を駆使しながら「アラン・ポオ」の作品を分析、日本文学から映画の世界など、著者の博識な知識が繰り広げられています。
「付き人」の<黒猫>に対する淡い恋心も伏線として描かれており、クリスティー賞にふさわしい内容でした。
続編も単行本として出ているようで、文庫本化されるのが待ち遠しくなる<黒猫>シリーズです。
主人公<佐藤雅祥>は、17歳の時に母親を癌で亡くしたショックから自殺未遂を犯し、21歳になっても家に引きこもりの生活を続けています。
そんな折、父親がひとりの赤ん坊<タカヤ>を家に連れてきて、知り合いが海外旅行に行く間あずかることになったということで、3人の生活が始まりますが、突然父親が病死、<雅祥>は赤ん坊の世話を焼くことになります。
どこの赤ん坊か分からないまま従姉妹の<しーちゃん>の力を借り、迎えの来る日まで世話をする<雅祥>ですが、当日になってもどこからも連絡がありません。
<雅祥>の子育ての奮闘を描きながら、流産で子供を産めなくなった夫婦、母子家庭の中学生<成美>の妊娠等、出産に交わる話しが平行して進み、やがてひとつのドラマとして完結、心温まり胸に染みる読後感が残る一冊でした。
本書は、デビュー作の『チーム・バチスタの栄光』以来、海堂ファンにはお馴染みの登場人物たちが脇を固めていて、面白く読めました。
また同じ著者の前回に紹介した 『マドンナ・ブェルデ』 に出てくる<曽根崎伸一郎>や、娘の代理出産をした母親<山咲みどり>が産んだ<薫>が登場するなど、ニヤリとさせられる場面が盛り込まれています。
物語は、桜宮市(海堂の架空の都市)に新設された未来医学探究センターを舞台として、網膜芽腫という病気で右目を摘出された9歳の<佐々木アツシ>は左目も同じ病気に侵され、世界初の「コールドスリープ」の技術でもって、特効薬の開発を期待して5年間の「凍眠」に入っています。
「凍眠八則」の法律に基づき、<アツシ>のお世話を毎日している<日比野涼子>は、少年が目覚める際に重大な問題が起こることに気付き、ひとり対策を練っていきます。
コンピューターで制御される「凍眠」を通して、人を守るべきはずの法律や制度が、逆に人を縛るとういうときにどう立ち向かうのか、人間の尊厳と倫理を考えさせられる医療ミステリーでした。
な読み終わった後、解説者が女優の<松坂慶子>さんで、すでに彼女が母親<山咲みどり>役でNHKのテレビドラマ(2011年4月19日~全6回放送)になっていることを知りました。
産婦人科医<曽根崎理恵>は自分の妊娠の再、「双角子宮」という病状で子供を産めない体ということを知ります。
夫<曽根崎伸一郎>はアメリカの大学に教授として単身赴任、感情的な交流もなく夫婦という書類上の関係でも構わないという性格です。
<理恵>は自分の55歳の母親<みどり(ヴェルデというのは「緑」という意味です)>に代理出産の依頼をし、自らの手で卵子を母親の胎内に着床させます。
日本の法律では、精子や卵子が誰のものであろうと「産んだ女性」が「母親」という法律が規定されていますが、<理恵>は論理的にそれはおかしいという考え方の持ち主で、代理出産で生まれた子供たちを踏み台に世間に知らしめようと目論んでいました。
<帚木蓬生>の男性の妊娠実験の 『エンブリオ』 や、<樹木信>の死んだ子供のクローン人間を産もうとする 『陽の鳥』 などと同様に、医学的に倫理的に生命とは子供とは何かを問う一冊でした。
副題に<素行調査官>とありますが、既刊の『素行調査官』に次ぎ、シリーズ2巻目です。
警察を辞職した元麻薬の潜入捜査員<坂辻誠一>が、縁もゆかりもない山形県で自殺をはかり、乗り捨てられた自家用車のトランクから覚醒剤が発見されます。
山形県警から連絡を受けた警視庁監察係の<本郷岳志>と<北本一弘>は、<入江透>首席監察官の指示のもと、ひそかに山形まで<坂辻>の遺骨を引き取りがてら、彼を自殺に追いやった原因と覚醒剤の調査を始めていきます。
出世欲と金銭欲のうごめくピラミッド構造の警察組織の中で、内部監察チームの捜査と合わせ、<本郷>と関連する探偵事務所の<土居沙緒里>や、<坂辻>の後輩であり交番所勤務に左遷させられた<岸上>等の脇を固める登場人物達もいい人間味を出しており、この先楽しみなシリーズになりそうです。
現実的な物語としての感覚を味わいながら最後まで読み終えましたが、大人のファンタジー物語りとでも表現すればいいのでしょうか、何とも不思議な話しが6編収められています。
主人公<星野一彦>は、「身長が190センチ 体重は200キロ」という<繭美>という見張り役の女に監禁状態にされ、《あのバス》で遠くつれされる前に、交際していた5人の女性ひとりずつにお別れの挨拶に<繭美>と共に出向いていく話しが連作で語られていきます。
粗暴な大女はハーフということで辞書を持ち歩いていますが、「常識」や「悩み」・「上品」などという項目は黒く塗りつぶしているという感性の持ち主で、<星野>との凸凹コンビが織りなす行動が、なんともユーモアたっぷりにまとめられています。
<あのバス>とは何なのか、最後まで明かされていませんが、読み手側の想像力にゆだねられたエンディングで物語は終わります。
物語は、17歳の不良処女<雪乃>が同級生の悪友<翔矢>に、ネットも携帯電話も無料になるプロバイダーを紹介するところから始まります。すぐに無料になるわけでなく、次に誰かを紹介した時から自分の権利が発生します。
また<雪乃>と従姉妹の<可奈子>は、同じ17歳の自殺した同級生の<尚美>の葬儀に母<和泉>と一緒に参列していましたが、<尚美>の死の原因は三角関係にあった<秀則>が原因で、自分にあると心を痛めていました。
<尚美>の自殺に始まり、<秀則>が行方不明、母親を日本刀で惨殺する事件等奇怪な事件が起こり、どうやら無料で登録したプロバイダーつながりの人物たちが危険な目に合っていると<可奈子>達は付きとめるのですが、そこにはネットの中に潜む仮想現実の残虐な世界が関連していました。
「ホラー」と「サスペンス」が合体した構成で、デビューまもない2004年の作品ですが、ネット環境を素早く取り入れた時代背景は今読んでも遜色ない出来ばえで、最後の結末も面白くまとめてあり楽しめました。
副題に<炎と涙の法廷弁論集>とありますように、それぞれの事件を担当された弁護士達の心に残る弁論が集められています。
随所に国語の問題ではりませんが、空白のマスの中に入る言葉を考えるクイズが散りばめられ、弁論の巧みさを実感できrうように工夫されていました。
裁判所や弁護士(代理人)との接触は、非日常の世界だとおもいますが、専門職として裁判所の仕事に関連している関係から、興味を持って読み進めました。
「大阪空港訴訟」・「水俣病公害」「信楽高原鉄道事故」等の社会的に影響のある事件や、「阿部定事件」といった男女間の事件まで幅広く集められており、改めて弁護士の弁論の重要性を感じさせてくれました。
呑み仲間の<なおちゃん>から、「ファルコンさん、面白いから読んでみて」と、この文庫本をいただきました。
娘の結婚式を一ヶ月後に控えた経営コンンサルタントの<北条>は、娘との待ち合わせに間に合わせようと高速道路を急いで走行中、事故に遭い瀕死の状態で病院に搬送されます。
意識が戻ると感じたのは本人の間違いで、突然<K>と名乗る天使が現れ、会社経営で悩んでいる下界の人間5人を幸せにすると、現実の世界に戻れるという条件を出され、持ち前の会計知識を駆使して、5人に対するアドバイスを始めていきます。
わたしも個人事業主として、毎年確定申告には『貸借対照表』を作成して提出していますが、会社規模の経理の仕組みをそれぞれの企業に合わせて分かり易く解説しており、また、主人公でありながら父親としての立場からも家族への愛情が感じ取れる一冊でした。
本書は、2009年6月に逝去されている著者の処女長編小説ですが、第17回の江戸川乱歩賞に応募された作品で、当初のタイトルは『そして死が訪れる』(1971年)でした。
その後タイトルの変更もあり、加筆・訂正を加えながら、最終的に『模倣の殺意』というタイトルで、<創元推理文庫>として2004年8月に再出版されています。
内容を書くとネタバレになりますので省きますが、新人賞を取ったひとりの作家の自殺事件の真相を追い求める<中田秋子>と<津久見伸助>の行動を時系列に並べ、読者を突然「あれっ?」と疑問を感じさせる個所を潜ませながら、最後まで読みきらせます。
叙述トリックの先駆的作品として価値があり、知名度は決して高くない作家だとおもいますが、プロローグからエピローグまで読者が想像もできないような意外な結末に、改稿されているとはいえ40年前の作品とはおもえませんでした。
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