前作の 『珈琲店タレーランの事件簿』 に続くシリーズ2作目です。
主人公は24歳のバリスタ<切間美星>で、コーヒーミルをカリカリと回しながら事件の概略を訊き、持ち前の名推理で「この謎、たいへんよく挽けました」の決まり文句で解決していきます。
今回は、東京の美術大学の学生である妹<切間美空>が、夏休みを利用して姉が働く京都に観光旅行と称して出向いてきますが、その裏側には<美空>のある計らいがありました。
外見も性格も正反対の<美星>と<美空>ですが、二人の家庭環境と<美星>の心の傷がわかる構成を主軸に据え、ふたりの関係のおもわぬどんでん返しには、著者の企みのうまさに思わず唸ってしまいました。
本書も、「タレーラン」に持ち込まれる日常の謎を解く<美星>の推理が楽しめる一冊でした。
刑事ものは殺人事件の緻密な捜査を描いた捜査一課モノが多いのですが、警察署にはその他の部署も多くあり、<堂場瞬一>の 『犯罪被害者支援課』 や 失踪人に絡む事件を扱う 『警視庁失踪課』シリーズ、<南英男>のお蔵入りの事件を捜査する 『迷宮捜査班』シリーズなど味わい深い小説が出ています。
本書は元劇団員の刑事<七曲風馬>27歳が主人公で、3年の交番勤務から突然<南雲剛太郎>警視正から辞令を受け、都庁の地下に新設された都民相談室に配属されます。
そこには、シングルマザーの室長<浅川嘉代>をはじめ、クセのあるはみ出し刑事3名と警察職員の<鈴音杏理>が受付を担当しています。
相談に来たケアーマネージャの相談話から、高齢者を対象にした投資話の詐欺事件を調べ始める<七曲>ですが、捜査の途中に関係者が自殺や水死体で発見され、偽名が横行する実体のない組織に対して捜査は難航を極めます。
元劇団員という特性を生かし、事件の解決は劇団の協力を得て舞台劇として犯人のトリックを突き止めていきますが、大学の後輩である劇団員の<香野紅見(くみ)>との今後の関係も気になるシリーズ(?)になりそうです。
<刑事犬養隼人>シリーズの一作目である『切り裂きジャックの告白』は、テレビ朝日系列の「土曜ワイド劇場特別企画」として、俳優<沢村一樹>を<犬養>役として4月18日(土)に放映されています。
本書はシリーズ二冊目に当たり、前作と違いタイトルにある通り「色」にまつわる7つの事件が納められています。
警視庁捜査一課の刑事<犬養>は、どんな女でもだませそうな整った顔をしていますが、逆に女にだまされて取り調べもままならず、周りからは<無駄に男前の犬養>と揶揄されながら、男の嘘は確実に見抜いていきます。
どの短篇も読み手の推理を見事に外し、おもわぬどんでん返しで読者を唸らせる推理を展開、事件を解決する<犬養>の鮮やかなお手並みが満喫できる一冊でした。
以前に読んだ著者の仏師<定朝>を描いた 『満つる月の如し』 の時代考証の緻密さに驚くと共に、壮大な構成に力量の確かさに感動を覚えました。
本書は、どことなく面白みのあるタイトルに興味を持ってしまいました。
主人公はタイトルの通り京にて右大臣まで上り詰めたのち、<藤原時平>の計略により大宰府に左遷された<菅原道真>ですが、物語は婿養子でやる気がなく「うたたね殿」と揶揄されている地元官人<龍野保積>の目線で語られていきます。
「学問の神様」と謳われている<道真>ですが、冒頭から嘆き悲しむ哀れな<道真>が登場、そのお相手にと<保積>が任用され、また大宰府の最高責任者「大弐」の地位にある伯父<小野葛絃>を頼ってきた<小野恬子(しずこ)=(小野小町)>を含め<道真>と巻き起こす事件が、笑いと悲哀を交えながら描かれています。
著者は現在姫路市に在住ですが神戸市生まれということもあり、タイトルに(1)が付いていますので、シリーズ化されるのがわかるだけに手にしてみました。
主人公は絶世の美女ですが全身に百の目を持つ妖怪<百目>で、妖怪と人間が共存して住んでいる医療特区<真朱の街>で探偵事務所を営み、請け負う事件はすべて妖怪絡みです。
依頼人である人間は、自分の寿命で報酬を支払うのが決まりで、助手として元脳科学研究者<相良邦雄>がいますが、彼も<百目>にたまに寿命を提供、吸われると恍惚感に身をゆだねてしまいます。
本書には五話が納められていますが、人間の「拝み屋」<播磨遼太郎>が妖怪との対決で傷ついた体を癒す場面で終わっていますが、何がしかの因縁が彼と妖怪との間でありそうで、今後その真相がわかる展開になりそうな第一弾目でした。
著者のデビュー作品は陸上自衛隊を中心とした 『塩の街』 ですが、その後航空自衛隊の『空の中』、海上自衛隊の 『海の底』 と続き、<自衛隊三部作>と呼ばれています。
また同じく自衛隊の組織内の恋愛を描いた 『クジラの彼』 や 『ラブコメ今昔』 があり、どれも文庫本で楽しめますが、本書(2012年7月刊行)だけはいまだ単行本のままで文庫化されておらず、しびれを切らして単行本を手にしてしまいました。
本書には6編の連作短篇と番外編が1篇納められています。
主人公は<空井大祐>二尉です。子供のころからの憧れだった「ブルーインパルス」のパイロットとして推薦を受けた矢先、交通事故で膝を痛め防衛省の広報室勤務に配属されます。
それぞれ個性ある広報部のメンバー達ですが、帝都テレビの<稲葉リカ>が、報道局から番組のディレクターに配置換えとなり、この広報室担当として顔出しする場面から物語は始まります。
世間一般の「自衛隊」のイメージを払拭すべく、「自衛隊は、こういう仕事をしているんですよ」を理解してもらうために裏方としての広報室に光を当て、またそれぞれの隊員たちの真摯な仕事ぶりにおもわず涙する場面もあり、心打たれる内容でした。
副題に「警視庁犯罪被害者支援課」とありますように、犯罪事件の捜査を中心とする刑事物語ではなく、被害者の心に寄り添い、傷が癒えるのを助ける部署を舞台としています。
主人公<村野秋生>は35歳、一時期は捜査一課の刑事でしたが、ある事故を契機に4年前に「犯罪被害者支援課」に自ら志望して移ってきました。
月曜日の朝、通学児童の列に暴走車が突っ込み児童3人とサラリーマン2人が死亡、犯人はその場から逃亡してしまいます。
サラリーマンの一人は<大住茉菜>32歳で、妊娠7か月の身重でした。
さっそく<村野>は現場に出向き、<茉菜>の主人である<大住宏司>の支援に回りますが、彼は情緒不安定で大きな心の傷を背負ってしまいます。
支援課としてはひき逃げ事件の捜査は関係ありませんが、もう一人のサラリーマン<三田一郎>とひき逃げ犯である<荒木隼人>との間に金銭のやり取りが発覚、ひき逃げ事件から殺人事件の様相を含み、事件は思わぬ方向に進んでいきます。
著者らしい綿密な組み立てで、503ページの長篇ながら一気に読み終えてしまいました。
過去に起こった<村野>自身の事故を伏線に、江東署から初期支援員として応援に入った25歳の<安藤梓>巡査の今後の動向も気になるシリーズになりそうです。
<澁澤龍彦>といえば、<マルキド・サド>の『悪徳の栄え(続)』の翻訳出版で猥褻に関する裁判闘争の印象が強く残っていますが、幅広い博博学な知識で書かれたエッセイに圧倒された作家でもあり、1987(昭和62)年8月に59歳で病死しています。
彼の著作は「河出書房」から多く刊行されていますが、学生時代によく読んだ作家として、新しい文庫本(2014年8月10日刊)の本書が目にとまりました。
表題の「プリニウス」は、古代ローマの博物学者<ガイウス・プリニウス・セクンドゥス>のことであり、自然界を網羅する史上初の百科全書『博物誌』(全37巻)を表した人物です。
本書は著者が興味を持つ『博物誌』を元に、いわゆる畸形と呼ばれる怪物たち(一本足の人間・火トカゲの「サラマンダ」・一角獣・スフインクス・ケンタウルス)等についてのエッセーを集めたアンソロジーです。
ユーモラスで自由な人間の想像力が生み出した数々の怪物たちを、幅広い博学の視点から分析しており、科学が優先する16世紀までの世界観がよくわかり興味深く読めました。
著者の<本山尚義>氏は神戸市生まれ、33歳の1999(平成11)年、神戸市東灘区本山中町3丁目に世界中の料理を提供するレストラン「世界のごちそう パレルモ」を開店させたオーナーシェフです。
大学中のアルバイトで料理の世界に目覚め大学を中退、フランス料理こそ世界一の料理だと信じレストランで修業を積んでいましたが、インド料理のスパイスの奥深い世界に驚き、世界の料理に目を向けることになります。
本書には著者が廻った30ヶ国のエピソードが多くの写真と共に納められており、主な料理のレシピ特集が、折々に挟み込まれています。
ネパールで出会った奥様とのエピソードもあり、各国の料理との出会い話が主体ですが、旅行記としても楽しめる内容で、面白く読み終えれました。
シリーズ化され 『山手線探偵』 ・ 『山手線探偵2』 に次いで、本書が3巻目になりますが、結末を読みますとこのシリーズの完結編のようです。
通称「やまたん」と言われる探偵役主人公<霧村雨>は、事件に絡むトラブルから借りていた事務所を明け渡し、山手線の車内を事務所代わりに使い、セミドキュメンタリー作家「ミキミキ」こと大学の同級<三木幹夫>、通学で山手線を利用している自称助手の小学校6年生の<道山シホ>とで、山手線に関する事件のトラブルを解決していきます。
今回は「ボギー」こと小学校6年生の<栗原健三>のガールフレンドが誘拐される事件や、山手線近辺に出没、都市伝説となりつつある<小さなおっさん>と呼ばれる人工知能を持ったロボット探しで3人が走り廻ることになります。
誘拐事件では<シホ>を身代金の運び役と危ない行動に付かせた反省もあり、ロボットの事件に解決と共に<霧村>と<ミキミキ>は<シホ>の前から、「すてきなレディになった時に再開しましょう」と姿を消してしまいました。
3人の凸凹コンビの行動と、<霧村>のひらめきの推理、環状線としての山手線を舞台に面白く楽しめたシリーズでした。
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