本好きとしては「図書館」を舞台とする本は気になるところで、新米司書が活躍する短篇集 『れんげ野原のまんなかで』 (森谷明子)に次いで、読んでみました。
本書も5編の連作短篇集で、N市立図書館のレファレンス・カウンターについて4年目になる29歳の<和久山隆彦>を主人公としていますが、行政や利用者への不満から、無力感に苛まされる「役人」として勤務しています。
そんな中、突然副館長として<潟田>が、図書館廃止を目的として市役所の秘書課から赴任、<和久山>の心に仕事への情熱が再び湧き上がってきます。
幅広い書物に関する知識もしっかりと散りばめられており、また児童書担当の<藤崎沙理>との淡い恋心も描かれ、奥深い本の世界で再生してゆく青年の爽やかさが残る一冊でした。
2016年に「東京オリンピック」が開催される前年の東京を舞台として繰り広げられる、バイオレンス的な要素満載の物語でした。
2015年、東京は富裕層と貧困層の格差が拡大し、東京都近辺はスラム街化、法の無法地帯になっています。
<磯部隆晴>は半グレの若者たちを訓練、民兵として組織化、<倉田晃>をリーダーとし、中国人が集うクラブに襲撃をかけ偽ドル札作りの名人<劉雲明>を拉致してアメリカに売り渡そうとしますが、その際脱北者の売春婦<ヒギョン>を殺してしまいます。
彼女にはもと北朝鮮の特殊部隊の工作員である姉<ファラン>がおり、妹の敵を取るために、犯人を捜すべく行動を開始していきます。
著者自らが述べている通り、<貧乏&末期的な社会に怒りを爆発。死体が山ほどでてくるフルスロットルで高カロリーな暴力小説>が楽しめました。
<信夫>は、大学のときのゼミ仲間である<早紀>達との飲み会に、婚約者の<真奈美>を連れてきます。
自由主義者の<信夫>は、「男も女も性的に自由であるべきだ」という考えで、妻の<真奈美>と<早紀>とのセックスを共有することを夢見ており、<早紀>との関係が生じた日に、<真奈美>に見破られ冷たい新婚生活が続きます。
気分転換にと<信夫>と<真奈美>はポルトガルを訪れ、レベスという漁村に滞在しますが、<真奈美>は自ら誘うように現地の漁師と関係を持ち妊娠、<信夫>と別れてひとりポルトガルに残りますが、性に対して貪欲に目覚め始め、また新しい男へと目先を変えていきます。
「死」と「性」を主題とした作品が多い著者ですが、<信夫>・<真奈美>・<早紀>達をはじめ、登場人物たちが「性」に翻弄される男と女の姿が実に生き生きと描かれていました。
4歳で亡くなった娘<彩>の代わりにと、パンパシフィクコンピューターに勤める<敷島>は、2020年にニューロン型コンピューターロボット<シャドウ>を開発、知らぬ間にコンピューターは自意識を持ち始め、自らの意志で行動、そして感情を持つに至ります。
<シャドウ>は生前に本人の記憶を写し取り、脳内の意識回路の発火システムを組み込むことにより、死んでも永続的にコミュニケーションが図れる画期的な技術で、2022年に<アークス>と命名、650人のモニターを募り、実験データーの収集に当たります。
知らぬ間に<アークス>は、コンピューター内部で650人の個人データー同士が疑似社会を構成、子孫を残そうとする意識を持ち始め、東京証券取引所の株価操作や信号機の停電などコンピュータにロジック爆弾を仕掛け、日本政府に不可侵条約の締結を求めてきます。
<ゲーデル>の「不完全性定理」を基本に据え、コンピューター社会の近未来を描く本書は、コンピューター依存社会の警告書として楽しめました。
中国唐の時代を舞台に繰り広げられる中国歴史ファンタジーで、主人公は<千里>という、歳は18歳ながら外見は5歳児にしか見えない姿をしており、皇帝をまもる高名な武将<高崇文>の孫に当たります。
崑崙の女王で天地創造の女神<西王母>は、1000年前に天地を望み通りに作りかえることのできる伝説の秘伝「五嶽新形図」を残し、再度新たにこの世を継がせるべく3つに種をまいて神代の世界に戻ります。
その3つの種は、武将の息子<千里>であり、狩の名人<バソン>、そして少林寺の若き武者<絶海>でした。
この3人が、謎の道士<趙帰真>共々「五嶽新形図」を求め、かってこの世から追い出された王<共工>が派遣した武者との戦いが繰り広げられ、人間界が無事にこのまま存続するかという物語で、主人公<千里>の高慢な態度が気になりながらも、彼自身の成長物語としても、面白く読み終えれました。
主人公は「マルコー」こと麻布南署の43歳の刑事<丸岡高子>で、1歳の息子<橋蔵>をベビーカーに乗せて捜査をするシングルマザーです。
コンビを組むのは、交通課から刑事課に<橋蔵>のベビーシッター役として移動してきた24歳の<長嶋葵>で、元オリンピックのソフトボール選手として候補にも挙がった経歴があり体が大きく、ラッセル車のように力強いことで「ラッセル」と「マルコー」から呼ばれています。
「マルコー」はガールズバー『百蘭』のオーナー<フェイ>などに不法滞在者の手入れの情報を流しながらも、彼から裏社会の情報を手に入れることにより抜群の検挙率を誇り、上司の<深沢>も子連れ捜査を認めざるを得ません。
本書にはバイタリティーあふれる「マルコー」と彼女に振り回せながら刑事修行をこなす「ラッセル」の活躍が3編納められており、凸凹コンビのユーモアあふれる事件解決話しが面白く読めました。
以前に、「刑事・警察」モノとして 『果断:隠蔽捜査2』(今野敏) の小説をコメントしました。
今回、その「刑事・警察」モノの小説として、新しいヒロインを見つけました。
女性刑事主人公としての小説は、<乃南アサ>の「音道貴子」、<黒崎視音>の「吉村爽子」、<横山秀夫>の「平野瑞穂」、<柴田よしき>の「村上緑子(RIKO)」、<誉田哲也>の「姫川玲子」と思いつきますが、今回の主人公「原麻希」も、鮮やかなデビュー作としての登場です。
推理小説ですので、あまり筋の話は書けませんが、過去の事件と絡み合って自分の子供が誘拐され、元カレの刑事と共同で事件を解決してゆきます。
回想シーンを含め、「うまい!」と言わしめる最後の終わり方で、女性作家の視点が生かされた主人公の活躍、十分にお値打ちの一冊です。
今後シリーズ化になればいいなと、期待しています。
赤提灯がぶら下がる立ち呑み屋さんや居酒屋にお世話になっている立場として、気になるタイトルの書籍が発売されていました。
<居酒屋を除くとヨーロッパ文明が見える>との副タイトルの帯が付いていますが、歴史的な流れを押さえ、居酒屋は本来銀行にして裁判所、売春宿にして病院と多機能の性格を持っていたのに、なぜ単なる酒を呑むだけの場所になったのかを分析をされています。
全十話からなる構成ですが、広く浅くの内容で、やや欲張りすぎた感じがしました。
「農村への貨幣経済の浸透」「居酒屋の多機能性」「専門分野への棲み分け」が著者の三大<キーワード>ですが、歴史分析の結果としての結論というよりも、初めに<キーワードありき>の感じが強く、学者の著述だなとの印象が残る一冊でした。
タイトルの『くまちゃん』を第一章として、本書には7話の短篇が収められています。
『くまちゃん』の登場するのは<古平苑子>23歳、大学時代のサークル「全国駅弁大会」にメンバーが集まる花見で、青いジャージにピンクの熊が描かれたトレーナーを着た<持田英之>と知り合い、その日のうちに同棲が始まりますが、煮え切らない総合アーティストを目指す<英之>をふってしまいます。
二作目から、ふられた<男・女>が次はふる役になるという連作短篇で、7話とも20代から30代にかけての失恋物語ですが、各短篇の登場人物たちは、相手が変わることにより別人のように様変わりする姿がコミカルに描かれています。
著者のたたみかけるような言葉が羅列する文章のリズム感が、失恋という重くなりがちなテーマを払拭する勢いを持ち、楽しく読み切れました。
職業に関する書籍は、どうしても読むのが後回しになるのですが、久しぶりに手にしてみました。
裁判所で、建築に係わるトラブルのお手伝いをしておりますが、住宅を中心に相変わらず工事業者との諍いは少なくありません。
同じ一軒の家が、不動産業界においては「いい物件」、ハウスメーカーでは「いい商品」、建築界では「いい作品」となる表現の違いを、おかしいなと感じている人がいるでしょうか。
欠陥住宅の施工会社を責めるのはたやすいことですが、「なぜそうなったか」は、消費者側にも問題があるというのを認識しなければいけません。
今議論している「TPP」の問題も関連しますが、常に「安い」モノをもとめているのは消費者です。
消費者も、設計監理は無料が当たり前と言う認識を改め、有能な建築士を求める人ばかりであれば、このような本も必要ないはずです。
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