本書『十三階の神(メシア)』は、すでに2018年7月に単行本として刊行されていますが、警視庁公安部特別諜報員「黒江律子」を主人公とする 「十三階の女』 の続編になります。
国家を守るためには、非合法な操作も体を提供することも厭わない女捜査員「黒江律子」の所属する公安部5人の秘密組織は警視庁の13階にあることにより「十三階の女」と呼ばれています。
今回の新たな任務は、「オウム真理教」を彷彿させるかって地下鉄テロを起こした「カイラス蓮昇会」の教祖の死刑執行が迫る中、分派した「輪芽」教団に教祖の子供と名乗る「九真飛翔」が君臨し、テロ活動を起こすのではないかという危惧から、上司の「黒江」が不在の中、「律子」が動き出します。
すでに「律子」の母が「輪芽」教団に入信しており、「律子」は妹を潜入捜査させる決心をします。
公安部内の裏切りと仕組まれた教団との絡み、後半は読者を二転三転させる展開が待ち受けています。
シリーズ3作目として『十三階の血』が、すで2019年11月に刊行されていますが、これまた文庫化を待ちたいと思います。
本書は『隠蔽捜査』シリーズとして、8作目になる『去就』(隠蔽捜査6)に続く9作目『棲月(せいげつ)』(隠蔽捜査7)になりますが、警察庁のキャリアでありながら息子<邦彦>の不祥事で降格、大森署の署長として左遷された主人公<竜崎信也>も、本作でいよいよ大森署を去ることになります。
大森署管内を通る私鉄のシステムと都市銀行のシステムが次々にダウン。社会インフラを揺るがす事態を不審に思った大森署署長<竜崎>は、いち早く原因を究明すべく署員を現場に向かわせますが、管轄外の行動で、すぐに中止するように警視庁の生安部長から横槍が入ります。
さらに、管内で非行少年「玉井」のリンチ殺人事件が発生。二件の大きな事件の指揮を執る中、同期の「伊丹」本部長から「異動の噂が出ている」と告げられた<竜崎>は、公務員として移動・転勤は当たり前という考えでしたが、これまでになく動揺する自分に戸惑っていました。
リンチ殺人事件の被害者「玉井」の捜査を進めていく中で、「玉井」の非行グループのメンバーが何かにおびえていることを不審に感じた「竜崎」たちは、以前に「玉井」たちににいじめられ引きこもりになっている高校1年生の「芦田雅人」に目を付けます。
コンピューターに頼り切っている現代社会を背景に復讐を果たす伝説のハッカー「芦田」と「竜崎」の駆け引きが圧巻だっただけに、今回で大森署の個性ある刑事「戸高」や「根岸」たちともお別れだということが薄れてしまいました。
次作から<竜崎信也>は栄転となり、神奈川県警刑事部長として登場するようですが、すでに第10作目として単行本『清明』(隠蔽捜査8)が2020年1月20日に刊行されていますが、文庫化されるのを我慢して楽しみに待ちたいと思います。
双葉文庫35周年を紀念して、(2000年5月)に文庫版で刊行された『殺意・鬼哭』の新装版として(2019年9月)に刊行されたのが本書で、8月19日は著者<乃南アサ>のお誕生日ですので、未読ということもあり、手にしてみました。
ナイフで相手を刺し殺した殺人事件を扱った二部構成で、前半「殺意」は、殺人を起こした「真垣徹」(36歳)の独白が語られ、後半「鬼哭」は、殺された「的場直弘」(40歳)の独白が語られていきます。
「的場」と「真垣」は、高校入試に際し「的場」が家庭教師を務めて以降の付き合いという人間関係でした。
「真垣」は殺人の動機に関して、殺意の発生や動機などを語ることなく、「なぜ?」そんなことが大事なのかと、読み手側として冗長的に思える長さで回想していきますので、かなり疲れる内容でした。後半も「真垣」のナイフで刺され倒れてからの「的場」の回想が始まります。
乃南ファンとしても、事件の当事者の心理を深く掘り下げるためでしょうか、「くどい」とも思われる心理描写が続き一つの事件が語られていきます。
殺人に「なぜ?」という動機の究明が「なぜ?」必要なのか、また「なぜ?」それが役に立つのかという問題を示した一冊だと思います。
本書は、世界三大映画祭(ベルリン・カンヌ・ヴェネツィア)すべてに出品したことがある唯一の映画監督<押井守>(69)が著した、映画ファンなら見逃すことが出来ない書籍『押井守の映画50年50本』(3960円)です。
著者<押井守>は、1951年8月8日 東京都生まれ、1977年、「竜の子プロダクション」(現:タツノコプロ)に入社。スタジオぴえろ(現:ぴえろ)を経てフリーになりました。
『うる星やつら2ビューティフル・ドリーマー』(1984年)、『機動警察パトレイバー』シリーズ(1988~93年)、日本の映像作品史上初の米ビルボード誌のビデオ週間売り上げで1位を獲得した『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)、『アヴァロン』(2001年)、アニメ映画作品史上初の日本SF大賞を受賞した『イノセンス』(2004年)、『立喰師列伝』(2006年)、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2009年)、『THE NEXT GENERATION パトレイバー』シリーズ(2014~2015)、 『ガルム・ウォーズ』 (2016年)などを手がけてきています。
本書では<押井>が1968年から2017年までに製作された映画を「今観るならこの1本」という選択基準で選び、解析しています。紹介できるのは「1年に1本のみ」というルールで<マーティン・スコセッシ>の『タクシードライバー』(1976年)や<北野武>の『その男、凶暴につき』(1989年)、<クエンティン・タランティーノ>の『レザボア・ドッグス』(1992年)、<ポン・ジュノ>の『殺人の追憶』(2003年)のほか、 『ウォッチメン』、 『ゼロ・ダーク・サーティ』、 『シェイプ・オブ・ウォーター』 など50本が登場しています。
加えて、 いまだによくわからない作品として 『オンリー・ゴッド』 (2013年)を取り上げ、 『ジェイソン・ボーン』 (2016年)では、失敗した作品から学べることは多いなどについても語っています。
本書『100%の前向き思考』は、車椅子で活動する地下アイドル「仮面女子」の<猪狩ともか>(28・スチームガールズ)が初の著書として書かれています。
<猪狩ともか>は2018年4月11日、強風で倒れてきた看板の下敷きになり、脊髄を損傷。下半身まひで車椅子生活になりましたが、事故から約4か月後には秋葉原の常設劇場「仮面女子カフェ」で復帰を果たしています。
ライブへの出演回数は減りましたが、バリアフリーを推進するための講演活動やパラスポーツへの普及に尽力するなどアイドル以外にも活動分野を広げ、東京都の「東京2020パラリンピックの成功とバリアフリー推進に向けた懇談会メンバーに選ばれ、「パラ応援大使」に任命されています。
何度も挫折しながら、ようやく「仮面女子」メンバーに昇格した矢先の大ケガ、復帰を支えた家族やメンバーやスタッフ、ファンの言葉や、必死のリハビリを経て復帰した苦難の道のりを振り返っています。
第2部では「『事故に遭ってよかった』とは一生思えないけど、新しい道が、明るい場所でよかった」「いつだって、何度だって、新しい人生は始められる!」など《折れない心》をつくる「55の言葉」がつづられています。
<猪狩ともか>は、2020年2月17日、9月に開催される「仮面女子ワンマンライブ」をもってグループを卒業しソロ活動に移ることが発表されています。
警察官・刑事を主人公とした作品が多い<堂場瞬一>ですが、本書『絶望の唄を唄え』は引退した元警察官の「安宅真」を主人公に据えています。
元警視庁公安部外事第三課の「安宅真」は、10年前に東南アジアの某国の選挙の監視のためにPKO職員として派遣されました。その際にイスラム過激派の「聖戦の兵士」による自爆テロに遭遇、現地で知り合ったジャーナリスとの「田澤」と別れた直後での爆発で彼の行方は分からず、死の恐怖を味わった「安宅」は警察を辞め、好きな70年代のロックファンでウィッシュボーン・アッシュ、レイナード・スキナード、ヴァン・モリソン、クィーン、ディープ・パープルなどのLPを流す喫茶店をひとり神田神保町で営んでいました。
そんなある日、喫茶店の裏側にあるビルに軽トラックが飛び込む爆弾テロが起こり、それを機に、謎の女性の登場、政治界のフィクサーであった「水田」が殺され、第2の爆弾テロが発生します。
10年住み慣れた静かな神保町の町を守べく、背後に東南アジアでテロに遭遇し行方不明となった「田澤」の影がちらつく中、「安宅」が動き出します。
随所随所に懐かしいロックバンドの名曲が登場してきますが、『夏の雷音』 で見せた音楽分野の造詣と神田神保町界隈の街並みを背景として生かされた一冊でした。
スクリプトコンサルタントとして2千本以上の脚本に関わってきた<リンダ・シーガー>(74)が映画制作の知識をまとめたのが本書『ハリウッド式 映画製作の流儀』です。
脚本家、プロデューサー、監督、俳優、美術、撮影監督、メイク、編集、作曲家など様々なスタッフが関わり、映画がどのように形作られていくかを解説するほか、完成した作品をどのように「最後のコラボレーター=観客」に届けるのかなどについて8章に分け語られています。<ロン・ハワード>と<ラッセル・クロウ>がタッグを組み、ノーベル経済学賞受賞の実在の天才数学者<ジョン・ナッシュ>の半生を描き、アカデミー賞では作品賞、監督賞、助演女優賞、脚色賞を受賞し、ゴールデングローブ賞では作品賞、脚本賞、主演男優賞、助演女優賞を受賞した『ビューティフル・マインド』(2001年)の関係者総勢13人が制作の様子を振り返るCLOSE UPも収録されています。
同書に登場するのは、脚本家の<アーロン・ソーキン>、<アルヴィン・サージェント>、監督の<ギレルモ・デル・トロ>、<ロン・ハワード>、<オリバー・ストーン>、<スティーヴン・スピルバーグ>、俳優の<ロビン・ウィリアムズ>、<メリル・ストリープ>、<ラッセル・クロウ>、プロデューサーの<リチャード・D・ザナック>、<ゲイル・アン・ハード>、プロダクションデザイナーの<フェルディナンド・スカルフィオッティ>、衣装デザイナーの<マリリン・ヴァンス>、メイクアップアーティストの<ピーター・ロブ・キング>、VFXアーティストの<ケン・ローストン>、エディターの<ウォルター・マーチ>、<ジョー・ハッシング>、作曲家の<ハンス・ジマー>、<ビル・コンティ>らと多彩です。
さらに『E.T.』 『いまを生きる』 『永遠に美しく…』 『エイリアン』 『刑事ジョン・ブック 目撃者』 『ジュラシック・パーク』 『JFK』 『ゼロ・グラビティ』 『ターミネーター』 『ダンス・ウィズ・ウルブズ』 『テルマ&ルイーズ』 『ドライビング Miss デイジー』 『裸の銃を持つ男』 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』 『ブラックパンサー』 『プラトーン』 『プリティ・ウーマン』 『ラストエンペラー』 『レインマン』 『ロジャー・ラビット』 などの裏話も多数紹介。日本語訳は<シカ・マッケンジー>が手掛けています。
著者<福田和代>は、兵庫県神戸市出身の作家ということで、新刊本はチェックしていますが、本書『暗号通貨クライシス BUG広域警察極秘捜査班』の前に出ている『BUG広域警察極秘捜査班 権力VS天才ハッカー』(2019年5月・新潮文庫刊)は見逃していたようですが、本書単独でも十分理解できる内容でした。
前作でサミット航空機を墜落させたとの冤罪で死刑執行されたはずの天才ハッカー「水城陸」は、その能力を生かし「沖田シュウ」と名を変え、全世界的警察機構・広域警察の極秘警察チーム<BUG>の一員となっています。
世界では、「ブティア」博士が考案した暗号通貨「LeX(レークス)」が米ドルを凌駕して、世界通貨となりつつあり、流通を安定させるプログラムの<鍵>を、「ブティア」博士と懇意であった「水城陸」の父親は、「陸」の体の中にその<鍵>となるべくデーターを託していました。
「LeX」の流通を阻止すべく反対派は、「沖田シュウ」を二度にわたり拉致するのですが、危機一髪のところで助けられますが、拉致された際の「沖田」の行動は、<BUG>でしか把握できず、内部での裏切り者の存在が判明、また、その捜査の過程で、航空機墜落の真実が露見、「沖田」の冤罪は晴れるのでした。
好きな著者の小説は、単行本での新刊が多いのですが、もっぱら2~3年我慢して、文庫本での発行を待っています。
今回、兵庫県神戸市出身の作家<福田和代>さんの『暗号通貨クライシス BUG広域警察極秘捜査班』(2020年4月1日発行)を読み終わりましたが、いつもの「新潮文庫」と仕様が異なるのが気になりました。
まずは、「スピン」(紐のしおり)が無くなっています。1933年から終戦直後の物資不測の時代を除き現在まで付いており、この「スピン」があるだけで、「新潮文庫」だとすぐにわかりました。岩波文庫は、1970年に廃止しています。
そして、「新潮文庫」の天(上部)は「天モンカット」として不揃いが特徴的でしたが、きれいに裁断されています。
どちらも「コスト削減」対策だとおもいますが、長年読みなれた体裁だけに、寂しさを感じるのは、私だけでしょうか。
リハビリに出向いています施設の空いていた棚に、短期入居者の方が読まれた書籍類が整理されて並べられています。
本好きとしては、嬉しい「ミニ図書館」の登場です。
少しばかり発行年代は古い感じでしたが、気になる文庫本や単行本もありますので、<今年の読書>のためにも、ありがたく利用させていただこうと考えています。
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