ライフワークとして40年近く『早川ポケットミステリー』シリーズを読んできていますが、最近は好きな作家たちが次々と亡くなり、少しばかり遠のてしまいました。
待ち遠しいのは、<デボラ・クロンビー>の「キンケイド警視シリーズ」、<R・D・ウィングフィールド>の「フロスト警部シリーズ」、<P・コンウェル>の「検屍官ケイシリーズ」ぐらいなものでしょうか。
そんな折り、最近江戸時代を舞台にした女流作家ものが多く出ているのに気が付きました。
一昔前までは、<山本周五郎>・<池波正太郎>・<司馬遼太郎>・<藤沢周平>などが人気で、名前がすぐに浮かびます。
海外ミステリーに熱中しているあいだに、本書の<宇江佐真理>をはじめ<諸田玲子>、<北原亞以子>・<藤原緋沙子>等の女流作家が江戸時代を舞台に活躍されています。
江戸学といえば、早くして亡くなられた<杉浦日向子>さんを思い出しますが、待ち遠しいミステリーが発売されるまで、人情味あふれるお江戸話しを読んでみようかなと考えています。
聞き慣れない文庫名ということもあるのですが、表紙のイラストが何とも不気味な感じで手に取ってみました。
俗に言われるホラー小説3篇が納められていますが、どれも今の時代を反映してか、「携帯電話」がいい小道具として扱われています。
『クラスメート』は、偶然に拾った電話にクラスメートの惨殺死体が撮影されていたことにより、<渡辺ケイタ>と<藤島タツヤ>は犯人をおびき寄せる作戦を立て、待ち伏せを考えます。
『穴』は、予備校生の<私>が偶然に壁に穴を空けてしまうのですが、向こう側には殺人鬼が住んでいるようで、殺伐とした受験環境の中で「私」は姿の見えない殺人鬼と置手紙を通じて心を通わしていきます。
『全裸部屋』は、突然朝目が覚めたら窓も入り口もない白い壁の部屋に「私」は閉じ込められている状況で、初めは3メートル四方の部屋が、時間と共に縮まってゆく状況の中で、必死に「携帯電話」で外部に助けを求めるのですが、救出されない「私」の心境がつづられていきます。
どれもホラーらしい構成で読者に最後の展開を予測させることなく、最後まで読まざるを得ない内容でした。
時代は文政(1818~1830)年間、神田蝋燭町界隈にある「橘屋」の離れを無償で借り受けて、美人で地味で、ちょっと変わり者の17歳の<お久>は近所の子供たちを集めて手習い小屋「たちばな堂」を営んでいますが、厳しい指導で「鬼師匠」と呼ばれています。
大師匠の父<杢兵衛>は床に臥せっており、母<お咲>は、家を出て行っておりません。
「橘屋」の手代<金一>は<お久>と幼馴染で同い年、ある日彼は両国橋で、狸が化けた白色で目の周りに黒い模様が入る子犬を見つけ、<お久>のもとに届け<クマ>と名付けられます。
そんな「たちばな堂」の<お久>や<金一>を中心として起こる奇怪な事件を、落語調の軽快な語り口で楽しめる一冊でした。
続巻が続くようで、母<お咲>の謎や狸である<クマ>の真相、<お久>と<金一>のその後が気になるシリーズになりそうです。
人気作家の著者としては珍しく、本書は1999年から2010年に書かれた五つの中短篇で構成された2冊目の文庫オリジナルで、個人短篇集未収録作品です。
超常現象を題材にした作品や、表題の『チヨ子』のようにぬいぐるみの思い出にまつわるファンタジー的な作品が納められています。
『チヨ子』以外の作品は、殺人事件に絡むミステリーっぽい内容で、どれも見事な結末でまとめられているあたりは短篇の名手としてのうまさを感じ、面白く楽しめました。
高校の修学旅行で見学に出かけた主人公<健(たける)>は、「人形浄瑠璃・文楽」の<太夫>が語るエネルギーに感化され、研修生として2年間をすごし、師匠<笹本銀太夫>について修業をつんでいます。
ある日師匠から、三味線の相方として<兎一郎>を指名され驚く<健>ですが、お互い文楽にかける情熱は半端ではなく、<銀太夫>と<兎一郎>との伏線を忍ばせながら、稽古に励む<健>が描かれていきます。
<健>は、ボランティアで小学校で文楽を指導していますが、教え子の中に<おかだみらい=サラ>がおり、<健>はこの母親<真智>に一目ぼれしてしまいます。
芸としての文楽の修業と<真智>に対する恋心とが揺れる状況は、まさに文楽で描かれる<男と女>の世界に通ずるものがあり、また納められている8編はどれも有名な演題が付けられており、読みながらにして文楽の知識が身に付くというありがたい一冊でした。
講談社文庫の<田牧大和>の作品としては、『花合せ 濱次お役者双六』 に次ぐ2冊目になります。
文政4(1821)年の師走、目黒・祐天寺が付け火で焼け、眼の見えぬ僧<笙雪>が焼け死に、一人の身元不明の女の焼死体が見つかるところから物語は始まります。
蕎麦屋の用心棒として居候している<遠山金四郎景元>は、火事は寺社奉行<水野左近衛将監忠邦>が仕組んだもので、亡くなった女は彼の従妹である<清姫>であることをネタに、<忠邦>を強請ろうと仲間の<鳥井耀蔵>と共に屋敷に出向いていきます。
<金四郎>は吉原に馴染の遊女<夕顔>がおり、その弟が<笙雪>であり、不運な出生を秘めていますが、足抜けをさせたあと<忠邦>に彼女の関所破りに協力させようと計るのですが、策略家の<忠邦>は迎え撃つ作戦を考えていました。
狐と狸の化かし合い宜しく、それぞれの思惑を心に秘めながら策略家らしい知恵比べが面白く楽しめ、心地よい読後感が味わえる一冊でした。
本書には、「御厩河岸」・「竈河岸」・「佐久間河岸」・「本所・一ツ目河岸」・「行徳河岸」・「浜町河岸」の六つの河岸を舞台に、人情味あふれる市井の生活や生き様が描かれています。
どの話も江戸の情緒あふれる生活や文化が丁寧に描かれていますが、第二話の『浮かれ節』は、ひょうひょうとして出世を諦めた小普請組の<三土路保胤>を主人公として、当世人気の出てきた都々逸の即興名人<扇歌>との掛け合いが面白く印象に残りました。
前作 『おちゃっぴ』 に登場した神田の岡っ引き<伊勢蔵>が、『身は姫じゃ』に娘<小夏>の婿となった<龍吉>共々登場、また、薬種問屋「丁子屋」の若旦那<菊五郎>も、タイトルとなっている『神田堀八つ下がり』に登場、女房<おかね>とも安定した生活をしている姿が描かれていて、楽しめました。
著者は東京工業大学建築学科卒を卒業された一級建築士で、紀行作家として活躍されています。
設計事務所勤務を経て、建築プロデューサーという職業についていますが、
自己研修のために訪れてきた世界中の「ホテル」を舞台に、短篇が31話納められています。
建築を志す者がそうするように、貧乏旅行をしながら「ホテル」の見学にかける情熱が伝わるとともに、ホテルマンやそこで出会った人物たちとの交流が、ほのぼのとした文章で語られています。
末には登場する31の「ホテル」の解説もあり、読者にも「まだ見ぬホテル」へと誘う構成で、ガイドブックとしても貴重な資料になる一冊でした。
本書のタイトルでもある『ちょいな人々』を含め、7話の短篇が収められています。
どれもユーモアにあふれた話しが描かれていて、どこにでも起こりそうな日常の話題が主体で、笑わせてくれます。
阪神タイガースファンとしては、『くたばれ、タイガース』のタイトルが気になり購入です。
巨人ファンの父親のところに阪神ファンの男が、娘との結婚を承諾を取りに出向きますが、そこは長年のライバル同士ということで、戦々恐々のやり取りがほのぼのと楽しめました。
また『いじめ電話相談室』は、相談員の<聡子>の奇抜な「いじめ」への対策が楽しめ、ユーモアを含みながらも含蓄ある内容で、著者の鋭い視線に感心してしまいました。
主人公<長谷清七郎>は、<長谷半左衛門>と下女<おしの>の間に生まれた厄介者で、2歳年上の嫡男<長谷市之進>のもと家士として不遇な生活を強いられていましたが、22歳のときに家を飛び出します。
25歳の現在、絵双紙本屋「紀の字屋」の筆耕等で生計を立てていますが、彼が「紀の字屋」の主<籐兵衛>から、店を継いでくれないかというところから物語は始まります。
「紀の字屋」には、店の引継ぎ話しに反感を抱く絵師の<与一郎>や、昔は巾着切りだった<小平次>といった生い立ちに関する出来事が主体となり、登場人物たちの人間模様が語られていきます。。
また、<50歳の<籐兵衛>に寄り添っているまだ年若い<おゆり>の素性も残したまま、<清七郎>は<清七>と名を改め「紀の字屋」を継ぐことになりますが、まずは念願であった江戸の「切り絵図」(地図)作成に着手していきます。
副題の<切り絵図清七>とありますように、これからシリーズとして続巻が刊行されて行くと思いますが、今後のの少年<忠吉>の成長や<おゆり>の正体などの展開に興味が尽きません。
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