今年の読書(90)『華やかな殺意』西村京太郎(徳間文庫)
11月
14日
表題の副題に「西村京太郎自選集1」とあり、5篇が納められています。
◆『病める心』・・・新聞記者「田島」は小学校1年生の男子が〈自殺〉との記事に違和感を覚え、再度その事件を掘り起こしていきますが、母親を逆に追い詰めて自殺に向かわしてしまいます。マスコミ報道の正義感とは何かを考えさせられる内容でした。
◆『歪んだ朝』・・・高度成長期前の山谷を舞台にした、10歳の少女の扼殺にまつわる重たい主題の発表当時の時代を感じさせる社会派ミステリーでした。
◆『美談崩れ』・・・地方の支局に飛ばされた新聞記者の東京本社転勤へのスクープ記事を夢見る取材の勇み足を主体にしています。いつも付きまとう問題として、改めてマスコミとは何かという命題を考えさせられる内容でした。
◆『優しい脅迫者』・・・ひき逃げ事故を起こした理髪店の店主「野村」は、ある日事故の目撃者が客として現れ、強請られます。度重なる強請りに「野村」は探偵事務所にゆすりの相手の調査を頼みますが、なんと売れないやくざ役の俳優「五十嵐」でしたが、顔そり中にナイフで首を斬り殺害してしまいます。業務中の事故ということで、執行猶予になりますが、「五十嵐」からの遺書が残されていました。
◆『南神威島』・・・住民340人ほどの離島「南神威島」に医師として赴任した男が、伝染病である天然痘を持ち込んだことで起こる島の風習に翻弄される様を描いています。
本書では、著者の看板主人公である「十津川警部」と「亀井刑事」は登場しませんが、〈自選〉作品というだけあって、密度の濃い内容でした。