生と死の境目の「街」にある不思議な料理店を舞台に繰り広げられるファンタジーな物語も、 『食堂つばめ』 ・ 『食堂つばめ 2』 に続き3冊目になりました。
今回は37歳の会社員<津久井英吾>が、臨死体験の主人公です。
彼は何者かによって殺害された人物として登場、料理人の<ノエ>をはじめ、「街」に自由に出入りできる<柳井秀晴>らが、なんとか彼を生き返らせようとします。
生の証しでもある食欲は旺盛なのですが、なかなか『食堂つばめ』から離れようとしません。
生き返った後がどうなるかがわからないからと<ノエ>に釘をさされるのですが、<秀晴>は、現実の世界に赴き<津久井>の家の現状と犯人探しに奔走していきます。
今回は駄菓子屋をキーワードとして「もんじゃ焼き」や「紋次郎いか」などが登場、「星新一ショートショートコンテスト優秀賞」を受賞した著者の原点を垣間見るように、あとがきとして「ショートショート」が組み込まれており、駄菓子屋のキーワドらしく<おまけ>が楽しめました。
第一作目の 『署長刑事(デカ)』 以降、キャリア署長の<古金堂航平>を主人公とする第3冊目が本書です。
うつぼ高校の生徒会室で、全日制の生徒会長を務める2年生の<須磨瑠璃>が、絞殺死体で発見され、彼女にストーカー行為を注意された同校定時制の<小野寺悠斗>が当日目撃されており、指名手配されてしまいます。
みずから「殺したのは僕です」との電話を掛けて逃走している不自然さに、<古金堂>は不信感を覚え、署員の<塚旗由紀>と実家の弁当屋でアルバイトをしていた<悠斗>をよく知っている<丸本貞夫>と捜査を開始します。
大阪の「ミナミ」の街を舞台に、 「自由軒」 や「かに道楽」・「北極星」などのグルメの話題もちりばめられ、<須磨瑠璃>と<小野寺悠斗>のそれぞれの親子関係を主軸に、また「ギャルズバー」や「脱法ハーブ」などの社会問題を絡ませ、エンターティナメントとして楽しめた一冊でした。
前作 『サイレント・ヴォイス』 に次ぐ、<行動心理捜査官・楯岡絵麻>シリーズの2冊目になります。
取調室に置いて行動心理学を用いて相手の「しぐさ」から嘘を見破る捜査一課の美人刑事、署内では<絵麻>の名前をもじって<エンマ様>と呼ばれている<楯岡絵麻>が解決する事件が4編納められています。
今回は前作に前触れとして書かれていた15年前に起こった<絵麻>の恩師<栗原裕子>の殺害事件を伏線として、4編の事件がつながり、最終章で恩師殺害事件の真相が判明します。
「ミラーリング」・「ノンバーバル(非言語)理論」・「単純接触効果」など、心理学の知識も面白く、後輩刑事<西野>との絡みも健在で楽しめました。
本書は『癌だましい』と、『癌ふるい』の2編が納められています。
『癌だましい』の主人公は45歳の<錦田麻美>、老人ホームに努める介護士ですが、同僚からは古参でありながら仕事ができないことにより「職場のガン」と毛嫌いされています。
ある日体調に異変を感じ診察を受けると「食道癌」のステージⅣだと診断されますが、死を恐れることなく一切の治療を拒否、ただひたすら好物の惣菜やデザートを狭窄部で食べ物が通らないのを知りながら、吐き戻しても戻しても食べ続け、食べることのみしか関心がない生活が壮絶感を持って描かれています。
『癌ふるい』は、<米山千波>が食道癌と診断されたことを知人たちにメールで連絡、それぞれの返信の文面に対して、「プラス40点」・「マイナス20点」と変身された文面に対して採点を付けています。
返信者の年齢、立場、環境により、それぞれの癌患者に対する考え方が読み取れて、面白い構成でした。
『癌だましい』は、2011年の第122回文學界新人賞受賞作品で、受賞決定の知らせからわずか一か月後に著者は亡くなっています。
作中の主人公たちと同じ食道癌のステージⅣで、病床で書かれた『癌ふるい』は著者の没後に『文學界:七月号』に発表されていますが、単なる癌患者の闘病記とは一線を引いた重みがありました。
本日は「阪神・淡路大震災」の発生から20年という節目ですので、朝から多くの追悼行事が行われています。
本好きですので毎日のように本屋さんに寄っていますが、某書店の平台の一部に<阪神・淡路大震災関連書籍>が集められています。
この一カ月ほどの間、どのような人がこの関連書籍を手にするのかなと出向いた際に注意して見ているのですが、誰一人として立ち止まり本を手にする人はいませんでした。
このようなコーナーを設けているのは被災地だけの現象だと思いますが、震災直後の古い出版物を並べるだけではなく、行政が実施した区画整理や新長田の再開発事業の問題点を検証する書籍を望みたいところです。
週刊誌やテレビなど、相変わらず「星座占い」や「血液型占い」などは人気があるようです。
本書は各星座生まれの作家が12人登場、それぞれの星座に関しての短篇が収められています。
収録されている12人の作家たちは、牡羊座の<橋本治>を始まりとして、<原田ひ香>・<石田千>・<佐伯一麦>・<丹下健太>・<姫野カオルコ>・<戌井昭人>・<荻野アンナ>・<宮沢章夫>・<町田康>・<藤野加織>、最後の魚座として<島田雅彦>です。
知っている作家名もありますが、作品を読んだことのない作家のほうが多く、どのような傾向の作風なのかを知るには、いいテキストでした。
渋谷区のマンションで人材派遣会社を経営する<西岡卓>が射殺死体で発見され、捜査一課の刑事が出向きますが、なぜか組織犯罪対策四課の刑事が先におり、ある組織の内偵相手だと言い訳て詳細を明かそうとはしません。
かたや捜査一課の<鹿取信介>は、恩義のある三好組組長の<三好義人>が、麻薬取締法違反で逮捕されたのを知り、警察内部で自分の追い出し策としての仕組まれた罠ではないかと感じ始め矢先、東桜会若頭で次期会長と跡目の決まっていて、<三好>とも縁がある<佐々木和仁>も逮捕されるに至り、監察官室が自分を対象としている事実に突き当たります。
<鹿取>は公安部に所属していた過去に、警察の隠ぺいされた情報をマスコミにリークしたことがあり、また拳銃の不正使用等、上層部にとっては目障りな刑事ということで、一連の事件をでっちあげ<鹿取>抹殺を図ろうとします。
複雑ないがみ合いあのある捜査一課Ⅲ係のメンバーですが、<鹿取>の刑事としての生きざまには一目置く<児島要>をはじめ、上層部の不正を暴くべく、<鹿取>の孤独な戦いが楽しめる骨太の警察小説でした。
主人公<山内修馬>は28歳、酒を飲んで大事な捕物に間に合わなかったことがきっかけで「徒目付」を首になり、直参旗本の跡継ぎでありながら勘当され、小料理屋『太兵衛』の女将の<雪江>の好意でその物置で寝泊まりしています。
「徒目付」の経験を活かし、事件解決のよろず相談の看板を揚げていますが仕事はなく、やくざの親分<元造>などの助っ人をしながら糊口をしのいでいます。
そんな折、一両小判の両替を頼まれ、切賃の稼ぎが一割と大きいのに味を占め裏両替屋を始めるのですが、大口の注文主が殺されている現場に立ち会ってしまいます。
はからずも寺の鐘を盗む「般若組」と接触、事件の裏側にはどうやら「贋金づくり」にからんだ陰謀がありそうで、<修馬>は事件の依頼で知り合った<美奈>の兄<朝比奈徳太郎>と共に真相を求めて動き出します。
のほほんとした性格で浪人生活に満足を覚えている<修馬>と、父の遺言である「仕官せよ」に夢をかける<徳太郎>との対比が面白く、江戸を舞台にした青春物語としても楽しめました。
主人公<森悟>は34歳、人気作家<後藤田夏夫>の担当を務める編集者として家庭をかえりみない仕事人間で、また部下の<川田紀子>と不倫関係があり、妻<亜紀>と4歳の息子<裕太>と別居中で、一人暮らしを謳歌していました。
ある日妻の妹からの電話で、福島県で起こった地震の影響で電車の転覆事故で<亜紀>が亡くなったとの連絡を受け、無事に生き残った息子<裕太>を引き取りに行きますが、家事も子育ても無関心なことを義父に見透かされている<悟>は、こちらで引き取るからとの義父の提案を受け入れるように考えていました。
そんなある日、<亜紀>の親友だという<宮前春子>が家に来て、<悟>に対して家事や料理の手ほどき、<裕太>の通う幼稚園のすべきことなどの指導を始め、少しずつ心開く<裕太>との生活が始まりますが、<宮前春子>が誰なのかは<悟>にはわかりません。
少しファンタジーな結末でしたが、会社第一の仕事人間には心が痛い内容で、家庭とは子供とはを考えさせられる心温まる一冊でした。
スルガ警備保障に勤める<八木薔子(しょうこ)>は、「ムゲンドー」女子陸上部の「走る妖精」と言われるマラソンランナーの<日比野真姫(まき)>を、ヘルシンキのマラソン大会で途中棄権したことによるファンの暴動を避けるべく、仲間と共に警護の任務に就きます。
警護に着いた矢先、コーチの<和田>が何者かに刺殺され、また<真姫>は週刊誌で<和田>との不倫問題に悩まされるなか、「天狼66」と名乗る者から「ムゲンドー」本社にも彼女にも銃弾入りの脅迫状が届きます。
重ねるように、別れた恋人の美容師<八神豊>の切断された頭部が<真姫>の元に送られ、やはり「天狼66」からの脅迫だとわかりますが、事件は思わぬ方向に展開していきます。
要人警備という業務の内容やシステムが良くわかり、また、脇役として<真姫>の追っかけオタクの<上条恵介>や、<真姫>の父である元プロレスラーの<パンサー日比野>などが面白みを増す役割で、楽しめた一冊でした。
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