タイトルに興味を持ち手にした文庫本ですが、発刊は2011年8月でした。
著者の経歴を見ますと、ブログルの<PSP>があるシアトル出身でしたので、何かの縁かなと読みました。
主人公の<ハント>は、カナダ国境の近くに妻の<ノーラ>と住み、競争馬の飼育をしながら、麻薬密売の運び屋をしています。
ある日、深夜に飛行機から落とされた荷を回収する際、保安官補の<ドレイク>に発見され、回収は失敗に終わり逃亡生活が始まります。
保安官だった<ドレイク>の父親も、麻薬取引で刑務所で刑期を務めている背景があり、麻薬が手に入らない組織は殺し屋<グレディー>を麻薬の回収に当たらせ、<ハント>を殺しにかかるのですが・・・。
<グレディー>の異常なまでの殺戮場面が描かれている反面、前科者の<ハント>の落ち着いた行動、保安官補<ドレイク>の父親に対する家族愛とが交差する構成で、ハードな内容ですが、終わり方に一抹の希望が残り楽しめました。
警察署を舞台に殺人事件を解決する小説は数知れませんが、なかなか軽快なタッチの構成で、592ページの最後まで楽しく読み切れました。
主人公は、幼児レイプ犯人を溺れさそうとした経歴があり、問題の多い刑事の吹き溜まりとなっているグリニッジ署に左遷させられた女性刑事<パツィー>です。
署に赴任するなり、棺桶の中の死体が入れ替わる事件が起こり、捜査中に関連なるとおもわれる殺人事件が次々と発生していきます。
コンビを組む<レイデン>との会話や行動が洒落ていて、同じイギリスを舞台にした<デボラ・クロンビー>の 『警視シリーズ』 の主人公<ダンカン・キンケイド>とは趣きが全然違います。
数々の殺人事件が、13年前に起こった2300万ポンドの強奪事件と関連がありそうだと読者を引き付けながら、最後のどんでん返しと、私生活では問題がある<パツィー>や<レイデン>の人情味あふれる行動とが相まって、続編を期待したいエンターティナメントでした。
私立の男子校「珠城学院高校」を舞台にした、痛快な学園小説です。
主人公の<桐野一貫>は大学を卒業すると同時に、母校である「珠城学院高校」に体育教師として赴任してきます。
新任早々、用務員の荒井こと<あらじい>から、彼が夕方から営業している持つ焼き「あらい」へ顔出すように言われます。
そこには、かって自分が教えてもらった先輩教師が5人おり、「薫風会」なるメンバーでした。
「薫風会」は学園内に起こるトラブルを外部に漏れることなく穏便に処理をする目的を持ち、<教師と生徒の親が不倫>、<近隣高校の学生同士の決闘>、<教師の居眠り事件>等の話しが4編収められています。
<一貫>の隠された高校時代の出来事を背景に、学院の教師の中でははみ出し者の「薫風会」のユーモアあふれる短篇が楽しめました。
警視庁の刑事だった<麻生>は、デスクワークとなる昇進の道を自ら辞して、私立探偵として独立しています。
私立探偵としてはステレオタイプ化された感がありますが、組織からのはみ出す性格と離婚歴は、どうやら定番の条件ですがが、重ねて「ゲイ」という要素が加わっています。
本書は刑事時代の出来事を下地に、恋人(?)<山内練>との関係を平行に描き込みながら、連作として4件の事件が納められています。
4件の事件は、個人的な思い入れのある依頼が発端として始まりますが、どれも結末が見えない中、じっくりと読ませる内容でした。
随所に女性作家ならではの視点だなとおもわせる描写もあり、しっかりとした構成力は、さすが著者ならではと読み終えました。
前回に読んだ 『町医 北村宗哲』 としての2作目の短篇集で、シリーズとして現在まで4巻が出版されていますが、文庫本としては3冊が刊行されています。
元渡世人の<宗哲>は、江戸・芝神明前に「北村堂」という医院を構え、評判の町医となっていますが、本人が渡世家業から足を洗ったと考えているにも関わらず、患者だけではなく厄介事が舞い込んできてしまいます。
登場人物は別として、作品に書かれている内容は綿密な時代考証をされていますので、物語の内容と合わせて興味深く読めるシリーズです。
「勝海舟」の曾祖父は、越後から江戸へやってきた目の不自由な人で、賭博場で金貸しで財を築いたとか、前作では<賀川玄悦>が、世界で初めて胎児は頭を逆さまにして背面しているのを発見した医者だとか、面白い話題に事欠きません。
前作に比べて各短篇の終わり方が急な感じがしましたが、どの短篇も連作としてつながる内容で、面白く読み終えました。
<佐藤雅美>は、綿密な時代考証による江戸時代の風俗や世相を調べ、社会制度の正確さ等、安心して読める作家の一人です。
特に町奉行制度や渡世人の裏社会、医学・学問の分野に詳しく、これらの題材を織り交ぜた作品群は、雑学を超えた楽しみで読めることができます。
今回の『町医 北村宗哲』も、渡世人崩れの医者<宗哲>を主人公に据え、岡っ引きの<和吉>を脇役に、8話の短篇が収められています。
<宗哲>は、妾の子供として生まれましたが母親が11歳の時に他界、父の元に引き取られますが、本妻や兄弟からのいじめに遭い、15歳の時に医学館に学び寮に入りますが、父親も亡くなり仕送りが打ち切られてしまいます。
医学館にての勉強を続けられなくなり、途方に暮れていたところに幼馴染みの<惣吉>と出会い、やくざの通称<青龍松>の世話になった経歴を持っています。
短篇ひとつずつは独立した話しですが、昔の渡世家業を引きづりながら、町医としての立場で人情話が語られています。
京都の二条通りの片隅にひっそりと営業している純喫茶「タレーラン」を舞台として繰り広げられるミステリータッチの物語です。
「タレーラン」の珈琲店をあずかるのは<切間実星(みほし)>で、先代の経営者から引き継いだ、まだ23歳の若きバリスタです。
偶然に入ったこの店で学生の<アオヤマ>は、自分の求めていた珈琲の味に魅かれて通い詰めることになります。
<実星>には隠された過去があり、また<アオヤマ>にも表に出せない仕事がらみの事情を抱えての「タレーラン」通いでした。
短篇七篇が引き継ぐ形で物語が構成され、二転三転する結末に読者は翻弄されてしまいますが、京都ならではの地域性を生かし、珈琲好きにはたまらない話題が散りばめられた一冊でした。
10年前、清遠女子高の2年生30人が、遠足に使用したバスもろとも姿を消す事件が起こり、刑事の<奈良橋>は姪を亡くし、その後母親である姉も亡くなります。
仕事上、推理作家の<小田原>が放火殺人事件で亡くなり、執筆中の原稿担当者やその恋人までもが殺される事件が起こり、<小田原>が一時住まわせていた<大山茜>という女性が捜査線上に浮かび上がり、彼女の身辺を調べ始めます。
遠足で使用したバスが、埋められていた地中から発見されますが、ひとり分の遺体が見つかりません。
読者は生き延びた17歳の女子高生が<大西茜>だと分かり、同じような年齢の女性を殺しながら、その身分を騙りながら自分の夢に向かって生き延びてゆく足取りを<奈良林>や<小田原>に雇われた探偵の動きで知らされていくのですが・・・。
前回読んだ著者の 『ドS刑事』 はユーモアがあり楽しめましたが、今回は現実離れしたともいえるべき内容で、「だからどうなの」という感が残りますが、ハラハラしながら読み終えました。
ショートショートの名人である著者の短篇集で、12の話がまとめられています最新作品集です。
お得意のミステリーやブラックユーモアではなく、大人のメルヘンが阿刀田流に展開していました。
どの短篇にも気共通するのは、幼い子供の頃や物心付いた思春期、社会人になりたての頃の思い出や記憶を引き金として、自分の人生を顧みるという、歳を重ねた大人としての心境が、様々な主人公を通して語られています。
「あのときは」といった心境は、誰にもある分岐点として心の隅に刻まれているとおもいますが、どこにでもある日常生活の一場面を切り取っているだけに、人生の重みを感じさせる短篇集でした。
前回読んだ著者の 『嫉妬事件』 はあまりよくありませんでしたが、今回は論理的な推理小説の短篇集で楽しめました。
『六つの玉』 ・ 『五つのプレゼント』 ・ 『四枚のカード』 ・ 『三通の手紙』 ・ 『二枚舌の掛軸』 ・ 『一巻の終わり』と、タイトルの数字に意味を持たした殺人事件を解決していく内容です。
探偵役は<林茶父(さぶ)>で、身長160センチ、頭にソフト帽をかぶり鼻下にはチョビ髭を生やした小太りの体形で、まるでチャップリン(茶父林)を思わせる人物です。
遊び心満載で、特に最後の『一巻の終わり』の終わり方は、秀逸で「なるほど」と感心しました。
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