晩婚と少子化対策で、「25歳から35歳の独身男女は、政府が決めたお見合い相手とお見合いをしなければならない。2人までは断ることができるが、3人断った場合は強制的に<テロ撲滅隊>に2年間の兵役義務が課せられる」という法案が通り、あたふたとする男女の物語です。
女性陣は、看護師の<鈴掛好美>、テレビ局に勤める<名村奈々>が登場、男性陣はツアーコンダクターの<銀林嵐望>とシステムエンジニアの<宮坂龍彦>達が、それぞれの異性感をもちながら、「抽選お見合い会」に参加してゆくさまがコミカルに描かれています。
<銀林>は男前と両親が有名人ということで結婚に踏み切る女性が少なく、また<宮坂>を含めたモテないオタク仲間たちは、デートの機会ができることで心浮き立っています。
それぞれの登場人物たちの生まれた家庭環境を背景に、「結婚」の意味を考えさせる構成で、非現実的(?)な発想がゆえに、それぞれの男女に希望が見いだせるエンディングまで、面白く読めました。
読み終り、解説の<読み終えた方ならこの「小説」がどれほどの爆弾かおわかりであろう。本を閉じてからの毎日を不安のなかで過ごさねばならなくなるはずだ>の文章に「まったくだ」と納得せざるをえません。
主人公<間宮>は、警視庁外事情報部国際テロリズム対策課に所属する警視正ですが、警視庁長官暗殺事件の犯人だと思われるテロリスト<毒龍>を追い求めるうちに、厚生労働省特殊疾病対策本部のメンバーが次々に殺される事件が起こります。
メンバーは共に日本において「クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)」の発病率が大都市近辺で以上に増えていることに気が付き厚生労働省に資料を送るのですが、なぜか政府は一般国民に開示しません。
そんな折、自分の母親を14年前に(CJD)で亡くした週刊記者の<奈村由美子>は、独自に連続殺人と(CJD)の関連を追い求め、中国製の食品の中に<クールー>と呼ばれるプリオン体を含んだ<人間の脳や骨髄>が使用されているのではないかと突き詰めていきます。
対中国との政治的取引が絡み、記憶に新しい毒冷凍餃子事件やダイエット食品による下痢事件、鰻のマラカイトグリーンの使用等、冒頭に述べたとおり中国食品の安全性への不信感、またミドリ十字のエイズ問題等の厚生労働省のかわらない役人体質に義憤を感じながら読み終えました。
四国88か所のお遍路さんは、すべてを一気に巡る「通し」と、何回かに分けてつないでいく「区切り」の二通りがあります。
本書は「区切り」のお遍路ながらも、全行程を歩いて四国一周を果たした体験記です。
文章の頭に、全行程の四国のイラスト図と高低差のわかる図表がありましたので、著者の文章を読みながら、合わせて場所等の確認ができて助かりました。
宗教心も悩み事もない著者は、お遍路自体に意味を見出すことなく、ただ単に四国一周を歩き通したいという理由だけで一番札所「霊山寺」から始め、八十八番札所「大窪寺」、そして「結願」として一番札所に戻るまでの64日が、旅とレジャーの執筆を生業とする目線で綴られています。
足のマメの傷みに耐え、行く先々で「お接待」を受けながらの道中記、<熊倉伸宏>氏の 『あそび遍路』 を読んで以来のエッセイですが、ハウツー物としての知識も増え、面白く読み終えれました。
「未年」ということもあり、今年の読書の一冊目は、9編の短篇が収められた『一匹羊』を選びました。
どの短篇もごく普通にあるだろうなという日常的な生活の場面を背景に、それぞれの主人公たちの心の動きをさりげない文体で描き、新しい人生の一歩を踏み出す心のさまが、素直に心にしみ込んできます。
タイトルにもなっている『一匹羊』は、ごく平凡な縫製メーカーに勤める40歳の<大神>は、受注した居酒屋のユニフォームのデザインが他店の盗作だと見破りますが、上司から売り上げのために目をつぶれと諭されてしまいます。
同じ部署には20歳の<沖元美香>がおり、何事に対しても実直で自分の意見を持つ姿勢に、<大神>は若いころの自分の生き様と重ね合わせて好感をもってみています。
ある日中学生が職場体験に派遣されてきますが、<キクチ>という生徒と触れ合ううちに、若かりし頃の自分の気構えを取り戻していきます。
会社の上司に対して反抗することなく、人間性が丸くなったと周囲から見られていますが、本人は「ずるい大人になっただけ」と割り切って<羊>になっていましたが、<沖元>や<キクチ>に刺激を受け、若いころの希望に燃えた<一匹狼>に変貌する姿が、心に爽やかに響く作品でした。
2015(平成27)年の年明け一番の<生け花>は、大好きな<佐々木房甫>先生の作品で幕開けです。
お正月飾りということで、縁起が良い「松」・「葉牡丹」・「センリョウ(千両)」が使用され、黄色・赤紫色・白色の「菊」が添えられていました。
左上方に大きく「松」の枝を配置し、右側の「松」の枝とのバランスを取る要として各種の花がまとめられていました。
使用されている花器も素晴らしく、全体を引き締める役割を十分に担ってました。
今年最後の読書は、居酒屋好きの酒呑みらしく『居酒屋お夏』を選びました。
主人公は目黒不動で「酒 飯」の幟を掲げた居酒屋を営む女将の<お夏>ですが、経歴・年齢不詳で客に対して毒舌を絶やさず、「因業婆」・「くそ婆ァ」と呼ばれています。
本書は四話の短篇からなり、市井に起こる事件を、「天女」ともおもえる美女が手助けして解決してゆく人情噺ですが、この「天女」が<お夏>だとはどこにも書かれていませんが、自然と読者に裏世界での顔だと暗示させています。
「くそ婆ぁ~」と罵りながら毎日顔を出す口入れ屋の<龍五郎>、<お夏>の店の寡黙な料理人<清次>を脇役に、人生の機微に戸惑う人々との交流がほのぼのと描かれています。
いやぁ~、関西人としては関西弁の駄洒落・ボケとツッコミ・オチのオンパレードで、抱腹絶倒、笑えた一冊でした。
本書は「粉もん」にかかわる7話の構成で、ストーリーの組み立てはどの章も同じなのですが、前述しました巧みな関西弁の文章力と、「粉もん」屋の店主であり主人公である大阪のおばはん<蘇我屋馬子>の強烈な個性で、一話一話どれもが楽しめる内容でした。
主人公<馬子>のお店は、「粉もん」全般を扱うお店として商店街や飲み屋街の一角に店を構え、<お好み焼き>・<たこ焼き>・<うどん>・<ピザ>などを、<蘇我屋イルカ>という10代と思しき女の子と営業、店に食べに来る登場人物たちの悩みを解決していきますが、彼らが改めて足を運ぶと、お店は初めからなかったように消えてしまっています。
B級グルメ派を自認していますが、第一話の<お好み焼き>を中心とした『豚玉のジョー』の章では「隠れた名店」の条件として6項目ほど記載されている部分があり、<マヨネーズは、できれば「いりますか」とたずねてくれるほうがいい>など、相槌を打つ場面が多々あり、「そうだ、そうだ」とひとりでツッコミを入れながら楽しく読み切りました。
<北杜生>が亡くなってはや3年ばかりが経ちますが、2009年に朝日新聞社から発行されていました本書が、新潮文庫に登場していました。
『楡家の人びと』や芥川賞受賞作品の『夜と霧の隅で』などの代表作をはじめ、<マンボウ>シリーズの随筆を高校生の頃に読みふけりました。
著者の「躁うつ病」は有名で、あちらこちらに自ら書かれていますが、当時は今ほど一般的な病名ではなく、同じ精神科医の<なだいなだ>が「北君の社会的貢献は、躁うつ病を世に広めたことだ」と言わしめています。
<斉藤由香>は著者の一人娘で、躁うつ病のために母親と一緒に別居生活を余儀なくされたことや株の投資で破産したこと、日本から独立して「マンボウマゼブ共和国」設立などの裏話が、二人の赤裸々な対談形式で楽しめました。
舞台は商店街の一角にある小さなフレンチ・レストラン『ビストロ・パ・マル(悪くない)』です。
登場人物はシェフの<三舟忍>、サブの<志村洋二>、ソムリエの<金子ゆき>、ギャルソン<高築智行>の4人です。
本書には7編の短篇が収められており、<高築>の目線で物語が語られ、客たちの巻き込まれた事件や不可解な料理にまつわる謎解きを、シェフ<三舟>が見事に解決していきます。
フランス料理の基本的な事柄を随所に散りばめられ、<人は楽しむためにも食べるが、生きるためにも食べる>という<三舟>の哲学的な言葉は、料理の基本として感じ入りました。
悩んだいる当事者の心を慰めるために、随所にシェフ特製の「ヴァン・ショー」というホットワインが登場してきますが、機会があれば試してみたい飲み物として心に残りました。
京都を舞台にした小説は多々ありますが、同じ古都でありながら奈良が登場するのは珍しく、<恩田陸>の旅情ミステリーとしての 『まひるの月をおいかけて』 を思い出しておりました。
著者自身が1986年大阪府生まれ、現在奈良女子大の大学院生ということもあり、奈良が舞台なのは納得です。
主人公である「私」は、大阪の実家から奈良にある女子大学に通う2年生ですが、2月3日に行われる二月堂の節分祭の豆まきで、白い狐のお面を付けた着流し姿の男と出会います。
その傍らには、年上であり美人の<揚羽(あげは)>が付き添っていました。
<女子中・高・大>の環境で育ち、彼氏もいない「私」は、奈良の伝統行事に出向くことで二人との付き合いが始まり、やがて仲の良い<揚羽>を気にしながらも<狐面>の彼に思いを寄せていくのですが、<揚羽>の不注意で彼が子供の頃の花火事故で顔に火傷を負ったことを知り、幼馴染の<狐面>と<揚羽>の仲を取り持つことを考え始めます。
20歳の揺れ動く女心を縦糸として、奈良の寺院や街並・伝統行事を散りばめ、淡い青春物語が詰まった一冊として楽しめました。
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