『汐のなごり』北重人(徳間文庫)
2月
17日
本書は、日本海に面した大船川の河口にある「水潟」を舞台として、北前船や弁財船が立ち寄る湊町の市井に生きる商人や武士を主人公とした、6篇の短篇が納められています。
天保年間の江戸時代を背景に、12歳で「水潟」に売られてきた遊女<志津>ですが、身請けされても一人の水夫を待ち続ける一途な女心が切ない『海上神火』、飢饉で奥州から逃れてきた<辰吉>と30年ぶりに分かれた兄と再会して母を偲ぶ『海羽山』、兄の敵討ちのために30年間相手を探し、絵師として路銀を稼ぎながら故郷「水潟」に戻ってきた『歳月の舟』、船による米の中継地として米相場の修羅場に生きる男たちを描いた『合百の藤次』など、どれも心打つ感動作品ばかりです。
今後著者の感性にひたれる作品が読めないとは、残念でなりません。