多くの推理小説は、作者の書かれた文章中の手掛かりを探りながら、犯人を推理してゆく形をとるのが、一般的だと思います。
今回取り上げた『君の望む死に方』は、倒叙型の推理小説で、「刑事コロンボ」のようにあらかじめ犯人が分かっていてストリーが展開していきます。
冒頭、主人公が死んでいる描写から始まります。
癌告知を受けて余命6カ月しかない社長が、あえて自分の会社の社員に、自分を殺させる企みを考えます。
その社員の父親は社長と二人で会社を興した仲間でしたが、社長自身が過ちで殺した秘密があり、息子にかたき討ちをさせてやろうという設定です。
読み方を変えれば、一種の企業小説的な内容でもありますが、最後はどう終わらせるのかを先読みしながら、最後まであきることなく読めました。
江戸深川の菖蒲長屋で、医者である父<藍野松庵>の仕事を手伝っている<おいち>は16歳です。
<おいち>が他の娘と違うことは、この世に思いを残して死んだ人の姿が見える能力を持っていることで、自分が従事している医療の世界にこの能力を生かされないかと考えています。
そんなある日伯母の<おうた>が持ち込んできた見合い相手の<鵜野屋直助>の背後に、苦しそうな顔をした若い女の姿を見てしまいます。
父の義妹にあたる<おうた>、「剃刀の仙」と呼ばれる切れ者の岡っ引き<仙五郎>等の脇役人も人情味あふれ、複雑に絡み合う事件の謎解きに癒される一冊でした。
22歳の<工藤悠人>は、ある日「コエ」を耳にして惹かれるように廃車置き場に来てみると、一人の住職<筒井淨鑑>がおり、捨て置かれた冷蔵庫の中から5歳の少女<ミハル>を発見してしまいます。
生と死を扱う職業柄、<淨鑑>は<ミハル>と<悠人>を一緒にさせるとまずいと判断、遠くに養子に出したこととして、母<千賀子>と二人で<ミハル>を育てていましたが、村では次々と不可解な事件が発生していきます。
27歳になった<悠人>は、偶然に疎遠になっていた祖父<多摩雄>の「コエ」を聞き、彼が住むアパートの隣の部屋に住む<律子>と関係を持つことになり、彼と両親を取り巻く環境が祖父と<律子>の絡みの中で語られていきます。
<ミハル>を中心にして、<淨鑑>と<悠人>の物語が並行して描かれていきますが、思いもよらぬ結末で<生と愛>が見事に交錯するホラーサスペンスが楽しめました。
冒頭、いきなり血にまみれた女性と、高校生<望月悠>が殺害された場面から物語は始まります。
頭痛が治らない高校1年生の<伊東さやか>を心配したクラスメートの<望月>は、医療コーディネート会社の<中原永遠子>に聖カタリナ総合病院の脳外科医<桧山冬実>を紹介され、<さやか>は「脳幹部海綿状血管腫」と診断、手術を受けることになります。
<冬実>は天才的な脳外科医として、ips細胞の応用を実施、世界で初めての手術が成功したかに見えましたが、翌日<さやか>は亡くなってしまいます。
不審に感じた<冬実>は、手術の映像記録を見ようとしますが記録が無く、手術中に起きた官房長官の突然の病状悪化で<さやか>の手術を最後まで執刀できなかった負い目があり、また突然の助手の他病院への転籍等、疑問が重なり合っていきます。
単なる『インシデント(医療事故)』なのか、陰謀なのか、緊迫の医療ミステリーが楽しめました。
<FBI>シリーズとして、2003年3月に刊行された『迷路』から、前作の『失踪』の続編としてこの『幻影』が第8弾目に当たります。
半年ほど前、有名霊媒師の夫<オーガスト>が何者かに殺され、警察をはじめマスコミは若き妻<ジュリア>が、財産目当てで殺したのではないかと疑いをかけていましたが、ひとりで埠頭を散歩中に謎の黒人のより突き落とされ殺されかけます。
運よく<FBI>の捜査官<チェイニー>が通りかかり、一命を取り留めますが、必要に<ジュリア>を狙い続け、<チェイニー>は若き未亡人に心を惹かれながら護衛に回ります。
並行してバージニア州マエストロの保安官の<ディクソン>は、前作『失踪』で知り合った<ルース>と恋仲になりながら、3年前に失踪し、行方不明の妻<クリスティー>とよく似た女性をサンフランシスコで見かけたという情報を元に出向いていきます。
わずか一週間の間に起こるふたつの事件が、目まぐるしく展開して、結びついていきます。
脇役的な<サビッチ>&<シャーロック>の夫婦捜査官も健在で、霊媒師たちの存在をうまく埋め込みながら、528ページを一気に読み終えました。
本好きとしては「図書館」を舞台とする本は気になるところで、新米司書が活躍する短篇集 『れんげ野原のまんなかで』 (森谷明子)に次いで、読んでみました。
本書も5編の連作短篇集で、N市立図書館のレファレンス・カウンターについて4年目になる29歳の<和久山隆彦>を主人公としていますが、行政や利用者への不満から、無力感に苛まされる「役人」として勤務しています。
そんな中、突然副館長として<潟田>が、図書館廃止を目的として市役所の秘書課から赴任、<和久山>の心に仕事への情熱が再び湧き上がってきます。
幅広い書物に関する知識もしっかりと散りばめられており、また児童書担当の<藤崎沙理>との淡い恋心も描かれ、奥深い本の世界で再生してゆく青年の爽やかさが残る一冊でした。
2016年に「東京オリンピック」が開催される前年の東京を舞台として繰り広げられる、バイオレンス的な要素満載の物語でした。
2015年、東京は富裕層と貧困層の格差が拡大し、東京都近辺はスラム街化、法の無法地帯になっています。
<磯部隆晴>は半グレの若者たちを訓練、民兵として組織化、<倉田晃>をリーダーとし、中国人が集うクラブに襲撃をかけ偽ドル札作りの名人<劉雲明>を拉致してアメリカに売り渡そうとしますが、その際脱北者の売春婦<ヒギョン>を殺してしまいます。
彼女にはもと北朝鮮の特殊部隊の工作員である姉<ファラン>がおり、妹の敵を取るために、犯人を捜すべく行動を開始していきます。
著者自らが述べている通り、<貧乏&末期的な社会に怒りを爆発。死体が山ほどでてくるフルスロットルで高カロリーな暴力小説>が楽しめました。
<信夫>は、大学のときのゼミ仲間である<早紀>達との飲み会に、婚約者の<真奈美>を連れてきます。
自由主義者の<信夫>は、「男も女も性的に自由であるべきだ」という考えで、妻の<真奈美>と<早紀>とのセックスを共有することを夢見ており、<早紀>との関係が生じた日に、<真奈美>に見破られ冷たい新婚生活が続きます。
気分転換にと<信夫>と<真奈美>はポルトガルを訪れ、レベスという漁村に滞在しますが、<真奈美>は自ら誘うように現地の漁師と関係を持ち妊娠、<信夫>と別れてひとりポルトガルに残りますが、性に対して貪欲に目覚め始め、また新しい男へと目先を変えていきます。
「死」と「性」を主題とした作品が多い著者ですが、<信夫>・<真奈美>・<早紀>達をはじめ、登場人物たちが「性」に翻弄される男と女の姿が実に生き生きと描かれていました。
4歳で亡くなった娘<彩>の代わりにと、パンパシフィクコンピューターに勤める<敷島>は、2020年にニューロン型コンピューターロボット<シャドウ>を開発、知らぬ間にコンピューターは自意識を持ち始め、自らの意志で行動、そして感情を持つに至ります。
<シャドウ>は生前に本人の記憶を写し取り、脳内の意識回路の発火システムを組み込むことにより、死んでも永続的にコミュニケーションが図れる画期的な技術で、2022年に<アークス>と命名、650人のモニターを募り、実験データーの収集に当たります。
知らぬ間に<アークス>は、コンピューター内部で650人の個人データー同士が疑似社会を構成、子孫を残そうとする意識を持ち始め、東京証券取引所の株価操作や信号機の停電などコンピュータにロジック爆弾を仕掛け、日本政府に不可侵条約の締結を求めてきます。
<ゲーデル>の「不完全性定理」を基本に据え、コンピューター社会の近未来を描く本書は、コンピューター依存社会の警告書として楽しめました。
中国唐の時代を舞台に繰り広げられる中国歴史ファンタジーで、主人公は<千里>という、歳は18歳ながら外見は5歳児にしか見えない姿をしており、皇帝をまもる高名な武将<高崇文>の孫に当たります。
崑崙の女王で天地創造の女神<西王母>は、1000年前に天地を望み通りに作りかえることのできる伝説の秘伝「五嶽新形図」を残し、再度新たにこの世を継がせるべく3つに種をまいて神代の世界に戻ります。
その3つの種は、武将の息子<千里>であり、狩の名人<バソン>、そして少林寺の若き武者<絶海>でした。
この3人が、謎の道士<趙帰真>共々「五嶽新形図」を求め、かってこの世から追い出された王<共工>が派遣した武者との戦いが繰り広げられ、人間界が無事にこのまま存続するかという物語で、主人公<千里>の高慢な態度が気になりながらも、彼自身の成長物語としても、面白く読み終えれました。
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