<沢村鐵>の<警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結>シリーズとして、第1巻目の『フェイスレス』に次ぐ2巻目となる『スカイハイ』です。
大学教授「角田」爆殺から「周唯」暗殺までの一週間後、東京ライジングタワーやJPのシステム系統がダウンしてしまい混乱に陥る東京でした。そんな中で前作でも謎の存在だった一連の事件の首謀者とされる「C」の謎が明らかになっていきます。
「一柳美結」刑事たちは、標的とされた大学講師「佐々木忠輔」が語る「C」の真実に驚愕します。一方、「忠輔」の妹「安珠」は、超高層タワー内で催されたライブに出演していましたが、そこにも「C」の影が忍び寄るのでした。
なんとも不思議な魅力でもって最後まで読ませる一冊で、一応ミステリーの分野に入るのでしょうか、謎解きの要素を持ちながら全体でみればある種の青春小説、もしくは恋愛小説の要素も含まれているかもしれません。
主人公(?)<浅岡彼方(かなた)>は美術大学に通う2年生で、熱帯魚店「怪魚処 やすもと」でアルバイトをしています。
業界では、熱帯魚好きの「彼が表われると、誰かが死ぬ」という黒服の美少年(アナトス)にまつわる奇妙な噂がありましたが、<彼方>は父親が事故で入院、生活費に支障をきたしているところ、その彼の家から日給5万円で、その少年の屋敷で買われている熱帯魚の世話のアルバイト話しに飛びつきます。
その屋敷には、人前に姿を見せない一卵性双生児の兄<美樹(タナトス)>と弟<立花真樹>、彼のガード役の刑事<高槻彰彦>27歳がいましたが、アルバイトとして屋敷に通い始めると同時に、奇妙な出来事が起こり始めます。
全体を通してアクアリウムや熱帯魚(肺魚)の知識がちりばめられ、一般的によく知られている「アロナワ」をはじめ、<彼方>の飼育している「プロトプテルス・アネクテンス」を初め訊きなれない魚たちが多く登場、面白い世界が展開していました。
副題として「警視庁墨田署刑事課特命担当・一柳美結」と長い名称になっていますが、女性刑事<一柳美結>26歳を主人公とした警察小説です。
東京学際大学の研究室で外国人留学生から評判の悪い<角田>教授が爆殺され、墨田署に捜査本部が設置されました。
研究室助手の<佐々木忠輔>講師は犯人と接触していますが、彼は「相貌失認症」と言う相手の顔を覚えられない先天的な障害を持っていました。
警察学校同期である<吉岡雄馬>は、本庁から捜査本部に組み込まれ、<一柳>と組み捜査を始めますが、第二の事件として<佐々木>の実家が爆破され、<一柳>と高校の同級生である<佐々木>の妹<安珠>の事務所にも爆発物が届けられてきます。
海外留学生絡みの裏情報を訊こうと<吉岡雄馬>は、公安部に所属する兄<龍太>の部署に出向きますが、そこで国際的サイバー犯罪者の<C>の名前が浮かんできます。
主人公<一柳美結>の高校時代に何か事件があることを読者に匂わせながら、ネットを巧みに操る<C>の犯人像に迫りきれないうちに事件は不本意な捜査で終結、首謀者である<C>の正体を求めて次巻に引き継がれます。
主人公<鈴子>は55歳、ニューヨーク州の北部の田舎町で民宿「リトル・アップル」を一歳年下の全盲の夫<誠一郎>と営み、盲導犬<茶々>と暮らしています。
<鈴子>の元に岡山県旭川にある実家から、母親<咲恵>の体調が悪いとの知らせが入り、帰国する準備を済ませているところ大雪で停電、身動きが取れなくなります。
物語は今の<鈴子>と<誠一郎>のアメリカでの幸せな結婚生活を描きながら、子供のころからの<鈴子>と母親<咲恵>との確執を縦糸に、また初恋の相手<隆史>との思い出と約束を横糸として絡め、<鈴子>の歩んできた人生模様を見事に織り上げていきます。
母と娘、結婚と仕事、人間の倖せとは何か、人生とは何かを全7章の構成として、ほんのりとせつなく読者に語りかける一冊でした。
前作の 『珈琲店タレーランの事件簿』 に続くシリーズ2作目です。
主人公は24歳のバリスタ<切間美星>で、コーヒーミルをカリカリと回しながら事件の概略を訊き、持ち前の名推理で「この謎、たいへんよく挽けました」の決まり文句で解決していきます。
今回は、東京の美術大学の学生である妹<切間美空>が、夏休みを利用して姉が働く京都に観光旅行と称して出向いてきますが、その裏側には<美空>のある計らいがありました。
外見も性格も正反対の<美星>と<美空>ですが、二人の家庭環境と<美星>の心の傷がわかる構成を主軸に据え、ふたりの関係のおもわぬどんでん返しには、著者の企みのうまさに思わず唸ってしまいました。
本書も、「タレーラン」に持ち込まれる日常の謎を解く<美星>の推理が楽しめる一冊でした。
刑事ものは殺人事件の緻密な捜査を描いた捜査一課モノが多いのですが、警察署にはその他の部署も多くあり、<堂場瞬一>の 『犯罪被害者支援課』 や 失踪人に絡む事件を扱う 『警視庁失踪課』シリーズ、<南英男>のお蔵入りの事件を捜査する 『迷宮捜査班』シリーズなど味わい深い小説が出ています。
本書は元劇団員の刑事<七曲風馬>27歳が主人公で、3年の交番勤務から突然<南雲剛太郎>警視正から辞令を受け、都庁の地下に新設された都民相談室に配属されます。
そこには、シングルマザーの室長<浅川嘉代>をはじめ、クセのあるはみ出し刑事3名と警察職員の<鈴音杏理>が受付を担当しています。
相談に来たケアーマネージャの相談話から、高齢者を対象にした投資話の詐欺事件を調べ始める<七曲>ですが、捜査の途中に関係者が自殺や水死体で発見され、偽名が横行する実体のない組織に対して捜査は難航を極めます。
元劇団員という特性を生かし、事件の解決は劇団の協力を得て舞台劇として犯人のトリックを突き止めていきますが、大学の後輩である劇団員の<香野紅見(くみ)>との今後の関係も気になるシリーズ(?)になりそうです。
<刑事犬養隼人>シリーズの一作目である『切り裂きジャックの告白』は、テレビ朝日系列の「土曜ワイド劇場特別企画」として、俳優<沢村一樹>を<犬養>役として4月18日(土)に放映されています。
本書はシリーズ二冊目に当たり、前作と違いタイトルにある通り「色」にまつわる7つの事件が納められています。
警視庁捜査一課の刑事<犬養>は、どんな女でもだませそうな整った顔をしていますが、逆に女にだまされて取り調べもままならず、周りからは<無駄に男前の犬養>と揶揄されながら、男の嘘は確実に見抜いていきます。
どの短篇も読み手の推理を見事に外し、おもわぬどんでん返しで読者を唸らせる推理を展開、事件を解決する<犬養>の鮮やかなお手並みが満喫できる一冊でした。
以前に読んだ著者の仏師<定朝>を描いた 『満つる月の如し』 の時代考証の緻密さに驚くと共に、壮大な構成に力量の確かさに感動を覚えました。
本書は、どことなく面白みのあるタイトルに興味を持ってしまいました。
主人公はタイトルの通り京にて右大臣まで上り詰めたのち、<藤原時平>の計略により大宰府に左遷された<菅原道真>ですが、物語は婿養子でやる気がなく「うたたね殿」と揶揄されている地元官人<龍野保積>の目線で語られていきます。
「学問の神様」と謳われている<道真>ですが、冒頭から嘆き悲しむ哀れな<道真>が登場、そのお相手にと<保積>が任用され、また大宰府の最高責任者「大弐」の地位にある伯父<小野葛絃>を頼ってきた<小野恬子(しずこ)=(小野小町)>を含め<道真>と巻き起こす事件が、笑いと悲哀を交えながら描かれています。
著者は現在姫路市に在住ですが神戸市生まれということもあり、タイトルに(1)が付いていますので、シリーズ化されるのがわかるだけに手にしてみました。
主人公は絶世の美女ですが全身に百の目を持つ妖怪<百目>で、妖怪と人間が共存して住んでいる医療特区<真朱の街>で探偵事務所を営み、請け負う事件はすべて妖怪絡みです。
依頼人である人間は、自分の寿命で報酬を支払うのが決まりで、助手として元脳科学研究者<相良邦雄>がいますが、彼も<百目>にたまに寿命を提供、吸われると恍惚感に身をゆだねてしまいます。
本書には五話が納められていますが、人間の「拝み屋」<播磨遼太郎>が妖怪との対決で傷ついた体を癒す場面で終わっていますが、何がしかの因縁が彼と妖怪との間でありそうで、今後その真相がわかる展開になりそうな第一弾目でした。
著者のデビュー作品は陸上自衛隊を中心とした 『塩の街』 ですが、その後航空自衛隊の『空の中』、海上自衛隊の 『海の底』 と続き、<自衛隊三部作>と呼ばれています。
また同じく自衛隊の組織内の恋愛を描いた 『クジラの彼』 や 『ラブコメ今昔』 があり、どれも文庫本で楽しめますが、本書(2012年7月刊行)だけはいまだ単行本のままで文庫化されておらず、しびれを切らして単行本を手にしてしまいました。
本書には6編の連作短篇と番外編が1篇納められています。
主人公は<空井大祐>二尉です。子供のころからの憧れだった「ブルーインパルス」のパイロットとして推薦を受けた矢先、交通事故で膝を痛め防衛省の広報室勤務に配属されます。
それぞれ個性ある広報部のメンバー達ですが、帝都テレビの<稲葉リカ>が、報道局から番組のディレクターに配置換えとなり、この広報室担当として顔出しする場面から物語は始まります。
世間一般の「自衛隊」のイメージを払拭すべく、「自衛隊は、こういう仕事をしているんですよ」を理解してもらうために裏方としての広報室に光を当て、またそれぞれの隊員たちの真摯な仕事ぶりにおもわず涙する場面もあり、心打たれる内容でした。
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