なんとも奇妙な展開で楽しませてくれた、『有頂天家族』です。
登場するのは、今はすっかり神通力が消え去り、空を飛ぶことができない天狗<如意ケ獄薬師坊>こと「赤玉先生」、人間でありながら「赤玉先生」の指導を受け、天狗と同じ能力を持つようになった<鈴木聡美>こと「弁天」、そして本書の語り手である狸の<下鴨矢三郎>を中心とする<下鴨一族>と、対抗する<夷川一族>です。
京都の町を舞台として、狸界をたばねる「偽右衛門」の地位を争い、<矢三郎>の長兄<矢一郎>と<夷川早雲>の跡目争いが賑やかに繰り広げられ、ファンタジーな世界に引きずり込まれます。
「狸柄=人柄」・「狸の情け=人の情け」・「狸格=人格」などの擬人化した言葉も面白く、楽しく読み終えれました。
主人公は<真田省吾>22歳、過去に刑事であった父<皆川宗一>と母を自宅に忍び込んできた賊に銃殺され、自らも重傷を負いますが、担当刑事であった<山縣>の配慮で死亡されたこととされ、施設で育ち監察医の<真田>と養子縁組を組んだ過去を持っています。
<皆川>の事件を契機として、刑事を辞めた<山縣>は「ファミリー調査サービス」という探偵事務所を開設、18歳になった<真田>と、薬漬け生活を更生させた20歳の<公香>と活動をしていました。
ある日、<中西志乃>という19歳の車椅子の女性から一人の女子中学生<江梨菜>が殺されるので、阻止してほしいという依頼がきます。
彼女は夢の中でみた殺人事件や事故死が100%現実に起こってきており、<真田>の過去事件が最初の夢だと知り、驚きを隠せません。
<江梨菜>は<山縣>の後輩刑事<柴崎>の娘で、調査を進めている北朝鮮の覚醒剤密輸事件が背景にあり、小気味よい展開で楽しめるアクション・クライムミステリーでした。
本書には6篇がおさめられており、「取調室」「薄い傷」「親子の肖像」「隠された絆」では捜査一課時代の<大友鉄>が鋭い洞察力でそれぞれの事件を解決してゆく過程が描かれています。彼の警察官らしくない丁寧さ、優しさが感じられとても好感が持てます。さらに妻・菜緒との絆、息子誕生で感激する大友刑事しかしその後、自動車事故で妻を亡くす絶望感を予感すると切ない。
しかし、刑事の仕事は容赦なく彼を現実の世界にひき戻す。
福原捜一課長や、同期の柴刑事などの気配りに次第に絶望から希望へと気持ちを切り替える<大友>刑事。
一人息子との生活を最優先するために残業の無い「刑事総務課」への異動を願い出でる。だが、大友鉄の刑事としての優秀さを信じる福原捜査一課長は、彼の希望を優先しつつ、なんとか捜査に参加させようと画策します。
「見えない結末」では、刑事総務課へ異動した大友鉄が所轄で起きた事件の特捜本部に行くよう命令される。果たして大友は福原の思いに応えることが出来るのか?
主人公<下澤唯>は、11年前に突然失踪した夫<貴之>を探し続ける女探偵です。
夫自身が探偵であり、京都で開設したその事務所の看板を守るべく、自らが探偵として働いていました。
ある日事件の調査で出向いた新潟で夫らしき人物と遭遇、<唯>は同職で年上の<川崎多美子>と新潟で得た情報から、長野県諏訪地方に出向き、そこのパン屋「たかくら」で、夫によく似た10歳の少女<ゆい>と出会います。
読み手の読者は、夫<貴之>がある事件に巻き込まれて記憶喪失になり、その際に関連した<渋川雪>と逃走していることがわかりますが、ひたむきに夫<貴之>の足取りを追い求める<唯>との再会が叶うのかと、訝りながら読み進めていかなければいけません。
主人公は<唯>に間違いはありませんが、物語の中で悲しみを背負った女性たちが登場、それぞれの人生の喜怒哀楽が交錯するなかで、<唯>の真摯な行動が光る秀逸なミステリーでした。
ピアノの黒鍵と白鍵のシンプルな表紙ですが、内容はなんとも複雑な構成で、驚愕のラストが待ち受けていました。
本書は、ミステリーの範疇だと思いますが、間違いなく音楽家<シューマン>の音楽論もしくはシューマン論かと思わせる展開が続き、読み終った段階で入念な伏線としての構成に驚かされました。
不幸な事故により中指を失った天才ピアニスト<永嶺修人>が、海外でシューマンの協奏曲を弾いていたとの手紙を受け取る主人公<里橋優>の<修人>との思い出が語られていき、読み手はシューマンに傾倒していた<修人>の音楽背景が理解しながら、中指がどうなったかの大きな疑問を持ちながら読み進めていきますが、事件の確執に触れることなくシューマン論が展開されていきます。
7割ほど読み進んだ頃、30年前の高校生時代に起こったプールでの女子高生の殺人事件が語られ、ようやくミステリーらしく展開していくのですが、やはり根底には<修人>との関係が綴られ、二転三転の混沌とした結末を迎えます。
ネタバレになりますので細かいことは書けませんが、「小説らしい小説」を読んだとの印象は残りますが、音楽評論的な細かい描写は少しばかりミステリー作品としてはくどさを感じさせ、好き嫌いが分かれるかもしれません。
本書には短篇が10篇納められていますが、どれもテーマは「60秒」の時間です。
「あなたに臨んだときに一度だけ、世界中の時間を60秒止められます」と、ひさしのある緑色の帽子に、真っ赤なミニ丈のノースリーブのワンピースを着て、ブルーの膝までのブーツを履いた11~12歳ぐらいの<美少女>が、それぞれの短篇に登場する人物たちに特別な力を授け、使い道は相手の自由に任せてしまいます。
誰にも知られず、邪魔されることのない「60秒」をどう使うか、飛び込み自殺の女性を助けるために使い人、自分の欲望のまま女性を犯す男、不治の病に罹り無関係な人たちを巻き込んで自殺する男、死なせた赤ん坊を他人の仕業に見せかけようとする母親等、人間の心の欲望がよく描かれています。
力を授ける<美少女>は、各事件に対して無反応で傍観者的な態度を取り続けるのが、少し違和感を感じました。
京都のN医大に勤める36歳の<秋沢宗一>は、同僚の結婚披露宴で、13年前に札幌で別れた7歳年上の恋人<亜木帆一二三>と再会しますが、記憶にある彼女とは違いいまだ20代にも見える美人となっていました。
帰宅のタクシーに乗ろうとするところを呼び止めますと、たしかに「しゅうちゃん・・」と彼女しか知らない呼び方をされ、昔の感情が甦り、彼女の身の回りを調べるうちにその後結婚した2人の夫たちは、どxひらも殺人事件で死亡、多額な資産が彼女に残されていました。
記憶とはあいまいなもので、自分の取って都合のいい部分だけを残す場合が多々あり、本書でも<秋沢>の記憶は13年の空白が生み出したものか、読者を惑わせてしまいます。
当時2歳だった一人目の夫の娘<江真>も15歳になり、大事な語り部として登場していますが、母と子の壮絶な愛情物語が展開、最後は一抹の明るさが垣間見れるサスペンス・ミステリーでした。
妻子ある会社の上司と不倫関係にあった30歳の<わたし>は、自暴自棄になって歩いていたところ雷に打たれ、平安時代の17歳の女官<小袖>の体にタイムスリップ、『源氏物語』を執筆している<香子>さまの片腕として働き出します。
本書はプロローグに始まり、「夕顔」・「末摘花」・「葵」・「明石」・「若紫」の5章が収められ、エピローグで終わる構成です。
<紫式部>の『源氏物語』を基本に据え、物語に登場する数々の姫君や事件の意外な真相を、<小袖=わたし>の目線から、軽い筆致とユーモアを交えて描かれています。
<紫の上>に対しては、・・・ロリコンのスケベ親父にまんまと騙されて愛人にされた哀れな女、しかもそのスケベ親父は浮気のし放題だったという何とも救いがたい境遇の女、でしかなかったのだ・・・など、強烈な皮肉の語りが心地よく楽しめる一冊でした。
大学の夏休み、先輩<甲本>の手伝いで軽トラでたこ焼きを売るバイトをしていた<楢井翔太朗>は下関に住んでいますが、たこ焼きの販売で出向いた門司にて、ヤクザの二人連れに追いかけられている高校生の<花園絵里香>を助けます。
<絵里香>は、福岡県門司の暴力団<花園組>組長<花園周五郎>の娘で、腹違いの妹の手術代500万を手に入れるため、<翔太朗>と<甲本>の3人で「狂言誘拐」を計画、組から上手く3000万の現金を手に入れたのですが、祝杯の中に睡眠薬を<甲本>に入れられ、目を覚ますと500万だけが残されており、身代金を回収した船の倉庫には<花園組>の若頭<高沢>の死体が残されていました。
最後にミステリーとして謎解きをするのは<絵里香>の姉<皐月>で、組長の長女として男勝りの性格です。
駄洒落や広島弁の会話も楽しくユーモアのある文章で、また地元ならではの観光ネタも面白く、<翔太朗>と<絵里香>の青春ストリーも絡め、おおいに楽しめる一冊でした。
育児と仕事を両立させるために捜査一課から、刑事総務課に移動させてもらったシングルファザーの<大友鉄>は、能力を惜しまれて、上司の命令で、銀行員の6歳の息子が誘拐された事件の捜査をすることになります。
身代金は、アイドルグループの5万人のコンサート会場に紛れ込み持ちさられてしまいます。
息子は無事に戻りますが事件の恐怖で、言葉を失っていました。
事件の背景には銀行融資に絡む側面がありましたが、新シリーズとして、楽しめそうなキャラクター刑事の出現です。
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