大宮市に住む、24歳の美容師見習の<野沢鉄郎>は、顔も見たことのない父親の遺産としてマンションを相続します。
ある日マンションに向かうと部屋の灯りがついており、不審に思いドアを開けますと、見知らぬ男が引越しの作業中でした。
相手は<高岡照彦>と名乗り、年齢は37歳。やはりマンションの相続を受けたと主張するので、父の生まれ故郷の北海道新十津川駅に住む父の親友のもとに真相を確かめるべく出かけます。
大雪の悪天候のために無事に大宮まで戻れるかと心配する中、「鉄道オタク」の<照彦>との珍道中が始まります。
お互いが母親の違う異母兄弟だと分かり、途中<滝川>とあだ名を付けたきれいな女性と偶然再会、彼女の秘めた人生に兄弟が絡みながら、物語は進んでいきます。
「人生は鉄道と同じ、特急もあれば普通でも進んでいける。途中下車や迂回路もあっていいではないか」という、<照彦>の言葉が印象に残る一冊でした。
精子バンク<ゼウレト>で産まれた天才女子高生<穂積沙羅華>と、彼女を顧問とする調査会社「ネオ・ピグマリオン」に勤める<綿貫基一>の二人がおりなす、近未来的な小説です。
調査会社には、<沙羅華>が設計した量子コンピューターが備え付けられており、クライアントの依頼に合わせて使用されます。
今回の依頼は「イコ」という猫が一匹ですが、報酬は一千万。その裏側には、遺伝子操作により生み出された「イヌ」と「ネコ」とのDNAを合わせもった「イコ」という猫が研究所より逃げ出し、自然界でどうなるのか、また分析されると隠れて遺伝子捜査を行った<ゼウレト>の組織自体の存続にもかかわってきます。
<沙羅華>自身が自分の出生の負い目を背負いながら、「生命とはなにか」・「自分とはなにか」という葛藤を続ける、一人の人間としての姿が印象に残る一冊でした。
読み終えて、この本をどう紹介しようかと悩んでしまいました。
6篇の短篇話と、最終話を合わせた7篇から成り立っているのですが、この最終話でもって、6篇の短篇話がつながる連作ミステリーの構成です。
各短篇は、市井の日常生活の中で起こりうる殺人事件を取り上げており、それに関わる身近な人間の行動や心理を、細やかな語り口で書きすすめられています。
ミステリー作品ですので、ひとつひとつの話を細かく述べるわけにもいかず、6篇に共通する最終話を明かすわけにもいかず、紹介するのが難しい作品です。
読んでいただかないと、タイトルの『脇役スタンド・バイ・ミー』の意味も、これまた説明が難しいのです。
主人公は<ハルさん>こと、人形作家の「春日部晴彦」と、その娘<ふうちゃん>こと「風里(ふうり)」です。
奥さんを早く亡くした<ハルさん>は、ビスクドール人形を制作しながら、男でひとつで娘<ふうちゃん>を育てて来ましたが、娘の結婚式に出向くタクシーの中で、幼い頃の思い出話が浮かんできます。
幼稚園で、お弁当の卵焼きやぬいぐるみが消えた出来事、小学4年生の時に飛行機を使って北海道まで出かけたこと、中学生の仲の良い同級生の転校話、高校生の花屋さんでのアルバイト、大学生の寮生活、そして結婚と娘の人生が綴られてゆきます。
推理文庫ですので、ミステリアスな部分も挟み込まれ、ほのぼのとした親子の姿が描かれていました。
昨年読みました著者の 『公園で逢いましょう』 は、それぞれ登場するお母さんたちたちの人生描写が素晴らしく、感動させていただいた一冊でした。
今回の『路地裏ビルヂング』も、同じ路線での連作短篇集ですが、人間の「やさしさ」がよく描かれていました。
舞台は、路地裏の築49年経つ6階建ての古い<辻堂ビルヂング>です。
6編からなる連作短篇集で、それぞれの階に入っているテナントを舞台に、ビル全体の物語として語られていきます。
健康食品販売会社、広告デザイン事務所、不動産屋、学習熟、無認可保育所、1階が飲食店とそれぞれに職域が違いますが、各テナントに勤める社員を主人公として描き、またテナント全体の人間関係を見事につなげています。
ささやかな雑居ビルの中にも隠された歴史があり、思いもよらぬ人生が隠れているのだと、改めて著者の優しい目線を感じさせる一冊でした。
文庫本の解説を読みますと、朝日放送系ですでにテレビドラ化された『越境調査』の第2作目の作品です。
多摩川河川敷でホームレスの段ボール小屋から、死後一週間ほど経つ他殺死体が発見されます。身元は電子部品メーカー社長の<鹿沼>で、小屋の持ち主は黙秘を続けたまま、警察署の屋上から飛び降り自殺をしてしまいます。
7年後、小屋の持ち主の名前が判明しますが、彼には当時アリバイがあることが判明します。警察は発表をすることなく、上層部のキャリアは迷宮入りを狙っているように思える警視庁捜査一課の<鷺沼>は、上司の<三好>、新人の<井上>と継続捜査を行いながら、<鹿沼>とパチンコ業界のドン<飛田>との関連に疑惑の目を向けて周辺捜査を続けていきます。
前作『越境捜査』で登場した神奈川県警の<宮野>や、ヤクザの<福富>達の脇役も健在で、パチンコ業界と警察官の癒着をベースに、真実を求めて挑戦する<鷺沼>達の活躍が小気味よく読めました。
神戸には日本最大の暴力団山口組の本部があり、 溝口敦の『暴力団』 というノンフィクションも今年読みましたが、この手の分野に興味を持ち読んでしまいます。
201年8月、突如行われた吉本興業の島田紳助の引退会見を切りだしに、島田の不可解な不動産取引の実態に迫り、大阪府警暴力団担当者の地道な活動が綴られてゆきます。
副題に<「祝井十吾」の事件簿>とありますが、取材先を限定させないために、大阪府警の暴力団担当刑事達複数を便宜上「祝井十吾」として登場させています。
山口組の<神戸芸能社>を発端とする組と芸能人の関係、ボクシング興行にまつわる組との関係、地上げや仕手株のとの関連などが細かく取材され、面白く読めました。
調べ物のために書店へ出向きましたら。気になる書物と遭遇してしまいました。
昆虫好きとしては、バイブルともいえる『ファーブル昆虫記』が、集英社創業80周年記念企画として出版されていました。
立派な装丁で全10巻(すべて上・下で合計20冊)の構成で、一冊(3200円)です。
中学生頃に読んだ第1巻は「フンコロガシ」が主人公で、いまだ楽しく読んだ記憶が残っています。
すでに16冊が刊行されているようでしたが、5センチを超える厚みのある重厚さですので、さてどこに置ける(積み重ねられる)かなと考えると、諦めざるをえません。
前作の『1Q84Book3』から、3年ぶりになる長編小説です。
主人公<多崎つくる>は、名古屋の高校時代にボランティア活動で知りあった仲間<赤松慶><青梅悦夫><白根柚木><黒埜恵理>のと仲良く交際を続けるなか、突如大学2年生の時にグループからのけものにされてしまう過去を背負っています。
何が原因か分からないまま、苦しさを乗り越えなんとか自殺に走ることもなく、無事に東京の大学を卒業、憧れの駅の設計者として東京で暮らし、わだかまりがある名古屋に戻ることもありません。
旅行会社に勤める2歳年上の<木元沙羅>と交際中の<多崎>は、彼女から「まだその時のこだわりが心の中にある」との指摘を受け、16年経た今、かっての仲間に会いに出かける決心をし、真相を求めに名古屋に出向いていきます。
色彩の文字が付く4人の仲間ですが、<多崎>だけは名前に色の文字がありません。絵の具のように、混じり合えば元の色がなくなるように、人間の心の模様も変化するさまの象徴として登場していると考えられますが、学生時代の2学年下の<灰田>や、<沙羅>との関係も中途半端な感じな終わり方で、消化不良が残りました。
文庫本の表紙にも描かれていますが、ブラシ状の小さな白い花を咲かせる「ヒトリシズカ」は、その可憐さから<静御前>になぞらえて名がつけられています。
本編の登場人物として重要な役割を果たす<伊藤静加>の、引きずられてゆく数奇な運命の象徴として、読み進むにつれてタイトルの『ヒトリシズカ』の意味合いが浮きあがってきます。
短篇6篇からなる構成ですが、連作小説として話が引き継がれていき、どのような結末に至るのか、最後まで目が離せませんでした。
住宅街のアパートで、男が押し入ってきた別の男に射殺される事件が発生、現場近くの交番に勤務する巡査<木崎>が現場に急行すると、先輩の<大村>が既に現場にいたところから物語は始まります。
捜査が進むにつれて容疑者が特定されますが、死因の銃痕あとに疑問を感じ釈然としないまま<木崎>は、この事件の捜査から離れるのですが、その裏側では過去に大きな傷を持つ一人の少女の存在があることなど、予測できません。
一人の少女として<伊東静加>は13歳で家出をし、その後16年間に渡る逃亡生活を行いながら、驚くラストの結末まで一気に読ませる一冊でした。
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