<越境捜査>シリーズも、2007年8月に『越境捜査』を1冊目として、2014年3月刊行の本書で4冊目になります。
警視庁捜査一課特命捜査二係の<鷺沼友哉>は、足立区の河川敷の白骨死体の捜査にあたっていましたが、柿の木坂の自宅マンションで暴漢にナイフで襲われ1カ月の自宅療養を命じられます。
彼を見つけたのは神奈川県警瀬谷署の刑事<宮野裕之>で、今まで管轄を超えて捜査協力してきた仲間であり、<宮野>は逮捕した窃盗犯が、12年前に白骨死体が発見された近くの家に忍び込んだとき、死体を見たと自供、関連があるのではと<鷺沼>を訪問した時でした。
その家は現在は参議院議員の<小暮孝則>の自宅で、10年前に更地にして売却した土地で、不審に思った<鷺沼>と<宮野>、そして<鷺沼>の身辺警護に着いた碑文谷警察署の<山中彩香>を巻き込み捜査を進めていきます。
<鷺沼>の部下である新人の<井上拓海>巡査も、<小暮>の身辺捜査のために福岡県警に出向きますが、一人前の刑事の風格を備えはじめ、いい動きを見せてくれていました。
定年まじかの<鷺沼>の上司<三好章>や元ヤクザの<福富>の脇役も見事で、はみ出し刑事の面目躍如の活躍が楽しめました。
本書は、著者の1970年代・1980年代の未収録の短篇集で、16編が収録されています。
表題作の『鳥少年』は、『月刊カドカワ』1083年7月号に掲載された作品で、少年たちに暴行にあった<鳰子>を主人公に据え、少年のひとりがなぜか「クォ~」としか喋れなくなる話です。
一番目に収録されている『火焔樹の下では』は、精神病院を舞台に天才的絵画能力を持つ患者の治療にあたる女医と看護師が、その患者のことを書いた作家との間でやり取りする手紙形式の構成で、怖い「女の執念」が見事にあらわされていました。
どの作品もブラックサスペンスとでもいえる読後感が残る短篇ばかりで、美容院を舞台に美容師と客の女性の一人の男に執着する話しの『魔女』の最後の一行、<孤りの女が深夜、部屋にこもっているとき、どんな力を持つものか、男は知らないのだ>には、特に背筋が寒くなる「女の怨念」を感じました。
主人公はイラクやアフガニスタンなどの戦地に派遣されているレンジャー部隊の29歳の軍曹<クウィン>で、6年ぶりに故郷の街ジェリコに、伯父である保安官<ハンプトン>の葬儀に参列するために帰郷してきます。
葬儀の席で<クウィン>は<ハンプトン>が拳銃で亡くなったことを教えられ、自殺か他殺かと迷っているとき、政治家としてのし上がった<スタッグ>が、<ハンプトン>に金を貸しており、担保代わりのに家や土地を明け渡せと要求してきます。
<クウィン>はことの真相を探り始め、ドラッグの密造をしている<ガウリー>にたどり着き、彼と<スタッグ>が組み、ジェリコの街を乗っ取ろうとしているのではと考え始めます。
レンジャー部隊の強健さを生かし、<ガウリー>と一線を交える<クウィン>ですが、最後は街全体を巻き込む銃撃戦になってしまいます。
久しぶりの帰郷ということで、高校時代の想い出話を絡め、今は結婚している当時の恋人や女性保安官補などを登場させ、閉鎖的な小さな町の人間模様が見事に描かれている一冊でした。
アメリカ合衆国大統領<リチャード>は、側近である<ロバート>を秘かに日本に派遣、国土交通省から留学していた同窓の<森崎真>を訪れ、<野田>首相との通訳を頼みます。
アメリカの危惧は現在の日本の政治・経済状況ではリーマンショック以上の危機が訪れ、世界恐慌の再来が起こるということで、東京で発生する大地震の要因もありました。
そんな折、東都大学地震研究所の<前脇>は、東京に直下型地震が5年以内に90%の確率で起こると予測、政府に情報公開を求めますが、国民がパニックの落ちるために無視されてしまいます。
<野田>首相は、一機打開のために首都移転計画を支持、2011年に解散した首都機能移転の室長だった<村津>をトップとする首都移転チームを立ち上げ、留学時代に首都移転の論文を書いていた<森崎>もチームの要として動き回ります。
日本の不安定な経済状況の中で儲けようとするヘッジファンドの企業登場させ、また道州制の政治的思惑も絡む中、<森崎>達は首都移転構想をまとめ上げますが、裏側にはアメリカ側の思惑がひしめいていました。
阪神・淡路大震災や東日本大震災の記憶の新しい中、東京一極主義の不安も現実的にあり、フイクションだと割り切れない気持ちで読んでおりました。
本書は、「私の話」と「猿の話」の二部構成で、それぞれ交互に物語が展開されていきます。
「私」こと<遠藤二郎>は家電量販店でエアコンを販売している30代の男で、大学受験に失敗、教師の薦めでイタリアの美術学校に留学していましたが、現地の友人の父がカトリックの神父として「エクソシス」であり、その手ほどきを受け日本に帰国後も「エクソシスト」として悪魔祓いを行っています。
昔憧れていた<辺見ねいさん>の息子が2年前からひきこもり状態になり、特にここ半年ほど前から様子が急変、<二郎>のところに助けを求めてきます。
片や「猿の話」は正体不明の語り手によって「因果関係の物語」が主軸となり、システム開発会社の品質管理担当の<五十嵐真>を主人公とし、証券マンの打ち込みミスにより株の誤発注が起こり、300億円の損失の原因調査を命じられますが、<孫悟空>の登場人物たちに翻弄されていきます。
つながりのない平行線的な別物語として話が進んでいきますが、<二郎>と<五十嵐>の間を取り持つように<孫悟空>が自由自在に「私」と<五十嵐>の前に現れ、物語が一本に集結されていきます。
エンターテイメントの名手としてさすがの構成で、面白く読み終えれました。
一本気な性格のため上司とのトラブルで、『日報本社』から横浜支局に飛ばされた38歳の<甲斐明人>は、解散雰囲気の選挙戦の資料集めという閑職的な仕事を与えられ、支局内でも浮いた存在です。
そんな折、入社2年目の<二階康平>が失踪、彼のマンションが荒らされているのを発見、事件性を感じた<甲斐>は、他のマスコミ関係者に知られたくない上司の命令で、援軍もなく一人で<二階>の調査に乗り出します。
<二階>は何か大きなスクープを掴んでいたのがわかり、彼が取材していた生活安全部の警部<時松>の自殺もあり、また神奈川県警のやる気のない調査に憤りを感じる<甲斐>ですが、女性刑事<浅羽翔子>と知り合い、<二階>の行動を辿るうちに警察内部の腐敗と横浜を中心とした外国人ギャング組織の存在が浮かび上がります。
非常に小気味よい場面展開で物語は進み、孤軍奮闘する<甲斐>と正義感を貫き通そうとする<浅羽>との組み合わせが楽しめた一冊でした。
石橋を叩いても渡らない心配性の<中崎夕也>は、3月に行われた卒業式の日に学校に携帯電話を置き忘れ、悪事に使われては心配し、真夜中に高校まで取りに出かけます。
その時に、清城高校の七不思議を司る<テンコ>という幽霊に出会い、<中崎>は七不思議の一人として仮登録されてしまいます。
七不思議のメンバーとして<中崎>は、秘かに想いを寄せている<朝倉>に対してストーカー行為を行っている事件や、教室内での盗難事件などを、七不思議の力を借りて解決していくと共に<朝倉>との交際が始まるのですが・・・。
本書は第20回電撃大賞の「金賞」受賞作品ですが、当初は高校を舞台とするファンタジー的な青春物かと気軽に読んでいましたが、ラストに近い場面で「おお!」とこの本の構成の巧みさに驚かされ、なるほど「金賞」を取るだけの仕掛けに感動を覚えました。
札幌の大学に通う4年生の<関根真一>は、同じ大学の<篠崎明>とのデート中に、59歳の母<律子>が亡くなったことを携帯電話で知らされます。
呆然とする<真一>が心配で<明>も一緒に横浜の実家に戻りますが、そこは<律子>の弟の家で、22数年前に離婚して祖父母に<真一>の養育をまかせっきりの状態で、彼は母から疎まれていると感じながら育ち、大学生活中には一度も実家に帰省していません。
<律子>は暮らしていた離れで心筋梗塞を起こし孤独死でしたが、ノートパソコンに生前の気持ちをメモ書きしているのを<真一>は見つけます。「あいしている もういちどあいたい しんじ」という母が最後に残した名前は、離婚した夫<真彦>でもなく、自分でもありませんでした。再度母との距離を感じながら、東京に住む<明>の伯母である<宮下亜貴子>の部屋にノートパソコンを置き忘れて札幌に戻ってしまいます。
<亜貴子>は<律子>と同年齢で、やはり22年前に年下の<如月高輔>と別れ、予備校の英語の教師として独身を貫いていますが、残された<律子>のメモ書きを読み始め、自分の人生と見比べると共に「しんじ」が誰なのかを突き止めようとします。
母と子の重たい関係が主軸ですが、それぞれの登場人物たちの人生模様が描かれ、最後には「しんじ」の謎が解け、<真一>が前向きに人生の一歩を踏み出すラストに、一抹の明るさが見いだせました。
久しぶりに文芸書を離れて、複雑系社会学の本を読み通しました。
第一部『常識』、第二部『反常識』という構成で、現在社会における人間の問題は『常識』を判断基準にしているが、著者は「常識を用いるな」と警告を発し、ビジネスでも政治でも、エンターティンメントの世界でも、専門家の「常識」の判断は正しくはなく、過去の歴史は教訓にならないことを、理論的・実験的に検証しています。
マイクロソフト主任研究員として、ネット社会の利点を生かし、膨大なサンプル数を収集できる<クラウドソーシング>を利用しながらの分析は説得力がありました。
多くのサンプル例を用いて、社会と経済はその時々の<偶然>に作用されていることを検証していますが、そのメカニズムを分析できれば予測可能な社会が見えてくるのではと考えますが、これまた<偶然>のなせる業でもあるようです。
女性映画監督として名を馳せている著者ですが、神戸を舞台に祖母である先代の残した小さな洋裁店で、職人の信念と誇りを持ち続ける仕立て屋の女性(主演:中谷美紀)を主人公にした映画『繕い裁つ人』が、今年の1月31日に上映されています。
本書は『繕い裁つ人』の前作として、昨年10月に公開された映画『ぶどうのなみだ』の原作本になります。
6歳の時に母親と別れた<エリカ>は現在34歳、日常生活から逃げ出すようにある日一切のモノを捨て、母の残してくれたアンモナイトの化石の魅力に魅かれるように、ヨーロッパ各地にキャンピングカーで回り、ひとつ化石を見つけるとまた別の場所へと移動する生活を続けていました。
次回はどこに行こうかと地球儀を回して指で止めますと、そこは北海道の空知(ソラチ)という場所でした。
<エリカ>の探索する場所は、地元では「運命の樹」と呼ばれる大木が立ち、願い事を聞き入れてくれる時には強い風が吹くといわれ、その「運命の樹」を挟むようにワイン造りに没頭している36歳の兄<アオ>と、小麦作りをしている24歳の弟<ロク>達と知り会うことになり、彼女は自分の人生の転換期を迎えます。
父と息子たち、母と娘といったそれぞれの家族の歴史を通して、人生に本当に必要なモノは何かを、読み手の心に深く知らしめる一冊でした。
- ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
ログイン
- まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
新規ユーザー登録へ