<池波正太郎>は『鬼平犯科帳』や『剣客商売』などの時代小説でファンも多く、また美食家・映画評論家としても有名ですが、1990(平成2)年5月3日に没して早や20年が過ぎています。
本書は、フランスを訪れた紀行文である『あるシネマディクトの旅』・『続・あるシネマディクトの旅』・『新・シネマディクトの旅』の3紀行文をまとめています。
著者はグルメならグルメの取材だけ、執筆の下調べは下調べだけと、余分な行動を取る性格ではありませんが、やはり食通らしい表現が随所に表れています。
内容的には30年以上前の紀行文ですので、今は著者が訪れた時代とは随分と変わっていると思いますが、温かみのある目線での紀行文は時代差を感じません。
表紙のセピア色の写真で著者と写っているのは、旧中央市場(レアール)にあるお気に入りの酒場「B・O・F」の亭主<セトル・ジャン>(当時72歳)ですが、この紀行文を読み、わたしも会いたくなる人物でした。
主人公の<しずか>は25歳、妻子ある男性<剛>と別れ、勤めていた会社は倒産したという状況の中、伯母の<渕上>は薬品会社に勤めている<小村栄治>36歳との見合い話を持ちかけてきます。
中途半端な気落ちで<しずか>は<小村>との見合いを行い、何回かのデートの途中、彼は踏切事故で無くなってしまいます。
<小村>との付き合いの途中、偶然に横浜の洋館の住む老女<ターニャ>が同居人を求めていることを知り、新たな気持ちで下宿生活を始めるのですが・・・。
小さいころから容姿端麗で、イギリス留学経験もある成績優秀の4歳年上の姉<恭子>は、8歳年上の<英輝>と六本木のマンションに住んでいますが海外出張が多く、これまた精神的に問題を抱えています。
登場する心優しい人物たちを通して<しずか>は、新しい出会いと人生の進む方向を手探りながら何気なくつかみ取ろうとする姿が、淡々と編み込まれていく一冊でした。
時は天正年間、忍者の里として有名な伊賀衆を引き連れる<百地三太夫>と、隣接する<織田信長>の次男<北畠信雄(のぶかつ)>の伊勢衆との戦いを主軸に据えた物語です。
「信雄軍」を壊滅させようと、伊賀衆を束ねる「十二家評定」のメンバー<百地三太夫>や<下山甲斐>は、術策をもってなんとか伊勢衆をおびき寄せて壊滅させようと画作、伊勢衆は天正6(1578)年10月25日の「丸山合戦」で痛手をを追わせますが、天正7年9月16日に痛手を負い、<信雄>の負け戦に憤怒した<織田信長>は、2年後の天正9年に4万4千騎の軍勢で伊賀に攻め入ります。
歴史の史実に基づく文章を要所に散りばめ、主人公ともいえる忍びの<無門>や<文吾>などの荒唐無稽な忍術の世界に思わず引き込まれてしまう、痛快な歴史小説でした。
第一作目の『蝕罪』 をスタートに<警視庁失踪課・高城賢吾>シリーズも、前作 『裂壊』 に次いで、本書で六作目になりました。
ある事件で出世の道を閉ざされた三方面分室室長<阿比留真弓>は、庁内営業の意欲もなくなり、失踪課の重鎮<法月大智>警部補の警務課への移動を止めることもできず、失踪課全体に元気がなくなりました。
そんな状況をぼやく<高城>に、<法月>は5年前に多重衝突事故に遭いながら、事故現場から失踪した<野崎健生>の捜査を託します。
「マッドサイエンティスト」の異名を持つ<野崎健生>はロボット工学の第一人者で、本家一族が経営する<ビートテク>という会社で歩行アシストシステムを開発していました。
その会社が主催するホテルの展示会場で爆発があり、脅迫文が発見され、その脅迫状には5年前に行方不明になった<野崎健生>の署名がありました。
本書では、<法月>の後任として交通課から<田口英樹>が挨拶に出向いてきますが、定年前でやる気の伺えない人物です。次作からの登場が楽しみですが、またまた失踪課内で頭を悩ませる<高城>が楽しめそうです。
誤って恋人を死なせてしまった<田中健一>は、7年間服役したあと、父親の元で生活をしています。
ある日<健一>のところに週刊誌の記者が現れ、取材攻撃にさらされます。
加害者家族、被害者家族のそれぞれの立場が、マスコミの扱いによって逆転してしまうという設定は納得できるところですが、ノンフィクション作家として初めての長編ということですが、もう少し突っ込んだ状況設定がほしいところでした。
マスコミ関係者、元同房の犯罪者、環境問題に取り組む芸能人等、ざまざまな登場人物が入り乱れ、すばやい切り替えの場面展開ですが、あれもこれもと話題を詰め込みすぎて、なかなか読み手として流れに乗れない筋の展開でした。
いやぁ~、昆虫好きとしてはわくわくしながら、面白く読み終えれました。
物語の世界は、学名で<ヴェスパ・マンダリニア>と呼ばれる「オオスズメバチ」たちの世界を描いています。
「オオスズメバチ」の戦士<マリア>は、「疾風のマリア」と呼ばれるほど素早い行動で餌を捕獲してきますが、働き蜂としての寿命はわずか30日しかありません。
その誕生から、命尽きる日までの彼女の一生を、『シートン動物記』のように昆虫学的なしっかりとした裏付けを持って、自然界での波瀾万丈が描かれています。
なかなか凶暴な性格の「オオスズメバチ」ですが、本書は彼女たちの生態を知る上でも貴重な昆虫学の本としても、楽しめる一冊でした。
タイのバンコックを舞台に繰り広げられる、どちらかといううと猟奇物的スリラーですので、好き嫌いが出るかもしれません。
<国分隆史>は恋人の<若槻奈美>を伴ってバンコックに来ていましたが、<奈美>はバックパッカーとして現地に3年も滞在している兄<マモル>を尋ねるべく出向くのですが、途中で誘拐されたのか行方不明になってしまいます。
<国分>は旅行中に撮影していた映像から不振な男を見つけ、<マモル>と<奈美>の父親が手配した探偵<蓮見>と手分けして探し始めますが、どうやら闇社会の組織に誘拐されたとわかり、関連を調べるために猟奇的なショーを見世物とするクラブに乗り込んでいくのですが、<マモル>と<蓮見>は抹殺されてしまいます。
ひとり生き残った<国分>は、闇の組織に捕らわれてしまい、一気にラストへと物語は突き進んでいきます。
バンコックの街自体が持つ「闇」とか「魔」とかといった裏社会の恐ろしさを感じながら、読み終えた一冊でした。
『仮面警官』に次ぐ、シリーズ2巻目になります『発覚』です。
かっての恋人<真理子>のひき逃げ事件が、神奈川県警の上層部とかかわりがあると知り、警察官になった<南條達也>ですが、交番勤めの地域課から念願の刑事へと池袋警察署での研修が始まりました。
窃盗事件の犯人逮捕に伴い、黒幕が「貝籐組」だとわかり内偵を始めますと、元々は関東進出を狙っている「河内連合」の手先だと判明、<南條>は昔「河内連合」の義眼の男から入手した拳銃で、ひき逃げ事件の真相を探ろうとして組員の<木村>を射殺して警察官になった過去を背負っています。
そんな折、自分が捨てた拳銃が別の射殺事件に使われ、犯人は当時隠れるように働いていた現場で一緒だった<岬ナオ>だとわかり、<岬>が逮捕されると自分の罪が発覚することになります。
第1巻と同様に、多くの登場人物が複雑に絡み合う構成ですが、今後の展開が気になるシリーズになりそうです。
江戸の街を舞台に、「妖(あやかし)」達が活躍する時代物ファンタジーとして<畠中恵>の『しゃばけ』シリーズが有名で、体の弱い若旦那を中心に「妖」たちが協力して事件を解決していきます。
本書もタイトル通り黒猫に似た雷獣<クロスケ>が登場、江戸を守る妖怪改方の若き同心<冬坂刀弥>を中心に、今は亡き上司の8歳の娘<統子>と<クロスケ>が繰り広げる捕り物物語です。
<クロスケ>は自由に雷を操ることができるのですが、まだ幼いということもあり、江戸を揺るがせるほどの大きな力はまだ発揮できません。
短篇が五話納められており、上司である<早乙女夜ノ介>ともども、黒天狗や成仏しないもと家康公の料理人<俎小四郎>、火事を起こす「火鬼」などが登場、肩の凝らない一冊でした。
小・中学校と私立の女子高に通っていた<優子>は、高校は男女共学の学校に通い出しますが、のんびりと過ごしてきた影響で1学期の成績がよくありません。
後妻の継母<ミドリ>は、<優子>に物理学の大学院生<美和>を付けるのですが、相性がいいのか10歳も年が離れている割には、色々と人生の悩みとか、恋人のことを話題に夏休みを過ごしていきます。
高校での自己紹介の際、「パンが好きです」の一言でパン好きの<富田>君と仲良くなり、パン屋巡りが始まります。
そんな折、家庭教師の<美和>の体に突然実母<聡子>が乗り移り、お父さんとの恋愛のことや<優子>自身の出生の秘密を聞かされてしまいます。
『うさぎパン』は、2007年第2回ダ・ヴィンチ文学賞受賞作(タイトル変更)で、家族愛と友達の友情を絡ませ、一人の少女の成長記録として、ほのぼのとした味わいが残る作品でした。
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