文庫本のタイトルになっている『盤上の夜』にて、2010年第1回創元SF短編賞で選考委員特別賞(山田正紀賞)を受賞、第147回直木賞の候補にも挙がり、その後の短篇5作品を加えて2012年3月に単行本『盤上の夜』を刊行、本書はその文庫版になります。
本書には盤上遊戯・卓上遊戯にまつわる6つの物語が納められており、囲碁・チェッカー・麻雀・古代チェス・将棋に関して「わたし」というひとりのジャーナリシストの語り手の目線でもって、それぞれの競技や対局に臨む超人的な人物たちが何を考え、何を求めているのかを解き明かそうと試みられています。
表題作は中国で四肢を切り落とされた少女<灰原由宇>の囲碁の世界、チェッカープレーヤーとして40年間トップに君臨した<マリオン・ティンズリー>などの実話をもとに、また著者自らが麻雀のプロ試験の補欠になりながらプログラマになる経歴がありますが、見事なまでの麻雀の真理の追究など、麻雀や囲碁を嗜むわたしにとっては、史実に基づいた部分を散りばめたフィクション(SF)として、感動ものの展開が楽しめる中身の濃い一冊でした。
大きな観音像が建つ北関東の紅雲町で、珈琲豆と和食器の店<小蔵屋>を営むのは、65歳半ばでお店を始めた主人公<杉浦草(そう)>です。
<紅雲町珈琲屋こよみ>シリーズとして第1巻目の 『萩を揺らす雨』、第2巻目の『その日まで』に次ぐ第3巻目が本書です。
6短篇の連作で物語は語られ、第1話では珈琲豆を仕入れている「ミトモ珈琲商会」が先代社長が会長に付き、娘の<令>が社長になると聞き、今後の仕入れ値が心配でやきもきする<草>の話しからはじまり、新聞記者の<萩尾>の仕事を手伝って以来、彼が興味を持つ民俗学の恩師である<勅使河原>、その娘<ミナホ>、恩師の研究会の<藤田>達のギクシャクした関係に<草>は持ち前の好奇心を働かせて、何があるのかを突き止めていきます。
同時に、幼馴染の足の悪い<由紀乃>の体調を気にしながら、<由紀乃>の今にも崩れ落ちそうな隣家に住む元芸者<貴美路>のことを気遣い、紅雲町に起こる日常からも目が離せない<草>の面目躍如が楽しめる一冊でした。
本書はひとつの住居を舞台に、二人で暮らすそれぞれの生活が8人の作家によって書かれているアンソロジーです。
納められている短篇作品は、<朝井リョウ> ・・・ 『それでは二人組を作ってください』
<飛鳥井千砂> ・・・ 『隣の空も青い』 <越谷オサム> ・・・ 『ジャンピングニー』 <坂木 司> ・・・ 『女子的生活』 <徳永 圭> ・・・ 『鳥かごの中身』 <似鳥 鶏> ・・・ 『十八階のよく飛ぶ神様』 <三上 延> ・・・ 『月の砂漠を』
<吉川トリコ> ・・・ 『冷や市し中華にマヨネーズ』 の8篇です。
各短篇の最初のページには、住所や面積・家賃・築年数・方位などのデーターと共に「平面図(間取り図)」があり、共同生活者たちの室内の動きを感じ散ることができるのに興味を持って読んでみました。
彼ができたということで取り残された女性、仕事で男二人で出向いたホテルは、なぜかツインの部屋だった先輩と後輩、女装趣味の果てに女子と住んでいた男、突然妖怪に住みつかれた在宅勤務者、13年の腐れ縁を清算した女等、ひとつ屋根の下で繰り広げられる物語が展開する一冊でした。
鎌倉の片隅にある古書店の美人店主<篠川栞子>を、主人公とする<ビブリア古書堂の事件手帳>シリーズも好評のようで、書店をのぞきますと現在6巻まで出ているようです。
興味ある古書にまつわる世界が舞台ですので第1巻目 ・ 第2巻目と読んできおり、暫く間が空きましたが第3巻目の『ビブリア古書堂の事件手帳<3>~栞子さんと消えない絆~』を手にしました。
この間に2013年1月~3月にかけ、フジテレビ系で<栞子>役を<剛力彩芽>としてテレビドラマ化されているとは、テレビを観ませんので知りませんでした。
本書も3篇の連作で、古書を中心に物語は進んでいきますが、やはり10年前に失踪した<栞子>の母<智恵子>との関係を伏線としながらも、古書にまつわる話題が満載です。
失踪した<智恵子>や、<栞子>とアルバイト店員<五浦大輔>との微妙な関係が、この先も気になるシリーズです。
主人公<サナ>は、入院中の母<サラ>から「私が死んだら、ある人に知らせてほしい」との遺言通り、その相手<シイナ>が住むと教えられた「卵町」に会社を辞めて出向きます。
「卵町」は名称通り楕円形をしており、町の中は終末期を迎えた患者のための医療施設と、その従業員たちが静かに住んでいました。
個人情報の守秘義務が徹底されており<シイナ>の情報が判明せず、<サナ>は<シイナ>のことを探すために、女家主<スミ>のアパートに腰を落ち着けます。
散歩中に彫刻家の<エイキ>やその友達の<クウ>と知り合い、<クウ>の妻が昔お世話になった介護士が<シイナ>だとわかり、無事に母の遺言通り対面することができます。
いまはカウンセラーになっている<シイナ>から、看護師として働いていた母の過去を知り、わだかまりのあった母に対する気持ちが薄らいでいきます。
生命力あふれる<卵>という隠喩を用い、生と死をファンタジーの世界に取り込んだ一冊でした。
本書は、前作の 『殺人鬼フジコの衝動』 を引き継ぐ内容で構成されていますので、刊行順に読まないとこのシリーズの面白さは半減してしまいます。
月刊グローブの編集室に、男女7人をリンチの果てに殺した罪で起訴された<下田健太>の母親<茂子>が独占インタビューに応じるという代理人と称する人物から連絡が入ります。
<下田健太>は裁判で無罪を言い渡され、内縁の妻<藤原留美子>は無期懲役の判決を受け拘置所内で自殺を遂げてしまいます。
検察側も2週間のあいだに控訴をしなければ<下田健太>の無罪が確定してしまうなか、月刊グローブ編集部の<井崎智彦>・<村木里佳子>、そして作家の<吉永サツキ>の3人で<茂子>の自宅に出向くのですが、なかなかインタビューに応じない<茂子>でした。
殺人罪ですでに死刑になっている<藤子>を中心とした複雑な血縁関係が絡み合い、前作の出来事を下敷きとしてマスコミの取材の裏側を垣間見せながら、驚きの結末に読者を引きずり込む一冊でした。
それぞれに事件を起こした前科者の<小森谷芭子(はこ)>と<江口綾香>は一回りほど年齢が離れていますが、刑務所内で息が合い、出所後も谷中の下町でひっそりと暮らしています。
本書は前作 『いつか陽のあたる場所で』 に次ぐシリーズ2冊目に当たり、4篇の話が連作で納められています。
パン職人を目指して朝早くから働く<綾香>は、商店街のくじ引きで一等の「大阪旅行」を当て、<芭子>と一緒に夜行バスで「USJ巡り」や「なんばグランド花月」などを楽しんでいる最中、<綾香>の過去を知る男が現れたり、<芭子>がペットショップのアルバイトが決まり、刑務所で覚えた洋裁でペット用の服を作ると人気を博したり、二人がたまに出向く居酒屋「おりょう」で知り会った手伝いの女性<まゆみ>が、<綾香>の事件の引き金にもなったDVの被害者であることなど、本書も前科を隠しながらつつましやかに生きる二人の健気な生活が丁寧に描かれています。
脇役として著者の『駆け込み交番』でお馴染みの警察官<高木聖大>も登場、<芭子>はセキレイインコの<ぽっち>を飼い始め、生活も落ち着いてきたかのように見える<芭子>と<綾香>の今後が楽しみです。
刊行順的には<黒猫>シリーズ2冊目に当たりますが、(ハヤカワ文庫)としては、『黒猫の刹那あるいは卒論指導』 に次ぐ3冊目になります。
文庫本の前2冊は連作短篇集で、主人公24歳の大学教授で通称<黒猫>と、同じ唐草ゼミで<エドガ・アラン・ポオ>を研究している<私>とで、身の回りに起こる事件を解決していきますが、本書は長篇の推理小説でした。
24歳という同じ年齢ながらパリ留学を経て<黒猫>は大学教授、<私>こと「付き人」は<ポオ>の研究をしている博士課程一年生という微妙な関係の二人ですが、バレエ『ジゼル』を観劇中、第一幕でダンサーが倒れるという事件が起こり、プリマの<幾美>は舞台を降りてしまいます。
5年前の『ジゼル』が上演された際には、<幾美>の異母姉である<愛美>が、本物の短剣で自殺するという事件が起きていました。
「付き人」は持ち前の好奇心で、探偵よろしく事件を探り始めるのですが・・・。
いつもながら美学的な論述が文中に挿入され、<ポオ>の作品解釈を事件と絡めながらの手法は、見事でした。
留学していたパリのポーエイシス大学の恩師<ラテスト教授>が重体ということで、またもやパリに旅立つ<黒猫>ですが、「付き人」との二人の心の動きも楽しめる恋愛小説としても、今後の展開が気になるシリーズです。
<黒猫>シリーズは、 『黒猫の遊歩あるいは美学講義』 を第1巻として現在までに5冊が刊行されており、本書は第4巻目に当たりますが、ハヤカワ文庫としては2冊目になります。
第1巻目では若き24歳の大学教授の<黒猫>とその付き人を務める大学院生の<私>を中心に日常に潜む謎解きが楽しめましたが、本書は<黒猫>と<私>の大学生活時代を舞台に、短篇が6篇納められています。
美学部の学部長である<唐草ゼミ>在籍から博識の<黒猫>と、<エドガ・アラン・ポを卒論とする<私>との関係がよくわかる構成で、<ポオ>の作品を下敷きにして作品に新たなる解釈行いながら、謎解きが進んでいきます。
本書では<唐草学部長>の推薦を受けて、フランスの現代思想の大家<ラテスト教授>の元へ留学するまでの<黒猫>の推理が、冴えわたる一冊でした。
本書は単行本として新潮社から1990年12月に刊行、1996年2月に新潮文庫に納められており、2013年11月に集英社文庫として発売されています。
イギリス医学界の権威者<アーサー・ヒル>がノーベル医学・生理学賞を受賞を知らされた<津田孝>は、同じ分野で研究を続けながらも4年前に急性白血病でなくなった恩師<清原修平>の家に焼香を兼ねて挨拶に出向いた際、恩師の娘<紀子>が絵画の勉強のためにパリいることを知ります。
ブダペストの学会出席に合わせて<津田>は長期休暇を申請すると共に、<紀子>や旧友と会う予定を組みますが、何気なく手にした恩師の記念集に、<アーサー・ヒル>より先に筋肉の「第三のフィラメント」与呼ばれる物質を発見していた<アントニオ・ルイス>の話に興味を持ちます。
ブタベストの生理学研究所を訪れた<津田>は、以前の所長もまた4年前に急性白血で亡くなっているの知り、<清原>の研究室に6カ月いた<アイリス・サンガー>が、この研究所にも<アーサー・ヒル>の推薦で6カ月ばかりいたことを知り、何か策略めいたものを感じ取り、真相を求めてヨーロッパを駆け巡ります。
世界の最高権威であるノーベル賞を舞台に、臨床医学者としての生き方を主軸に、娘と父、息子と母親等、複雑な親子の関係を絡ませながら、また<津田>と<紀子>の淡いラブロマンスの要素もある、本角的な医療ミステリーとして楽しめた一冊でした。
- ブログルメンバーの方は下記のページからログインをお願いいたします。
ログイン
- まだブログルのメンバーでない方は下記のページから登録をお願いいたします。
新規ユーザー登録へ