ワシントンDCに住む<ケイト>は、夫<デクスター>がプログラマーとして金融関係の大きな仕事を請け負い、ルクセンブルグに息子たちと移住してきます。
<ケイト>は大学を卒業して10年ばかり、夫に経歴を隠したままCIAに勤め、殺人を含めて諜報活動をしてきた過去を持ち、移住に際して退職してしまいます。
移住してしばらく経った頃、<マクレーン>夫妻と知り合うのですが、自分の経歴と関係があるような気がして、独自の調査を進めて二人がFBIの捜査員だということを突き止めます。
自分自身に対しての素行調査なのか、夫の仕事に関係しているのか、時系列を前後させながら手に汗握る疑惑の展開が繰り広げられ、最後まで一気に読み進めさせる構成でした。
物語は、7年前に世間を揺るがした6000億円の「明和銀行」の不正融資に絡み、旧大蔵省の官僚が二人殺されるところから始まります。
フィクションでありながら、1997(平成9)年に発覚した「第一勧業銀行(現みずほ銀行)」の460億円に上る不正融資事件と、大蔵省接待汚職事件を思いうかべてしまいました。
不正融資を捜査していた<松浦>刑事は捜査中に殉職してしまいますが、一人残された息子<亮右>は家に閉じこもるようになります。<松浦>の同僚<赤松>刑事の指導もあり、社会復帰を目指しているなかに事件は起こります。
公安部は、殺人事件の犯人として<亮右>を身柄を拘束しようとしますが、<赤松>は事前の情報から<亮右>を緊急避難させます。
銀行の不正問題に絡み、人生の方向を狂わされた周囲の人物たちと、公安部と刑事部の権力と陰謀の対立の中、手に汗握る展開が広がります。
本書の副題は<幹館大学ヘンな建物研究会>とあるように、変な建物を見て回る活動をしているサークル「ヘンたて」のお話が、4編収録されています。
建築業界では、「トマソン」という名称でひとくくりしていますが、意味のない建築物や構築物に対して使用され、結構人気のある分野で、用途的に本当の窓のない 変電所 などにも、遊び心の仕掛けが施されています。
本書は、幹館大学に入学した新入生の<中川亜香美>を中心に、サークル「ヘンたて」の創立者で7年生の<上梨田>など7名の会員の活動記録とともに、サークル内での男女の恋心を描いた青春ミステリーです。
文庫本での「書き下ろし作品」ですが、まだ1年生の<亜香美>ですし、変な建物は現実的にも数多くありますので、続編が出てきそうな予感がしています。
著者は、江戸の妖(あやし)たちが活躍する<しゃばけ>シリーズで、一躍人気作家入りを果たしています。
本書はその江戸時代から明治に元号が変わり、明治23年頃を舞台とする、捕り物物語です。
主人公<皆川真次郎>は6歳で孤児となり、築地に造られた英吉利の居留地で育ち、外国人が発音しやすいということで<ミナ>と呼ばれていますが、本人は女性と間違えられることであまりいい気はしていません。
居留地に住んでいたときに手ほどきを受けた西洋菓子作りを生業として「風琴屋」を開いたばかりですが、巡査となった元大名の<長瀬>を中心とする息子たちの団体「若様組」と仲が良く、各種事件に振り回され、思うように「風琴屋」の経営が軌道に乗りません。
成金の「小泉商会」の当主や娘<沙羅>などの脇役もいい味を出しており、5編ある各事件のタイトルも、「チョコレート」・「シュークリーム」・「アイスクリン」・「ゼリーケーキ」・「ワッフルス」などのお菓子名に由来、文明開化当時が忍ばれる構成になっています。
結婚式場に勤めている<エリコ>は、一人娘<チカ>が中学生のときに34歳で離婚、母娘だけの生活が始まりますが、ふと耳にした小唄の発表会で三味線の音に心を奪われてしまいます。
娘<チカ>の高校受験を控えながら、三味線の師匠につき<エリコ>は小唄と三味線の練習に励み、師匠も驚くほどの上達をとげ、やがてプロの芸者(地方)として花柳界の世界に飛び込んでいく物語です。
三味線の世界は門外漢ですが、これ一冊で芸事の知識が増え、師弟関係や組織の仕組みが、素人にもよくわかる内容にまとめられていました。
母親からは「芸者なんて」ということで絶交状態で物語は終わりますが、思わず<エリコ>に「頑張れよ」と言いたくなるバツイチ女性の奮闘記として、面白く楽しめました。
表紙の副題に「建築探偵桜井京介の事件簿」と書いてある通り、本書は大学院生の<桜井京介>が歴史ある建築物にまつわる事件を解決するシリーズとして、1994年4月に刊行された『未明の家』に始まり、15巻目の本書『燔祭の丘』(2011年1月)でシリーズとして完結です。
建築設計を生業としていますので、『未明の家』から読み始め、5巻ごとを節目とする第2部までの10巻目あたりまでは読み続けていましたが、その後の第3部からは読んでいませんでした。
「シリーズ完結!!」という帯の文字が目に留まり、久しぶりに手にしてみました。
残念ながら、推理小説としての事件モノではなく、主人公<桜井京介>の出自に関する内容で、このシリーズを続けて読んでいない読者には登場人物との関係などを含め、意味が分からないだろうとおもいます。
おそらく第3部の5巻シリーズにおいて、それなりの伏線が敷かれていると思いますが、これだけを読んでは楽しめない内容でした。
タイトルの『食堂つばめ』を見たときには、電車の食堂車(ビュフェ)を連想したのですが、グルメモノとは全然違う内容でした。
主人公<秀晴>は、夢かと見間違う臨死体験をして無事に意識を取り戻しますが、その夢の中で大好きな「玉子サンド」を車内食堂で食べるという奇妙な経験がきっかけでした。
もう一度<ノエ>という女性が作ってくれた<玉子サンド>を食べたいと考えていると、生と死の境目の世界(街)に再び迷い込んでしまいます。
その(街)で<ノエ>と再会、<りょうちゃん>という人物と出会い、生死をさまよっている人たちを生の世界に連れ戻す手伝いを求められます。
グルメモノではないと書きましたが、生の世界に戻る意欲は、「まずは腹ごしらえ ・ とにかく何か食べる ・ 食べたいと強く願う」といったことを底辺にして、物語は構成されています。
恐竜を復活させたレジャーランドを舞台とした『ジュラシック・パーク』、日本の企業を舞台にした『ライジング・サン』など映画化された作品も多く、人気テレビドラマ『ER』の製作者としても知られる<マイクル・クライトン>ですが、2008年11月に亡くなっています。
この『パイレーツー掠奪海域ー』は、彼の死後発見された遺作で、17世紀のカリブ海を中心とする物語です。海賊(私掠)船の船長<ハンター>を主人公に、スペインの財宝船を掠奪しに仲間と共に出航しますが、スペイン軍艦の悪名高い司令官<カサーリャ>とのし烈な戦いが待ち受けていました。
一度は手に入れた財宝船ですが、無事に寄港できるのか、<M・クライトン>らしい波乱万丈の二転三転の構成で、読者に最後までどうなるのかとハラハラと楽しませてくれます。
「訳者あとがき」には、プロデューサーを<スピルバーグ>とする映画化が進んでいるようで、これまた配役が気になり封切が楽しみです。
フランスのドノエル社から初版が刊行されたのが、1962年です。
創元推理文庫としては2012年2月に発行されている、古典的名作を読んでみました。
資産家の<ミドラ>を伯母に持つ<ミシェル>と<ドムニカ>とは幼馴染で、20歳の時に偶然に再開、仲良く暮らしていましたが、<ドムニカ>は<ミシェル>の資産に対して愛情とともに嫉妬をも感じ、<ミドラ>に虐げられてきた家政婦の<ジャンヌ>と共謀、<ミシェル>と入れ替わり余命少ない<ミドラ>の資産を手に入れようと火事を起こし殺害の計画を進めます。
計画通りに火事が起こし、現場からは顔全体に火傷を負った若い女性が救出されますが、記憶喪失に陥り生き残ったのは<ミシェル>なのか<ドムニカ>なのか、読者に推理をさせながら物語は進んでいきます。
記憶をなくしながら事件を推理する「探偵役」であり、火事の「被害者」であり、また「証人」の立場でもあり、「殺人犯」であるかも知れないという立場での<わたし>は一体どちらなのか、最後まで読者を引き付ける一冊でした。
『ブラックアウト』は、電気業界用語として「完全な停電状態」を意味しています。
本書は(上・下)2巻で、1000ページを超える大作です。電気が止まった時の生活手段や、原子力発電所の安全性の問題など、多々考えさせられる内容でした。
十数日間におよびヨーロッパ大陸が停電に見舞われたパニック小説で、イタリアとスウェーデンで始まった停電が、他のヨーロッパの国々に次々と拡大、市民生活を脅かしていきます。
<福田和代>の 『TOKYO BLACKOUT』 も、東日本大震災が発生する前に書かれていますが、本書にも福島第一原発の話題が皮肉な内容の描写で登場してきますが、東京電力の対応ではさもありなんという感じでした。
イタリア人の元ハッカー<マンツァーノ>が、電力メーターの不審な動きを見つけるところから物語が始まり、大停電の真相に迫っていきます。登場人物の数も多く、ヨーロッパ各地の地名の場面転換もめまぐるしいのですが、上巻のなかばぐらいまで読み進みますと全体の関係がよくわかり、ハラハラドキドキの展開に最後まで一気に読み進められる一冊でした。
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