呑み仲間の<なおちゃん>から、「ファルコンさん、面白いから読んでみて」と、この文庫本をいただきました。
娘の結婚式を一ヶ月後に控えた経営コンンサルタントの<北条>は、娘との待ち合わせに間に合わせようと高速道路を急いで走行中、事故に遭い瀕死の状態で病院に搬送されます。
意識が戻ると感じたのは本人の間違いで、突然<K>と名乗る天使が現れ、会社経営で悩んでいる下界の人間5人を幸せにすると、現実の世界に戻れるという条件を出され、持ち前の会計知識を駆使して、5人に対するアドバイスを始めていきます。
わたしも個人事業主として、毎年確定申告には『貸借対照表』を作成して提出していますが、会社規模の経理の仕組みをそれぞれの企業に合わせて分かり易く解説しており、また、主人公でありながら父親としての立場からも家族への愛情が感じ取れる一冊でした。
本書は、2009年6月に逝去されている著者の処女長編小説ですが、第17回の江戸川乱歩賞に応募された作品で、当初のタイトルは『そして死が訪れる』(1971年)でした。
その後タイトルの変更もあり、加筆・訂正を加えながら、最終的に『模倣の殺意』というタイトルで、<創元推理文庫>として2004年8月に再出版されています。
内容を書くとネタバレになりますので省きますが、新人賞を取ったひとりの作家の自殺事件の真相を追い求める<中田秋子>と<津久見伸助>の行動を時系列に並べ、読者を突然「あれっ?」と疑問を感じさせる個所を潜ませながら、最後まで読みきらせます。
叙述トリックの先駆的作品として価値があり、知名度は決して高くない作家だとおもいますが、プロローグからエピローグまで読者が想像もできないような意外な結末に、改稿されているとはいえ40年前の作品とはおもえませんでした。
『笑う警官』にはじまる<北海道警>シリーズの第5弾目が、本書です。
10月中旬の北海道において、函館で病院の屋上からの転落死、釧路港での溺死体、小樽での自動車の爆発による焼死体という事件が起こります。
また、小学校では少女の誘拐事件とおもわれる事件が発生、親子共々姿を消す事件が起こり、偶然とは思えない不審死と誘拐事件が絡んでいると直感した<佐伯宏一>は、ひとり裏捜査を始めます。
捜査を進めるうちに、不審死のメンバーは刑事の情報提供者(=エス)だとわかり、暴力団組織のお礼参りに合っていると判断、警察内部の情報漏れをも追及せざるをえなくなります。
<佐伯>の本来の捜査である乗用車の荷物を狙う路上荒しの事件とも絡め、道警の顔なじみのメンバーである<津久井卓>・<小島百合>・<新宮昌樹>・<長生寺武史>の警官としての人間性も十分に表現されており、シリーズを読んでいなくてもこの一冊だけで十分に楽しめる内容でした。
<ラジオ・ジャパン>が放送している午前1時から始まる深夜番組「オールナイト・ジャパン」に、「この番組が終わったら死にます」という1通のメールが届くところから物語は始まります。
番組ディレクターの<安岡>は、小学生の我が子をいじめが原因で自殺させてしまった過去を持っているだけに、なんとかこの自殺志願者を助けようと局の上司と掛けあいますが、放送局には関係ないと相手にしてもらえません。
番組のパーソナリティーは尼崎出身のカリスマ芸人のひとりである<奥田>ですが、<安岡>の気持ちをくみ取り、放送中に自殺志願者に挑発的な言葉を投げかけ、なんとか手がかりを探そうとしますが、コクコクと番組の終わる午前3時が近づいていきます。
この<奥田>が放送でしゃべるのが関西弁で、これが非常にいい効果をもたらしていました。標準語では自殺志願者に対する呼びかけは弱く、「このクソガキ、出てこんかい」という歯切れのいいしゃべりが、放送終了時間があるなか非常に緊張感を高める役割を果たしていました。
札幌在住の著者としては、地の利を得た「ススキノ」を舞台に描く作品は水を得た魚のようにいつも鮮やかで、映画にもなりました 『探偵はバーにいる』 (1992年)を処女作として、本書は便利屋の<俺>を主人公にした<ススキノ探偵>シリズとして 『探偵、暁に走る』 に次ぐ10作目になります。
<俺>のもとに『探偵はバーにいる』の売春クラブ殺人事件がきっかけで、25年前にススキノから石垣島に逃避したデート嬢の<モンロー>から、「助けてくれ」とのメールが届きます。
逃げている事情を話さない彼女を、希望通り潜んでいた夕張から本州の大間に無事に逃がしてやるのですが、その直後から<俺>は暴力団組織からの嫌がらせを受け始めます。
<モンロー>を送り届けた直後、<俺>の基に4億円分の収入印紙が届き、これが逃げている原因なのかと<俺>は独自で調査を進めていきます。
当時ススキノで一番の美人と謳われた<モンロー>も、50歳を超え老けた女になり果てていましたが、<俺>も52歳になり、青春時代のひと時を呑み仲間として過ごした縁だけで、窮地を救い出す<俺>の生きざまに男気を感じさせる物語です。
幕開けはサンフランシスコの公園で、癌に犯されているホームレス姿の<カーチャ>が殺害され、謎の言葉を残して息絶えるところから始まります。
死の予感を感じていた<カーチャ>は、孫娘<ゾーイ>に一族の女性は代々、シベリアのノリリスクにある「骨の祭壇」の<守りびと>であると教え、謎めいた言葉を書き残します。
弁護士として平穏な生活を送っていた<ゾーイ>は、祖母の言葉の謎を解くためにひとりフランスに渡るのですが・・・。
1937年にノノリスクの収容所から脱走を試みた男女の行動を起点に、KGBの陰謀、女優<マリリン・モンロー>の急逝、ケネディ大統領暗殺などの史実を下敷きに<ゾーイ>の謎解きが始まります。
「骨の祭壇」の謎を求めて動き回り敵からの襲撃を受ける様は、『ダ・ヴィンチ・コード』の暗号解読官<ソフィー>を連想させ、<ロバート>教授に似た潜入捜査官<ライ>が<ゾーイ>を手助けして二人三脚で謎に迫っていきます。
上下2冊の長編ですが、最後のページまでどうなるのかとワクワクしながら読み終えました。
以前に著者の作品として、自転車ロードレースを扱った 『サクリファイス』 が、自転車協競技の世界を舞台としたミステリーで面白く読みました。
今回は表紙が、魔女らしいスタイルで楽しげな雰囲気がありましたので、手に取りました。
主人公<キリコ>は深夜に働く清掃員でありながら、「膝上の黄色いタータンチェックのスカートに、ごつめの膝まであるブーツ、上半身は白いふわふわした生地のセーターで、臍にはピアスをしている」というい、掃除には不似合いとおもえる姿で働いています。
事務機器メーカー、小さな編集会社、モデル事務所等、派遣先で起こる事件に対して、ロッカー室にある書籍、ゴミ箱や掃除機のゴミなどを頼りに、困っている社員の悩みを解決していくというお話しが納められています。
4話目の話しは<キリコ>自身の問題を絡ませ、夫<大介>が突然一ヶ月も旅行に出た<キリコ>の謎を解く構成で、ほのぼのとした読後感が残りました。
江戸時代を舞台に、許婚<良助>を兄妹同様に育った<松太郎>に殺された16歳の<おちか>は、袋物を扱う<三島屋>を営むおじの<伊兵衛・お民>夫婦に引き取られ、女中と同様に働き心を癒しています。
自分の数奇な運命を背負いながら<おちか>は、自分と同じような傷を持つ不思議な体験を聴くことにより、相手も自分も心の重みが外れていくのを感じ始めて行きます。
副題に<三島屋変調百物語事続>とあり、「変わり百物語」と評して面妖な話しが、シリーズ1巻目の『おそろし』(5話)に続き、今回は(4話)が収められています。
この先(100話)まで続くとすれば、かなり長期間にわたるシリーズとなりそうです。
著者の作品は嫌いではありませんが、どの話も内容的に<山場>を感じることができなく、(4話)で622ページと分量もあり、少し読むのに疲れてしまいました。
<おちか>をはじめ、取り巻く登場人物たちは面白い性格の持ち主たちで生き生きとしていますが、なぜか読後感はすっきりとしませんでした。
著者の作品には、警視庁情報官 <黒田純一>、警視庁特別捜査官 <藤江康央>、警視庁公安部 <青山望>、といった主人公が活躍していますが、今回は女性諜報官<榊冴子>を新しい主人公として登場させています。
「オメガ」とは、警察庁諜報課として海外に支局を持つ国際諜報機関のことで、<冴子>は北京支局香港分室に配属された美人捜査官です。
中国の人民解放軍の配下にある工場で、北朝鮮から鉄道を利用して送られてくる麻薬の精製工場の破壊工作が今回のミッションです。
同僚の<岡林>は中国武芸に通じ、<土田>はコンピュータに精通しているという脇役の設定も面白く、楽しめました。
果たして日本にこのようなイリーガルな部所が存在するのかは別として、中国・北朝鮮の政治事情もよく分析された描写で、これからの<榊冴子>の活躍が楽しみなシリーズになりそうです。
昨年度、著者の作品として 『駐在刑事』 ・ 『未踏峰』 ・ 『挑発 越境調査』 ・ 『偽りの地』 と読みました。
山岳関係の描写を絡めた描写が多く、骨太な内容で一躍にお気に入り作家の仲間入りです。
今回は、笹本稜平名義でのデビュー作『時の渚』で、2001年に出版され、文庫本としては2004年4月の発行です。
元刑事で、今は私立探偵として生きている<茜沢圭>は、末期癌の老人から、35年前にある女性に託した息子の調査を依頼されます。
息子を託した女性が<原田幸恵>だとわかりその後の経過を調査を進めるなか、3年前に自分の妻と息子を轢き逃げした事件の犯人が、老人の息子ではないかとの疑問が持ちあがります。
余命いくばくもない元やくざの老人が息子を手放さなければいけない事情を基線に、親と子の絆を平行線に置き、二転三転と読者の予測を覆す構成は、その後の著者の作品の根幹を良く表しており、感動しました。
タイトル『時の渚』は、すべて読み終わると理解できる、著者渾身の表現だと思います。
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