有名私立中学・高校「理奏館」では、「家柄・経済力・学力・運動神経・容姿・人望」等を鑑みて「クイーン」が選ばれ、二番手は「プリンセス」と呼ばれていました。
常に「クイーン」の座を保っていた<亜也子>は、二番手の<志穂>とライバルでありながら仲良く学生時代を過ごしていました。
東京に出てキャリアウーマンとして敏腕を発揮していた<亜也子>は子供は不要と考えていたのですが、ある日妊娠してしまい、産休生活の立場に追いやられてしまいます。
産院で知り合った<麻由>は、ママ友として常に自分がトップでいないと気が済まない性格で、<亜也子>は会合に参加するのをためらっているときに<時枝>が常に庇ってくれ、信頼を寄せていきます。
本書は<亜也子>の現在と、「理奏館」に通う<カツキ>という中学3年生の物語が並行に描かれ、銀行の儲け話を信じた父が借金で自殺、母親もすたれた生活で自動車事故で無くなる物語が伏線なり、読者をおもわぬ方向に導いていきます。
読み終り、数々の女性が登場してきますが、どの人物が人間として悪意に満ちているのか、考えさせられる一冊でした。
本書は<大崎梢>さんのリクエストに応えてまとめられたアンソロジーとして、10名の作家<飛鳥井千砂>・<有栖川有栖>・<乾ルカ>・<大崎梢>・<門井慶喜>・<坂本司>・<似鳥鶏>・<誉田哲也>・<宮下奈都>・<吉野万里子>が本屋さんに関連する短篇を執筆されています。
編集者の<大崎梢>さんは、もと書店員という経験を生かして作家活動に入られ、デビュー作の 『配達あかずきん』 をはじめ、『平台がおまちかね』 などの書店を舞台にした小説が多々あります。
新刊書店は商業ビル内や空港、駅近などにありますが、それぞれの人間模様のドラマが展開して、面白く読めました。
特に<誉田哲也>は、刑事になる前の <姫川玲子> を登場させるなど、<姫川>ファンの心理をついたどんでん返しの作品が気に入りました。
第32回新田次郎文学賞(2013年)を受賞している本書ですが、多彩な登場人物を見事にまとめ、全476ページは圧巻でした。
治安2(1022)年法成寺金堂・五大堂の造仏の功績により、仏師として初めて「法橋」になった<定朝>の伝記小説ですが、<藤原道長>の時代を背景に、<定朝>16歳から天喜5年8月1日に52歳で没するまでが描かれています。
タイトルの『満つる月の如し』は、天喜2(1054)年に造仏した京都西院の丈六阿弥陀如来坐像が当時の公家たちを魅了し、「尊容満月の如し」と称賛されたことに由来しています。
平安時代の殺伐とした都を舞台に、<藤原道長>一族の権力争いを中心に据え、<定朝>の御仏に対する心の変化を機微に描き、また<定朝>の後見人として登場する比叡山内供奉の僧侶<隆範>もいい脇役として描かれていました。
<警視庁迷宮捜査班>シリーズとして、 『内偵』 に次ぐ4冊目になります。
それぞれ個性があるはみ出し者の刑事4人のために、窓際族として設置された部署ですが、通常の捜査でない方法でお宮入りの事件を解決していきます。
今回は2年3か月前に発生した猛毒「クラーレ」を塗った傘の先で足を刺され死亡した事件の再調査を命じられ、被害者<牧慎也>は当時発生したパチンコ店の現金強奪事件の誤認逮捕の過去がありました。
<能塚>分室長の命で<尾津>は相棒の<白戸>と再調査に乗り出しますが、当時誤認逮捕の指揮を執り、今は中古重機を販売している<林葉>元刑事課長の名前が浮上、会社を興す資本金の出どころに焦点があてられていきます。
著者の小説らしく警察の符牒が散りばめられ、女好きの<尾津>が一目ぼれした伝説美人SPである<深町杏奈>との男女関係が結末に生かされる構成で、面白く読み終えました。
主人公は、汐留にある『スマ・リサーチ社』の対探偵課に勤める21歳の<紗崎玲奈>です。
「対探偵課」とは、よく言えば探偵の自浄を求め、悪く言えば探偵業法に抵触する悪徳業者を潰すために、<須磨康臣>所長が暗い過去を持つ<玲奈>のために設けた部署です。
4年前に<玲奈>は妹<咲良>を犯罪が絡む事故で亡くしていますが、原因は「死神」と名付けている悪徳探偵のストーカー的な調査のためでした。
今回は妻に逃げられたDVの夫やストーカーを相手の商売をしている探偵の<堤暢男>と接触するうちに、「野放図」という半グレ集団の拉致事件に巻き込まれ、持ち前のタフさと博識な知識で妹の敵である「死神」の名前までたどり着きます。
拉致事件に関連して、正義感が強い<窪塚悠馬>警部補が殉職する場面もありましたが、スピード感のある文体、最後まで一気に読み終えれました。
最後のページに、<死神との決着『探偵の探偵Ⅲ』2015年3月13日発売>と書かれてあり、奇しくも本日なのに驚いてしまいました。
主な登場人物は、浅草の老舗呉服店の一人娘<結城麻子>と2歳年上の夫<誠司>夫婦と、京都の葬儀屋を営む婿養子の<桐谷正隆>と妻<千桜>夫婦です。
<麻子>は父<宗助>が病気になり30歳半ばで呉服店の『浅草ゆうき』を継ぐために会社を退社、祖母の残してくれたアンティーク着物を商売とする『遊鬼』を開店させます。
<麻子>は時代物の着物を買い取るべく<正隆>と知り合いますが、妻<千桜>とは違った女の性を感じ取った<正隆>は強引にもホテルの部屋に<麻子>を連れ込みます。
片や<誠司>は、ほの暗い過去の性癖を持つ<千桜>に初めて性の快楽を感じ取り、底深い官能の世界におぼれていきます。
4人が4人ともお互いに納得しての関係ならば、単なる夫婦交換の三文小説に終わるのですが、<麻子>一人が4人の関係を知ることなく、軽くなりがちな不倫小説に一抹の未来を感じさせる役割が光っていました。
<麻子>の祖母<トキ江>がいい脇役として登場、着物の衣装や作法、京都らしく貴船神社や安倍清明などの話題も散りばめられ、泥沼になりがちな男女間の心の機微の舞台として、うまく登場させていました。
示談屋・処理屋の異名をとる「影野竜司」を主人公とした <もぐら>シリーズ で人気のある<矢月秀作>の新シリーズの登場です。
東京臨海中央署の地域課に勤める「日向太一」は、驚異的な運動能力を持つ30歳の巡査部長ですが、「若林署長」の特命を受けて、「レインボーテレビ」に勤務する警備員「石田貫太」が行方不明になり、単独の特命捜査を命じられます。
警備状況を写していたDVDの記録が改ざんされていたことを突き止めた「日向」は、同時勤務していた警備会社の<黒木>の自宅に出向き、すでに「石田」が殺害されていることを知り、警備システムの事後処理から、「レインボーテレビ」の美術製作部長「仲根」に目を付けます。
「仲根」は『クリムゾン』と名乗る革命集団の一員で、大量のプラスチック爆弾を「レインボーテレビ」に運び込み、それを見つけた「日向」は「仲根」の自爆的行為により、爆死した場面で終わります。
文庫本(書き下ろし)の帯には、三部作と書かれていますので、<日向>はしぶとく生き残っていると考えられるのですが、連作の序章としてその後の展開が気になるシリーズです。
特異な感覚の映画監督として人気のある<新谷吉彦>48歳ですが、家庭では妻<泉>38歳に対する暴力が絶えず、彼女は夫の出張中に家を飛び出します。
落ち着き先の当てもないなか、とある地方都市で降りた彼女は、昼飯に寄った喫茶店で高齢な80歳の画家<天坊八重子>の住み込み家政婦募集の張り紙を見て、<高田洋子>の偽名で働き出します。
ある日<天坊>は<洋子(泉)>を連れて、還暦のオカマ<サクラ>が経営するバーに連れて行かれますが、そこにはかって夫<新谷>のドメスティック・バイオレンスを取材しに来ていた週刊記者の<塚本鉄治>42歳が<ヒロシ>という名で働いていました。
自分の立場が<天坊>にばれないかと気をもむのですが、<塚本>もまた大手芸能プロダクションの覚醒剤の取材に絡み、容疑者としてはめられてしまい逃亡している立場でした。
共に身を隠すように生活する二人でしたが、お互いに惹かれあい逢瀬を重ねていきます。
やがて<サクラ>や<天坊>たちに二人の関係が知られることになり、<塚本>は愛する<泉>との将来に夢を託し、みすから警察に出頭していきます。
登場人物が少ない小説で、主人公は<泉>に間違いがありませんが、オカマの<サクラ>の脇役のキャラクター、そして画家の<天坊>の存在が大きく、自らの裸婦絵を描きながら亡くなった<天坊>の通夜の場面では思わず「ウッ」となり、<泉>と<塚本>の未来が垣間見れるエンディングは秀逸でした。
『彼女の血が溶けてゆく』 ・ 『彼女のため生まれた』 に次ぐ第3巻目として、ルポライター<桑原銀次郎>を主人公とするシリーズです。
『週刊標榜』の取材記者<銀次郎>は、ルポライター仲間の<青葉>が日比谷公園で刺殺死体で発見されたのを知り、彼の住居に来てみますと「東都新聞」の政治記者が取材に来ているのに驚き、どうやら<青葉>は政治がらみの特ダネを追っていたことをつかみます。
<青葉>の残されたデジカメの最後の写真が、アメリカコミックの女スパイのコスプレ写真であることを手掛かりに、<銀次郎>は写っている”女”を探すべく秋葉原やコスプレに詳しい高校の同級生<阿部>の協力を得て、ようやくアダルトショップで購入者の目星を付けるのですが、<阿部>のマンションの部屋で突然<銀次郎>は彼に腹を刺されてしまいます。
主人公が物語の途中で突然死んでしまうのかという驚きの場面から、本書は保守党の二代目議員の兄<天野兼人>を中心に、親のすねかじりの生活のなか自由奔放に”女”遊びをする<兼人>の行状が展開、思わぬ事件の真相に読者を引きずり込みます。
一応ミステリーの範疇の小説ゆえ、ネタばれになりますので肝心の面白い部分が書けないのが歯がゆいのですが、読み終りますとタイトルの意味合いが納得できる内容でした。
数字との縁があるのか、今年の(33)冊目の紹介が3月3日になり、一人で苦笑してしまいました。
<恩田陸>さんの、ロンドン・チェコ・韓国・上海・スペインといった国や、国内の各地を旅された紀行文が集められ、小説を通した「恩田ワールド」とはまた違う世界が楽しめました。
作家デビュー14年間をまとめたエッセー集『小説以外』(2005年4月:新潮社)には、呑めなかった著者が<ビール党>に目覚めた経過が書かれていますが、本書も各地の料理に合わせて<ビール>を楽しむ場面が多く、思わずニンマリとしてしまいます。
紀行文は一種の魔力的な力が働き、読み終えますと「どこかに旅したいな」という感情が湧いてきますので、わたしにとってはやっかいなジャンルです。
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