ゴールデンエッグス社主催のミステリー新人賞を、元人気俳優の<向坂祐一郎>が受賞、200万部を超えるベストセラーになります。
小説家を目指す<岡田平助>は、この<向坂>の小説が、自分が過去に応募し、≪小説家の道≫というサイトに掲載したものと同じで、盗作だと知ります。
見逃すわけにはいかない<平助>は、ゴールデンエッグス社の編集者<泉田>に連絡、調査を依頼するのですが、盗作問題は思わぬ方向に発展していきます。
新人賞を絡む出版業界の裏話を通し、ミステリー作品がミステリーを産むという構成で、結末がどうなるのかと最後まで興味が尽きませんでした。
本書は2011年第144回直木賞の受賞作ですが、著者は2013年の『櫛挽道守』で、今年度の「第9回中央公論文芸賞」・「第27回柴田連三郎賞」・「第8回親鸞賞」を同時受賞しているということで興味を持ちました。
文明開化に踊る明治10年、根津遊郭にある「美仙楼」を舞台として物語は始まります。
武士の次男として生まれた26歳の<定九郎>は、厳格な武士としての教育を受けながら大政奉還により身分を失い、「美仙楼」の<立番>として客引きをしていますが、自分の将来が定まらない中、日々をやり過ごしています。
廓という閉鎖的な社会を舞台に、人気花魁の<小野菊>、噺家の弟子と称する<ポン太>、討伐を志願する賭場の用心棒<中公>など、複雑な人間関係が絡み、明治に始まる「自由・民権」の意識が芽生える社会を背景に、それぞれの人間模様が鮮やかに描かれている作品でした。
特に<美仙楼>を守る「妓夫」<龍造>の、履物の下駄を通しての人間観察眼が素晴らしく、まさに「足元を見る」という言葉がぴったりでした。
<仮面警官>シリーズも、第5作目の 『謀略』 に次ぎ、本書『巨悪』で最終巻になりました。
かっての恋人<真理子>が、衆議院議員<嵯川>を筆頭に神奈川県警本部長<景山>や、指定暴力団「河内連合」のトップ<日下部>達の陰謀を追及するために<南條>は、元警察官の<多治見>の捜査資料が記録された<USB>を巡り、謹慎中の身でありながら独自で陰謀組織に立ち向かっていきます。
<嵯川>は、32年目のアメリカ留学でふられた恨みを晴らすべく、虎視眈々と<美月>総理の失脚と、手を組んいる「河内連合」<日下部>の中国進出を狙い、<美月>が政治的に失脚するように計画を進めていきます。
最終的に<嵯川>たちの陰謀はあばかれ未然に終わりますが、主人公である<南條>は<USB>を取り返す時に拳銃で撃たれ、その後の経過がわからず、殺人の過去を背負った<仮面警官>としての結末はあやふやなままの終結でしたが、そのことを読者に不満と感じさせない見事なエンディングでした。
第1作目の『仮面警官』に始まる<仮面警官>シリーズは、『発覚』・『告白』・『驚愕』と続き、今回の『謀略』で5作目になります。
前回より間が空き、久しぶりにシリーズ物として読みつなぎましたが、親切にも複雑な登場人物の一覧表が冒頭に整理されていましたので、読みやすくなっていました。
この『謀略』にて、国家を揺るがす陰謀の影役者<嵯川>衆議院議員や、「河内連合」のトップ<日下部昇>、本邦初の女性総理大臣になった<美月玲子>たちが、32年前にアメリカ・マサチューセッツの大学で学んでいた背景が語られ、読者におぼろげながら対中国政策に何らかの思惑があることを匂わせています。
主人公の刑事<南條達也>は、過去に自分が誤って射殺した組員<木村>の事件を、退職した刑事<多治見>に見破られています。同時に<多治見>はこれにかかわる「河内連合」の捜査資料を<USB>にまとめているのですが、尾行しているのを知られ、「河内連合」の口封じに合ってしまいます。
亡くなったと知らされていた<真理子>は、父親が陰謀に加担しているのを嫌い偽名で勤めていましたが監視下のもと身分がばれており、「河内連合」の手によって拉致されるところで、本巻は終わり最終巻に向かいます。
前作 『食堂つばめ』 で、臨死体験を経て生の世界に戻った<柳井秀晴>は、「食堂つばめ」で死の世界から生の世界へ送り返す仕事を(ノエ)から依頼され、生と死の境目の世界(街)に自由に出入りできる力を与えられています。
「食堂つばめ」で、人生の思い出の食事をおいしく食べることができた人は、生の世界へ戻れることができ、料理人(ノエ)は(街)に紛れ込んだ人たちのために腕を振るい料理を作り出します。
今回は、妻のオリジナル料理である「つゆだくの肉じゃが」、老舗洋食店の「グラタン」、おばあちゃんがつくってくれた「かき餅」などがキーワードとして登場、それぞれの登場人物たちの思い出話がプロローグとエピローグに挟まれて4話が納められています。
特に二話目の『夢のランチバスケット』は5歳の女の子<花穂>が主人公で、これから夢を持ち大人になっていく夢のある終わり方で、ほのぼのとさせてくれました。
高校3年生の2001年、短歌集『ハッピーアイスクリーム』にて歌人としてデビューし注目された著者ですが、その後小説等にも活動を広めています。
この『あかねさす 新古今恋物語』は、『新古今和歌集』に詠まれている歌をモチーフとして、中高生から45歳までの登場人物たちの恋物語が22話納められています。
タイトルの<あかねさす>は、『万葉集』に出てくる<天智天皇>の妻<額田王>が詠んだ枕詞ですが、以前は天皇の弟<大海人皇子>と結婚、子供まで設けているという複雑な立場の女性で、正解がない男女関係を象徴しているようです。
『新古今和歌集』が編まれた千年ほど前の時代も現在も、男と女がいる限り、これからも奇なる恋愛物語は生み出されていくようです。
毎日のように発行されている文庫本ですので、地元「神戸」を舞台のミステリーながら見逃しておりました。
主人公は<大河原探偵事務所>に勤める<嶋野康平>で、妻<聡美>の神戸転勤に際して警視庁を辞め、探偵業に転職した経歴で、”無眠者”として睡眠をとらなくてよい体質を持っています。
若い所員の<村井幸太>と<白崎珠理>の上司として、今回は資産家の母子が何者かに狙われているのを阻止する任務に就き、無事に謎の暗殺者から身を守れるのかと、最後まで緊張感の続く展開でした。
探偵事務所は「元町」にあり、わたしの好きな「新開地」をはじめ阪神間の地名が出てきますので、楽しく読み切れました。
安倍内閣の目玉女性大臣でした、小渕優子前経済産業相・松島みどり前法相が、10月20日に共に辞職して10日ほど経ちました。魚の目鷹の眼の政治の世界ですが、マッコリの炭酸割りを飲む<安倍総理>の表紙に目が留まりました。
本書は、国会議員たちと産経新聞社の政治番記者の著者とが、酒を酌み交わしながらの政治談義が、お店の紹介と共に22人が登場しています。
政治家と言えども人間、酒が入る場所ではつい本音の言葉が漏れ、また人間性がよく表れるものです。
日常のテレビや新聞報道だけでは伝わらない裏の顔がよく表現されており、特に巻末の『特別宴席』に登場されている、<石破茂>と<野田聖子>との対談は秀逸でした。
建築家と呼ばれる人たちの理論武装の本とは対照的に、現実的な問題を体験してきた人たちの実践記は、建築設計を生業としている立場としては反面教師として楽しめる分野です。
以前にも漫画家の<内田春菊>さんの自宅建設奮闘記として 『ほんとうに建つのかな』 というのがありましたが、今回の著者はイギリス社会を中心に住宅にも関心がある編集者の立場での実践記として楽しめました。
東京の人気の町で見つけた築40年近いマンションを500万で購入、200万をかけてリフォームした経過を細かく描きながら、並行して今の日本の住宅の状況の分析を行っています。
「リノベーション」という言葉が聞かれる昨今ですが、古いというだけで壊されていく建築環境を憂い、また賃貸の家主が「貸す喜びを持つ」ような心構えがなぜ生まれないのかという疑問が、今の日本の住宅環境の貧しさを表しています。
主人公は<霧村雨>35歳、以前は事務所を借りて「霧村探偵社」を開設していましたが、家賃滞納で今では東京山手線の車内が彼のオフイスです。
相棒としてミステリー作家志望の<ミキミキ>こと<三木幹夫>と、自称助手の小学校5年生の<道山シホ>の二人がいい脇役の味を出しています。
目白駅での小学生の飛び込み自殺と思われる事件をきっかけに、社内の痴漢行為の濡れ衣事件、若い女性を付きまとうストーカー事件、ロングコートチワワの行方不明事件等、山手線内に起こる身近な事件が連作で構成され、最後は<霧村>が山手線に乗り込む要因となった事件につながっていきます。
<山手線=環状線>の図式通り、各事件のつながりに意味があり、全体的なミステリー構成のうまさに「なるほど」と感心する一冊でした。
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