21世紀後半、アメリカ合衆国で起きた暴動をきっかけとして多くの核弾頭が飛び交い放射能で汚染された<大災禍(ザ・メイルストロム)>が起こり、従来の「国」は崩壊、新たな統治組織として「正府(ヴァイガメント)」が誕生、人間は健康と幸福の福利厚生社会を築き上げていました。
そこでは、<個人用医療薬精製システム>が各家庭に常備され、病気にかかることなく生活が送れます。
女子高校生の<ミァハ>は自己意識を憎悪する社会に対して反感を持ち、自ら自死を決行、友人の<キアン>と語り手こと<トァン>を残して消え去ります。
13年後、<トァン>はWHO螺旋観察事務局の上級監察官として働いていましたが、禁止されている飲酒・喫煙が露見し日本に送還、再開した<キアン>が昼食時に自殺を図り目の前で亡くなってしまいます。
全世界規模で意識を洗脳させる行為が行われている現状をみて<トァハ>は、犯人の思考が<ミァハ>と同じことに気づき、一人で真実を突き止めようとします。
健康で病気にならない人類社会をベースに、人間の意識と幸福はなにかと問い詰めていく課題は大きく、読み手に「人間」とは「人間社会」とはを語りかける重さのある一冊でした。
主人公<夏目栞>が、10年ぶりに故郷の小学校を訪れ、自分が4年2組で過ごした一年を振り返る物語で、「第18回椋鳥十児児童文学賞」の受賞作品です。
<栞>は、「ち」と「き」の発音がうまくできずに特別授業として『ことば教室』に通い、定年間近の<佐山先生>に指導を受けていますが、日常生活の出来事を通じて、わかりやすい言葉で<栞>にモノの見方や考え方を諭してくれます。
ある日校庭にそびえ立つ大きな「セコイヤ」の樹が伐採されることになりますが、クラスメートと伐採反対の署名運動に協力したり、奉仕委員としてプルトップを集めたりとの生活を通して、人生の「幸せ」について学んできた過程が回想的に描かれていきます。
「ボクシング・デー」とは、クリスマスに祝えなかった人たちが、一日遅れでプレゼント(Box)を開けることを意味していますが、「遅れたとしても、誰にでも必ずいいことは巡ってくるんだよ」という人生の暗示をそれとなく感じさせてくれる一冊でした。
元町商店街にあります老舗書店「海文堂書店」に、12月1日から4店舗の古書店が集まり、2階店内の一角に古本コーナー「元町・古書波止場」がオープンしています。
以前より、県内の古書店とタイアップして「古本市」を定期的に開催されていましたし、1階にはわずかながらの古書のコーナーがありました。
元町商店街には、気難しい親父さんの「黒木書店」をはじめ、特色ある古書店が多くありました。
今では2軒だけになり、淋しい思いをしておりました。
掘り出し物を探す楽しみが増え、嬉しい限りです。
薬種問屋「鳳仙堂」の<貞吉(のちの利兵衛)>は、丁稚奉公の末、主人<喜兵衛>の一人娘<おみよ>の婿養子となり、地道に商売を続けていましたが、長男<利一郎>は賭場の借金で勘当され、今は<伊佐次>と名を改め代貸として賭場を仕切っています。
ある日偶然に<伊佐次>が見かけた父<利兵衛>は元気がなく、気になりながらも声をかけずに通り過ぎた翌日、父は大川で水死体となり発見されます。
事故か事件かわからないまま、葬儀の当日「鳳仙堂」に10年ぶりに出向いた際、店を継いでいる弟<栄次郎>から「龍氣散」なる薬を「天命堂」から押し付けられていることを知り、父の死の原因ではないかと動き出します。
父と子、兄と弟、面倒を見てくれている貸元の<弥平>のかかわりを通して、己の人生を見つめ直す<伊佐次>の心の機微が、鮮やかに描かれている一冊でした。
著者は、<公安捜査Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ>・<新公安捜査Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ>と公安警察関連のシリーズを重ねてきていますので、この分野の小説として安心して読める作家の一人です。
国交省のエリート官僚<伊藤正志>が射殺される事件が起こり、現場に駆け付けた強行犯三係の<鹿取伸介>は、すでに公安部の幹部が集まっている場面に遭遇します。
この事件の裏側には公安関係の事案が絡んでいるのかと、強行犯三係の同僚<児島要>と捜査に乗り出します。
それぞれに敵対する警察と公安の関係を対比させながら、事件解決に導く地道な捜査が楽しめる一冊でした。
放送作家として朝日放送(ABCテレビ)の『探偵ナイトスクープ』のチーフライターを務めている著者ですが、処女作 『永遠の0(ゼロ)』 で小説家としてデビュー、本書『輝く夜』(『聖夜の贈り物』を文庫化に際して改題)が2冊目の作品になります。
本書には5篇の短篇が納められており、どれも「クリスマスイブ」を舞台として書かれています。
それぞれの作品に登場する主人公は女性たちで、一人で寂しく過ごす「クリスマスイブ」に起こる奇跡とも思える出来事により、幸せな経験をする心温まるお話しばかりで、読み手に希望と夢を与える語り口には、ほろっとさせられました。
導入部は、同棲していた男と女が分かれることになり、明日は別々のところに引っ越す前夜、家具もない部屋で最後の時間を過ごす場面から始まります。
読み進むにつれ、1年前にS山地に一緒に出向いた際、現地のツアーガイドが事故死で亡くなっているのは、お互いに相手が殺したのではないかと考えているのがわかりだします。
亡くなったガイドは、二卵性双生児として生まれた男<高橋千浩>、女<高橋千明>が生まれる前に離婚した父親であり、彼は自分の子供がいることは知りませんでした。
<千浩>と<千明>が一年前の事故を振り返りながら交互に語る構成で組み立てられていますが、家族や兄妹などの愛情がいかにもろい綱渡りの上に成り立つのかという、疑心暗鬼の世界が垣間見れる一冊で、心理描写の巧みさに最後まで一気に読み通せました。
雑貨品が好きな24歳の<和子>は、代官山のフリーマーケットで体長15センチほどの「あみぐるみのクマ」を買って帰り、<ミル太>と名付け部屋に飾りますとなんと「クマ」が喋りだしました。
話しを聞いて見ると<ミル太>には、惣菜工場を経営していた夫婦が、5歳の子供を残して借金を苦に心中自殺した事件が気にかかり、再度現場を捜査中に崖から落ちて死亡した59歳の刑事<天野康雄>の魂が乗り移っていました。
現在無職中の<和子>は<天野>の指示のもと、デコボココンビで事件解決に向けて、馴れぬ聞き取り調査を始めていきます。
<ミル太=天野>の声を聞えるのは<和子>だけですので、周囲からは不振がられながらも、ユーモラスな会話の中にも温かみがある二人の軽快な行動が、ほんわかと心をゆさぶられる一冊でした。
<豆腐小僧>は、江戸時代の草双紙や黄表紙、怪談本などに多く登場する妖怪で、本書の主人公として登場してきます。
江戸郊外の廃業した豆腐屋の廃屋に住みついていた<豆腐小僧>ですが、たまたま現れた家をギシギシと軋ませる妖怪<鳴屋>から、自分の妖怪としての存在価値を問われ思い悩んだ<豆腐小僧>は、その理由を求めて旅に出かけます。
道中色々な幽霊や妖怪などと出会いながら、自分の父親は「見越し入道」と呼ばれる妖怪の総大将であり、姉は「ろくろ首」だと知り得ていきます。
全11話の連作で構成されており、すべての文章が講談調のノリで滑稽さと笑いを基本として語られ、知らぬ間に700ページを超す大作を読み切っておりました。
高校を卒業して「アヒルバス」の観光バスガイドとして5年目の<高松秀子>を主人公に据えた、いわゆる業界モノです。
色々な企画ツアーの添乗員として事故もなく無事に見送るまでの裏方としての気苦労を知ると共に、居ながらにして東京の街のガイドブックとしても楽しめました。
新人研修担当の<三浦先輩>は、ヘッドハンティングで北陸の鉄道会社に転職、後任はできちゃった結婚で、新人5人のの研修役が<秀子>に回ってきます。
「鋼鉄母さん」こと<戸田夏美>の厳しい上司を中心に、同期の<中森亜紀>達と織りなす、笑いあり感動ありのバスガイドの裏部隊が楽しめる一冊でした。
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