いやぁ~、昆虫好きとしてはわくわくしながら、面白く読み終えれました。
物語の世界は、学名で<ヴェスパ・マンダリニア>と呼ばれる「オオスズメバチ」たちの世界を描いています。
「オオスズメバチ」の戦士<マリア>は、「疾風のマリア」と呼ばれるほど素早い行動で餌を捕獲してきますが、働き蜂としての寿命はわずか30日しかありません。
その誕生から、命尽きる日までの彼女の一生を、『シートン動物記』のように昆虫学的なしっかりとした裏付けを持って、自然界での波瀾万丈が描かれています。
なかなか凶暴な性格の「オオスズメバチ」ですが、本書は彼女たちの生態を知る上でも貴重な昆虫学の本としても、楽しめる一冊でした。
タイのバンコックを舞台に繰り広げられる、どちらかといううと猟奇物的スリラーですので、好き嫌いが出るかもしれません。
<国分隆史>は恋人の<若槻奈美>を伴ってバンコックに来ていましたが、<奈美>はバックパッカーとして現地に3年も滞在している兄<マモル>を尋ねるべく出向くのですが、途中で誘拐されたのか行方不明になってしまいます。
<国分>は旅行中に撮影していた映像から不振な男を見つけ、<マモル>と<奈美>の父親が手配した探偵<蓮見>と手分けして探し始めますが、どうやら闇社会の組織に誘拐されたとわかり、関連を調べるために猟奇的なショーを見世物とするクラブに乗り込んでいくのですが、<マモル>と<蓮見>は抹殺されてしまいます。
ひとり生き残った<国分>は、闇の組織に捕らわれてしまい、一気にラストへと物語は突き進んでいきます。
バンコックの街自体が持つ「闇」とか「魔」とかといった裏社会の恐ろしさを感じながら、読み終えた一冊でした。
『仮面警官』に次ぐ、シリーズ2巻目になります『発覚』です。
かっての恋人<真理子>のひき逃げ事件が、神奈川県警の上層部とかかわりがあると知り、警察官になった<南條達也>ですが、交番勤めの地域課から念願の刑事へと池袋警察署での研修が始まりました。
窃盗事件の犯人逮捕に伴い、黒幕が「貝籐組」だとわかり内偵を始めますと、元々は関東進出を狙っている「河内連合」の手先だと判明、<南條>は昔「河内連合」の義眼の男から入手した拳銃で、ひき逃げ事件の真相を探ろうとして組員の<木村>を射殺して警察官になった過去を背負っています。
そんな折、自分が捨てた拳銃が別の射殺事件に使われ、犯人は当時隠れるように働いていた現場で一緒だった<岬ナオ>だとわかり、<岬>が逮捕されると自分の罪が発覚することになります。
第1巻と同様に、多くの登場人物が複雑に絡み合う構成ですが、今後の展開が気になるシリーズになりそうです。
江戸の街を舞台に、「妖(あやかし)」達が活躍する時代物ファンタジーとして<畠中恵>の『しゃばけ』シリーズが有名で、体の弱い若旦那を中心に「妖」たちが協力して事件を解決していきます。
本書もタイトル通り黒猫に似た雷獣<クロスケ>が登場、江戸を守る妖怪改方の若き同心<冬坂刀弥>を中心に、今は亡き上司の8歳の娘<統子>と<クロスケ>が繰り広げる捕り物物語です。
<クロスケ>は自由に雷を操ることができるのですが、まだ幼いということもあり、江戸を揺るがせるほどの大きな力はまだ発揮できません。
短篇が五話納められており、上司である<早乙女夜ノ介>ともども、黒天狗や成仏しないもと家康公の料理人<俎小四郎>、火事を起こす「火鬼」などが登場、肩の凝らない一冊でした。
小・中学校と私立の女子高に通っていた<優子>は、高校は男女共学の学校に通い出しますが、のんびりと過ごしてきた影響で1学期の成績がよくありません。
後妻の継母<ミドリ>は、<優子>に物理学の大学院生<美和>を付けるのですが、相性がいいのか10歳も年が離れている割には、色々と人生の悩みとか、恋人のことを話題に夏休みを過ごしていきます。
高校での自己紹介の際、「パンが好きです」の一言でパン好きの<富田>君と仲良くなり、パン屋巡りが始まります。
そんな折、家庭教師の<美和>の体に突然実母<聡子>が乗り移り、お父さんとの恋愛のことや<優子>自身の出生の秘密を聞かされてしまいます。
『うさぎパン』は、2007年第2回ダ・ヴィンチ文学賞受賞作(タイトル変更)で、家族愛と友達の友情を絡ませ、一人の少女の成長記録として、ほのぼのとした味わいが残る作品でした。
僕こと<チョン・ダウム>は小学3ねんせですが、2年前から白血病かかり、発病・治療・入院を繰り返してきており、抗がん剤や放射線治療で苦しんでいます。
父親<チョン・ホヨン>は元記者であり詩人ですが、詩作活動を離れ、翻訳業で細々と暮らしながら息子<ダウム>のために献身的な看病を続けていますが、残る治療は骨髄移植しかないと知らされ、韓国では適合車がなくまた費用も4000万ウォンかかると聞かされ、治療を断念してあてもなくさまよう途中、サクラ谷で<ピー老人>と会い、のどかな山間で生活を始めますと、<ダウム>の体調も良くなったように思えたのですが・・・・。
自己犠牲をいとわない<ホヨン>は、治療費を稼ぐために自分の腎臓を売ることを決意、検査中に末期的な肝臓がんであることを知ります。
記者時代の後輩女性記者<ヨ・ジニ>が献身的に寄り添うなか、<ホヨン>は画家として成功、パリに住む分かれた妻<ハ・エリ>に息子を託すことを決意します。
謎解きも犯人探しもないドラマですが、丁寧に描かれた父<ホヨン>の心情に、おもわず涙してしまう一冊でした。
フィリピンから日本に嫁いできた<エテル>は32歳、<テルちゃん>と呼ばれています。
20歳ほど年上の<安雄>と結婚して<安則>という男の子が生まれましたが、<安雄>は2年ばかりで急死、<テルちゃん>は実家に戻らず、80歳の義母の面倒を見続けています。
<安雄>の弟<健志>と<玲子>夫婦には子供がいませんが、夫婦共働きであまり義母の面倒が見れないなか、けなげに介護する<テルちゃん>に心苦しい日々を送っています。
本書には3篇が納められており、<テルちゃん>の前向きな明るい人柄がほのぼのと描かれ、またお寺の和尚さんが出てきますが著者自らが住職であることもあり、それとなく人生論をはめ込みながらの構成で、日本人が忘れてしまった家族像が見事に描かれている一冊でした。
銀行の現金強奪事件に絡んで、行員の男性が犯人にゴルフクラブで殴られて植物人間に陥り、<八木>刑事は犯人を目撃していると考えて植物状態から抜け出した患者のことを調べていく過程で、<ハヤブサ>という言葉を耳にします。
建築士の<真山慎一>は、妻<志保>が奇跡的に植物状態から意識を取り戻し、中学生の息子<倫志>との葛藤を書いた本を出版、ノンフィクションライターとして活躍しています。友人の新聞記者<辻谷>から、一日で戻ってくる子供の誘拐事件が全国的に11件も発生しているという情報をもとに調査を進める過程で、<ハヤブサ>という名前が耳に残ります。
<倫志>は、「森林天文台クラブ」に所属しており、徹夜での観測も当たり前ですが、ふと<慎一>は、誘拐事件の発生と<倫志>の天文台での宿泊日が重なっていることに気が付きます。
<慎一>が息子<倫志>をはじめ、子供たちが持つ特殊な能力にたどり着いた時、爆弾テロが電車を乗っ取る事件が発生、<倫志>の仲間たちは集結して事件解決のために火中に飛び込んでいくのですが、これから先の展開はぜひ本書をよんで確かめていただきたい一冊です。
繁華街から少し離れた東中野に<名登利寿司>はお店を構えられており、その女将さんが著者です。1973(昭和48)年にお店を開店されて以来、ご夫婦で歴史を積み重ねられてきています。
以前に読んだ『寿司屋のかみさんうちあけ話』が、お寿司屋さんの裏話などが満載で楽しく読め、その後たくさんの書籍が出ているようで、本書は(講談社文庫)として6冊目に当たります。
一年を通して、「春・夏・秋・冬」の季節ごとに章が設けられており、それぞれの旬の素材や、お客さんとの交流を通して感じたこと、朝ご飯のまかない料理や店じまい後の夫との晩酌の会話などが、女将さんの目線で楽しく綴られています。
巻頭にはやさしそうなご主人がカラーページで登場、一度は足を運びたくなる<名登利寿司>の人気の秘密が、ほのぼのと伝わる一冊でした。
すでに角川文庫で<自衛隊>シリーズとして『空の中』・ 『海の底』 と作品が刊行されていますが、本書『塩の街』が<有川浩>の作家デビュー作になり、また<自衛隊>シリーズの第1作目となります。
近未来小説として、宇宙から飛来した塩の結晶が隕石群となり「それを見た」者が、塩の柱となり命を落とす現象が地球全体を襲いますが、それぞれの登場人物たちの「愛」を中心とした物語として構成されています。
18歳の<小笠原真奈>は、東京湾の埋め立て地に落ちが巨大なしをの結晶で両親を亡くし、スラムと化した街で暴漢に襲われますが、航空自衛隊のパイロット<秋庭高範>に助けられ、同居生活を送っていますが、いつしか10歳年上の彼に恋心を抱いてしまいます。
本書は『塩の街』と『塩の街、その後』の二部構成で全10章ありますが、一つ一つがそれぞれの章にリンクしていて面白く読み終えられ、今後の活躍が期待できる完成度です。
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