本書『銀の猫』は、「文藝春秋」より、単行本として2017年1月に刊行され、2020年3月10日に文庫本となっています。
<朝井まかて>は、江戸の庭師一家を扱った『ちゃんちゃら』を読み始めとして、江戸時代を舞台とするお気に入りの作家のひとりで、江戸の青物問屋を舞台とする『すかたん』・植物学者<シーボルト>を主人公に据えた『先生のお庭番』・江戸娘三人の「お伊勢参り」を描いた『ぬけまいる』など面白く読んできました。
今回の『銀の猫』は、江戸の町を舞台として、妾奉公を職業とする母「佐和」がこしらえた借金が原因で離縁された25歳の「お咲」が、元夫に借金を返済するために高齢者の介護をする介抱人としての務めを通して江戸に生きる人間模様を描いています。
現代社会にも通じる老人介護の問題を、「五郎蔵」と「お徳」夫婦が切り盛りする介抱人の口入屋「鳩屋」と「お咲」の住む甚平長屋を舞台として、手助けの必要な老人の日常を描きながら、「お咲」の成長が描かれています。
表題にある「銀の猫」は、離縁された夫の義父から譲り受けた根付が「銀の猫」であり、介抱人として働く「お咲」の心の支えになっているとともに、長屋に出入りする「猫」が物語の伏線としていい味わいを出していました、
〈東京バンドワゴン〉シリーズも、『ラブ・ミー・テンダー』 に次ぎ本書で十三作目の『ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン』になりました。 前々作である 『ザ・ロング・アンド・ワインディングロード 東京バンドワゴン』 のすぐ何日か後からの堀田家の四季の出来事を追う一年が描かれています。
前作『ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン』は、4年に一度の番外編でした。本シリーズは「堀田家の今」を描く「本編」が三作続き、「主に過去の時代の堀田家」を描く「番外編」を一作品挟むという形で今まで続いています。
「本編」はいつもビートルズの曲名がタイトルで、二作目である『シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン』以降は、その曲が物語全体のイメージでありテーマになったりもしています。
今回のタイトルである名曲『ヘイ・ジュード』の歌詞の内容は、大人の男が若い男性を励ますようなものになっています。ネタバレになりますが、本書では、ガンで余命があまりない「我南人」のバンドメンバーの「ボン」が病室で息子の前で演奏する場面に登場、なるほどとホロットさせられました。
いつも通り、古本屋「東京バンドワギン」の堀田家の家族を中心とした〈ホームドラマとして総勢50名近い登場人物が織りなす日常が、亡くなった「サチ」の語り口で描かれています。どこかにいてくれたら楽しい家族と、そこに集う人たちの、ちょっと愉快な日々を描くだけの物語なのですが、なぜか文庫本の新作が出ますと手に取ってしまうシリーズになりました。
本書の解説文を書かれている<浦田麻理>さんは、「ジュンク堂書店神戸さんちか店」勤務の方でした。
新聞広告で、「東京バンドワゴン」シリーズの第13作目『ヘイ・ジュード』の文庫本発行を知ったのですが、前回に11作目の 『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード』 以後の12作目の本書を抜かしていることに気が付きましたので、遅まきながら13作目の『ヘイ・ジュード』と一緒に購入してきました。
さて、十二年経って十二支が一巡りした今回の新刊のタイトルは『ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン』です。 いつも通りに、前作のすぐ何日か後からの「堀田」家の四季の出来事を追う〈本編〉ではなく、オリンピックの様に四年に一度回ってくる〈番外編〉でした。
今まで、終戦直後の若き「勘一」と「サチ」の出逢いを描いた4作目『マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン』、いろんな時代の「堀田」家と常連の皆の語りでそれぞれの日々を描いた8作目『フロム・ミー・トゥ・ユー 東京バンドワゴン』と、〈番外編〉がありました。
今回12作目は、時代は昭和四十年代です。まだ二十代の若者だった「堀田我南人」と、その最愛の妻であった「堀田秋実」の出逢いを描いた物語になりますが「秋実」さんはまだ高校生です。
本編のタイトルはいつも〈ビートルズ〉の曲名ですが、番外編に関しては除外されているようです。今回、<エルヴィス・プレスリー>の名曲である『ラブ・ミー・テンダー』なのは、ロックミュージシャンである「我南人」のルーツは「ビートルズ」だけではなく、それ以前のロックンロールミュージックにもあるからです。 『マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン』で描かれたた「勘一」と「サチ」が親しみ演奏したジャズやブルースから来た音楽の流れがロックになりポップスになり、「我南人」に、そして孫である「研人」へと受け継がれています。
ライブの帰り、「我南人」はチンピラに絡まれている女の子を見つけます。彼女の名は「秋実」。歌手として活躍する親友を窮地から救うため、東京に来たといいます。「我南人」と「東亰バンドワゴン」の一同は、彼女のために一肌脱ぐのですが、思わぬ大騒動に発展してしまいます。いつも通りに「堀田」家とそこに集う人たち騒動が、昭和四十年代を背景に描かれています。
2014年9月に幻冬舎より単行本として刊行され、2017年(平成29年)8月5日に文庫本化されています<伊坂幸太郎>の『アイネクライムナハトムジーク』です。
本書は、6つの短篇が納められており、登場人物と時代背景の設定が変わってゆくのですが、それぞれの短篇の登場人物が密接にかかわりあってゆくという複雑な構成で、ミステリーで言うところの「伏線」を人間で表現しているという、<伊坂幸太郎>らしさが十分に楽しめました。
ただ、最終的に主人公「僕」=「佐藤」が知り合った名前も登場していないガードマンの彼女との関係はどうなったのかと、気になる終わり方でした。
<今泉力哉>監督の映画 『アイネクライムナハトムジーク』 (2019年)では、原作と違い「佐藤」が、ガードマンの彼女「紗季」にプロポーズするように変更されていましたが、本書の冒頭の1章からの流れ的には、結末らしい変更だと思います。
最近、新聞・雑誌等のマスコミで名前を見かける著者の<三浦瑠麗>氏ですが、どうやらテレビ番組の『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)で人気を博しているようです。
経歴紹介では、1980年(昭和55年)神奈川県生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、国際政治学者として各メディアで活躍されているようです。
新書の「帯」にも書かれていますが、「人間迷ったら本音をいうしかない」の基本路線で、戦争・未来・女性・メディア・こどもについて、判りやすい文章で論じられています。
文中、映画・・・ 『デトロイト』 ・『愛人/ラマン』・デュラス 愛の最終章』・『ハリー・ポッター』・『巡り会う時間たち』などが引用され、非常に読みやすくく、論客としての「毒気」の少ない文章でした。
<小杉健治>の弁護士「鶴見京介」を主人公とするシリーズも『生還』(2019年4月19日集英社文庫刊)に次いで、本書で11作目になりました。
表紙カバーのお遍路さんの姿とタイトル『結願』の通り、冒頭では、「鶴見」が高松弁護士界の「津野達夫」と一番札所に参拝、途中「無罪の神様」といわれた「浦松卓司」と遭遇するのですが、妻を亡くしたことで弁護士業を引退しての遍路巡りと思われたのですが、のちに大きな伏線となってきます。
「鶴見」は、妹「加奈」を自殺に追いやった元恋人「河原真二」を視察した容疑で逮捕された兄の「大峰」和人」の弁護人となります。当初「大峰」は殺人を否認していましたが、アリバイがなく、自白するのですが、「大峰」は調査を進める過程で、「河原」が以前にも恋人を毒殺した容疑で無罪になっている過去に不審をいだき、当時裁判記録を読み込み、関係者を探し出し真実を解き明かしていくのですが、「河原」の無罪を勝ち取ったのが、「浦浦」弁護士でした。
「植物記」 や <生け花> をシリーズ化してきている者として、何とも気になるタイトルの『嵯峨野花譜』(2020年4月10日・文庫本刊)でした。単行本としては、著者の亡くなる(2017年12月23日)年の2017年7月に刊行されています。
江戸後期の文政年間、大覚寺の花務職に任じられた華道未生流二代「不濁斎広甫」のもとで、修行を積む16歳の少年僧「胤舜」を主人公に据えています。
「広甫」より、「人の心を見る修行」を諭され、様々な依頼で花を活けつつ、花の名手になっていくその成長とともに明らかになる出自の過酷さ。母「萩尾」との別れや祖母とのわずかな邂逅、やがては自分を捨てた父「水野忠邦」とも対面し、人生の過酷な運命の中で、純粋な気持ちを崩すことなく花と取り組む姿が、とても清々しい気分にさせてくれる物語でした。
嵯峨野大覚寺、祇王寺、大原野の西行桜の勝持寺、知恩院・妙蓮寺などを舞台として、著者の花にちなんだ和歌、歴史や能の知識を背景に、著者が晩年歩いた京の街と、その古典の知識がふんだんに盛り込まれ、生け花の神髄としての「心の花」としての「和」の余韻に浸れる一冊でした。
発行が1997年11月1日と古い書籍ですが、イラストレター<安西水丸>さんの一人旅の紀行文と色鉛筆で彩色されたスケッチ画と合わせて、面白く読めました。
15章からなる構成ですが、(JTB)の機関誌『旅』の連載を主流として、3篇が追加されています。
身近なところでは、著者が好きだという<桂小五郎>(後の木戸孝允)が隠れていたという兵庫県出石町が第5章として登場していました。
旅の楽しみのひとつに食事がありますが、和歌山道成寺を訪れたとき、参道で食べたカレーがまずく、「はじめてまずいカレーを食べた」という正直な感想には笑ってしまいました。
詩および批評を中心に文学、思想などを広く扱う芸術総合誌『ユリイカ』の2020年5月号において、特集「韓国映画の最前線 ーイ・チャンドン、ポン・ジュノからキム・ボラまでー」が特集されています。
この特集では、第72回カンヌ国際映画祭で パルムドールを受賞し、第92回アカデミー賞 で作品賞含む4冠を獲得した<ポン・ジュノ>監督作 『パラサイト 半地下の家族』 (2020年1月10日公開)や、<オム・テウン>、<ハン・ガイン>、<イ・ジェフン>が出演したラブストーリー 『建築学概論』 (2013年5月18日公開)など、韓国映画の魅力を掘り下げています。
また 『はちどり』 で監督を務めた<キム・ボラ>、『私の少女』 で知られる<チョン・ジュリ>、『怪しい彼女』 (2014年・監督: ファン・ドンヒョク) ・ 『新聞記者』 (2019年・監督:藤井道人)に出演した<シム・ウンギョン>(25)のインタビューも収録されています。
比較文学者、映画史家<四方田犬彦>、『岬の兄妹』 (2019年)の監督<片山慎三>の寄稿をはじめ、『淵に立つ』 (2016年)や 『よこがお』 (2019年)の<深田晃司>と 『宮本から君へ』 (2019年)や 『ディストラクションベイビーズ』 (2016年)の<真利子哲也>の対談も組まれています。
2017年に300万円という低予算のインディーズ映画ながらながら、2018年6月25日全国公開となり大ヒットを記録(2018年の邦画興行収入ランキング7位(31.2億円) )した映画 『カメラを止めるな!』 (監督:上田慎一郎)の裏方が描かれた書籍『低予算の超・映画制作術 』が発売されています。
『カメラを止めるな!』で撮影監督を務めた<曽根剛>が『カメラを止めるな!』を例に挙げながら、低予算で映画を制作する手法が赤裸々につづられています。
予算がない中で企画、脚本執筆、撮影、編集、字幕付け、DCP(デジタルシネマパッケージ)作成、映画祭出品、宣伝、宣伝用の販促物制作、売り込みなどを効率的に行うためのノウハウが詰まった1冊となっています。
『カメラを止めるな!』は、2018年の新語・流行語大賞の30の候補の中に「カメ止め」がノミネートされ、年末の第69回NHK紅白歌合戦では<郷ひろみ>が本作をイメージしたワンカット撮りで「GOLDFINGER ’99」を歌っていました。
- ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
ログイン
- まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
新規ユーザー登録へ