2015(平成27)年の年明け一番の<生け花>は、大好きな<佐々木房甫>先生の作品で幕開けです。
お正月飾りということで、縁起が良い「松」・「葉牡丹」・「センリョウ(千両)」が使用され、黄色・赤紫色・白色の「菊」が添えられていました。
左上方に大きく「松」の枝を配置し、右側の「松」の枝とのバランスを取る要として各種の花がまとめられていました。
使用されている花器も素晴らしく、全体を引き締める役割を十分に担ってました。
今年最後の読書は、居酒屋好きの酒呑みらしく『居酒屋お夏』を選びました。
主人公は目黒不動で「酒 飯」の幟を掲げた居酒屋を営む女将の<お夏>ですが、経歴・年齢不詳で客に対して毒舌を絶やさず、「因業婆」・「くそ婆ァ」と呼ばれています。
本書は四話の短篇からなり、市井に起こる事件を、「天女」ともおもえる美女が手助けして解決してゆく人情噺ですが、この「天女」が<お夏>だとはどこにも書かれていませんが、自然と読者に裏世界での顔だと暗示させています。
「くそ婆ぁ~」と罵りながら毎日顔を出す口入れ屋の<龍五郎>、<お夏>の店の寡黙な料理人<清次>を脇役に、人生の機微に戸惑う人々との交流がほのぼのと描かれています。
いやぁ~、関西人としては関西弁の駄洒落・ボケとツッコミ・オチのオンパレードで、抱腹絶倒、笑えた一冊でした。
本書は「粉もん」にかかわる7話の構成で、ストーリーの組み立てはどの章も同じなのですが、前述しました巧みな関西弁の文章力と、「粉もん」屋の店主であり主人公である大阪のおばはん<蘇我屋馬子>の強烈な個性で、一話一話どれもが楽しめる内容でした。
主人公<馬子>のお店は、「粉もん」全般を扱うお店として商店街や飲み屋街の一角に店を構え、<お好み焼き>・<たこ焼き>・<うどん>・<ピザ>などを、<蘇我屋イルカ>という10代と思しき女の子と営業、店に食べに来る登場人物たちの悩みを解決していきますが、彼らが改めて足を運ぶと、お店は初めからなかったように消えてしまっています。
B級グルメ派を自認していますが、第一話の<お好み焼き>を中心とした『豚玉のジョー』の章では「隠れた名店」の条件として6項目ほど記載されている部分があり、<マヨネーズは、できれば「いりますか」とたずねてくれるほうがいい>など、相槌を打つ場面が多々あり、「そうだ、そうだ」とひとりでツッコミを入れながら楽しく読み切りました。
<北杜生>が亡くなってはや3年ばかりが経ちますが、2009年に朝日新聞社から発行されていました本書が、新潮文庫に登場していました。
『楡家の人びと』や芥川賞受賞作品の『夜と霧の隅で』などの代表作をはじめ、<マンボウ>シリーズの随筆を高校生の頃に読みふけりました。
著者の「躁うつ病」は有名で、あちらこちらに自ら書かれていますが、当時は今ほど一般的な病名ではなく、同じ精神科医の<なだいなだ>が「北君の社会的貢献は、躁うつ病を世に広めたことだ」と言わしめています。
<斉藤由香>は著者の一人娘で、躁うつ病のために母親と一緒に別居生活を余儀なくされたことや株の投資で破産したこと、日本から独立して「マンボウマゼブ共和国」設立などの裏話が、二人の赤裸々な対談形式で楽しめました。
舞台は商店街の一角にある小さなフレンチ・レストラン『ビストロ・パ・マル(悪くない)』です。
登場人物はシェフの<三舟忍>、サブの<志村洋二>、ソムリエの<金子ゆき>、ギャルソン<高築智行>の4人です。
本書には7編の短篇が収められており、<高築>の目線で物語が語られ、客たちの巻き込まれた事件や不可解な料理にまつわる謎解きを、シェフ<三舟>が見事に解決していきます。
フランス料理の基本的な事柄を随所に散りばめられ、<人は楽しむためにも食べるが、生きるためにも食べる>という<三舟>の哲学的な言葉は、料理の基本として感じ入りました。
悩んだいる当事者の心を慰めるために、随所にシェフ特製の「ヴァン・ショー」というホットワインが登場してきますが、機会があれば試してみたい飲み物として心に残りました。
京都を舞台にした小説は多々ありますが、同じ古都でありながら奈良が登場するのは珍しく、<恩田陸>の旅情ミステリーとしての 『まひるの月をおいかけて』 を思い出しておりました。
著者自身が1986年大阪府生まれ、現在奈良女子大の大学院生ということもあり、奈良が舞台なのは納得です。
主人公である「私」は、大阪の実家から奈良にある女子大学に通う2年生ですが、2月3日に行われる二月堂の節分祭の豆まきで、白い狐のお面を付けた着流し姿の男と出会います。
その傍らには、年上であり美人の<揚羽(あげは)>が付き添っていました。
<女子中・高・大>の環境で育ち、彼氏もいない「私」は、奈良の伝統行事に出向くことで二人との付き合いが始まり、やがて仲の良い<揚羽>を気にしながらも<狐面>の彼に思いを寄せていくのですが、<揚羽>の不注意で彼が子供の頃の花火事故で顔に火傷を負ったことを知り、幼馴染の<狐面>と<揚羽>の仲を取り持つことを考え始めます。
20歳の揺れ動く女心を縦糸として、奈良の寺院や街並・伝統行事を散りばめ、淡い青春物語が詰まった一冊として楽しめました。
<三浦しをん> ・ <あさのあつこ> ・ <近藤史恵> と好きな著者3人が、「マラソン」をテーマにしたアスリートの物語を執筆しているということで、てっきり同じ主人公を引き継ぎながらの連作なのかなと思いましたが、それぞれ独立した小説でした。
第1話は<三浦しをん>さん、学生時代にランナーでしたが不動産業界に就職してからは仕事ばかりで走る楽しさを忘れてしまった男が、社長の娘の策略で「ニューヨークマラソン」に参加、忘れていた楽しさを思い出します。
第2話は<あさのあつこ>さん、仲のよかった同級生と彼女との三角関係のもつれで無理して走り疲労骨折をしてしまう男は、大学を卒業してスポーツシューズメーカーに就職しますが、先輩技術者から「中途半端だ」と指摘されてしまいます。
同級生の彼から、彼女の事故死を乗り越えて「東京マラソン」に出場すると8年ぶりに電話があり、男は彼のためにマラソンシューズを作る過程で、先輩が言う「中途半端」な部分に気が付きます。
第3話は<近藤史惠>さん、母親がバレー教室をしていた関係で小さいころからバレーに明け暮れていた彼女は、5歳年下の妹の才能にバレーの道を諦めてパリに語学留学します。そこで出会った女性とワンちゃんに感化され、自分もジョギングをはじめ「パリマラソン」に参加する意志をかため、ジョギングの練習を始めます。
それぞれの人生の過程で傷つている3人が、三者三様の些細なきっかけで新しい人生のスタートを切る感動が伝わる一冊でした。
なんとも奇想天外な小説で、これは好き嫌いが出るだろうなと感じながらも、最後まで読ませる構成に著者の力量を感じました。
物語に登場する主人公は鳥取県の製鉄会社の長女として「丙午」年に生まれた<赤緑豆小豆>で、鉄を自由に操れる能力を持っています。
中学校に入学する前の12歳の時に、緑ヶ丘中学校にたむろする女子暴走族<エドワード族>とひと悶着を起こし、入学式のときに傷めけられますが、気の合う「丙午」仲間の<菫>や<花火>・<ハイウェイダンンサー>などと共に仕返しに出向きます。
2歳年上の総番長<大和タケル>を後ろ盾に、永遠の友情を誓った<菫>が自殺するという悲しみを背負いながらも、島根県の「虚無僧乙女連(こむそうガールズ)」、広島県の「裸婦(ラブ)」、山口県の「下関トレンディクラブ」など中国地方全土のレディース制圧に乗り出していきますが、やがて自分も大人の世界に入りつつあることに気づいていきます。
「製鉄天使」と謳われた少女の伝説記ですが、完全なフィクションとわかりながらも、妙に痛快さを感じる一冊でもありました。
文庫オリジナルの日記形式のエッセー集で、2010年の一年間がまとめられています。
著者の 『食堂かたつむり』 は、第1回ポプラ社小説大賞に応募した際には最終選考まで残りませんでしたがベストセラーとなり、<冨永まい>監督により2010年2月に映画が公開されています。
本書は『食堂かたつむり』が、韓国やイタリア・フランス・台湾等に翻訳されていく状況と、新しい作品執筆の流れを底辺に、鳩間島や石垣、モンゴルやカナダと活発に取材活動をこなし、旅先でのおいしい料理や人々との交流が優しい文章で綴られていました。
食事に対して、<好きなお店ができたら、とにかく間をおかずに何度か続けて通うことだ。そうしたら顔を覚えてもらえて、店の人と親しくなれる>は、まさにわたしの行動規範と同じで、嬉しくなりながら読み終えました。
部押印を舞台とする「チーム・バチスタの栄光』から始まる海堂尊の作品群は、架空の都市である桜宮市、極北市を舞台に各作品とその登場人物が関わり合うクロスオーバーで展開される構成でしたが、新たな架空都市として浪速府を設置し、2009年に発生したインフルエンザ騒動をモデルに新型インフルエンザ罹患者に接する浪速府の医師親子の奮闘と、その裏で繰り広げられていた浪速府知事<村雨弘毅>と霞が関の官僚たちとの暗闘を、週刊新潮で2010年に約1年かけて連載されました。本書は大きく分けて三部から成り立ち、時系列が前後しながら全体が構成されています。
浪速市天目区にて渡航歴のない小学生が「インフルエンザ・キャメル」に罹患、厚生労働省は浪速府への移動・転出を認めない経済封鎖を行いますが、その裏側には霞ヶ関の官僚たちの利権と権力が絡む陰謀がありました。
関西経済の復活、道州制を超えた「日本三分の計」案を進めるべく、浪速府知事の<村雨弘毅>、東京検察庁から浪速検察庁に左遷させられた「カマイタチ」こと<鎌形雅史>、「医療界のスカラムーシュ」の<彦根新吾>、さらに厚生労働省技官であり「ロジカルモンスター」と称される<白鳥圭輔>たちが、堂々と霞ヶ関に立ち向かう姿を描きながら、今の日本の医療問題にも切り込んでいきます。
著者の作品に共通するのは、他の作品の登場人物たちがさりげなく脇役として登場してきますので、おもわず「ニヤリ」とさせられる場面が多々ありました。
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