副題に<警視庁特別捜査官・藤江康央>とありますが、主人公は<藤江康央>を室長とする複合事件を取り扱う捜査第一課に新設された特別捜査室の活躍を描いています。
捜査一課として、組織犯罪対策室や公安部などとの合同捜査はタテ社会の警察組織においては人間関係がこじれやすく、捜査に支障をきたすのを避けるために、新設された特別捜査室です。
開設後間もなく、大商社「日美商会」の御曹司の誘拐事件が発生、<藤江>は責任者として任務に就き、パスモ、Nナビ、防犯カメラ、偵察衛星等のデジタル機器とコンピューターを組み合わせて情報を分析、誘拐犯を追い詰めていきます。
主人公の<藤江>とその先輩<倉田>巡査部長は、共に兵庫県出身ということで、二人が関西弁で会話をするのは余録として楽しめました。
ただ、<藤江>が赴任していた韓国の女優<チェ・アジュン>の関係や、部下である<大谷久美子>と<加納久美子>との二股をかける描写は、いらぬ読者サービスに感じました。
前作 『トリックスター』 に続く警視庁総務部企画課情報室室長<黒田純一>を主人公としています、文庫書き下ろし作品です。
恋人とハワイで休暇中の<黒田>は、偶然に暴力団極盛会組長の<宝田>を発見、体調不良と見られ姿をくらましていたはずが、入国できないアメリカでバカンスを楽しんでいることに疑問に感じます。
調べてゆくと<宝田>はアメリカの病院で臓器移植手術を受けたようで、調査の過程で臓器密売ルートの組織が浮上、持ち前の分析力と人脈を駆使して、組織の解体へと突き進んでいきます。
いつもながら情報官としての緻密な分析と、情報室の部下たちへの思いやり、タテ社会の警察組織のなかでノンキャリアとしての行動等、<黒田>の人間性がよく描かれていました。
この捜査の成功で<黒田>は昇進して万世橋警察署長として赴任することになり、情報室長から離れてしまいます。
この先、後任の<吉田宏>を主人公に新しい情報室としての物語りが展開するのか、警察署長としての<黒田>の活躍が楽しめるのか、期待がかかるところです。
小児科医として勤務している<押村悟郎>のもとに、18年間音信不通の姉<千賀子>が銃弾に見舞われ、意識不明の状態だとの連絡が入ります。
警察から事情徴収を受ける<悟郎>ですが、なにも答えられない自分に愕然としてしまいます。
<千賀子>は街の金融業者の事務所に出向いて被害に遭いますが、反面ガソリンをまき事務所を放火した容疑もかけられています。その背後には妻殺しの前科のある<伊吹>と前日に婚姻届を出しており、相手の男も事件との関わりがあるのか、入院先の病院にも姿を現しません。
<千賀子>と<悟郎>は幼い頃に両親を亡くし、分かれて親戚筋に引き取られているのですが、<千賀子>は若くして家を飛び出したままで、その後の生活は不明でした。
<悟郎>は、姉<千賀子>のその後の足取りを確かめるべく、一人で関係者を訪ね歩く中で、姉と結婚相手の<伊吹>との関係が分かり始めていきます。
語り手は<悟郎>の目線ですが、本書の主人公は寝たきりの<千賀子>の人生譚ともいえ、タイトルの『最愛』は最後の最後で意味が浮かび上がる仕掛けが秀逸な作品になっています。
<メトロこうべ>は、高速神戸駅側の(神戸タウン)と、新開地駅側の(新開地タウン)から成り立っており、この二つを結ぶ地下街にも、「メトロ卓球場」やゲームセンター「プレイランド」があり、古書店が三軒並んでいます。
一番東側にあります【上崎書店】では、6月11日(火)から9月30日(月)まで、1冊500円以上の書籍を30%引きでのセールが始まりました。
【上崎書店】は新開地本通1丁目に本店を構えられており、今では改装されてきれいになりました。
昔は本が山積みになり崩れかけたようなお店でしたが、本好きとしてはその園雰囲気が心地よく、いつも覗いておりました。
本離れが指摘されて久しい昨今ですが、古書店では意外な書籍が発見出来たりと、楽しみが詰まっている場所です。時間があるときには、棚を端から見てゆく楽しみができました。
以前に読んだ著者の山里の駐在所を舞台にした 『駐在刑事』 がいたく面白く、今回も山岳巨編ということで読んでみました。
登山家として世界に名を馳せた男<蒔本康平>は、自らの問題を抱えて登山を絶ち、北八ヶ岳の山小屋の主人<パウロ>としてひっそりと暮らしています。
そんな<パウロ>の山小屋に、コンピュータープログラマーとして挫折した<橘裕也>、アスペルガー症候群の<戸村サヤカ>、知的障害を持つ<勝田慎二>の三人が夏場の手伝いとして山小屋で過ごすうちに、ネパールの未踏峰の山を制覇する計画が持ち上がり、<パウロ>の指導のもと登山技術を身につけてゆきます。
世間からドロップアウトした三人が、自分自身を見つめ直し、生きるとは何かということに目覚めながら、山小屋の失火で命を落とした<パウロ>の思い出とともに、自分たちが名付けた未踏峰の山「ビンティ・チェリ(祈りの峰)」の制覇に向かっていきます。
ページ数が少なくなるにつれて、この三人が無事に未踏峰の頂にたどり着くことができるのかと先読みをしたくなりながら、最後まで緊張感を持たせる構成力が素晴らしい一冊でした。
560ページを超える長編でしたが、<杉田七重>さんの訳が物語に合い、一気に読めました。
主人公の<エヴァン>は、弁護士資格を持つSFの女流作家ですが、恋人は3年前のひき逃げ事件で車いす生活を余儀なくされている、年下の弁護士<ジェシー>です。
ある日偶然に街中で、ひき逃げ犯人として手配されている<カル>を目撃、ひき逃げ事故で親友を亡くしている<ジェシー>との、息詰まる追跡ゲームが始まります。
現代を象徴するIT業界を舞台に、大金がまつわる悪事が絡み、<エバァン>の活躍が八面六臂で繰り広げられてゆきます。
恋人<ジェシー>の過去が暴かれ、一時は不穏な状況に陥りますが、持ち前の明るさで切り抜け、舞台となるサンタバーバラの青い空を感じさせる気性が気持ちいいヒロインの活躍でした。
著者のシリーズとして、『ST警視庁化学捜査班』があり、「ST」は「Scientific Taskforce」の略称です。
それぞれに化学の分野に秀でたメンバー6名が<百合根>警部のもと、得意の知識や分野で活躍する物語りです。
この『心霊特捜』も神奈川県警本部の組織ですが、鎌倉署の一室に受注している「R特捜班」という架空の組織が活躍する6話からなる短篇集で、「R」は「霊(れい)」の頭文字です。
<番匠>係長をトップに、3人の特殊能力を持った刑事たちが、霊に絡む事件を解決してゆきます。
本部との連絡係という役目で<岩切大悟>巡査が、なぜか成り行きで捜査に加わり、事件ははこの<岩切>の目線で語られてゆきます。
<天野頌子>に <警視庁幽霊係>シリーズ がありますが、幽霊や霊魂などと警察組織とは相容れない設定だけに、息抜きできる一冊でした。
著者は、 『京都と闇社会』 と同じ<一ノ宮美成 + グループ・K21>です。
「日本維新の会」共同代表の<橋下徹>は、タレント弁護士としてテレビ番組で活躍していた影響でしょうか、かなり以前から政治の世界でも活動している感じですが、大阪府議に当選したのはわずか5年ほど前ということに改めて気付かされました。
いい意味でも悪い意味でも、短期間に名を馳せる行動力には驚かざるを得ません。
著者たちは「日本維新の会」が、安倍政権に接近する目論見は何なのかという視点に立ち、『週刊朝日』の出自問題を掘り下げ、府議・市議としての行動を分析し、「日本維新の会」の金脈・人脈に鋭い分析を試みています。
今年7月に行われる参議院選挙に向けて、<橋下>の従軍慰安婦発言で揺れる「日本維新の会」ですが、この先の動向から目が離せない政党であることは否定できません。
少年野球の頃から目立ちながら、プロの世界に入っても野球賭博の噂が絶えない投手を主人公に据えた 『嗤うエース』 の著者が、今回はプロ野球のスカウトを主人公に据えています。
大卒でプロ球団「ギャラクシー」に入団した<久米純哉>は、肩の故障で戦力外通告を受けた際、自分を引っ張ってくれたスカウトの<堂神恭介>から「スカウトになれ」と言われ、<堂神>グループに引き込まれます。
<堂神>は、「堂神マジック」と称されるほど、数々の新人を発掘する手腕を持ち、<久米>は<堂神>のきわどく冷徹な駆け引きを通して、スカウトとは何かを体験してゆく姿が描かれてゆきます。
新人を手土産に他の球団に移籍するという<堂神>の特ダネを書いた記者<島岡>は、特ダネを察知した<堂神>の動きで誤報に終わり、地方に左遷になります。3年後にまたスポーツ部に戻り、裏がありそうな<堂神>の動きを追い続けていきます。
新人を獲得するためのスカウトの裏世界が細かく描かれ、一人の選手を他球団に引き抜かれることなくドラフト会議までのスカウトたちの熱き戦いが、スリリングな一冊でした。
『告白』にて、2008年に「週刊文春08年ミステリー」で第1位、2009年には「第6回本屋大賞」を受賞している著者で、デビュー作でのノミネート・受賞は共に史上初でした。
空気のきれいな静かな田舎町に、東京から新工場の責任者という形で引っ越してきた10歳の女の子<エミリ>が、小学校で殺害されてしまいます。
それまで校庭で一緒に遊んでいた4人の女の子たち<紗英・真紀・由佳・晶子>たちは、<エミリ>を誘いだした犯人の顔を覚えておらず、また事件後3年経ち東京の戻ることになった母親<麻子>から、「あなたたちを絶対にゆるさない。犯人を見つけられなければ私に対して償いをしなさい」と言われ、それぞれの心に重い十字架を背負わされてしまいます。
物語りは、この重い事件を心の隅に抱えながら、その後の4人のそれぞれの人生に起こる出来事が、各人の懺悔を含めたことばで語り継がれ、伏線を散りばめながら、意外な結末へと突入してゆきます。
個性ある4人の人生譚でもあり、母親<麻子>の執念を感じさせる心理サスペンスとの印象もあり、緻密な構成が生きている読み応えのある一冊でした。
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