副題に「警視庁犯罪被害者支援課」とありますように、犯罪事件の捜査を中心とする刑事物語ではなく、被害者の心に寄り添い、傷が癒えるのを助ける部署を舞台としています。
主人公<村野秋生>は35歳、一時期は捜査一課の刑事でしたが、ある事故を契機に4年前に「犯罪被害者支援課」に自ら志望して移ってきました。
月曜日の朝、通学児童の列に暴走車が突っ込み児童3人とサラリーマン2人が死亡、犯人はその場から逃亡してしまいます。
サラリーマンの一人は<大住茉菜>32歳で、妊娠7か月の身重でした。
さっそく<村野>は現場に出向き、<茉菜>の主人である<大住宏司>の支援に回りますが、彼は情緒不安定で大きな心の傷を背負ってしまいます。
支援課としてはひき逃げ事件の捜査は関係ありませんが、もう一人のサラリーマン<三田一郎>とひき逃げ犯である<荒木隼人>との間に金銭のやり取りが発覚、ひき逃げ事件から殺人事件の様相を含み、事件は思わぬ方向に進んでいきます。
著者らしい綿密な組み立てで、503ページの長篇ながら一気に読み終えてしまいました。
過去に起こった<村野>自身の事故を伏線に、江東署から初期支援員として応援に入った25歳の<安藤梓>巡査の今後の動向も気になるシリーズになりそうです。
<澁澤龍彦>といえば、<マルキド・サド>の『悪徳の栄え(続)』の翻訳出版で猥褻に関する裁判闘争の印象が強く残っていますが、幅広い博博学な知識で書かれたエッセイに圧倒された作家でもあり、1987(昭和62)年8月に59歳で病死しています。
彼の著作は「河出書房」から多く刊行されていますが、学生時代によく読んだ作家として、新しい文庫本(2014年8月10日刊)の本書が目にとまりました。
表題の「プリニウス」は、古代ローマの博物学者<ガイウス・プリニウス・セクンドゥス>のことであり、自然界を網羅する史上初の百科全書『博物誌』(全37巻)を表した人物です。
本書は著者が興味を持つ『博物誌』を元に、いわゆる畸形と呼ばれる怪物たち(一本足の人間・火トカゲの「サラマンダ」・一角獣・スフインクス・ケンタウルス)等についてのエッセーを集めたアンソロジーです。
ユーモラスで自由な人間の想像力が生み出した数々の怪物たちを、幅広い博学の視点から分析しており、科学が優先する16世紀までの世界観がよくわかり興味深く読めました。
著者の<本山尚義>氏は神戸市生まれ、33歳の1999(平成11)年、神戸市東灘区本山中町3丁目に世界中の料理を提供するレストラン「世界のごちそう パレルモ」を開店させたオーナーシェフです。
大学中のアルバイトで料理の世界に目覚め大学を中退、フランス料理こそ世界一の料理だと信じレストランで修業を積んでいましたが、インド料理のスパイスの奥深い世界に驚き、世界の料理に目を向けることになります。
本書には著者が廻った30ヶ国のエピソードが多くの写真と共に納められており、主な料理のレシピ特集が、折々に挟み込まれています。
ネパールで出会った奥様とのエピソードもあり、各国の料理との出会い話が主体ですが、旅行記としても楽しめる内容で、面白く読み終えれました。
シリーズ化され 『山手線探偵』 ・ 『山手線探偵2』 に次いで、本書が3巻目になりますが、結末を読みますとこのシリーズの完結編のようです。
通称「やまたん」と言われる探偵役主人公<霧村雨>は、事件に絡むトラブルから借りていた事務所を明け渡し、山手線の車内を事務所代わりに使い、セミドキュメンタリー作家「ミキミキ」こと大学の同級<三木幹夫>、通学で山手線を利用している自称助手の小学校6年生の<道山シホ>とで、山手線に関する事件のトラブルを解決していきます。
今回は「ボギー」こと小学校6年生の<栗原健三>のガールフレンドが誘拐される事件や、山手線近辺に出没、都市伝説となりつつある<小さなおっさん>と呼ばれる人工知能を持ったロボット探しで3人が走り廻ることになります。
誘拐事件では<シホ>を身代金の運び役と危ない行動に付かせた反省もあり、ロボットの事件に解決と共に<霧村>と<ミキミキ>は<シホ>の前から、「すてきなレディになった時に再開しましょう」と姿を消してしまいました。
3人の凸凹コンビの行動と、<霧村>のひらめきの推理、環状線としての山手線を舞台に面白く楽しめたシリーズでした。
先週、日本初のイベントとして神戸で開催されます 「RED BULL FLUGTAG 2015」 のコメントで、「鳥人間コンテスト」のことを書きましたが、それを主題にした文庫本を見つけました。
主人公<鳥山ゆきな>は、理数系が得意と言うことで某工業大学の機械工学科に入学しますが、クラスの女性は<和美>と二人だけです。
どのクラブに入部しようかと二人で選んだのは、人力飛行機を作り「鳥人間コンテスト」に夢をかける「T.S.L(チーム・スカイ・ラリアット)」で、<和美>は「プロペラ班」に、<ゆきな>は「パイロット班」に配属されます。
「T.S.L」は伝統的に2人乗り用の機体を開発しており、今年のパイロットは2年前に涙を呑んだ<坂場>と<高橋圭>の予定でしたがテスト試走中に事故にあい、<圭>は足を骨折、急きょ<ゆきな>が<坂場>の相棒として飛行機に乗り込むことになります。
新入生の<ゆきな>のパイロットとしての訓練課程や飛行機を作成するチームの裏方などが細かに描写され、1年に一度の夢をかけるサークル内を舞台に、人力飛行に夢をかける青春小説として面白く読み終えれました。
2013年9月7日(日本時間8日)、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれた国際オリンピック委員会にて、2020年夏季五輪の開催地が東京に決まった場面から、本書は始まります。
さっそく警視庁は東京五輪開催に伴うテロ対策や犯罪防止に向け、総務部総務課のキャリア<祝圭一>を筆頭に、機動隊や地域課、生活安全課・組織犯罪対策課といった幅広い部署から選りすぐりのメンバー5名を集め、<輪島慎二郎>を室長として「五輪対策室(通称:チーム・トウキョウ)」を立ち上げます。
対策室立ち上げと同時に、オリンピックの入場券の特殊詐欺事件が発生、選ばれたメンバーは、それぞれの得意の技量を用いて、犯人を割り出していきます。
2020年の東京五輪開催まで、この「五輪対策室」の個性あるメンバーの活躍がこれからも<シリーズ>として楽しめそうな、まずは手始めの『始動』でした。
両親を交通事故で亡くし、施設で育っていた17歳の<鈴原博人>は、3年間働くと大学の授業料の面倒をみるという条件で、同じ17歳の<樋野薫>共々和歌山県の山奥の屋敷に住み込みで働き始めます。
屋敷には雇い主<光林康雅>の後妻<琴子>と先妻の17歳の娘<小夜>を中心として、<小夜>の家庭教師<角倉>、家全般の面倒をみている<中瀬>達が住んでいます。
身よりのない苦学生をなぜ<光林>は援助するのかわからないまま、<鈴原>と<樋野>は屋敷の雑用をこなす日々が続き、二人は<小夜>に惹かれていきますが、<小夜>は<樋野>に気があるようで、<鈴原>は黙って見守るしかありません。
そんなある日、池に浮かんだボートの中に<中瀬>の刺殺死体が発見され、また<小夜>の愛犬<桃子>が行方不明になるという事件が続けて発生します。
屋敷に住む人たちの複雑な人間関係が明るみに出るなか、<角倉>まで包丁で何者かに襲われ、<光林>が東京から戻ってきた夜に屋敷は放火され、事件は思わぬ結末に導かれて行きます。
最後の一行で本書のタイトルの意味が理解でき、読者を驚愕させる一冊でした。
以前に読んだ著者の 『ちゃんちゃら』 は、千駄木町の庭師一家を描き、豊富な植物の知識に驚くとともに、これはシリーズにならないかと期待していましたら、本書が(講談社文庫)の3冊目として発行されていました。
本書も植物と関係する大阪天満の青物問屋を舞台に繰り広げられる、江戸時代を背景とする物語です。
主人公<知里>は饅頭屋の娘でしたが、美濃岩村藩の江戸詰め藩士の<三好数馬>と夫婦になりますが、大阪の赴任先で<数馬>は突然の病で亡くなってしまいます。
後家となった<知里>は、手習いの見習いで長屋生活を始めますが、江戸の気風の違う大阪の世界に戸惑うばかりで、ある日泥棒に入られ、夫との思い出の花簪まで盗られてしまいます。
家賃を払うこともできずに途方に暮れているとき、青物問屋「河内屋」の若旦那<清太郎>に声を掛けられ、奥女中として<清太郎>の母<志乃>に仕えることになります。
若旦那の<清太郎>は遊び人で数々のトラブルを起こし、父親から廃嫡を言い渡される立場に追いやられますが、いつしか<知里>は若旦那の行動に惹かれていくのでした。
本書も蔬菜として地場の野菜が数々登場してきますし、小気味よい大阪弁の展開(著者は大阪生まれ)で、大いに楽しめた一冊です。
プロのロードレースを舞台とした第1巻目の 『サクリファイス』 と第2巻目の 『エデン』 に続く<サクリファイス>シリーズとして第3巻目が本書で、前二作の前日譚と後日譚の短篇が6篇納められています。
チームの「エース」を勝たせるために、多くの選手は「アシスト」に回るという、団体競技としての妙技があるロードレースですが、やはり実力が物言うスポーツの世界として妬みが渦巻く世界でもあります。
本書には『サクロファイス』の主人公<白石誓(ちから)>のフランスやスペインでの出来事とともに、「チーム・オッジ」内における「エース」<久米>と25歳の新人<石原豪>との軋轢、それを見守る3歳年上の<赤城直樹>との人間関係が見事に描かれています。
過酷なロードレースの先に、各選手が人間として何を感じ何を目標としているのかが、ひしひしと心に伝わる人間ドラマが楽しめました。
千葉県沖の東京湾に10年前まで海中都市があり、「海中高校」を舞台に繰り広げられる、近未来青春小説です。
海流発電とシーコンクリートの技術の実用化の実験的な都市として海中都市が作られ、高校2年生の<木口夏波>は、海中都市で生まれ育ち、自分の故郷として愛情を持ちながら高校生活を楽しんでいました。
ある日エコと考えられていた海流発電が、東北沿岸の漁業に悪影響を出しているとの報道があり、<夏波>は信じたくなく、1年先輩の秀才<牧村光次郎>に問うと、それだけではなくイネ科の「ベアット」から採れるバイオエタノール「ベアトール」の残留物質が、海中都市の要であるシーコンクリートを溶かしていると教えられます。
本書は<夏波>の高校時代の話と、10年後に化学教師になっている<牧村>を校内新聞の記事のためにインタビューする<三原亜紀>との昔話で構成されており、先輩<牧村>に対する<夏波>の淡い恋心と、当時を追憶する<枚村>の想い出話しが交互に語られていきます。
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