来月3月8日(金)から日本で公開されます映画『野蛮なやつら/SAVAGES』の原作本で、監督は<オリバー・ストーン>です。
親友同士の<ベン>と<チョン>は、カリフォルニアのラグナ・ビーチを拠点に大麻栽培で大成功を収め、幼馴染の<オフィーリア>となかのいい三角関係で結ばれています。
そんな折、主人の跡目を継いだメキシコの密売組織「バハカルテ」の女首領<エレナ>から、事業提携の話が舞い込みますが<ベン>と<チョン>は拒みます。
<エレナ>は部下の<ラド>を使い<オフィーリア>を拉致して、脅しをかけますが、<ベン>と<チョン>は策を練り<オフィーリア>を取り戻すために動き出します。
筋立てとしては、よくあるクライムノベルズですが、書かれている文体が「ラップ」ミュージックのごとく躍動感ある文章で引き込まれてしまいました。
原語で読めばおそらくスラングと略字のオンパレードで、これを訳された東江一紀氏の力量に敬意を表します。
副題に<負け弁・深町代言>とありますように、弁護士を主人公に据えた法廷ミステリーです。
テレビでも人権派として有名な弁護士<深町代言>(38歳)は、自分の担当したある刑事事件をきっかけに東京を去り、司法修習生時代にお世話になった三重県伊勢市の弁護士事務所に腰を落ち着けます。
志は高いが裁判ではなかなか勝てない<松月>を所長とする外宮法律事務所ですが、新人の弁護士である姪の<中里実花>が、派遣会社の事務員を殺害した事件を担当することになります。
<深町>は、刑事事件から遠ざかるように民事事件で事務所の売り上げを伸ばしてゆきますが、新人の<実花>の一途な頑張りに、やがて手助けを行いながら事件の真相に迫ってゆきます。
伊勢市という弁護士の過疎化地域を設定しているのは、著者の出身地であるのが大きいようですが、伊勢神宮がらみの話題も入り、肩を張らずに読み終えれました。
<負け弁・深町代言>はシリーズ化され4冊出ているようですが、これはその第一作目に当たる文庫本書き下ろし作品です。
第12回(2009年)日本ミステリー文学大賞新人賞を、受賞した作品です。
神奈川県警機動捜査隊の女性刑事<クロハユウ>を主人公とする、警察小説ですが、また新しいヒロインの登場を予感させる作品でした。
港湾地区の埋め立て地に置かれた冷凍コンテナの中から、14人の男女の凍死体が発見され、睡眠薬を飲んだうえでの集団自殺と判明しますが、また別の冷凍コンテナから同様の凍死体が発見されます。
合同の捜査本部内の同僚の嫌がらせやを受けながらも、独自の発想と協力者のもと、事件の真相に迫って行きます。
物語の要となるのは、ネット上の自殺サイトの掲示板であり、また主人公<クロハ>自身が参加しているヴァーチャルな空間との絡みがリンクしており、ナイフでの連続殺人事件と並行しながら、悲しい結末を迎えます。
同じ<クロエ>を主人公の続編も出ているようで、<誉田哲也>の<姫川玲子>シリ-ズに続く女刑事として、目が離せません。
主人公の<塚崎多聞>は 『月の裏側』 (200年3月刊行)以来の再登場で、5話の短篇からなる構成が組まれています。
小説をあまり分類するのは好みませんが、「ミステリー」の範疇なのですが、なんとも不思議な世界が広がる物語が展開しています。
<トラベル・ミステリー>との言葉が出てきますが、特定された地名や建物名称は出てきませんが、「ああ~、あれだな」と分かります。物語の重要な位置を占めるものでもないだけに、あえて伏せる必要性が感じられませんでした。
タイトル名の作品はなく、5話の共通性として著者の「不連続」に込められた意識が感じ取れます。
「不連続」という言葉に含まれている、当たり前に見ている視点や目線の断点や裏側を、意識させてくれる一冊です。
一般人(カタギ)としては馴染みのない世界ですが、高倉健や鶴田浩二などが主演した任侠映画やヤクザ映画などの影響で、暴力団を見る目に国民的感情として甘さがあるのは拒めませんが、やはり撲滅させるべき団体には違いありません。
著者は暴力団などを取り締まる窓口となる第四課などが無くなると、警察も困るとの皮肉を込めていますし、また「組織犯罪処罰法」は、暴力団の存在を認めたうえでの法律であると訝っています。
日本の暴力団だけでなく、アメリカの「マフィア」、香港の「三合会」、台湾や中国の「流氓(リュウマン)」等にも触れ、現在の状況を分析されています。
また警察は対象とはしてはいませんが、「半グレ」の団体として、暴走族上がりの関東連合OBなどの挙動にも一目置かれています。
この構造不況と諸法律等で暴力団は将来性がないと著者はみなしていますが、表社会から消え失せてしまうのかは、まだまだ確証が持てません。
2002年から創設されたノベライス・コンテストの「このミステリーがすごい!」大賞も、昨年度まで11回を数えていますが、『トギオ』は2009年第8回の大賞受賞作です。
ミステリーというよりは、近未来のSF小説といった趣があり、謎解きを期待する人には馴染めない物語ですが、なんとも不思議な世界を味わえた一冊でした。
口減らしのために捨てられた<白>を家に連れ帰る主人公は、家族ともども村八分に遭い、学校でもいじめに遭います。
<白>の姉は、酌婦として売られていく状況は、100年前の日本を思い起こさせますが、「オリガミ」などという電子マネーや情報端末機としての先進的な道具が物語の鍵として登場したりして、読み手は年代設定を訝りながら物語を読み進まなければいけません。
「トギオ」は大都会「東暁(とうぎょう)」を表し、まさに映画『ブレードランナー』を想わせる貧富の格差の激しい象徴として比ゆ的に登場させ、唐突な結末に終わるのですが、印象に残る文章力で最後まで読まずにはおられませんでした。
荒削りなところあり、説明不足な印象もぬぐえませんが、作者の次作を期待してしまいます。
石田衣良の小説としては、 『夜の桃』 ・ 『逝年』 を読んでいますが、正直なところ好きな作品傾向ではありません。
ただ、現在の若者の恋愛感情や現代社会の分析には、いい参考書になるなとみています。
今回は、著者のエッセイ集を読んでみました。
<R25>という、首都圏を中心にリクルートが発行するフリーペーパーに連載されていたものが、一冊にまとめられています。
R=「Restrict:制限」ということからも<25禁>で、そこそこ実社会で活躍し始めた人たちへの応援メッセージ的なエッセイ集です。
今では日常的に使用されている「格差社会」・「ネットカフェ難民」・「いじめ」等のキーワードを枕に、人生の先輩として若者に元気を与えるメッセージが込められた一冊です。
反イラン派のレヴィ上院議員が、一人のテロリストに襲撃され、護衛していたSP共々殺害されてしまいます。
調査の結果、テロリストとして<ジェイソン・マーチ>が浮かび上がりますが、もとアメリカ陸軍の訓練中に仲間を射殺して逃亡していた男です。
<マーチ>の上司であった<ライアン>は、この事件を機にCIA組織から引退して、大学の教授としてのんびりした生活を送っていましたが、また元の古巣に戻り、<マーチ>を追うことになります。
大学院生の<ケイティ>と恋愛関係にありながら、<ライアン>はアルカイダを中心として進められている対アメリカへのテロ計画を進める<マーチ>捜索に、専念してゆきます。
緻密な計画を進める<マーチ>と、組織力をもって阻止しようとするCIA等の宿命の死闘が繰り広げられていきます。
540ページを超える長編ですが、もう少し展開が早くてもいいかなと感じましたが、若干24歳のデビュー作だということを考えれば、これから楽しみな大型新人の登場です。
濱嘉之の作品は、警視庁情報室の<黒田純一>を主人公にした 『トリックスター』 以来です。
今回は、警視庁公安部公安総務課の<青山望>を主人公に据え、警察学校同期の三人が、それぞれの担当の部で彼に協力する体制が、警察組織として見事に描かれています。
福岡市内で行われた政治資金パーティーの席上で、財務大臣が暴漢にナイフで刺殺される事件が起こりますが、犯人は完全黙秘を貫き、身元があきらかでないまま起訴されます。
特命の極秘捜査を進めていくうちに、以前にも良く似た事件の犯人として『蒲田一号』と氏名不詳のまま起訴され、出所したあとに行方不明の人物に<青山>は興味を抱きます。
捜査を進めるうちに、政治家と暴力団、語学学校を隠れ蓑にした売春組織等の複雑な関係が浮かび上がり、公安部を中心に各組織が捜査を進めてゆきます。
もと警視庁公安部に在籍していた著者ならではの、警察組織の彩も細かく描かれていますので、圧倒的なリアリティーで読者を引きずり込んでくれます。
他の部署の同期の仲間3人と絡み合い、また刑事モノとして楽しめるシリーズが出てきました。
前回読んだ著者の 『かばん屋の相続』 の印象が強くあり、今回も銀行が関連している内容のようで、期待感を持ちながら読み始めました。
東京中央銀行の系列子会社である東京セントラル証券に、IT企業の電脳雑伎集団の社長から、ライバルの会社スパイラルを買収したいという相談が起こりますが、親会社の東京中央銀行にアドバイザー契約を横取りされてしまいます。
セントラル証券に出向している<半沢直樹>は部下の<森山雅弘>とともに、スパイラル側に回り、東京銀行の賠償を阻止しようと反撃に出ますが、本社と子会社の縦組織の中で誹謗中傷を受けながら、毅然として<半沢>は、自分の信念にもとづき仕事をこなしてゆきます。
<正しいことを正しいといえること。世の中の常識と組織の常識を一致させること。ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価される。そんああたりまえのことさえ、いまの組織はできていない>と<半沢>の台詞にあり、元銀行員の著者の経験が生かされた一冊です。
出世欲が絡む人間関係も現実的で、面白い駆け引きにワクワクしながら読み終えました。
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